第百七十六話 地方都市奪還作戦、裏方の戦い
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
笑屋達モンスターキラーズが前線で思い切り敵を屠っている間、作戦本部も負けず劣らずの熱気だった。
「ベリアルフィストの面々、次の曲がり角で敵が待ち構えている、迎撃せよ!」
「アンフェアウェポン! あまり飛ばし過ぎるな、周りと歩調を合わせろ!」
「気を抜くな、まだ地域の外側だ、後半のボスの事も考えて動け!」
雨宮率いるギルドマスター達で構成された補助部隊の指令者チームは、バード部隊の為の特設ステージ横に作戦本部を立て、ダンジョンウォッチのマップを元に作戦指示を送っている。
現在、探索者達は都市の入り始めのあたり、まだ緑の多い都市の中心とはいいがたい郊外に位置する場所で魔物を排除している最中だ。
しかし勢いはすさまじい。敵とて戦闘力は最低でも5,000を超えた化け物だ。戦車や戦闘機が相手でも負かせるような相手である。そんな敵相手に無双ゲームよろしくばったばったとなぎ倒し、敵の屍で山を築いている。
「この猛攻撃による快進撃、まだまだ油断できないところではあるけど、見ていて気持ちいいな。俺の所のギルドだけじゃないが、我が国の誇る戦士達って感じがしていいな!」
中国ギルドマスター、今作戦においては地方都市の偵察を主に活躍した千田が中継のテレビを見ながら嬉しそうに語る。
テレビに映るのはバフのための音楽番組とは別の番組である【放送ステーション緊急特番、地方都市奪還作戦生中継】だ。
こちらが今、地方都市奪還作戦の様子を生中継で映し出しており、戦場の生々しい様子をも生中継している。
とはいえ、相手が人間でない辺り、もはやよくできたアニメのワンシーンの様に見える事もあり、実際にはそこまでグロテスクではない。
と言うより全力でばったばったとなぎ倒されている相手が、一般人の目からしたら、最早CGで出来た怪物の様にしか見えず、この戦いもファンタジー映画を見ているかのように見える様だ。
そのせいか大人も子供が見るのを躍起になって止める事もしていないらしく、現在日本のテレビ視聴率は歌番組と生中継で視聴率を独占しており、テレビ関係者からは笑いが止まらないらしい。
「とはいえあまり楽観視は出来ませんよ。この攻勢を前に敵も手をこまねいているはずもないでしょう。それに勢いもいつまで続くかわかりません」
そう冷静に声を出すのは東北ギルドマスター、今作戦では探索者の人事を担当した鬼塚だ。
そういわれると千田も腕を組んでうんうんと頷く。
確かに最初の最初なのだから勢いがあるのは当然だ。だが、探索者とて人間だ。当然体力と言う物がある。
勿論探索者の体力は普通の人間とは比べ物にならない。その差は同じ人間とは思えないほどの差がある。
だがそれが無尽蔵ではない以上どこかで休憩を取る必要がある。そしてその隙を狙って魔物の不意打ちを受ける事。それが、現在ギルドが危惧していることでもある。
「まあまあ、それを探る意味も含めての威力偵察ですよ鬼塚さん」
「小野崎さん……」
不安を口に出す鬼塚の言葉を、沖縄ギルドマスター、魔物研究家でもある小野崎がやんわりと受け止める。
「不安なのはギルドマスターであれば誰しも同じです。今は信じましょう。私たちが育成の一助をした、あの素晴らしき、そして凄まじき勇者たちの事をね」
にこやかに細めるその眼は確かな信頼が映し出されていた。
………………………………
「さあ、早くも一周してしまいました、ここからは最初のグループに戻ります。ビューティフルドリーマーの皆さんお願いします!」
司会者の言葉を受け、歌いきったトリを務めるバードの後を引き継ぎ、コメントする間もなく桃子率いるビューティフルドリーマーは歌い出した。
新曲の戦いの歌であるブレイブヴィクトリーである。
桃子をはじめとしたビューティフルドリーマーの全員そろって、ダンスも全力、歌にも全力で、野外のステージで汗を飛び散らせながら真剣に、そして心を込めて歌う。
この歌が、全国で流れている。この歌が探索者の力となって、今、地方都市の奪還に繋がっているのだ。
ここで真剣にならずにいつ真剣になると言うのだと言う話である。
そんなビューティフルドリーマーの中にあって、桃子は今ここにいる緊張感と高揚感に歓喜を見出していた。今自分がいる舞台は、母が踏み入れていない唯一の場所であると言う事に感動していた。
桃子からすれば、アイドル生活も決して平坦な物ではなかった。
母親が一世を風靡したアイドルであり、母の輝きを知っているからこそ自分がアイドルになることは当然だった。
しかしそんな桃子を、世間は伝説の二代目と評価し、二世アイドルとしての重圧、様々なことに挑戦しても母の影を見出されてしまう悲哀、様々な華々しさにある裏側を見て、一つ現実を知ることになった。
しかしその現実を決して人には見せなかった。なぜならアイドルは、夢を見せる職業だと桃子は思っているからだ。
他の大勢の人に対して夢を見せるために、自分もまた夢を見る。決して夢が覚めないようにと夢を見続ける。決して苦悩を悟られないようにと、夢を見続けていたのだ。
もしあの時、学校の友人であるジュディが、帰り道にあのダンジョンの横穴を発見しなければ、ジュディに強引に連れてこられなければ、そしてあの場で初めてレベルを上げなければ。
きっと自分はここにいなかっただろう。
あの気まぐれの様な一時はすべてこの時のためにあった。見続けていた夢が現実になった瞬間でもあったのだ。
そう思うと桃子は感動を、歓喜を、興奮を隠せなかった。
その衝動に近い心持のままに歌えば、気づけばビューティフルドリーマーのパートはあっという間に終わりである。
名残惜しい反面、まだまだ出番はあるであろうことが、不謹慎ながら嬉しくてたまらない。
何、まだまだこの舞台は続く。まだまだ歌い続けられるのだ。
いつか終わりはすれど、まだその時ではない。ならば楽しもう。この夢を、もっと多くの人に届けるために。
そして地方都市奪還作戦を大団円で終わらせると言う夢を、観客に届けるために。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は5月27日午前0時予定です。
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