第百六十七話 企業との交流パーティー 企業努力
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「いやー、ようやくお話しする機会が出来ましたなー秋彦さん。うち感激ですわー!」
目を輝かせながら喜瀬川が握手をしてくる。手を握ってぶんぶんと振り回すかの様な握手だ。悪意的ではないのはわかるがちょっと手が痛い。
「いやほんまやで、折角いま日本の中でもトップスリーに数えられるくらいの強さと知名度を持った探索者が集まっとんのに、任務任務でやりたいことも全然出来んでやきもきしとったんですわ。ほんまに準備が実を結んだのがつい数日前って勘弁してほしいですわー」
そして糸魚川も軽快に話をしてくる。さっきからそうなのだが、このコンビどうもやたらぐいぐい距離を縮めにかかってくる傾向がある。こちらもついつい話を聞いてしまう。
「さて、そこら辺の話もそこそこに、あんまり企業さんを悪く言ったらあかんで秋彦さん。あのおっちゃんらはあれはあれで結構努力っちゅーか苦労してんねん」
「と、言いますと?」
「あそこら辺の人って探索者に対してどれくらいの報酬を支払えばいいかとか、そういうのがよくわかっとらんのですわ」
「ええ、彼らは結局の所探索者が命を懸けていることを本当の意味で理解していないわ」
秋彦を除く三人はあちこちで探索者相手に交渉を仕掛けている人たちを見て天を仰いでいる。
理解が追い付かない秋彦が口を出す。
「企業ってそんなにやっすい値しか出さないのか……?」
「いやいや、決して安いわけではないんです。でもねー」
「それで命かけろと言うのはちょっとなーって思うような金額ではあるんですわ」
「まして依頼として企業の仕事もするとなると、探索者としての活動時間も減りますしなぁ。ちょっと痛いです」
「う、うーん?」
まだあまり理解できない秋彦に糸魚川が質問をしてきた。
「うーん、そうですなぁ。秋彦さんが一千万稼ご思たらどのくらいで稼ぎきる自信あります?」
糸魚川からの突然の質問に少し頭をひねる。まあここは謙遜とか抜きで今の自分達で出来る普通で話をしてみる。
「え? そうですね……オークを一体解体して全部売れば……昨今の相場だと肉だけでなく、骨とか皮とか、睾丸みたいなとこも値が付くし、海外への輸出も始まって買い手もたくさんつくから……大体五百万程度にはなるはず。だから二体売ればもう達成ですね」
その言葉にうつむき、顔を覆って盛大にため息をつく糸魚川と喜瀬川。何か変なことを行ってしまったのだろうか?
「そうなんよなぁ……やっぱりそれ位すんなりいってまうんよなぁ……」
「でも一般的な社会人がそれを稼ご思たら間違いなく年単位になるし、増して一日でそんな風に稼ぐなんて土台無理な話や。でもうちらはそれをたやすくできてしまう。ここにギャップがあるねん」
秋彦にも言いたいことが何となく理解出来てきた。
例えば企業が探索者を雇用するために用意した金額が年収二千万だったとしよう。一般的な社会人だったら一も二もなく飛びつくような金額かもしれない。だが上級の探索者にとってはちょっとダンジョンへもぐって魔物を倒してしまえばそれで済む金額だ。
勿論副業として探索者活動を認めてもらえれば、企業で働いた分は安定した収入として得て、探索者としての大きな後ろ盾として活躍できるだろう。
だが、やはり企業としては企業の仕事に専念してもらいたいと思う会社も多いらしく、これでは探索者稼業の事実上の引退と言ってもいいような条件を提示してくる企業もあるらしい。
勿論下位の探索者であればそれでいいという人もいるだろう。だが、下位の探索者ならそれ相応に条件は下がるし、上位の人ならそれなら今まで通りでいいという人も多い。
このような事態になっているのはやはり企業の探索者の視点が不足しており、内情を理解できていないところが多いのが大きな原因と言えるだろう。
「それと同時に探索者側にも企業側の視点が無いのも痛いのよね」
糸魚川と喜瀬川が大きく頷く。
企業が探索者を理解していないように探索者も企業を理解していない部分もある。
多くの探索者は、企業は金を大量に持っており、たったこれだけしか払わないとはこの企業はケチだと思う場合もやはりある。
だが実際には企業には他に支払わなければならないものも多く、やりくりした中で精いっぱいの金額であるにもかかわらず、探索者にとっては今まで通りのやり方で手に届く範囲の金額だったりするので、その上でさらに時間まで拘束されるという所に難色を示す人はやはり多い。
探索者を続けられず、引退した後の職場としては魅力的なのは確かだ。だがそれは何も今じゃなくていい、そう感じてしまうのだ。
「ここら辺の意識の隔たりをどう埋め合わせるかで今後の企業の探索者業界の参入は大きく決まるでしょうね」
「そこを見るとジュディさんのお父さんの会社は有利ですなぁ。なんせ娘さんが探索者なら上手く詰められるでしょうし」
「うふふ、ありがとうございます」
「さて、それはそうと秋彦さん!」
さっきまで会社と探索者の話をしていたのに急に秋彦に話題を振ってきた。
「え、はいなんでしょう?」
「秋彦さんって、従魔にドラゴンがいるんですよね!?」
「はい、龍之介っていう子供の竜が」
「ならなら! 龍角紛をお持ちじゃないですか?!」
「ああ、龍の角を粉にしたものですね。ハイありますよ」
「おおおお!! 見、見せ、見せてもらってええですか?!!」
ここに来て喰いつきと押しがさらに強くなった。喜瀬川の狙いはどうやら龍角紛だったらしい。
「わかった、わかりましたから……はい」
「こ、これが……!」
龍角紛自体は以前に作っていたのだが、そのまま使い道のないままになっていたのだ。小さな袋に入れてある龍角紛を取り出し袋の中を覗かせてみると、喜瀬川の目の色が明らかに変わる。
その目付きは完全に獲物を見つけた猫である。今にも飛び掛かって来そうな勢いだ。
だが、飛び掛かりそうな猫を狐が鉄拳制裁で止めた。迷いのない無言での一撃である。恐らく普段からだいぶ殴られているのが想像つくと言う物だ。
「あだー! 糸ちゃん何すんねん!」
「喜瀬っち! ええ加減にせんかい! ワシらの目的はそれとちゃうねんぞ!」
「せやかてウチあれ欲しいー!」
「欲しいのはかまへんわい! だけど奪い取ろうとしたやろ! ワシら商人やぞ、強盗とちゃうわ!」
「とってへんやんかー!」
「やかましいわ!」
盛大に糸魚川と喜瀬川が喧嘩を始めてしまった。人目もはばからない勢いだ。あまりの剣幕に気おくれしたが、秋彦が止めに入る。
「あのー、お二人とも龍角紛なら融通しますから、ちょっとお静かにしましょ?」
「え、ええの?!」
「ただではないですけどね、まあまずはお静かに」
「ああ、どうもすんまへん。こいつ、今日は秋彦さんに会えるかもってなった時にどうしてもこれが欲しいこれが欲しいって朝からずっと息巻いとったんですわ」
「まあ【御注射ナース】なんて呼ばれていて、ポーション作りが得意な喜瀬川さんなら欲しがって当然でしょうしね」
「ほんまに申し訳ない、お前も礼言わんかい!」
「うおおお! ありがとうございます!」
商談自体はまた後でとなったが、このあともう少し話をした後にその場を後にした探索者としての浪速商人連合トップの二人。出会いはずいぶんと騒がしいものへとなった。
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