第百十七話 桃子の提案
前回は休みを頂いてしまいまして、申し訳ございませんでした。今後はいつも通り3日に1回の更新となりますので、またお付き合いください。
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これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「モモ、お前何を……」
「まあ聞きなって。さっきまでの話しっかり聞かせてもらったよ。魔物を憎みながらもそれだけに心を燃やさない、とても気高い志だと思う」
『とてもよい心持だと思うのよ!』
秋彦の言葉を制止し、桃子が話し出す。その声はとてもよく通り、温かみのある声だった。
「そういう心情ってなかなか持てない物なんだよ? あたしたち探索者ってのにも、結構親族を殺された恨みで探索者になって、魔物憎い、魔物殺すで突っ走って返り討ちにあう人たちって多いんだからね」
『ママとあたちは取材でそういう人たちには結構あっているのよ、皆怖い顔してたのよ!』
それは桃子とルビーちゃんが見てきた偽りのない事実だろう。
確かにここ最近桃子は探索者のイメージアップ運動で政府とギルドの肝入りであるダンジョンチャレンジャーという番組の司会進行をしているだけあって、自分たち以外の探索者の交流は特に多いはずだ。
復讐に走る人々の背負った怨念や恨み節も、幾度となく聞き、あるいは目にしてきたはずだ。その根深さというのをおそらく桃子は今この場にいる誰よりも知っている。
だからこそ桃子は、モンスターキラーズの面々を見て、確かに復讐心はあっても、他の復讐心を持つ探索者達の様に、魔物を根絶やしにするタイプの復讐心ではなく、魔物を倒すことで、自ら前に進もうという意志を感じられる。
「復讐心なんて、あたし達は分かってあげられない。その気持ちを推し量ることは、たとえ同じく被害を受けて、近しい人たちを亡くした人達同士でさえ分かってあげられないものかもしれない」
『でも、同じく亡くした人達同士なら、話を聞くきっかけ位にはなるはずなのよ。誰も仲のいい人を失っていないあたち達が何言っても、同情するなで終わっちゃうことは何度もあったのよ……』
それを言われると、秋彦はもう黙る他ないだろう。
そもそも秋彦達は、近しい人たちに被害が及ばない様に自分の生活圏内にあるダンジョンのわき潰ししていたのだ。恐らく当時内情を知っており、何とかしなければと思ってた人達は、たとえダンジョンすべてを回れなくても、せめてこれくらいはという思いから、やっていた当時の探索者達はきっと多かったはずだ。
手が足りず、手が回らなかったという理由があったとはいえ、断腸の思いで放置したダンジョンから氾濫が起き、虐殺の様な事態になり、その被害にあった人々からしたら溜まった物ではないだろうし、そのせいで探索者に対し心を閉ざす人も少なからずいる様なのだ。
桃子はアイドルとして、メディアに近しい位置にいる身として、それを多く見たのだろう。何とかしなければいけないという使命感があるのかもしれない。
実際これはギルドのイメージアップ運動的には使命と言えるだろう。何せこういう人たちに対して行っているイメージアップ運動なのだから。
復讐心に心とらわれ、無茶なダンジョンアタックを繰り返すことで見も心もボロボロになる探索者を減らし、探索者に対して不信感や逆恨みに近い憎しみと悲しみを向ける人々を思い、心を開かせる。
それは、同じく悲しみを背負いながらも決して憎しみだけにとらわれず、今生きる人々のために立っているモンスターキラーズは適任と言えるだろう。
しかし……
「いやお前、だからってその為に五人に傷口ほじくり返させるってのかよ」
「……正直どう言いつくろってもそういうことになるのは分かっているよ」
『でも、秋彦おじちゃん。ママもお兄さんたちを傷つけるつもりじゃないのよ!』
そう、このことを大きくメディアに取り上げ広めると言う事は五人の傷跡をえぐり、ほじくり返すことになることは明白だ。
誰をどのように亡くしたか、その時どう思ったか等周りからこれでもかというほどにいじくりまわされることになるだろう。
「しかもお前、このことが有名になるってことは、ちょっと前の俺らみたいによくわからん所やカメラとかから散々追い掛け回されることになるじゃねーか。お前それを推して尚五人にやらせる気かよ?」
「……それもわかっているよ」
『秋彦おじちゃん……』
桃子も心苦しそうにしているが、秋彦も苦虫を嚙み潰したような顔をしている。秋彦は直近で一番嫌な思いをしたあの一週間を想起してしまったのだ。
秋彦自体もメディアに追いかけられた経験もあることからわかるが、あれのしつこさや容赦のなさには一時期嫌気がさしていた程だ。
悪意がないうえに力も弱い一般人が、デリカシーもクソもなく向かってきてはすでに何度もした話を根掘り葉掘り聞かれたり、追いかけたりされるのはなかなか堪えるものがある。
これが腕っぷしも強く、悪意をもって接してきているならこちらにもやりようというものがあるのだが、こういう物を聞きたがるのは大体、力がないがゆえに助けや救い、明るい話題を欲しがっている善良な一般人なのだ。無下にするのも可哀想なのだが、そのために精神を削り続けるのも正直辛いものがある。
「まあ、結局決めるのはお前らだぜ?」
「う、うん……」
秋彦が話を振ると、五人は放心していたらしく真崎の気のない返事が返ってきた。
「えっと、ちょっと待ってね……」
「おいおい、今決める事ねーじゃんか。そこら辺はしっかり相談してから決めなよ」
「……そ、それもそうだった。じゃあそういう事にしようか。うん」
全員頷き合う。まあ正直こんなことになるとは思っていなかっただろう。
「心苦しくは思っている。いるけど……あなたたちの話を聞いて救われる人もいると思うの。数は多いか少ないかは分からないけどね。いい返事を期待しているわ」
『待っているのよ』
「「「「「は、はい……」」」」」
困惑しつつも五人はとりあえず肯定した。否定をしていないことから可能性の芽はありそうだ。無理をしなければいいのだが。
その様子をみて呆れた様子で桃子を見る。
「お前も困ったやつだよモモ」
「うー、ごめん。あたしがこのチームをメインで張れる時間も残り少ないし、最後のわがままだと思ってよ」
「それ俺に言ったってしゃーねーじゃん。あいつら俺らのチームの一員じゃねーんだからさー、頼むよ……」
「それはそうなんだけ」
「え?! ちょっと待ってそれどういう事!?」
さっきまで放心していたエミーが突然大声を出して秋彦に詰め寄ってきた。
「おお?! な、なんだよエミー?」
「なんだよじゃないよ! 今の話どういう事!? モモちゃんレインボーウィザーズを抜けるの?!」
喰いついたのはそこか。まあエミーは以前からアイドル大好きだったのだから、動向は気になるところか。
桃子は気にした様子もなくエミーに説明を開始する。
「抜けるって言い方は語弊があるよエミー君。あたしってさ、探索者としてはレインボーウィザーズが今はメインで、アイドルとしてはビューティフルドリーマーとしてやってるのは知ってるよね?」
「勿論!」
「でもそろそろビューティフルドリーマーの子達のレベルも追いついてきているの。探索者系アイドルとして、ビューティフルドリーマーのリーダーとして、そろそろ探索者としての修行はいったん終わりにするの」
「あ! 前々から噂にはなってたけど、その話が本格化するんだね!」
「そうそう。これからは新探索者チームにして、アイドルユニットである【ビューティフルドリーマー】のリーダーとして、レインボーウィザーズとはサブのメンバーとして、また、チームとしては同盟という形で相互的にチーム同士で仲良くしていこうねっていうことになっているの」
「こ、これは凄い事を聞いた……最新情報だ!」
エミーはめっちゃ興奮している。その様子を見て他のモンスターキラーズはため息をつく。
秋彦はその様子を見て、舞い上がっている姿だけ見ると、高校の入学時と変わらない様に見えるのだから、人は見かけではないなと思うのであった。
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