第百七十五話 地方都市奪還作戦、強襲開始!
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
雄叫びを怒号の様に響かせ、戦士たちはいっせいに占拠された都市へ攻め込んだ。
敵の数は、もはや数えることもできないほどの数だが、不思議と恐怖はなかった。これはこちらの蹂躙劇であることはもはや疑いようがない戦力差だからだろうか? あるいは負けるはずがないほどに強化魔法や強化スキルが施されているからだろうか?
違う。きっと違う。
きっとこれは自らであればやれるという確信から来る高揚感が生み出す興奮からだろう。
最初に敵が気付いたのはいつだったからなのだろうか?
しかしもはやそんなものは関係ない。
戦士達は、恐怖を興奮で騙し、蛮勇を無謀で勇気に変えてしまうほどの猛烈な勢いで、魔物が占拠する都市へと駆け込んだのだ。
その様は最早何人たりとも止める事が適わぬほどの勢いであった。
それは、この男にとっても同じであった。
「わああああああ!! うおらぁああああああ!!」
敵を複数匹一刀両断にして、なおも叫ぶ!
普段のこの男であればどこかのタイミングで自制をしたはずだが、今ばかりは其れは叶わなかった。
真崎剣吾、普段は祖父と父の教えに従い剣を振るう時こそ冷静に、強かに振舞うように言われ、鍛えられていた男だ。
だが今の真崎にはそのような余裕はなかった。
武士道精神を叩きこまれつつも、反発していたかつての悪童っぷりを見せつけるかのように敵を興奮のままに切り伏せていた。
それは戦場と言う異常な光景が、かつての自分を呼び起こさせたのか。はたまた、この戦場にそのような自らを律する様なものは不要と判断したのか。
それは真崎本人にもわからない。だが、この一瞬。自らを律するタガが外れていたのは事実だった。
それを見越して、あるいは見かねて接近し、笑屋が肩に手を置き、声を掛ける。
「ちょっとちょっと、まーちゃんってば。あんまはしゃぎすぎちゃ駄目だぜ? そんなんじゃお爺ちゃんが草葉の陰で泣くってもんさ」
祖父の事を引き合いに出して言われたその言葉にハッとなり、真崎は握りしめた刀を見る。
磨かれた刀は鏡の様に自らを映し出し、その刀には血に濡れて笑う己の姿を映し出した。それをまるで醜悪な物でも見たかのように顔をしかめ、血に濡れた刀を振って血を飛ばした。
「ごめん、エミー。ちょっとどうかしてたみたいだ」
「いや、でもこれは……しょうがないって……もんさ!」
この戦場にあっては隙を見せればたちまちに攻撃を受ける。そう言いたげに敵は不意打ちを仕掛けてきた。
しかし、それは易々とエミーが、スキル【真剣白刃取り】で受け止めた!
「ひゅー、あぶねーあぶねー」
「ほんとに……ね!」
受け止めた攻撃を真崎が引き継ぎ、綺麗に敵の首をはねる。
この真剣白刃取りはサムライスキルであり、真崎が率先して習得しているスキルだ。
だが、これに限っては笑屋も習得している。何せこれは防御系のスキルだからだ。
真剣白刃取りとは、自分が武器を持っていないときに限り発動できる技で、敵の攻撃を無効化できるうえに、無効化した攻撃が斬撃系の物理攻撃であった時に限り、敵を一定時間拘束したのち、攻撃力を下げる効果を持つスキルだ。
笑屋はこれ以外にも【ブロッキング】という拳闘士スキルや、魔防壁と言った騎士スキルも習得している。
これらはスキルの系統としての共通点はないが、防御スキルであることに共通点がある。
笑屋が防具を通して基本的に習得しているスキルは皆防御に関するスキルである。
たとえ肉体力では劣ろうが、スキルをもってそれを補うと言うある意味で受難の道を行っているのだ。
今では物理攻撃に対してブロッキングや真剣白刃取りでの敵に対してデバフを行える防御、魔法攻撃に対し魔防壁を張っての防御という鉄壁を超した防御能力を有している。
本来防御スキルと言うのはあまり率先して習得されるものではない。
何故なら、それを習得するくらいなら攻撃スキルを手に入れて、攻撃してやられる前にやる方が早くて確実だから、である。
本来不遇な立場であるスキルをあえて使い、そして己が物へと昇華させている笑屋は、一部では【防護者】という二つ名を持っているほどの実力者になっているのだ。
だが、その防御の間に笑屋と真崎はすっかり敵に囲まれていた。
「刀がパワーアップしたのはいいんだけどさ、あんまり連携から外れないでよ? 俺の負担が大きくなるんだからさ」
「う、わ、分かってるよ。ごめんな」
申し訳なさそうだが、真崎はどこかいたずらっ子のするような小悪魔的な笑みを浮かべている。
「いいから前向いて敵倒してこーぜ、守りは任せて、まーちゃんは全部の首貰っときなって」
「……ああ、わかっているとも、全員、俺の手柄になってもらおうか……!」
改めて刀を鞘にしまっての笑顔。
それはいたずらっ子の浮かべる笑みではなく、はたまた嬉しい時になる笑顔でもない。
それは例えるならば美味しい物を目にした空腹の人。あるいは獲物を見つけた猛禽類のような表情と言える。
「さあ、ここからが本番だ、俺の……手柄首になれぇ!」
真崎が叫んだ、と同時に強い突風が吹き抜けた。ちがう、突風には違いないが、一人の人が通り抜けたことで起きた突風だ。
目にもとまらぬ速さで駆け抜け、次々と敵に切り傷を付けたのは奏だ。
他の探索者が取り付けるタイプのローラースケートを付けて移動している中で、彼女は自分の靴一つで走り抜けていた。そしてその上でローラースケートの速度を優に上回っていた。
毒を刀身にたっぷりと塗り込んだ、毒と相性のいいギルドローンで手に入れた新武器だ。周りにいた敵はしびれ毒が回ってすっかり状態異常、麻痺になっている。
そして辺り一帯の敵を麻痺にして足止めが完了すると、奏が口をとがらせる。
「まーちゃんもエミーも突っ走らないでよ。私は余裕で追いつけるけど後衛二人が置いてけぼりじゃん」
「それはマーちゃんに文句言ってちょ。俺が真っ先に突っ走ったんじゃねーもん」
「う、わ、悪かったよ……とりあえず……」
真崎が鞘に納めた刀を構え、目を閉じる。そして……
「ぜあああ!」
目にも映らぬ速度の斬撃。
血を払う為に刀を軽く振った後に刀を鞘に納めると、その場にいた魔物達はバラッという音が聞こえそうな程に一斉に細切れになっていた。
細切れになった肉片がぐちゃり、ではなくどさどさと音を立てて崩れ落ちる敵。そこへようやく言葉と石崎が、やっとコツをつかんだばかりの慣れないローラースケートさばきでやってくる。
「お、思ったより難しいなローラースケート……皆ちゃっちゃといかないでよー」
「本当ですよ! あたしたちみたいな元運動音痴の事も考えてください! 慣れるのに時間かかっちゃいました!」
「うううー、悪かったってば!」
全員から責められて半ばやけくそ気味に謝罪の言葉を入れる。
「でも、もう慣れたんだろ? もうついてこれるよな?」
「うん、それはもう大丈夫」
「こちらもです。今度は置いていかないでくださいね?」
「わ、分かってるって……」
すっかりたじたじの真崎、どうやら意外と言葉は根に持つタイプらしい。
初戦の第一歩、まずはの一当ては上々といったところである。
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次の投稿は5月24日午前0時予定です。
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