第百七十一話 地方都市奪還作戦、作戦説明!
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
雨宮の言葉を受けて、会場が静まり返ると再び雨宮は喋り出す。
「どういうことかよくわからない、といったところでしょうか。ではご説明いたしましょう。これが、地方都市奪還作戦の大まかな作戦概要であり、何故ここ大阪が地方都市奪還作戦の起点として選ばれたかの説明です」
そういって次のスライドを表示させる。
そこには一つの論文の冒頭部分が載せてあった。魔物のボスチェンジ、日本でいう共食い強化について記されたものだ。
「ではここからは戦闘分析班である沖縄ギルドマスターの小野崎さんにお話しいただきましょう。小野崎さん、お願いします」
「はいー、承りましたー」
そういうと雨宮は後ろへ引っ込んでいき、三つ編み姿で人懐っこい笑顔をした、少し太り気味の中年女性が前に出てきた。
彼女は小野崎 天音。沖縄ギルドのギルドマスターであると同時に魔物研究家として日々ダンジョンに住まう魔物の生態系について研究を行う研究者でもある。
「ご紹介に預かりました、沖縄ギルドの小野崎です。早速ですがスライドをご覧ください」
これは世界各国の、そして日本各地で起こったボスチェンジの傾向を分析し、考察を重ねて得られた結論が論文として記されたものだと言う。
ここから小野崎が紹介する論文はすべて、小野崎をはじめとした世界中の研究者が総力を結集し、各国の氾濫被災地より計測した膨大なデータを総合して検証した、現在最も信用できる研究結果であり、現時点の研究者の総意ともいえるだろう。
まずは一つ目の論文だ。内容としては魔物のボスチェンジによる魔物の強化具合と、魔物の共食いの量は影響するかという物である。
「これの中身をざっくり結論だけ言いますと、魔物の共食いによる強化は、魔物の量に比例する物である、と言う事になります。これはつまり魔物の量が多ければ多いほどにボスチェンジによる危険度も大きくなると言う事ですね」
初っ端から小野崎は厳しい現実を突きつけて来る。
これはつまり敵の数が純粋に多ければ多いほど、ラストのボスは厳しいものになると言う事だ。どよどよと声が上がる。
「しかしご安心を。魔物達は自らが殺した魔物や人間以外は食べない、という事も、この論文にて結論付けられています」
その論文によると、どんな魔物であっても人が殺した、あるいは他の魔物が殺した魔物は食べないらしい。
そう言われてみると、確かに魔物達が、魔物で出来た死体の山を漁って喰らい、強化を図ったような覚えはこの高速道路解放戦線からは見受けられなかった。秋彦達も覚えがないし、他の探索者からもそんな報告はなかった。
そういう意味では少し希望があると言えるかもしれない。探索者が先に魔物を倒せば、その魔物の分の強化は考えなくて済む。最終的な戦力の弱体化にはつながるのだ。
「安心していただけた所で、次の論文から得られた結論を、またざっくりと説明いたしますね」
小野崎がスライドを動かす。
次の論文は魔物が共食いを行うタイミングと範囲についての論文らしい。
「ここはとても重要ですよ。これこそが私たちが地方都市奪還作戦の起点として大阪を選んだ理由でもありますので」
どうやらボスチェンジを始めるタイミングにも、実は法則性があるらしい。
大体魔物の縄張りにおいて4割を切ったタイミングで魔物達はボスチェンジの為に集結をする。そしてその場所に対しても一つの結論が出ているらしい。
「この論文が出るまでは、ボスチェンジにおける魔物達は、自らが巣食ったエリアの中心に集まると思われていました。しかし例えば関東でボスチェンジが起こったのは東京駅でした。そして関西では道頓堀の戎橋でしたね。どちらも場所としては有名であっても、そこがそれぞれの中心地かと言われると首を横に振らざるを得ません」
言われてみれば確かにその通りだ。そこは中心地ではない。
「そこで、各国でのボスチェンジ現象を見てみましょう」
スライドがまた変わる。
次のスライドは世界各地で起こったボスチェンジ現象の発生場所と発生日時だ。まだ初級ダンジョンを制覇しきれていない日本以外の国では割と頻繁に発生する分データがとりやすい。誇れることではないが、研究的に言えばサンプルは多いに越したことはない。
注目するべきなのは同じ場所、同じ地区で起こったボスチェンジ現象でも魔物が集まる場所にばらつきがあった事だろう。
例えば同じイギリスのロンドンであってもあるときはロンドン橋の上であったりあるいはビックベン、時計塔付近だったりもしたらしい。
これらの統計は、日本と違い同じ場所で何度も魔物の氾濫が発生し、その度にボスチェンジ現象を経てボスモンスターを討伐し続けてきた海外のデータが無ければ分からなかった事と言える。
しかしその度重なる氾濫、そしてボスチェンジ現象を経験した結果、一つの結論にたどり着いた。
「このボスチェンジ現象は氾濫の範囲に比例し、また範囲内の氾濫を起こした迷宮の数によって複雑に場所が変わるのです」
どうやら魔物が出現した範囲だけではなく、どのダンジョンから氾濫した魔物かと言うのも重要らしく、それによってはボスチェンジの場所も変わり、必ずしも範囲の中心ではないらしい。
「しかし、そこまで理解が及んでいると言うのです。人間側も手をこまねいていた訳ではありません。」
そういうと小野崎は次のスライドを表示させる。そこには一枚の写真の上にこう表示されていた。
氾濫予測解析レインスケール!
と。小野崎はさらに続ける。
「これは魔物の出現範囲、ダンジョンの場所等、様々な魔物の氾濫の際のデータを入力することでいち早くボスチェンジが起こる場所を特定できる計算ソフトです」
世界各国の名だたる数学者や情報工学者が頭を付き合わせて作ったもので、旗振り人にして数学者の権威である【サニー=フォスナー】氏の孫の名前が付けられたのだとか。
「そしてそれを元にして、斥候担当の中国ギルドが調べたデータを入力した所、仮に日本全土を範囲としたときにボスチェンジ現象が起こる場所は……ここと計算結果が出ました」
そういって小野崎がスライドを表示させる。表示された場所は、岐阜県不破郡。関ケ原町と出た。しかも、旧関ヶ原古戦場である。
「この場所は、古くは古代日本最大の内乱である壬申の乱がおこり、皆さんも授業で習う関ケ原の合戦が行われた場所でも有名なあの場所です。そして今、ここは再び戦場と化そうとしています。この場所は日本の今後を揺るがすであろう大戦が起こる何かがあるのかもしれませんね」
そういわれると、探索者達は興奮したかのように色めき立つ。自分達の決戦の舞台にふさわしい場が図らずも生まれたことで運命じみた物を感じているのかもしれない。
尤も、現在そこに住んでいる人々にとっては堪った物ではないだろうが。
「そうであると発覚した時、我々は関西を起点に東西二手に分かれて地方都市を奪還してゆき、日本から魔物が一か所に集中することを少しでも遅らせることを決めました。なぜなら日本中の魔物が集まりボスチェンジすれば、間違いなくそれはとんでもない怪物となり、辺りは火の海になるでしょう。少しでもその地域に生きている人々を避難させ、我々にとっても戦いやすい環境を整える必要があります」
そして、ボスチェンジを遅らせる理由はそれだけではない。
ボスチェンジをするに当たって、どこにいてもまっすぐに魔物達は中心地へ向かっていく。それは勿論、自分達が攻略した地方都市を通っていくと言う事でもある。
一度攻略した都市を通るなら、その通り道に罠を仕掛けたり、探索者を配置して魔物の頭数を少しでも減らせれば、ますます最終的なボスチェンジで生まれる魔物は弱くなると言う事でもある。
やらない手はないと言う物だ。これは地方都市一つ一つの奪還にも使える手だ。罠を張る班の選出も済んでいるらしい。
「正直な所、英雄的な働きをしたい人々にとっては日本全土の魔物で行われるボスチェンジ現象で生まれる魔物と戦ってみたい人は多いと思われます。しかし、忘れてはいけません。これはゲームではありません、現実の戦い、殺し合いなんです。安全に戦い倒せるならば、それが一番なのです」
そういわれると誰もぐうの音も出ないだろう。
確かに強くなれるはずの敵をとにかく弱らせ、弱った相手を徹底して叩き潰すのは英雄的ではない。
だが、人の命がかかっているのだ、安全であることに越したことはないのも確かだ。
「これがギルドの提案する作戦の全貌となります。ご清聴ありがとうございました」
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は5月12日午前0時予定です。
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