第十五話 偽装
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「まあまあ、不審に思うのは当然だろう。だがよく考えてもらいたい。モンスターが外で暴れるというなら僕たちも外で戦うことになるだろう。だが、それなら武装はどうする? まさか武装無しで戦おうなんて無謀は言わない、というか言えないよね? 隠そうとしたって、みんな武器を隠して持ってこれる? 多分無理だと思うけど」
ざわめく会場に対して続ける雨宮。その言葉で会場は再び静かになった。
当然だ。この東京、というか日本で武装した人間が天下の往来をうろつくなんて、職務質問どころか一発で正義の味方に捕まってしまう。しかし、モンスターと戦うには武器は欲しい。
魔法を使って戦えばそんな心配はいらないだろうが、それだけに頼っていては魔法が撃てなくなった時がまずい。戦力外になるだけならまだいいが、下手したら戦力外になったので逃げていたら、囲まれて殺されましたなんてシャレになってない。
つまり雨宮がコスプレ衣装を用意し、自分たちにコスプレを強要させるのは……
「そう、これはつまり偽装だ。我々一般人が、普通の恰好をして武器持っていたら完全にアウトだ。だけどコスプレキャラが、小道具に武器らしき物体を持つ。これならば……まだマシになると思わない? しかもそんな連中が一人二人ではなく、もっといっぱい、うようよいたら?」
……確かにそれなら多少警察の目はごまかせるかもしれない。一人二人なら異物に思われるだろうが、これが数十人単位なら逆に気にしなくなるだろう。
「まあそう言う事さ。ちなみに、害獣駆除であいつらと戦った時に、罠を使った人はいるかい? その人たちはコスプレしないでも、そもそも正面切って戦わないだろうし、その人たちはコスプレしないでいい。でも罠を張ってもらう関係で事前の仕込みを残ってお願いする。トラップ設置班の希望はいるかな?」
何人か手が上がった。大体が男性の様だが。
「OK! では残りは寸法を測るぞ、別々に部屋を借りているのでスタッフの指示に従って採寸を測ってくれ。終わったらここに戻ってきてね、では移動開始!」
各自部屋を移動し、採寸を測っていく。秋彦は異様にデカかったので衣装の採寸合わせる人が悲鳴を上げていた。これのデカさにあう衣装用意するのだからそりゃ大変だろう。ご愁傷様である。
最初に入った部屋に戻ると、まだ戻っている人はあまり多くなかったようなので、この隙に秋彦は優太に耳打ちする。
「親友、ここにいる人たちって俺らみたいに魔法の収納バッグ貰ってねーのかね?」
「……おとなしくコスプレの採寸してるんだし、多分そうだと思う」
「だよなぁ……」
そうなのだ。そもそも魔法の収納バッグをもっていればこんなことしなくても問題ないはずなのだ。現に秋彦たちはそれで隠し通せているし、どうせ事が始まったらコスプレしていようがいまいがそれどころじゃないのだから。
事が始まる前までの偽装であるならば、魔法の収納バッグがあればこんなことする必要がない。でもここに呼び出された面々は採寸を測り、偽装をするために動いている。ならば、ここにいる人たちは魔法の収納バッグを持っていないのだろう。しかしそうなると一つ疑問が湧いてくる。
「というか、ここにいる人らって、初回の説明とかってどうしたんだろうな? ライゾンがやるには手が足んねー気がするんだが……」
「そうだよね。どうしてるんだろう?」
「あら、何のお話?」
二人がこそこそと喋っていると声を掛けられた。
先ほどのジュディと名乗った女性と後ろにもう二人。こちらは日本人の様で、ジュディと優太の中間位の身長で短髪、男のような口調をした活発そうな女性と、優太並みの身長でおかっぱ頭が特徴的な、無表情な女性の二人だ。
「うわ、本当にでっけぇ! ジュディが私より大きいって言ったから、どんなんだよと思ったら本当にでっけー!」
「……山みたい」
「随分な言い様だがどちらさんだ?」
「ああ、紹介するわ。この子たちは一緒にダンジョンに入った私のお友達よ。二人とも自己紹介して?」
「よーっす、あたし、楠 桃子ってんだ。モモでいいよ、よろしくな!」
「……舞薗 茜。よろしく……」
「あ? ああ、えっと、南雲秋彦だ。よろしく」
「僕は石動優太です。よろしくお願いします」
「はい、よろしく!」
三人とあいさつを行う。このジュディという人、随分ぐいぐい来る女性の様だ。
「それで、二人は何の話をしてたの?」
「ん? 俺らはたった3日で随分の人間がダンジョンに挑戦したんだなって話をしてただけだよ」
「あ、せっかくだからちょっと聞いてもいいですか? お三方はダンジョンの説明は誰に受けました?」
「誰に? なんだいあんた等は人に説明を受けたのかい? あたしらは喋る猫に説明を受けたんだ。なんだか誰かの使い魔って言ってたね」
「……モフモフで可愛い……」
「今はモモの家にいるのよねニャン太君。彼がいろいろ教えてくれたのよ。魔導書を見せてくれたりもしたしね」
「あーああ、あいつが魔導書とあの魔法のバッグくれれば、こんなコスプレなんぞしなくてもよかったのになー」
「……それ、この場にいる人全員の本音……」
「ああ、やっぱり取り上げられちまうんだな。あのバッグと魔導書」
「どこも同じなのでしょうね。だからこそおとなしくこんな偽装を受け入れているのでしょうし……」
暗い表情のジュディ。コスプレが嫌、という訳ではなさそうだが。
とりあえずふーんと返しつつも、一応実は自分たちは魔導書も収納バッグも貰ってしまったことを話さない。本当に全員が取り上げられるなら羨望と嫉妬の対象になりかねない。今余計な軋轢を生みたくない。
その後も会話をしていると、集められていた人たちが戻ってきた。そして雨宮も戻ってきたところで話を打ち切る。
「みんな協力ありがとう。じゃあ最後に明日集合する場所を発表するよ。スタート地点は東京駅から徒歩10分の○○××公園だ。知人の伝手で会場を設置し、ファッションショーを行う。衣装はコスプレに近いけど、正確には協力してくれる会社のオリジナル衣装だしね。コンセプトは「武器を持った人」だし、まあ誤差だよね」
なるほど。イベントか。まあそれなら違和感はないのだろう。そこら辺の事情はよくわからないが。
「これで僕からの話は以上です。何かご意見、ご質問ありますか?」
「ならちょっとお伺いしたいのですが」
その言葉に迷うことなく手を上げたのはジュディだ。
「はい、どうしましたか?」
「すみません。こんなこと言うのは何なのですが……やはり我々だけでどうにかする方法というのは無いのでしょうか?」
その言葉に会場が再びざわつく。
「確かに氾濫は止められないと最初は諦めていました。どんなに頑張っても個人では出来ることはないですから。でも、今はこれだけの人がいます。考えれば何か案が出るのではないでしょうか? どれだけ抑えようとも、氾濫させるということは被害が出るという事です。何も知らない一般の人や、子供やお年寄りにも被害が出るでしょう。ひょっとしたら、命を落とす人も出るかもしれません。何か……何か手を……」
「……まあ、そう思うのはそうですよね。戦えない人が巻き込まれ、殺されるかもしれない。それを許容できないというのはよくわかります」
そしてそれを言った後、雨宮は壇上に頭を叩きつけた。
「しかし、僕ではどうあがいてもここが限界でした。いや、これだって皆さんに頼り切りの状態です。案があるけど行動ができないというなら、どうか案を教えてください。僕はどんな事だろうと実行します!」
すっと顔を上げてさらに続ける。
「正直、何とかしよう、何とかしようという一心で動いていましたが、日本中に点在してしまっているダンジョンを何とかするには、各地で募った有志を総動員しても全く足りない。どうあがいても人も物もまるで足りないんです……力及ばず、申し訳ない。ここまで来るまでに、だいぶ手を尽くしたのですが……」
「……例えば何をしたのですか?」
雨宮はすっと立ち上がり、どこか遠い目をしながら話を続ける。
「ある所にしがないホストがいました。そいつがある時友人たちと飲み明かし、家に帰って更に飲みなおそうとして仲間を連れて家に帰る時でした。ホスト達は不思議な横穴を発見し、興味本位で中を覗いてみました。そこで知ってしまった災害にも等しい逃れえぬ事態。男たちは酔った頭も吹っ飛ぶほどに大慌てしました」
この語りは間違いなく、体験談だろう。
「無駄だろうとは思いつつ警察に連絡しましたが、鼻で笑われました。自衛隊にも連絡しました。必死で訴えたのですが、帰ってきた言葉は「これ以上は公務執行妨害になるぞ」でした。知人友人全てに当たっても見ました。一部の人間は協力してくれました、が、たいていの人からは冷たい言葉を吐かれました。ひどいと「とうとうヤクでも始めたのか」とも言われました」
何も言えなかった。言えるはずがなかった。この人は自分たちが「どうせそうなる」と思ってやらなかったことを本当にやったのだ。
「ええ、そのホストと仲間たちは僕とダンジョンを攻略した仲間の事です。助けを乞える相手には乞いつくしました。呼びかけられる相手には呼びかけつくしました」
この人に文句を言ったら「じゃあお前はいったい何をした」と言われてしまう。
「でも、今の僕にはこれが精一杯なんです。これ以上やれることが思いつかないんです……考える時間さえ、あまりにも足りない……」
少しうつむき、心底悔しそうな声を絞り出す。
しかしすぐに前を見て話を続ける。
「僕がここまでやったのはひとえに、貴女も言ったように何も知らない一般の人や、子供やお年寄りに被害を極力出さない為です。だって僕らが今まで生きていた世界が、突然出てきたものに蹂躙されようとしているんですから。知らなかったなら手の打ちようもないでしょうけど、知ってしまったからには、知った人間が手を打つ義務がある。僕たちの日常、平和を守るために……!」
その言葉には確かに決意がこもっていた。
「策を考えようにも時間がない。仮に考えがついてもそれを実行する時間もない。力及ばず申し訳ないのですが、個人的にはどうしてもここを妥協点とせざるを得ません。もしも策がある。今からでも考えるというなら……ここは時間で借りている場所なので、カラオケボックスの一室でも借りて、そこで話し合いませんか?」
「……そう……ですね。結局そこに行きつくのですよね。時間が足りなさすぎます。問題の発見も、対抗策を考える事も、策の実行も出来ない程に、すべてが致命的に足りないのですよね……」
「申し訳ない……ですが、今回の対処が終了したら、もう一度集まり、今度こそ間に合うように対策を立てましょう! 今度は被害を出さないように、今度は傷つく人が我々の中からでさえ出ないように。すべては……僕たちの日常の為に!」
誰からという訳でもないが拍手が起こった。それは、武力ばかりを磨いた自分たちとは違う方向で必死に足掻いた、一人の戦士に対する敬意ともいえる。
「ありがとう、皆さんありがとうございます。他にご質問無い様でしたら、この場は解散とさせていただきます!」
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも頑張っていきますので、ぜひ評価感想の方を頂戴したく思います。そうしたら私はもっと頑張って作品を展開できますので。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします!