第百七十二話 地方都市奪還作戦、威力偵察!
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
会議が終わって、次の日。探索者達はバスに揺られていた。
それほど時間も掛からず、バスは目的地へ到着した。バスから降りて、気持ちよく伸びをする。そうは言っても、ピクニックでも無い。今日はここ、岐阜県岐阜市を占拠している魔物達を討伐し、魔物の手に堕ちたこの都市を開放するために来たのだ。
現在、8月3日、午前9時。探索者達は岐阜県岐阜市に一堂に集められていた。その理由は勿論、地方都市奪還作戦の最初の都市として、大阪からほど近い地方都市であるからだ。
探索者はここで試金石よろしく試練の時を迎える。
今の自分達が地方都市を奪還するに値するのか。この日本から魔物を殲滅し、日本を再び人間の手に取り戻せるのかを試すために。
要するに高速道路解放戦線の最初でも行った威力偵察である。今回は探索者は二手に分かれる想定もしなくてはならないが、まずは探索者が一丸になった時に、地方都市を奪還できるかのテストである。
指をパキポキと鳴らすものがいる。緊張で顔を青くしている物もいる。
そんな中にあってレインボーウィザーズ……ではなくモンスターキラーズの面々はやる気と自信に満ち溢れていた。
「よーし、やってやるぞ……今が、今こそが、俺たちの悲願を果たす時だ!」
笑屋が気合を入れると、仲間たちも一様にうなずく。
この作戦において装備を一新した笑屋は、侍大将的な鎧甲冑ではなく西洋チックなプレートアーマーに身を包んでいた。兜だけは鉢がねで代用していたが。
「今こそ、モンスターキラーズ結成時に誓った宿命を果たす時だね……ジジイ見てろよ。これが俺の、武士の誉れだ!」
刀を抜き、祈るようにしまい、念じる様につぶやく真崎。
真崎は新たに羽織を着て、鉢がねを付けている以外見た目にはそれほど変化はないが、着物も、中に着ている鎖帷子や下着肌着類も一新して戦闘力を高めている。
また、脇差を一本腰につけていた。
「勿論! この足で、この靴で! 敵を追い抜き、敵を倒す! おばあちゃん……私はやるよ!」
靴紐を結びなおし、ストレッチをしながら意気込む奏。
こちらは忍びスタイルから打って変わってゼッケン付きノースリーブのランニングシャツに丈の短いランニングパンツと言う陸上競技御用達のスタイルだ。一応肌着も下着も中に着こんでいるので装備枠の心配はいらないし、魔法の布製であるので並の装備よりも防御力はある。
とはいえ前衛に立つにしては、装甲はかなり薄めである。
「……かーちゃん、オレに力を……!」
少し顔色が優れないのは岩崎だ。それでも瞳に宿る決意に揺るぎはない。
こちらは逆に以前よりはかなり装備のグレードが上がったとはいえ、雰囲気は変わらない。青を基調としたローブ付きのマントを羽織った魔法使いと言った様子だ。
「弓枝ちゃん……ようやくここまで来たよ……」
少ししんみりとしているのは言葉だ。だがそんなセンチメンタルな心情を感じさせないほどに魔力がたぎっている。全員体力気力共に十分だ。
こちらは赤いフードに赤いポンチョケープ、赤いスカートという格好だ。はっきり言って第一印象は「眼鏡をかけた黒髪ロングの赤ずきんちゃん」としか言いようがないレベルである。手に持つものが、バスケットではなく魔法の杖であるだけだ。
「この、地方都市奪還作戦が終わったら……皆一度お墓参りに行きましょうね。あたし達が出会ったあの広場で、ね?」
「止めろって言葉ちゃん。今から戦いが終わった後のことを話すのは死亡フラグだぜ?」
言葉の提案に笑屋が止めに入る。一呼吸おいてどっと笑いが巻き起こった。笑屋の軽口で全員が笑うのはモンスターキラーズのお約束だ。
「しっかしすごいね。今更だけど。どんどん機材が運ばれてっているぜ」
笑屋が見ている方向には、どんどん音響機器、機材が運ばれては自衛隊並びに音響に通じたスタッフが大声を出してせっせと運んでいた。
「あれって、ビューティフルドリーマーのバードスキルによる強化を届かせる為にあちこちに仕込んでいるんだっけ?」
「そうそう、後は雨宮さん達による指示をより的確に通すためでもあるんだって」
「うっひょー! あのビューティフルドリーマーの生演奏をBGMに魔物と戦うなんて、ある意味こんなにゲーム的な状況ってないぜ!」
「本当にエミーはぶれないなぁ……」
すごく興奮している笑屋。そしてそれに呆れる他のモンスターキラーズの面々。まあこんな反応は熱心なアイドルファンである笑屋位な物として。
実際にビューティフルドリーマーの歌う歌にはスキルによる力が込められており、戦いにおいて大きな強化になる。
現在判明している強化は、魔法やスキルを含めてもそう多くない。
スキルで代表的なのは歌手スキルである戦いの歌、指令者スキルの指令系のスキルだ。はっきり言って現時点で判明しているスキルはそれだけである。
そして魔法はと言えば、それぞれの系統の魔法使いが使えるエンチャント系の魔法と、秋彦の様に無属性魔法使いだけが使える強化魔法だけだ。正直に言えば少ない。
強化魔法やスキル一つが生死を分かつ昨今。受けられる強化が一つ増えると言うのはとても重要なことだ。
それを十全と受けられる環境を整えてくれると言うのはモンスターキラーズだけでなく、他の探索者にとっても重要だ。
「それに今の俺たちは装備の新調も済んで、戦闘力大幅に上がったし、大丈夫だって!」
そう言って笑う笑屋は、改めて自分が持っている力を再確認する。
今現在、ギルドローンを組むことによって得られる恩恵はとても大きかった。なにせ少し前までBクラス探索者であったモンスターキラーズが、クラスSにまでのし上がったのだ。
やはり装備をきっちり整えたうえで御霊具を手に入れた影響は大きかった。今のモンスターキラーズはギリギリで地方都市奪還作戦に滑り込んだチームではない、地方都市奪還作戦においても重要な戦力の一つとして胸を張っていられるほどの存在になったのだ。
今のモンスターキラーズは平均戦闘力3万を超す凄腕だ。覚悟や意志ではたどり着けない実力を持って、モンスターキラーズはこの戦場にいる。
その自負が、責任が、五人を奮い立たせ、五人の覚悟を問うてくる。
勿論五人にとってそれは愚問だ。
覚悟はとっくの昔に決めた。親しい人の死を見たあの時から、心はとっくに決まっているのだ。今更ぶれる物か。
そうやって血気逸りつつも、どこか冷静になっていると、ついにその時は訪れた。
『あーあー、マイクテスト、マイクテスト。皆さん聞こえていますか? 間もなく、地方都市奪還作戦威力偵察が始まります。皆さんどうか所定の位置までお集まりください!』
その場の空気が一瞬で変わった。もともと緊張感とこの大舞台での戦いであることを高揚感からの武者震いがしていたが、更に空気が張り詰めた。
もはや爽やかに吹き抜ける風が、ひどく痛いほどの張り詰めた空気が漂っている。
とうとう来たのだ。この瞬間が。魔物を日本の大地から追い出し、日本を魔物の手から奪還する時が。
勿論これは今の自分達の力が十分に通用するかを図るための戦いではある。それは理解している。
この戦いの前に行った高速道路解放戦線のおかげで相手の大体の戦力は把握している。やはりあれもやっておくべき戦いだったと思える。
だが、それでも膝が揺れる。倒れたくなる。だが、ここで折れてはいけない。誰もが姿勢を正し、揺れる足に活を入れ、倒れたくなる心を奮い立たせ、指定された位置へ向かう。
「いよいよライブの開始だぜ皆、ビビんなよ!」
「誰に物を言ってんのさエミー、僕ら揃いも揃って今更ビビるようなタマじゃないっての!」
「大会前を思い出すね、この緊張感!」
「よーし、もうこうなったらやるしかないんだ。頑張ろう!」
「うん、皆、生きて帰ろうね!」
モンスターキラーズも、動く探索者に続いて動く、その眼には、確かに強靭な意志が宿っていた。
この戦いは、今の日本どころか歴史に記されるあらゆる戦いよりも大規模で派手で、それまでの常識がまるで通用しない剣と魔法の戦争、内戦である。
戦い、戦争と言うのは誰かにとっての聖戦であり、誰かにとっての薄汚い罠だ。どちらが正義かどちらが悪かなんてことは言えたことではない。
今回に限って国側が、自らが正義であることを強調するのは、相手が人間ではないからだ。
これは人間の魔物討伐の為に起こした最初の内戦。
これが、のちの歴史書に大きく記される、世界初の魔物を相手取った大規模な戦争。
地方都市奪還作戦改め、【第一次魔大戦】である!
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