第百四十七話 一時の休息、デート 中編
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
翌朝、茜はジュディの部屋に唐突に入ってくるといきなりこう告げた。
「……という訳で秋彦をけしかけてきたのでデートに行ってきて」
「待って茜! いきなりどういう事!? という訳でじゃないわよ!?」
部屋に入るなりの一言に当然の様に慌てるジュディ。だが茜は淡々と続ける。
「……秋彦の事好きじゃないの?」
「え?! そ、それは……好き……だけど……」
顔を真っ赤にして、好きの部分が消え入りそうなほどに小さくなったものの、肯定はする。その様子に大いに茜は満足したように頷く。
「……そろそろ次のステップに行かないと、お互い大変なことになる。特に秋彦は女性慣れどころか人慣れしていなさ過ぎてハニートラップとかに引っかかってしまいそうだし」
そう言われてジュディは少したじろぐ。
思い返してみても、秋彦は敵には厳しく攻撃的ではあっても味方には穏和というか甘い性質がある。結構二面性が激しい所がある。世の中には味方の様に近づいてくる敵もいるというのに、あからさまに敵対しない限り他人に対してかなり対応が甘い所がある。
そんな秋彦がろくでもない女連中の毒牙にかかってしまうのは正直容易に想像がつく気もする。
そしてジュディもそんな男を篭絡することに心血を注いでいる連中相手に、恋愛の手管で勝てるとは思えない。
「……正直秋彦は今後も知名度が上がっていく一方のはず。海千山千の恋愛の達人が本格的に目を付ける前に恋人になれる最後のチャンスかもしれない」
「ど、どうしましょう……言われてみると本当にそんな気がしてきた……」
「……恥ずかしいだのなんだの言っている場合じゃない。ここが勝負所、女の見せ所」
そういうと茜はそっと封筒を渡してきた。
「……映画のチケットを用意した。アメコミで有名な【復讐者】の最新映画。字幕なしの英語版。これなら見る人も少ないだろうし秋彦もちゃんとわかるはず」
「復讐者……確かに世界的に有名で人気だけど秋彦は見ているのかしら……?」
「……以前のお泊り会で本棚に翻訳していないアメコミがたくさん置いてあったのを見た。少なくとも知らないなんてことはないはず」
「茜、よく見ているわね……」
「……敵を知り、己を知れば百戦危うからず。味方を知るのも己を知るのと同じ」
ジュディは正直心の底から感心した。
元々政治家の娘だけあって情報収集は得意だし、収集した情報から必要な情報を精査することも得意だというのは知っていたが、まさかこんな所にも発揮されるとは。
「わ、分かったわ。そこまでお友達がお膳立てしてくれたのにダメにするなんてありえないわよね、分かったわ茜! 私、ここで勝負するわ!」
「……頑張って」
覚悟を決めた顔つきにうんうんと頷く。常に無表情な茜らしくなく、微笑んでいる。
なのでジュディはふと気になったことを茜に聞いてみる。
「でも、茜はどうして私の恋愛を応援してくれるの?」
「……二人の為でもあるけどそれだけじゃない。やっぱり互いにもじもじしているところを見るのも面白いけど、いい加減見飽きたし。それじゃ頑張って」
茜は臆面もなく己の愉悦の為と言い切って、部屋から出ていった。いっそ清々しくて、思わず苦笑してしまう。
しかしそのおかげか覚悟は決まったので、ジュディは鼻息も荒く秋彦の部屋へ向かう。
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こうして二人が初めて意識して行った初のデートとなった。
映画を見るのは既定路線だが、その前に少し街中をうろついていたのだ。秋彦も好きなシリーズの映画だが、少し緊張をほぐしたい。
そうやって街中をうろついていると、やはり二人は目立つのであちこちからひそひそと声が聞こえてくる。
「お、おいあれってレインボーウィザーズのリーダーとサブリーダー?」
「だな……うわぁ、かっこいいな二人とも。映画俳優と女優かモデルみたいだ」
「ていうか美女と野獣だなありゃ。秋彦さん聞きしに勝るゴリマッチョ……」
「ジュディさんイイネありゃ……抜群のおっぱい……埋もれてぇ……」
秋彦達は内心、聞こえてんだよ! と言ってやりたい衝動に駆られるがとりあえず我慢する。聞こえていると知らない外野だからこその言葉だろう、そうに違いないとしてスルーすることにした。
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『にしても今回はアクション派手でよかったな。やっぱりああいう派手なのは映画ならではって感じするな』
『今となっては自分達がそんな感じのことやってるし、ちょっと親近感湧くわね』
『ああ、と言ってももうちょっと動き様もあるような気もするけどな』
映画も終わり昼食の為に入ったカフェで感想を言い合う。
緊張がほぐれた後での会話だったことで、それなりに会話も出来ているのが幸いした。二人はしばらく話に没頭していく。
そんな二人をこっそりと見ている者がいた。
茜と優太だ。二人は買ったばかりの【尾行サングラス】をかけて秋彦とジュディの様子を見ていた。
ちなみに同じカフェテラスにいるが、秋彦達は二人には気づいていない。
「今更だけどさ。なんで僕まで付き合わされているの?」
「……親友の恋路は見届けないと」
「ただの出歯亀なんだよなぁ……」
今更過ぎる質問を、何を当たり前のことをと言わんばかりの様子で答えられ、すごく変な気分になる。まるでおかしいのは優太の方だと言わんばかりだ。
優太も朝唐突に表れた茜に引っ張られてここまで来たのだ。しかも、焚きつけられた秋彦とジュディと違い、優太は本当に用件も言われずにただ引っ張って来られただけだ。
そして尾行している時に限り、尾行対象に対し、気づかれなくなる装飾品である尾行サングラスを優太の分まで用意してまで一緒に出歯亀である。
思わずため息も出ると言う物だ。
「いいのかなぁこんな事してて」
「……ご飯が美味しい」
いつの間にか注文したのか茜も食事をとっている。いっそ清々しい程に楽しんでいる様子に、正直呆れるよりもいっそ尊敬できるレベルだ。
「と言うかいくら仲間とはいえ、他の人の恋愛に気を燃やすよりも自分の恋愛を優先した方がいいんじゃないの?」
「……私には許嫁がいる」
「え!? そうだったの?!」
「……声が大きい。あ、向こうがどこかに行く」
「え、ちょちょちょちょっと待ってよ!」
ちょっと嫌みの一つでも言おうと思ったら仲間の思わぬ爆弾を掘り当ててしまった優太であった。今日はまだまだ帰れそうにない。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は3月13日午前0時予定です。
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