第百十二話 友人たちのレベリング
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「あら、終わっちゃってるみたいよ?」
「あれま、閉まってやんの」
秋彦とジュディが赤龍に着いたとき、赤龍の店には閉店の札が掛かっていた。
普段ならギリギリでもまだ開いているはずなのだが。その証拠にすりガラスが張られているドアからは光がはっきりわかり、人がいることはわかる。
「誰か来てんのかね? んー?」
「秋彦……勝手知ったる我が家のような場所だからってそれはちょっと……」
堂々と聞き耳を立てる秋彦にジュディが呆れたような声を出す。
「あれ? エミー達の声がするぞ?」
「え? エミー達って、この間試食会したときの?」
「おう、なんか話してるぞ?」
ジュディも聞き耳に参加し始める。
「エミー?」
「はぁ……たってダメでしょ、……とかも……と言おうよ。その……おうよ」
やはりドアが閉まっていると外と言う事も相まって聞き取りづらい。何を話しているのかがよく聞こえない。
「はて、何を話して……?」
「あ……秋彦がいないと……、僕だ……んだ。まず秋彦に話を……」
「ん? なんだ親友、俺がどうかしたか?」
秋彦の名前が出てきた事でとっさに反応してしまった。閉店の看板があったけど、思わずドアを開けてしまった。
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「成程なぁ。まあ確かにあそこでの稼ぎは俺がいねーとだめだわな。敵寄せの笛も、茜から借りてこないといけねーし」
「アッキーがいないとだめって、無属性魔法と関係あるのけ?」
「よくわかってんじゃん。効率よくいくならメンバーが持ってる敵寄せの笛っていうのもいるぜ」
事情を聴いた秋彦。とりあえずレベリング自体は秋彦さえいれば問題はないことは告げる。
「でもそれを俺がやるかはまた別の話だぜ。なんでそんな大慌てでレベル上げてーんだよ? 結局そこ次第だぜ。だってよ、身の丈に合わねーダンジョンアタックは死ぬぜ? いやいやマジで」
「えっとだね……僕たちさ、地方都市奪還作戦に参加したいんだ」
「……え?!」
驚きの声を上げたのは優太だ。そして同時にすごく残念に思った。
地方都市奪還作戦、参加したがる人間は多いのは知っていたが、友人チームまでその口だったとは……
最初の氾濫騒ぎに戦う側として参加していなかった人達からしたら、自らが成り上がるために、自分たちの存在を世に知らしめさせる絶好の機会意外に思わない傾向があるという風には思っていたが……思った以上にその考えは浸透していたらしい。
次の地上での戦いは、恐らくあの日本中で魔物が外に押し寄せた日本魔物大氾濫事件よりもはるかに凄惨な場面を何度も目撃することになるだろう。
友人でもなんでもない昼間の探索者チームと違って、こちらは学友にして友人だ。放っておくわけにはいかない。
「……えーっとね、あのね、皆のためを思って言うけど、やめておいた方がいいよ?」
「まあ、やっぱりそういうよね……正直だから出来るだけ言わずにおいたんだし……」
……まあ、やめておけの一言でやめるなら最初から考えないだろう。
「ねぇ、そもそも五人はこの戦いに参加して何が欲しいの?」
「ジュディ?」
どうしたものかと考えていたら口をはさんできたのはジュディだ。
「それは……」
「富? 名声? 力? それだったら、正直この戦いでなくても手に入ると思うわよ?」
確かにそうだ。この地方都市奪還作戦に参加しなくても、今後探索者として活動を行い続けていれば、いずれ有名になるかもしれない。いずれ大金持ちになるかもしれない。力は生き残り続ければつくだろう。
「勘違いしないでもらいたいのは、私は貴方たちにこの作戦に参加するなと言っているわけではないの」
「え?! ジュディさん!?」
「ただ五人には、この作戦に挑むからには、この機会でなくても手に入る物の為に挑んじゃだめっていう事を言いたいの。この作戦、この戦いでないと得られない物の為に戦って欲しいの。はっきり言うけど、生半可な思いで地上での戦いに挑むと後悔するわよ?」
ジュディがそういうと、秋彦と優太は苦虫をかみつぶしたかのような顔をしてうつむいた。
地上で魔物が大氾濫を起こした日本魔物大氾濫の戦い。今でも思い出すと気分が悪くなる戦いだった。
それは人の死を肌で感じながらの戦いだった。探索者の命ではない、一般人の命が奪われていく最中に、まだ失われていない人の命を守りながらの戦いだった。たとえそれが戦い自体は質で覆せたとしても、転がる死体や傷つく人々をしり目に戦いを行うのは精神的にかなり摩耗する。
助けを求めている人を探し、時に救助を行い、時に魔物を倒す。魔物に一般人を目の前で殺され、それがトラウマになった人もいるという。
単純な強さだけではどうしようもない一面もあったが、それが何の慰めになるというのか。
今回も恐らく、相当にきつい戦いになるだろう。己の無力感をかみしめる戦いになるかもしれない。そんな思いをして得るものが、別にこの戦いでなくても得られる物であるとしたら、相当に割に合わない物と言えるだろう。
だから、この戦いに参加することを止めはしない。ただ、この戦いに参加するからには、この戦いで必ず、この戦いでしか得られないはずの物を得る。そしてそれを見据えておいて貰いたいのだ。
この五人に果たしてそれに値するものがあるのか。この戦いが自分にとってどういう意味を持ち、どう務めを果たすことで自分がこの作戦に参加した意味を見出すのかを、ジュディは問うているのだ。
「それなら大丈夫。これは俺らのけじめ、っていうか区切りっていうか……」
「僕たちが乗り越えないといけない物なんですー。この奪還作戦は、それが分かりやすい形でやってきたっていうだけの事なのでー」
「うん、これを逃すと、次はいつになるかわからない。僕たちはこのチャンスを逃すわけにはいかないんです!」
「大丈夫です。ここで止まっていては、私達はいつまでも先に進めないの!」
「頑張ります! 頑張りますので!」
間髪入れずに全員が答えを返した。目や気迫を見る限り決してこちらの言っていることを軽んじているようには見えないが、その気迫が危うさを感じさせる。
……だが、ここまで決意を宿した真剣な眼差しで物を言われては正直、レベリングに付き合うくらいはしてもいい気がしてくる。
「あ、秋彦……」
優太も困ったようにおろおろとしている。
常識的に考えれば止めるべきなのだろうが、決意と覚悟を聞いてしまった事で、止めるに止められなくなっているのだろう。
「……そうねぇ、なら私から言う事はないのだけど、結局秋彦次第だし……ねぇ?」
ジュディはそういうと意地の悪い視線を投げかけて来る。最初からこれが目的だったのだろうか。
……何というかずるい。こういわれて断れっこないのに、わざわざ秋彦自身の口から言わせようとしている。
「はー、悪い奴だよお前……」
「あら? 何の事かしら? こんな美少女捕まえて」
「うっせーよ。いいよ分かった。レベリングに付き合ってやんよ」
「ほ、本当に?!」
土下座しかねない表情から明るい表情で詰め寄ってくる。
「このまま放っておいたら、ダンジョンで無茶してそれこそ死んじまいそうだしな……」
「うおお! アッキーありがとう!!」
「だー! エミーくっつくな! ったくもう、ただし俺が付き合うのはレベル上げまでだからな?」
「わかってる、十分だよ!」
お通夜のような表情から一転明るくなる。全く現金な物である。
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「ふー、食った食った……なんか余計なもんしょい込んだ気がするんだが……」
「いいじゃないあのくらい。それにああいう思いつめた顔した人を見捨てると、本当に野垂れ死にしちゃうわよ? あそこまで言ったんだもの。あの五人のガッツは認めてあげなきゃね、アッキー?」
あの後改めて赤龍で食事をとり、その時にした話の流れで奪還作戦開始までにシルバーランクに昇格出来たら奪還作戦に間に合うように武器と防具の確保の約束までしてしまった。
もっとも、武器と防具の確保の約束はジュディがしたのだが……
ジュディも明日は武器と防具関連の最終調整の後、明後日に完成品を取りに行くらしく、そのついでの様だが。
「まあ、あいつらならやれるだろうさ。レベルさえなんとかしてやればな。てか、別にいいんだけど、その呼び方気に入ったん?」
「ええ、気に行っちゃったわ。今日からアッキーって呼ぶから、よろしくね?」
「へいへい……」
「じゃあ、私はこの辺で失礼するわね。エリー?」
『はいお母様。龍ちゃん、またね』
『うん、ばいばい!』
そういってさっそうとエリザベスに乗って、走り去ってしまった。
なんだか、今日は全体的にジュディのテンションが高めだった気がするのだが、いったい何だったのだろうか。
そう思わずにいられない秋彦だった。
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「いやあああああ!!! 調子に乗ったああああ!!!」
寮へ帰った後、ベッドの上で枕を被って悶えている。
今日一日秋彦と一緒にいられたことや、お弁当を秋彦に褒めてもらったことですっかり気が大きくなっていたのだ。普段の自分が異性に対しこんなに積極的にいくことはまずない。茹だった頭が大胆なことを行ってしまった。
とどめは帰りがけだ。アッキーと呼ぶと宣言してしまった。想像するだけで恥ずかしい。けど秋彦は、へいへい、の一言で片づけたのだ。きっと呼んでもいいのだろう。
……優太も呼んでいない様な呼び方で秋彦を呼ぶことが出来る。
恥ずかしい反面、それはとても名誉で、嬉しくも思える。
「ふ、ふふ、うふふ……ああでも恥ずかしい!」
そうして今夜、恋する乙女は夜の間ずっと羞恥と興奮に悶えることになったのだった。
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