第百三十話 終業式と送り出す人々
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これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
『……パパ起きてー! 朝だよー! 今日はしゅーぎょーしき? っていう日だよー!』
「んぼぉ! ……ん、おお、もう朝か……」
『えへへー、パパおはよう!』
「おう、おはよう」
起き抜けにいきなり龍ちゃんにのしかかられた。重い、が可愛いので許せる。
のそのそと起き上がり、欠伸をしながら髪を整えてから龍ちゃんの料理を作っていく。
もはや慣れた手つきで食事を二人分作り、テーブルに座ると、龍ちゃんがよだれをたらしそうな勢いで待っていた。
「じゃあ、いただきます!」
『いっただっきまーす!』
待ちかねたと言わんばかりの勢いでお肉をむしゃむしゃと食べつくしていく。口周りに大量のたれをつけまくっているところは本当に子どもだなぁと思ってしまう。進化しても、所詮はチャイルドか。
秋彦もパクパク食べていくが、流石に口の大きい龍ちゃんの食事のスピードには及ばない。
『ご馳走様でした!』
「龍ちゃん、お口をちゃんと拭きなさい」
『はーい! ペロリンちょ』
口の周りを拭けと言ったら龍ちゃんは持ち前の長い舌で口の周りをべろりと舐めとった。その後でティッシュを使って拭いていた。
「龍ちゃん、行儀が悪いでしょ、やめなさい」
『ううー、でもタレ美味しいよー』
「食べたりないの?」
『そうじゃないけど、なんか勿体ないよー』
「だーめ。お肌だって洗っていてもいつも清潔ってわけじゃないんだから、口の外にくっついたの食べてお腹壊しても知らないぞ?」
『……はーい』
「よし、聞き分けの良い、龍ちゃんはいい子だ」
『……えへへー、龍ちゃんいい子だもん』
しゅんとしてしまった龍ちゃん、頭をなでてあげると機嫌が直ったらしい。素直だ。
その後はさっさと片づけを行い、制服に着替え、いつも通りちょっと時間を潰してから、頃合いを見計らって龍ちゃんに声を掛ける。
「さて、パパは終業式に行ってくるから、お留守番お願いね」
『はーい! いってらっしゃーい!』
元気な返事を聞いて、秋彦は優太を迎えに行く。
………………………………
「……という訳でですね、今年の夏休みも羽目を外しすぎず、有意義に過ごすように努めてください、それでは私からは以上です」
「校長先生、ありがとうございました。それでは二列になって教室に戻ってください」
ようやく終業式のメインともいえる校長先生の話が終わり、体育館から教室に戻ってこれた。
一息ため息をついて教室に戻る。後はHRを行ってからようやく終わりといったところか。先生が来るまでは待機だ。
「いやー、お疲れ様。これで憂いなく奪還作戦に向えるな!」
「いや本当に。よかったよかった」
もはや恒例のエミー達、モンスターキラーズの面々が集まってきた。
「そういえば五人ともシルバーランク探索者に昇格したんだって? おめでとう!」
「ありがとうユータン。アッキーが付き合ってくれたおかげだぜ!」
「本当に、間に合ってよかったよ。これで地方都市奪還作戦の前線部隊に堂々と入れる!」
どうやら五人は何とか間に合ったようだ。シルバーランク探索者昇格試験も含めて。意気込みに興奮する。しかし……
「地方都市奪還作戦……きつそうだけど、僕たちに出来る精いっぱいをやるんだ」
「おばあちゃん、見ててね、私やるからね!」
「魔物を日本の町という町から叩き出して、世の中を平和にしていくんです……躓いていられません!」
やはりこの五人は意気込みが違う。と、秋彦も優太も思う。
奪還作戦に参加する新参の探索者チームの中でも浮足立っている奴らは、どちらかというと成り上がる自分自身しか見ていない。地方都市奪還作戦によって名を売ることで、これからのチームのサクセスストーリーを展開する未来図しか見ていない様に見える。
この五人はこの奪還作戦が何のために行われるかをきちんとわきまえている。巡り巡って自分達の為であっていても、この五人はもう少し自分たち以外の物を見ているように感じられる。
でもだからこそ言っておかなきゃならないこともあるだろう。一つ深く息をつき、秋彦が口を開いた。
「じゃあ先達から一つ忠告だ。これは地方都市奪還作戦に当たって大事になると思う。俺らがあの最初の氾濫で見た地獄、そこで思い知った事でもある」
五人の視線が一斉に集まった。
……周りの視線も集まったような気もするが、言っておかなきゃならないだろう。
「折れるなよ?」
「え?」
「あそこは正直いろいろキッツい物を色々見た。人が死んでいる様っていうのも相当にキッツいけど、共食い強化で当時訳わからんぐらいに強化された化け物とか。俺は見ていないけど、目の前で人が魔物に殺されたっていう人も結構いた」
他にも遺族に罵られたりしたり、自分が深手を負ったりしたりした人もいた。体はポーションがあるから割と傷が残らないほどに回復するのだが、体のダメージよりも心に対するダメージがきつく、武器を握れなくなったという事はありふれた話である。
「だから、第一陣の中でも結構心が折れて引退しちまうっていう話はあるんだよね……」
「そうなんだ……」
「地方都市奪還作戦に参加すんのがゴールだっていう連中は別にいいのかもしれないけどさ。お前らはこの後も探索者やるんだろ?」
「勿論!」
「だからだ。折れるなよ?」
モンスターキラーズは神妙な面持ちで頷いた。真剣な表情で語る秋彦と優太の表情から本気度が伝わったのだろう。
「よし、全員席につけ! HRを始めるぞ!」
そうこうしていたら担任の岩田拓郎先生が入ってきた。HRの開始だ。
「まず夏休みの宿題を配布する、こういう嫌な物は最初に受け取ってしまうに限るだろうしな」
教室からブーイングが湧く。まあ宿題をすき好む生徒も相違ないだろうから当然なのかもしれないが。
しぶしぶ宿題を受け取り、次に先生からの話が始まった。
といってもここら辺は夏休みの過ごし方の注意であったり、登校日のお知らせだったりというある意味お決まりのお話だったのだが、話の最後になって先生が地方都市奪還作戦に対して触れた。
「さて、最後になるが今年の夏休みは日本全土をもって地方都市奪還作戦が始まる。故郷が魔物に占領されてしまっている者もいるだろう。あまり危険な行動はとらない様にしろ。そういうのは本物の探索者の仕事だ。そうだろう南雲、石動、笑屋、奏、言葉、岩崎、真崎」
名指しで呼ばれて呼ばれた探索者一同は驚いた。
「お前らは今や立派な探索者、プロ探索者だ。お前らが今回の作戦に参加する事。俺は正直お前らに任せることには心苦しさを覚える。だが今はお前たちに任せるほかない。こんなことをお前たちに頼むのは正直申し訳ないと思う。だがあえて、頼むぞ」
そういうと先生は姿勢を正し、頭を下げた。
「頼む、地方都市奪還作戦を無事に完遂させ、そしてこの学校に帰って来てほしい! 不甲斐ない大人で申し訳ないが、俺はお前らに頼む事しかできない!」
先生が頭を下げたことにうろたえていると、クラス委員長を始めとしたクラスメイト達が立ち上がり、仕舞っていた花束と寄せ書きを持ってきた。
「私たちは何もできないけど、応援しているから……必ず生きて帰って来てね!」
「俺たちからも頼む、日本の魔物を打倒して、平和を取り戻してくれ! 頼む!」
「では、地方都市奪還作戦に参加するクラスメイトの探索者達の無事を祈って! 三三七拍子!」
そして唐突に始まる応援と三三七拍子。
話の流れがスムーズすぎる事を考えると恐らく仕組まれていたのだろう。一体いつからだ?
いや、そんなことはどうでもいい。ただ、クラスメイト達が自分達を応援し、活躍を期待してくれている。それがうれしい。そう思った。
まだうろたえているモンスターキラーズ、秋彦が一歩前に出る。
「ああ、安心してくれ。俺も親友も、モンスターキラーズだって相当強くなったんだぜ? そうそうめったに遅れはとらねぇさ、約束する。俺たちは必ずここに帰ってくる!」
「うんうん! この学校は僕たちの大事な日常がある場所だから! 絶対僕たちは負けないよ! 応援ありがとう!」
教室内から大きな拍手が沸き起こる。
「ほれ! エミー、なんか一言いえって!」
秋彦が背中をバシッとはたく!
「え、ええおお?! あ、あの……おう! 俺たちゃ負けねー! 魔物どもを駆逐して帰って来てやるぜ! 皆応援よろしく! じゃ次マーちゃん行け!」
「ええ?! ええっと……ここが正念場、日本最大の戦になるけど、この手に勝利をつかんで帰ってくる!」
「じゃあ次私。どんな魔物がいたって、私の足に追いつけるもんか! 戦場を駆け回って魔物を倒しまくるよ!」
「えっと、僕も魔法使いとして成熟してきたから、負けはしない。生きて帰ってくるねー!」
「はい。あたしたちは負けません。あたしたちが死んだら悲しむ人もいます。それをよく知っているから、その人を悲しませることはしません!」
残りのメンバーも発言すると教室からは拍手だけでなく口笛や歓声も響いた。
………………………………
「いやー、こりゃますます死ぬわけにはいかなくなったね!」
「何言ってんのさ、そんなの当たり前だよ」
終業式後、明日に出発を控えた秋彦と優太、そしてモンスターキラーズの面々は優太の実家の中華料理店、赤龍で食事をとっていた。
正直自分達があんなに応援されることなど今までで一回もなかった。
あの後も、生徒会に呼ばれて激励を受けたり、校長室にて、校長先生から奪還作戦に際する話を受けたりと割と忙しかった。
プレゼントを貰ったり、連絡先を交換し、クラスメイトのグループを作ったりと色々あった。それだけ皆用意していたのだ。自分達の為に。
その心意気が今とてもうれしい。
明日はいよいよ大阪に乗り込んで、地方都市奪還作戦に参加する。そのための会議に参加する。
日本を、いや世界を混乱に陥れたこの大騒動は、ようやく一つの節目を迎えようとしている。いよいよ正念場だ。
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次の投稿は1月22日午前0時予定です。
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