第百七十三話 地方都市奪還作戦、裏方たちの準備
累計PV数277万突破しました!
dia様(@dia2pc)より、ファンアートを頂戴いたしました!
こちらになります。
秋彦と優太を使っての表紙絵ですね。両名とも渾身の力作です。ありがたいですね!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。特に今回は蘭怜佳さん、本当にありがとうございました!
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「おいーっす、皆さんお久しぶりー。どうよ準備は」
「あ、秋! おいーっす! あたしらは全力でお休み中さ。なんたってこれから行われるライブは何時間ぶっ通しになるかわからない超ロングライブだからね!」
「今回のライブは地方都市奪還作戦の裏番組として、テレビ中継で一緒に流してくれるんですって!」
「お、水上さんもやる気ですね」
「当然です! このそうそうたるメンツのバード部隊! それが織りなす一大ライブですよ! テンション上がっちゃいますって!」
黄色い声が上がり、ビューティフルドリーマーの面々が興奮で頬を染める。その気合の入りようは相当だと言える。
地方都市奪還作戦がいよいよ始まると言う時間。秋彦達は実働部隊とは別の場所にいた。
今回の地方都市奪還作戦においてある意味重要ではあるが、表立って動かない人々。つまり支援部隊だ。
支援部隊とは、地方都市奪還作戦の本戦において、エンチャント系の魔法を使える人々やスキルによって味方に強化を施せる人たちが配属される部隊だ。勿論行う事は味方に強化をばらまいて、多くの人を強化し、味方を勝利へ導く重要な役目を担う部隊だ。
今回、秋彦達レインボーウィザーズは、全員支援部隊に回ることになった。何せ茜を除くメンバーの全員が強化魔法持ちだ。ギルドマスター達からすればうってつけだったのだろう。
強化魔法を使える人員は、実は意外と少ない。
魔法は大体がレベル15になればエンチャント系の魔法を習得し、その系統の初心者卒業として胸を張っていけるレベルだ。
だが、単体の、しかも魔法をメインにした魔法使いでないとレベル15と言うのは存外厳しいものがあると言うのが一般的な見解だ。
事実このエリート探索者の集まりと言える、約2,500人の地方都市奪還作戦参加者においても、チームを解体してまで支援部隊に回された人々をかき集めても約200人。一割にも満たないほどの数しかいないのだ。その存在は貴重である。
また、魔法以外でも、スキルによって味方を強化することが出来る人たちもここに集結している。
例えば、ここにいるのはバードスキルを取得した事で支援部隊に配属された人々だ。
バードスキルは、実は割と危険からは遠いので、探索者以外からの公募も募っており、意外に人員は多い。
しかもバードスキルでの強化が出来るならと、とにかく人員を放り込まれたらしく、アイドルだけに限らず様々な人々がいた。
芸能活動に縁がない一般人から、テレビでよく見る歌手であり知らぬものなしの大物までいた。
当然だがそういう人は、勿論探索者としてレベルも上げていない。せいぜい魔物の食材で食事を行った事でレベルが上がった程度だろう。
が、レベルが高くないにも関わらず、バードスキルを持っているのは芸能活動をしつつも、伊達に人生を歌に捧げていないと言ったところか。ダンジョンに入らずとも、鍛冶スキルを持っている職人たちと同じ要領だ。
見渡してみれば、新人から大御所までいるこの場所は、さながら紅白歌合戦の舞台裏にいる様だ。
尤も、秋彦がここに来たのはレインボーウィザーズの仲間であり、ビューティフルドリーマーのリーダーである桃子に会いに来ただけなのだが。
「あーああ、俺が支援部隊とはなあ……せいぜい最初の集まりでバフばらまいて、後はバフが切れそうなところに行ってバフをばらまき続けるだけなんて……」
「あっはっは、まあまあ不貞腐れちゃだめだよ。実際効率いいのは事実なんだしさ」
「まあなー、そらわかるんだけどさー」
支援部隊と言う物が出来た背景にもなるのだが、高速道路解放戦線でも判明したことだが、いかに一部の探索者が強かろうが、あまり多くの数の差がつきすぎているとやはり苦しくなってしまう。
事実、秋彦達が行った威力偵察ではそこそこ苦戦したにもかかわらず、正式に数が配属されてからは特に苦戦することもなく戦いが終わった。やはり数は力なのだ。
そのうえで探索者の戦死者を極力出さずに済ませるにはどうするかと考えた時に、やはり極力多くの支援魔法で全員を徹底的に強化し、その上でゲリラ戦を仕掛けるほかないと言う結論に至ったらしい。
都市部でゲリラ戦というのは理にもかなっており、狭い都市の路地裏から少数部隊、一つのチームを大量に投入する事で、小回りの利く戦いが出来るようになる。
必要とあれば街を容赦なく破壊できる魔物と違い、探索者側は極力壊さないようにしなければいけない。そういったところを生かす意味でも、ゲリラ戦で敵を倒していく戦法は有効だ。
そして、そのゲリラ戦は時と場合によっては孤立することもあるだろう。そうなったときにかけるだけかけた強化が役に立つのだ。
「ギルマスたちの指令系のバフでしょ、あたしたちのバトソンでしょ、エンチャント系の魔法でしょ、で、秋の無属性魔法の支援。今の支援はこれが頼りなんだから、秋が前線に行っちゃったら掛けられなくなるじゃん? バフは探索者の生命線なんだからさ。我慢しなって」
「わーってるっての……今は無属性魔法使いの自分が恨めしいぜ……」
つい頭を抱えてしまう。確かに他の系統の魔法に対しても上乗せできる無属性魔法による強化は重要かつ貴重だ。これがあるかないかで戦局が左右されることもあるだろう。
でも秋彦的にはやっぱり前線で思い切り戦いたかったという思いがあった。戦士の見せ場として絶好の場で戦えないのは心苦しいものがある。
自分の違う重要性と、やりたかったことがやれないやりきれなさにため息をつくと、桃子が尋ねてきた。
「そういえば他のメンバーは? 皆どうしたの?」
「あいつらは自分の持ってるエンチャントと同系列の魔法使いと魔法を併せて発動する練習だってさ。息を合わせて魔法を放つと効果が倍増するってやつを、支援でも適用できないかって試行錯誤してるんだと」
「あー、成程ね。秋が一人で来たのって……」
「地方都市奪還作戦に無属性は俺しかいないんだとさ……どうなってんだよ、無属性いくらなんでも少なすぎんじゃねーのかよ!」
「ま、その分他の属性が使えないんだし、しょうがないって」
「全然ありがたくねーし……」
と、話をしていた時、テレビのプロデューサーが入ってきた。
「皆さん、間もなく準備が整います。舞台の方へお集まりください」
プロデューサーはそれだけ言うとすぐに引っ込んでいったが、その場の空気が明らかに変わった。
ビューティフルドリーマーは跳ね起きて自らに気合を入れる。
「うん、もう出番みたい。ごめんね、ここからは別行動よ」
「おうよ、強化魔法掛けるだけだから命の危険はあんまりねーだろうさ。お互い生きて会おうぜ戦友」
「勿論! 桃坂桜、日本の皆に、そして探索者に勝利を届けるために、喉から血が出るまで歌い続けちゃうわ!」
「さて、俺も強化魔法掛けるために、最初の所定の位置に行くかね」
秋彦も、のっそりと立ち上がって腰を叩く。まだそんな年ではないが、ついやってしまう癖だ。
「気を付けてね!」
「そっちこそな!」
そういってハイタッチをして、桃子たちは会場へ向かう。とうとう始まる一大決戦。その初戦と言える威力偵察。火ぶたが切って落とされるのは、間もなくだ。
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