第九十八話 潜水ガメと海のダンジョン
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これからもりあダンをよろしくお願いいたします!
自分たちの学校から県を跨いでジュディ達の学校までは、正直かなりの距離があるのだが、龍が空を飛べば時間など大してかかる訳もなく、一時間しないうちに到着する。
下校時刻と言う事で多くの女生徒が行きかう校門に降りると、たちまち騒ぎになる。が、そこはやはり秋彦達のチームメンバーがいる学校である。怖がられてパニックになっているのではなく、例えていうなら芸能人がやってきたような感じになっている。
あっという間に囲まれて、素敵だのカッコいいだの言われている。
自分達と同年代の女子に囲まれて黄色い声が上がっている様子は何というか、凄く違和感というか変な感じがする。もちろん悪い気はしないのだが。
とにかくジュディ達と早く合流しなければ。
そう思って秋彦は女子生徒たちに声をかける。
「えっと、ごめんね。ちょっといいかな?」
「はい! 何でしょうか!」
「悪いんだけど、だれかジュディ達呼んできてもらえないかな? ジュディ達は知ってる?」
「はい! あの三人はこの学校で知らない人はいませんから!」
「そ、そうか。じゃあ頼めるかな?」
「お任せください! 行ってきます!」
そういうと数名大急ぎで学校内に駆け出して行った。
「さて、どんくらいで来るかね?」
「さあ? もうちょっとかかるんじゃない?」
「あ、あの! ならジュディさんたちが来るまで少しお話しませんか? いろいろお話を伺いたいです!」
「あ、私も! そのドラゴン達は初級突破で手に入れたって本当ですか?!」
「どうしてお二人はダンジョンへ?!」
「……こら逃げられんね。はいはい、とりあえず龍之介たちはダンジョンの最奥で手に入れたってのは本当だ。俺らがダンジョンに入り始めたのは……」
こうして秋彦達はなし崩し的に、彼女達からの強い要望によりしばらく話し相手になることになった。秋彦達は女学院の生徒たちの質問に答える形で自らの軌跡を人に話していった。
………………………………
「お待たせー! 遅れちゃったわね」
「あ、秋彦、三人とも来たみたいだよ」
「あ、じゃあ私たちはそろそろお暇させていただきますね。お話聞けて楽しかったです」
「ああ、じゃあ」
他の女生徒たちもそそくさと退散していく。蜘蛛の子を散らすかの様だ。
「ずいぶん囲まれていたわね?」
「正直女の人に囲まれるってこと今までなかったからかなり困ってました……」
「……その割に楽しそうに会話してたように見えた」
「あんま無下にする訳にゃいかんだろうよ。仏頂面で対応しててもそれはそれで問題じゃねーか」
「ファンには最高の笑顔でおもてなし、いいんじゃない?」
と、後から来たジュディ達とひと悶着あったが、改めて五人全員集合である。今日から探索者稼業の再開だ。
「さて、どうするよ? 今日はどこにいく?」
「……最初にちょっと行ってみたい所がある」
意外なことに茜が真っ先に手を上げた。
「お? どこだ?」
「……海のダンジョン」
「ああ、俺らの使い魔達のデビュー戦ってことか?」
茜がうなづく。
実をいうと、使い魔達は魔物との戦闘をまだ行ったことはない。彼らは秋彦達の魔力や魔物の肉を食べることで成長しているのだ。それだけでも今はそれなりに強くはなっているが、そろそろ実戦に出してみたいものだ。
しかしそうなると間違いなく、茜の潜水ガメで海のダンジョンへ行くか、他の全員の使い魔で地上のダンジョンに行くかの二択になってしまう。潜水ガメは海などの水が大量にある場では活躍するが、陸ではほぼ無力だ。なので、潜水ガメを活躍させるために行くとすれば、実質海や浅瀬にあるダンジョンしか選択肢はない。
「……せっかく龍ちゃんがいるから、海までひとっ飛びしてもらおうかなって。それか、海に行ったことある?」
「うーん……そういや海にはいった事ねーな。泳ぐのはもっぱらプールだし」
秋彦のテレポテーションは、行ったことのある場所には一瞬で行くことが出来るが、行ったことのない場所には行けない。
秋彦は実は今まで一回も海に行ったことがない。つまり海に行くには普通の交通機関を利用するか、だれかに連れて行ってもらうかをしなければいけない。
今回は龍之介がいるのでその必要はないが。
「……という訳」
「なるほどな。龍ちゃん、いけるか?」
『まかせてパパ! らくしょうだよ!』
「そうか、頼もしいな。でもお前んとこの使い魔は?」
「……ここ」
そういうと茜の制服のポケットから小さくなっている潜水ガメを取り出した。
『こんにちは、アキヒコおじさん』
「おう、こんにちは。って、お前学校に使い魔連れてきてんのかよ」
「……学校の校則に使い魔の同伴を禁じるなんて校則はない」
「ただの屁理屈じゃねーか、頓智坊主じゃあるまいに……」
「……屁理屈だろうと理屈は理屈。それを言ったら……」
茜がちらっとジュディと桃子を見る。
「……おい?」
秋彦が声をかけると二人とも即座に目を逸らした。
「連れてきてんのかい」
「も、もちろんポケットの中だけよ。人に見せたりしてないし、見せびらかしてもいないわ!」
「そ、それにほら、あたしたちには使い魔の主としての責任が……」
「お前らそれ先生の前でも胸を張って言えるんかい、ええ?」
「「「……言えないです」」」
「心配だったりするのはわかるけど、学徒として最低限の分別はわきまえろよ……」
すっかり秋彦は風紀委員のお説教状態に入ってしまっている。話が進まなくなるので、優太が割って入る。
「まあまあ、親友、その辺にしてあげよう。終わらなくなっちゃうし」
「お、おお、そうだな。で、どうせ全員いるんだ。準備はいいか?」
「ええ、行きましょう!」
本格的なお説教が始まる前に終わったので、ほっとする三人。
龍之介は大きいままだったので、五人ともさっさと背中に乗って出発する。
ジュディ達も、龍之介の背中に乗って飛んでも振り落とされてしまわない位には肉体力があるので、問題ない。
五人は海を目指して空を飛ぶ。
………………………………
海開きが済んでいる海、七月も中盤の海は夏休み直前だからかそこまで人は多くない。
メーツーによると、海の魔物はビーチ程度であればほとんど出現せず、沖に行けば行くほど魔物の魚が出て来るのだとか。
茜は早速浜辺に潜水ガメを放す。
「豊葦原、お願いね」
『まかせてくださいかあさま』
豊葦原と呼ばれた潜水ガメはゆっくり大きくなっていく。ここで今度は茜の潜水ガメのステータスを見ていこう。
名前:舞薗 豊葦原千五百秋瑞穂国(まいぞの とよあしはらのちいほあきのみずほのくに)
種族名;潜水ガメ
レベル:1→10(MAX)
肉体力:10→250
魔法力:10→500
戦闘力:10→1000
有利属性:水、闇
不利属性:炎、光
スキル
体長調整:(【従魔スキル】【アクティブ】自身の大きさを自在に変える。最大で元の大きさ程度。最小で蝿1匹程度)
搭乗Lv2:(【モンスタースキル】【パッシブ】人を体の中に載せることが出来る。現在最高20人。主に甲羅の中に乗せる)
潜水Lv2:(【モンスタースキル】【アクティブ】水深300m部分まで潜水できる)
エッグミサイル:(【モンスタースキル】【アクティブ】爆弾の様な卵を産み、敵に向けて放つ。威力は酸素魚雷相当)
水中感知Lv3:(【モンスタースキル】【パッシブ】水の中にある物を感知する。効果は水の中にいるときだけに効果を発揮する。ソナーの様なもので、効果範囲はかなり広い)
秋彦や優太に比べると戦闘力は控えめである。だが、特筆すべきなのは、もうすでに最初の成長の限界にいることである。
この潜水ガメ、戦闘力が控えめな代わりに成長自体が早いらしいのだ。実はもう何日か前にジュディ達三人の使い魔は成長限界に達していたらしい。ただし戦闘力自体は秋彦達の使い魔に比べると控えめなようだ。
これも成長の特徴なのだろうか。この話を聞いたとき、秋彦達は、自分たちの使い魔は大器晩成として納得した。成長が遅かろうが、自分達にとって自慢の魔物であることは間違いないのだ。そこに優劣などない。
……名前については触れないでおきたいがそうも言ってられない。なにせ正直長すぎる。
茜でさえ、普段は【豊葦原】と呼んでいるし、他の四人に至っては【豊ちゃん】である。
日本の別称らしいのだが……チーム名の時もそうだったが、何故右寄りチックで壮大な名前にしたがるのだろうか。
秋彦達は、生き物に付ける名前じゃないからやめておけ、とさんざん言ったのだが、茜が引かなかった。これも一つのキラキラネームなのだろうか?
などと考えていたら、ようやく豊葦原の体長調整が終了したらしい。
改めてみるとでかい。龍之介よりもっとでかい。大きさは本物の潜水艦の様だ。甲羅が黒がかっているが基本は緑色で、鉄の様な質感が感じられる。
そして小さいときは気づかなかったが、甲羅の上に筒状の何かが乗っている。潜水艦の写真でよく見る潜望鏡が出ている部分に当たるところだろう。入り口もそこにあり、扉式だ。
「……準備できた。行きましょう」
茜はそういうとさっそく中に入っていったので、残りもぞろぞろとついていく。
「初めての魔物に乗った人間になるとは……ワクワクするわね」
「ひええ……あ、中は階段になってるんだこれ」
「いやすげぇなこりゃ。普通に潜水艦みてーだ。潜水艦乗ったことないけど」
「本当だね。生き物の中のはずなのに全然そんな気がしないや」
それぞれに感想を述べつつ中に入っていく。そして中に入ってドアを固く締め、船室へすすむ。
そして指揮室へ行くと、茜が声を上げる。今まで以上に凛とした声で、今まで聞いたことのないような表情だ。
「豊葦原、いける?」
『いつでもいけるよ!』
「では……豊葦原千五百秋瑞穂国、出撃!」
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次の投稿は10月21日午前0時予定です。
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