第百三十八話 サービスエリア、前哨戦
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
ようやく来た作戦開始の指令。伝令の自衛隊員の言葉にその場の緊張感が上がる。とりあえずその場にいる他のチームの面々と相談をしあう。
「やっと来たか。じゃあ始めるか」
「作戦とかは何かありますか?」
「いえ……と言うかまずは威力偵察、こっちのやり方が素のままで通用するか見るための物なんだから、逆に小細工とかしちゃだめだと思うんですが」
「ああ、言われてみればそれもそうですね」
「でも最低限、やられそうな時や、手を貸してほしいときは声を掛けてくださいね。そこは助け合いましょう」
「それはむしろこちらが助けてもらう事になると思うので大賛成ですよ、はい」
「ここ、心強いです!」
とりあえず最低限の打ち合わせだけをした後、改めてサービスエリアに目を向ける。ここから先は戦闘力五千クラスの怪物達がひしめき合う伏魔殿だ。緊張が走る。
「うし、じゃあ親友、いっちょぶちかましてくれや。まずは先制一発だ!」
「任せて! んんんんんーーーー!!」
優太が一歩前に出て、杖を抱えて唸り出す。
すると魔力のオーラが強力に放出され、足元に優太を中心に魔法陣が浮かび上がる。
「あ、あの、これはいったい?」
「優が最近覚えた魔力増幅っていうスキルなんです。これを使うと普通に魔法を使うよりも強力な魔法になるんだそうです」
見たことのない様子に驚くアリアンタイムズの面々にジュディが解説を入れる。
魔力を増幅させていく優太に秋彦も今行えるすべてのバフ、つまりパワー4回分とバリアー、ストロング、スピード、メンタルの計8回分を掛けるべく、魔力をためる。
高速詠唱と、魔法制御、魔法効率化をフル活用することで出来るようになった秋彦のフルバフセットの同時掛けである。
魔力制御は魔法の効果範囲をも補強し、魔法効率化が大量にかけるバフに消費される魔法力を抑え、高速詠唱が掛け声一つで魔法を行使する。
アキーズブートキャンプにて、人にバフをばらまきまくった結果出来るようになった事だ。今にして思えばアキーズブートキャンプは、ある意味秋彦にとってもブートキャンプだったと言えるだろう。
これのおかげで、近くにいれば戦闘中でさえ仲間にも自分にもバフを掛けられるようになった。
「うし、じゃあこれもな、おりゃ!」
「うん、ありがとう。じゃあ行ってくるね。レビテーション、ブロウ」
そういうと優太は秋彦から補助魔法を受け取ると、ふわりと体を風船のようにゆっくりと宙に浮かばせ、自らが起こした風に吹かれてふわふわと空に昇っていく。
そしてある程度の高度になったら、ぴたりと空中で静止した。そして……練った魔力を膨れ上がらせ、魔法を放つ構えを取る。
体から炎が放出され、杖の頭に炎の玉が出来、それがゆっくりと大きくなっていく
「威力偵察ってことだし、検証だからね。今の僕がどれだけ通じるか、試させてもらうよ!ファイヤーエンチャント、そして……ファイアボンバーだ!」
杖の炎はまだまだ大きくなっていく。普段ファイアボンバーはボーリング玉程度の大きさの玉になった所で放つが、今回は溜めを行っていることでさらに大きくなっていく。
そして……バランスボールほどの大きさになった所で優太が杖を振り上げる。
「さあ、今までの僕の最大級の一撃だよ……いっけええええ!」
優太が杖を振り下ろすと、炎の大玉はサービスエリアに落下していき……耳を貫く轟音と爆発により生まれた砂煙と熱風をまき散らし、サービスエリアを丸ごと爆発で包んだ。
サービスエリア近くの木は高熱の爆風に悲鳴を上げて逃げるかのように強くしなり、下で見ている探索者達さえよろめくほどの風となっている。
「うわああああ!」
「な、なんて威力だ……!」
「おっほー! 派手にやるじゃん親友ってば!」
ある者は吹き飛ばされそうな帽子を押さえ、またある者は捲り上がりそうになるスカートを押さえている物の、レインボーウィザーズの面々はどこか楽しそうにその様子を見ている。
「……流石灼熱王子」
「優の実力もあるけど、方々手を打って装備を手に入れた甲斐があるってものね!」
女子二人も満足げに頷いている。
この威力だと、サービスエリアごとクレーターが出来ていてもおかしくはないが、優太は魔力制御をLv5で持っている。よもや制御を誤るはずもない。敵だけを焼き尽くしているはずだ。
爆風が生んだ砂煙と炎が生んだ光が収まりを見せ始め、ようやく視界が開けてきた。
開けた視界からは、焼き尽くられたゴブリンたちの死体がそこかしこに転がっている。
……はずだった。
「……え?!!」
「そんな……なんだあれは!?」
視界が開けた先にあったのは、ゴブリンの魔物の中でも剣と盾、鎧と兜を装備したわかりやすく騎士のような恰好をした奴らが隊列を組み、集団で魔防壁を展開していたのだ。
そしてその展開された魔防壁は、まるで一つの巨大な結界の様にサービスエリアの周囲を覆いつくしていた。そしてその結界の中の魔物は傷一つ負っていないようだった。
動揺する他のチームをよそに優太はレビテーションの効果を切って地上に降りてきた。
「ごめーん、駄目だったみたい」
「親友のせいじゃねーよ。あらぁ向こうがちょいとうまくスキルを扱えてたってだけだ」
「……優の落ち度はない。私達の知らなかったことが分かっただけの事」
「そうね。知らなかったわ。魔防壁って集団で固まって発動するとあんな風に結界を張れるのね」
ファイアボンバーは炎の爆発によってダメージを与えるものだ。どんなに強固であっても隙間があれば、そこから熱と風は容赦なく滑り込み、相手を焼き尽くす。
それを撃ったにもかかわらず魔防壁の中が無傷と言う事は、あの魔防壁は隙間一つないドーム状の壁だったと言う事だ。
通常それだけ大きい魔防壁を張ったらまず間違いなく魔防壁は破れ壊れているだろう。だが奴らは徒党を組み、一斉に魔防壁を展開させることでその強度を高めたらしい。
そうでなければ、バフを抜きにしても戦闘力約三万。秋彦の大量のバフと優太自身のファイヤーエンチャントまで上乗せされた攻撃を、戦闘力たった五千そこらの魔物が防ぎきれるわけがない。
「打ち破れると思ったんだけどなー」
「まあまあ、魔防壁は複数人で使うと効果が上がるってのが分かっただけでも収穫じゃん」
「そうよ優。この情報は今回の様な自分達のチームだけじゃないチームの人と組む時に覚えておくと役に立つ事よ」
「……もしかしたら魔力撃や魔狙撃もそうかもしれない。試す価値はあるかも」
「おお、そうだな。じゃあ皆さん。だめだったんで、次は白兵戦行きましょう」
「い、いやいや! 何をのんびりしているんですか! あの一撃が防がれたんですよ?! この作戦大丈夫なんですか!? 逃げた方がいいのでは!?」
次の白兵戦の為に他の探索者チームの面々に声を掛けると、今の一撃を防がれたことに対してCクラス探索者であるアリアンタイムズのメンバーの内の数名が悲鳴に近い声で抗議してきた。
Aクラスは流石に冷静なようだが、BクラスやCクラスはかなり動揺していた。
「いやいや、大丈夫ですよ。あれはちょっと親友の魔法の性質と相性が悪かったってだけなんで」
「え? それっていったい……?」
「ほら、あのファイアボンバーって、爆発によって燃え広がる魔法じゃないですか。つまりあれって火球をぶつける単体を攻撃する魔法とかじゃないからあの火球に貫通能力とかはないんですよ」
秋彦のセリフを降りてきた優太が引き継ぐ。
ファイアボンバー自体は火球を爆発させることで爆熱と爆風を発生させ、それにより広範囲を焼き尽くす魔法だ。大きな防御範囲を持つものを破壊する魔法ではない。
それにたとえ威力が桁違いであろうとも、そんな魔法を防いだものは魔法から生まれた壁だ。つまり、物理的な防御よりも魔法に対する防御力に優れたものだ。
例え現時点最強と歌われる人物が放った魔法であっても、防御に対する突破力がない魔法では、何十匹もが徒党を組んで作り上げた対魔法に優れた防御壁では壁を破壊しきれなくてもある意味仕方ないのだ。
むしろ最も相性の悪い魔法に対して、最も相性のいい魔法を使って防いだのだ。むしろそうでないといけないレベルである。
「お判りいただけましたか? だからあれは個々に散らばって、物理攻撃で各個撃破すれば全然怖くない代物なんですよ」
「そ、そうだったんですね……」
「ご理解いただけたようで何よりです」
そういうと、その場の空気が少し恐怖から解放されたかのように少し空気が緩んだ。流石に探索者としてシルバーランクにのし上がっただけの事はある。安心できる材料を示せば平静を取り戻せたらしい。
「じゃあ、皆さんにも……はぁぁ……てぇえい!」
ちょうどいいタイミングだったので秋彦が掛け声を上げ、その場のチーム全員にバフを掛ける。
「おお!? 何だこれは……力が溢れて来る!」
「俺の、無属性として使える補助魔法です。いかがですか? これを受けてもまだ不安ですか?」
秋彦のバフを受けてあちこちでその威力に感動する声が聞こえてくる。
「うわぁ……今なら何でもできそうだ!」
「こんな力を頂いて……負けられない、これは負けられない!」
バフの中にはメンタルもあり、精神力の向上魔法もあるおかげか、ここまでくると、弱気な発言はもうなくなっていた。
「よし、じゃあ行きましょう。皆さん生きて帰りますよ?」
その声に全員が頷いた。だれもが生存を確信していた。今の自分達ならやれると信じていた。ならば、後はそれをやるのみである。
「行きますよ! 全チーム! 突撃―!!!」
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