#1
水を一口。
機能とはこんなにも高く売れるのか、私は手に持っている札束をもう一度確認する。
クシャッと力を入れてポケットに入れようとしても、入らない。この分厚さは私の生活を一体何日間潤してくれるのだろうか。
水を一口。
今まで使ってきたこの日記帳も、そろそろ変えるか。
札一枚でもお釣りは帰ってくる。
私は日記帳を閉じて本屋に向かう。
ペンも買おうかな。
インクも切れそうだし、そうだ色つきのペンを使ってみたいな。
もうバイトも辞めてしまおうか、札束にもう一度目を向ける。
こんなにも自分に誇りを持ったのは初めてだ。
自分にはこれだけの価値があったのか・・・
本屋に入ると、私は真っ先に文房具コーナーに足を向けた。
今まで買おうと思うのもおこがましかった文房具どもが。今はお前らと私の価値は比例するぞ、と呟いてみた。
しかし今まで贅沢をしてこなかった身としては、いきなり金が大量に入ってきてもどうしたものか・・・
窓に映る自分には大金は似合わないなと思った。
とにかく、黒のボールペンを一本と日記帳一冊。
僕にはこれだけあればいいか。
「お願いします」
レジの店員に一言、それだけ言えばあとは頷きぐらいで済む。
うぅ、トイレに行きたいな。
急な尿意とは罪だな、殺意が湧くわ。だがしょうがない、生理現象には逆らえない。
本屋にあるトイレを借りようかな。
だが、オレはトイレを目の前にして停止した。
私は迷った、沢山迷った。だから本屋に出入りする他人は僕の事を変な目で見た。
よし、私は女子トイレを借りた。男子トイレは人が入っていたという事にさっき気づいた。
迷って損したわ。間に合ったから良かったものの間に合わなかったらこの本屋には出禁の目で見られる。
「やっぱり困る事もあるみたいだな」
だが、後悔はしていない。するものか。
オレは後悔はしないぞ、性別を売ったことに。