第百十話 石動優太の日常 昼
累計PV数162万突破しました!
これも皆さまからのご愛顧の賜物です。
これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
「チャーハン3人前だ!」
「回鍋肉3人前! Bセットいけるよ!」
「お待ちどおさま! Bセット三人前です!」
開店直後、最近の赤龍は大忙しです。
外に並んでいたお客さんたちが一斉に椅子と机を占拠して注文するのだから当然なのですが。
最近は本当にすし詰めという言葉がよく合うくらいにぎっしりと人がいます。
元々うちの店は商店街の常連さん達のおかげで成り立っていたようなものなのですが、最近はここを目当てに来てくれる人たちが多いです。
商店街の人たちにも感謝はされますが、もともとカウンター席が10席にテーブル席が4人座れるタイプで4つという、フルで入っても26席しかないので、どう考えてもくるお客さんの量と店の許容量が釣り合っていません。明らかに許容量をオーバーしてます。
順序良くお客さんに料理をお出ししても、後から後からお客さんがやってきます。
なので最近では、お昼の注文はA、B、Cの三つのセットメニューでの提供になっています。そのうち二つ、AセットとBセットは探索者用で値段も相当高く設定しているのですが、これの注文がすさまじく多いのです。
Aセットはオーク肉のチャーシュー麺とオークのチャーコマ入りのチャーハンで2500円。Bセットはオーク肉の回鍋肉とオークのチャーコマ入りのチャーハンで3000円でのご提供です。
商店街の古びた中華料理店で出す値段じゃないと思うでしょう? でもこの店に来る人達が後から後からやってきては注文するのはこっちなんです。
ここに来る人の大半が、強さを目当てにした探索者だからですね。まあ当然なんですが。
従来の常連さん達は、普通の魔物素材を使わない料理のCセットを頼みます。ラーメン、餃子、チャーハンのセットです。こっちはお値段850円。今までの赤龍プライスです。
さて、話が少しそれましたが、そんなわけで赤龍は忙しさと引き換えに、財政状況は大幅に上向いています。
オークの肉に関しては、最近は需要の増加によって、オーク肉の値段は上がっていますが、今はまだ僕らレインボーウィザーズから買い取っています。でもその分の金額を差し引いても、魔物肉を料理スキル持ちが調理して出す数少ない店として人の入りがすごい店としても知られています、もはやこの店の名物ですので、今更手放せません。利率もなかなかいいですし。
とまあ、そういう訳で、しばらくは嵐のような時間が続きます。絶え間なくやってくるお客さん相手にひたすら料理を作り続けるこの時間は、忙しいと思いつつも充実しているのは、やはり僕は料理屋の息子なのだなぁと思います。
さらに言うならこの時間はひたすら料理スキルを使って作業しているので、料理スキルのレベルアップは早いです。そういう意味でもこの時間は充実しますね。
………………………………
現在時間は3時。今日もまた、午前の営業が終わるまで列が途切れることはありませんでした。
普通食事時の11時から1時の間がピークでそのあとお客さんはいなくなるはずなんですけど。
「がー! つっかれたー!」
「本当にね、でも売り上げがすごいことになってるからね、あたしゃ嬉しい限りさ。家計簿を前にため息つく日がないよ」
「あはは……」
盛大に伸びをするお父さんと、嬉しそうに売り上げを数えるお母さん。
暇なら暇で疲れはしないけど、その分売り上げは減るから、家計を預かるお母さんからすればあまり良い事ではないのでしょう。思わず苦笑いです。
「じゃあ、そろそろ行ってくるね」
「おう、気を付けていけよ」
「優ちゃん、いってらっしゃい」
『おとーさん、いってらっしゃい、なのです!』
僕は昼の時間帯までが店の手伝いで、昼の営業が終わったら、僕は東京のギルドへ行きます。勿論後進の育成を行う為です。
僕は秋彦の様に全く戦えない新人達の教育ではなく、ある程度レベルが上がり、初級ダンジョンへ挑んでいる人たちについていきます。
試しに全く戦えない新人達の教育をしてみたけど、やっぱり怖がってしまって、最初の一歩を踏み出させられた人は少なかったんですよね。つくづく秋彦のメンタルの魔法がすごいことがよくわかりますよ……
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「皆さん初級ダンジョン突破おめでとうございます!」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
僕が担当していた初級挑戦中の探索者達が、ついに初級ダンジョンを突破しました。
彼らとの初級ダンジョンへのダンジョンアタックは大体四回目くらいでしたが、一体感のあるいいチームだったと思います。メンバーの平均レベルも20あたりで、上過ぎず、下過ぎずの状態でのクリアでした。
尤も、最近の初級ダンジョン攻略は、それぞれの初級ダンジョンにおける特徴や特性などの情報が結構出てきていることもあって、今のチームの状況、例えばどんな道具を持っているかや、メンバーの使える魔法属性等を加味し、そのうえでチームと相性のいいダンジョンを選んで突破するチームが大半です。
最近ではスマートフォンで、そういったチームの情報を入れると相性のいいダンジョンを検索して表示してくれるアプリケーションもあるみたいです。
僕のやっていることは、不測の事態の備えや、万が一の保険としてチームについて行ったり、ファイヤーエンチャントによる強化などの補助を行ってのサポートが基本です。
普通に今なら初級ダンジョンであっても矢面に立てますけど、それじゃチームの為になりませんからね。
退屈ではありますが、僕がいることによってチームの心に余裕が出来たり、いざという時でもどうとでもなるという事で、思い切った行動をとれるようになるというのはいい事だと思います。もし何かあったらその時には僕が出ればいいだけですから。
「あ、あの、石動さん! こ、これで俺たちも地方都市奪還作戦に出られるんですよね?!」
「ああ、その話ですか? 僕が聞いた話では、今のところギルドランクがシルバーランクの人に召集がかかるらしいですよ。最終階層で聖域チョークと海洋の守護像も手に入りましたし、後は試験だけですね」
「おおおおっしゃああ!! 【デラックス教室】で勉強だああああ!」
大声を上げる大剣を担いだお兄さん、ガッツポーズではしゃいでいます。他の人たちもその人ほどではないにせよ、興奮し気味ですね。
ちなみにデラックス教室というのは、探索者の昇格テストの問題のための試験対策をしてくれる場所らしいです。どこにでも商売が出来そうなものを商売に替えようという姿勢は感心してしまいます。
それにしても……興奮気味に騒ぐ僕の担当チームである【ミラクルウェイブ】の方々を見ると、少しため息が出てしまいます。
どうしても最初の氾濫騒ぎの時に参加していて、あの地獄を目の当たりにしたものとしてはやめておいた方がいいと言いたくなります。
でも仕方ないのかもしれません。
あの時の氾濫騒ぎで氾濫を収めようと各地で動いたチームは、誰もがそれなりに名前が知れている存在となっています。
僕達レインボーウィザーズはその筆頭ですが、他にもその地方での僕らというべき先駆者も結構いるんです。
例えば、北海道を中心に事を収めた水属性魔法使い達で構成された【絶対零度】や、関西では闇属性魔法持ちで構成される【新陰陽師衆】と大阪の商店街で商売を行う人々の集まりである【浪速商人連合】の二大看板が台頭しています。
他にも色々いるのですが、いずれにせよどれもカリスマ溢れた現代の勇者、英雄です。
そんな人々にあこがれ、その人たちも今回の地方都市奪還作戦に参加するとあっては、自分も英雄の足掛かりに、と思ってしまうのは仕方のない事なのかもしれません。
「じゃあ、もう謙三さんも、早く帰って勉強したいみたいですし、ここでお開きにしましょうか」
「「「「「はい! お疲れ様でした!」」」」」
勢いよく挨拶をしたら、パーッと行ってしまいました。これにはさすがに苦笑いです。
僕も、とりあえずチョークと海洋の守護像の引き渡しだけさっさとやって、家に帰りましょう。もう夜の営業が始まっているはずですからね。
皆様からのご愛顧、誠に痛み入ります。
これからも評価、ブックマーク、感想など、皆様の応援を糧に頑張って書いていきます。
次の投稿は11月24日午前0時予定です。
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