第百七十九話 地方都市奪還作戦、補助と秋彦達の仕事
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「はいよー! ブリザード!」
「えーい! ファイアボンバー!」
もう今日何度目かわからない爆発と吹雪である。石崎が放つブリザードによる冷気で敵の動きを鈍らせ、言葉の爆発による強烈な熱気で敵を焼く。
一見効果を打ち消し合うように見える組み合わせだ。しかし打ち消し合うのは同時に放った時であり、実際は冷たくなった所で急に熱くなると言う極端な寒暖差によって結構なダメージになるのだ。要は打つタイミングが大事だと言う事である。
「やったねことちゃん!」
「石崎君ナイスです!」
「よーしよし! この調子で……あ」
「どしたの? って……ああー」
意気揚々とハイタッチをしたところで自らの身体に起こった変化に気付く。
力が抜けていくこの感覚、いや、力が抜けていくと言うよりは外部から注入された力がなくなっていく感覚。つまり……
「バフが切れちゃったわね……」
そう、補助魔法の効果が切れたのだ。いわゆるバフ切れである。
「バフが切れたか……なら、一旦退こうか」
「そうね、支援部隊は今どこにいる?」
「ちょっと待って。電脳ギルドに新しく地方都市奪還作戦用の機能が追加されてるからそれから見ればいいからねー」
笑屋がすぐに電脳ギルドで調べ始める。流石に今回の作戦の要にして一番重要な部分である補助魔法が切れてなお強行しようと言うメンバーはいなかった。
なにせこの補助魔法効果のおかげで楽に進軍が出来ていると言っても過言ではない。移動速度も、敵を倒す攻撃力も、敵の攻撃から身を守る防御力も支援魔法によって強化されてのことだ。
敵の数はとにかく多い上に戦闘力も平均5,000というすさまじい高さを物ともせずに蹴散らせている要因ともいえるものがなくなって尚強気でいられるものは少数派だろう。
そして補助魔法をかける魔法による支援部隊は、主に後方で自衛隊の人と拠点を設営し、安全の確保と、補助魔法が切れて戻ってきた人に再び補助魔法をかけて戦場に送り出すことを役目としている。
補助魔法が切れたらいったん後退し、拠点で補助魔法をかけ直して貰うべく、前線から拠点まで戻らなくてはいけない。
そしてその拠点の内どこが自分達の場所から一番近いのかを調べる機能が、電脳ギルドに地方都市奪還作戦の為に追加されているのだ。
そのため、一番近い拠点を調べるために少し立ち止まる。すると、自分達の周りに影が出来ていた。敵の気配がしなかったのに空からくる物。今時点でそれは一つだ。
上を見上げると予想通りの物が近くに来ており、そのまま近くに着地した。
「おう! バフ切れか?」
「秋彦! オッスオッス!」
秋彦と龍之介である。秋彦はいつもの戦闘用の装備に、双眼鏡を首にかけていた。戦場にいながら血の跡も戦いの気配も感じさせないのは少し違和感さえある。
「見回りごくろうさま。悪いね」
「いやいや、これが今の俺の仕事だしね。ほらよ、スポドリじゃ」
「わー! ありがとう!」
嬉しそうに渡されたスポーツドリンクを飲むモンスターキラーズの面々。
この一人と一匹は唯一の無属性魔法使いとして、龍之介に乗って空から戦場を俯瞰し、バフが切れている味方を見つけると、味方の所まで行き、スポーツドリンクなどの休憩のための物を渡し、バフを掛けて去っていく。
また、地図があっても迷う人の為に拠点への道案内の役も兼ねている。実は地図があっても迷う人たちと言うのは一定数いるらしく、もう何度か迷子の道案内もしているらしい。
「大の大人が本当に勘弁してもらいたいんだけど、いるんだな方向音痴って……」
「あはは……お疲れ様……」
頭を抱える秋彦に、もはや苦笑いするほかない。
「にしてもよく俺らがすぐ分かったね。飛んでいながらそんなに人をあっさり見つけられるなんて」
「いやいや、別に難しい事じゃねーよ? 意外に思うかもしれねーけど、豆粒ほどでも遠くで動いている物ってのは結構わかりやすいんだよな」
『龍ちゃんもお手伝いしてるんだよ! 龍ちゃん目がいいってパパに褒められるんだー!』
「そうかー、龍ちゃんは偉いねー」
『えっへん!』
言葉に褒められて無邪気に胸を張る龍之介。
実際、レベルの上昇によって視力も上がったのだが、空から状況を俯瞰していると意外と動いている探索者と言うのは結構目につく物である。
その中でも大半が動いていると言うのに、止まっている人がいると休憩している人も多いが、あまりそれが長くなると、それはアプリの地図を開いていたり、回復するポーションが切れて立ち往生していたりと、要するに困っていたりすることが多い。
そういう長い間立ち止まり続けている人達を、狙い撃ちして声を掛けることはそんなに難しい事ではない。
「とりあえずバフが切れたんなら、無属性は今ここで掛けてやるよ。拠点は確認できたか?」
「もち、ばっちり!」
「オッケー、じゃあ後はそれを目指していってくれよ、じゃあ……はいよっと!」
軽い会話が終わったところで秋彦がモンスターキラーズの面々に一気に補助魔法をかける。後は拠点まで行って各属性のエンチャントを掛けて貰えば戦い始めの頃と同じ強化を得られる。町は今もバード部隊の音楽が流れているし、指令系の補助もいつでも受け取るための通信機もあるのだから。
だが、ここで思わぬものが発覚することになった。
『龍ちゃんもやる!』
「え?」
『いくよ! ガオー♪』
いうや否や龍之介がモンスターキラーズに向かって思いきり吼えた。だがそれを見ても恐怖はわかず、むしろ勇気が湧くような感覚がある。そして、今までのどれとも違う強化によって力が湧いてくるのが分かった。
自分達の知らない強化に真崎が驚く。
「……え?! 今の何!?」
『龍ちゃんのドラゴンクライです! 龍ちゃんが吼えるとお友達は力が出て、敵は力が出なくなっちゃうんだ!』
「そんなのあったんだ龍ちゃん……」
「って、なんでアッキーが知らないのさ!」
龍之介の解説に驚く秋彦。そして当然突っ込みを受ける。
「いや、あのー。なんていうかその……たぶん忘れてた」
「忘れんなよこんな重要な事を!!」
『うん、そうだね、その忘れは不手際の範疇を超えている』
突然秋彦が腰からぶら下げていた通信機から雨宮の声が聞こえてきた。普段ならこの通信機から指令系の補助が飛んでくる。
各チームに配られるものなのだが、そこから雨宮の低い声が聞こえてきた。怒っているらしい。
「あ、いや、これは、その……」
『……モンスターキラーズの諸君は拠点に戻りバフを受け直してくれ。秋彦君、ちょっとお話をしようか』
「あ、あのじゃあまた後で……バイバイ!」
明らかによくない雰囲気を察してモンスターキラーズが揃って逃げ出す。はっきり言って今この線上にいるどの魔物よりも恐ろしい気配がそこにあった。三十六計逃げるに如かずというやつだ。
拠点に戻り、補助を受け直したころに、雨宮から急遽もう一種類の強化が追加される発表があったのだが、その間秋彦が雨宮から何を言われていたのかは、知る由もないし、知りたくもない。
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次の投稿は6月5日午前0時予定です。
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