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外伝(4)


ただの暇つぶしに付き合っていただき誠にありがとうございました。




―――――

眠気のピークを通りこし、次にやって来たのは空腹だった。

小腹がすいた状態なのだがいかんせん今は深夜。こんな夜中に食べたら肥るし、食料を見つけるのでさえ一苦労。

寝ている親を起こさずにキッチンまで行くのも面倒くさい。

しかたがないので空きっ腹かかえたままアニメ鑑賞を続行だ。

―――――


お昼ごろの街中は賑わっていた。



「まさか、アリスさんが……」


「だから仲間にはなってくれないって言ったじゃない」


「うう、そうだけどさ。まさか40代の子持ちのおば様だとは思いもしないじゃん」


「今子育てで忙しいから同行はできないわ、ってビール腹揺らしながら笑ってたわね」


勇者たちは街の中を歩いていた。


「ありえん。アリスさんが可愛い美少女じゃなかったことはともかく、彼女からいただいた槍が……」


勇者は伝説の槍、デッキブラシを掲げた!


「デッキブラシなのが一番ありえん」


トイレのタイルなどの汚れを落とすための道具がそこにあった。


「そう言わないで。確かに伝説の槍に間違いないらしいわよ。私もそんな話聞いたことあるもの」


「どんな話だよ?」


「魔槍現れしとこ、嵐が起こりて敵を砕かん。魔槍は確かにデッキブラシのことよ」


「確たる証拠がないじゃないか……。アリスさんの手前文句は言わなかったけど、突っ込みどころ満載だからな、コレ」


「気にし過ぎよ。銅の剣よりリーチ長いし、結構扱いやすいんじゃないの?」


「まぁな…」


勇者

Eデッキブラシ

Eパジャマ


「釈然としないわね。ほら、もうすぐ街の外よ、シャキッとしてよね勇者様。街の外には魔物がいるんだから」


「ま、魔物ッ!?」


「あちらの世界には魔物はいないから平和ボケしてるらしいじゃない。こっちは獸害が激しくてそれ専門のハンターとかいるんだから」


「魔物、…モンスター…、ハン…。まぁそれはそうと魔物か。この世界に来て初めてファンタジーっぽい響きだ」


「うん。とにかく気合いいれてよ。行くわよ!」


勇者とスフィンは街の外に飛び出した!


――――――

思えば俺も歳をとった。

15、6の高校生が言うのもおかしな話だけれども、こう素直にアニメ鑑賞するのが随分久しぶりの事に思えてならない。

小さい頃は、夕方アニメが何よりの楽しみだった俺はいつからアニメから離れたのかさえ記憶は定かではない。

そんなのはどうでもいいのだが。

――――――


「魔物ってどんなのがいるのかな」


「どんなって?」


「ほら、スライムとか?まだ城近くだし、そんなに強いのはいないと思うけど」


「スライム?」


「あれ?知らないのゼリー状のモンスターでさ、いろんなゲームに登場する……」


「そんなことより勇者様、来たわよ。魔物が!」


「えっ」


犬があらわれた!


「いぬ?」


「くっ、いきなり犬だなんて運がないわね。気をつけて、奴らに噛まれると毒状態になる恐れがあるわ」


「そりゃ、野犬だしな……」


犬の攻撃!

スフィンはひらりとカワした!

「とりゃ」


スフィンはカッポンで殴りかかった!

犬はひらりとカワした!


「くっ、勇者様手伝ってよ!」


「いやだって犬だろ?保健所に連絡しろよ!」


「訳わからないこと言わないでよ!きゃあ」


「と」


勇者の攻撃!

デッキブラシが犬の眉間にヒットした!


犬に80のダメージ!

犬は逃げ出した!


「……」


「あ、ありがと」


「うん……、えーと、終わり?」


「ええ、私たちの勝利よ」


「そうなんだ……。動物愛護団体が見たら切れそうな一幕だったけどなぁ」


「野良犬はなかなか強いのにそれを凪払うだなんてなかなかヤるじゃない。見直したわ」


「ああ、そう。ん?」


ガサガサ


「なんだ?このエンカウント前の微妙な雰囲気」


茂みから野ウサギがあらわれた!


「…びっくりしたぁ。お約束ってやつかね。それより野生のウサギなんて初めてみたぜ、ここらへんはまだ大自然がいっぱいだから……スフィン?」


「……」


「どうした?急に黙って、ウサギだぜ、ウサギ。ラピッドよ。超めずらしいー」


勇者はテンション上がっていた!


「うぉーい、まじどうした?普通女の子はこういうの見てキャーカワイーとか言っ」


「敵よ!」


「え?えーと、何?」


「魔物、ウサギ!」


「いやただのウサギだろ?」


「えいやー!」


「おまっ、なにやってんだよ!?」


スフィンはカッポンをもってウサギに襲いかかった!


「えい!」


ウサギはひらりとかわした!


「とう!ちょこまかと!とりゃ」


「や、やめてあげて!ウサギに罪はない!」


「えい!」


ミス!


「もう!この!くらえ!」


「おいっ!ただの虐待だぞ!」


ウサギは逃げ回っている!


「えーい!」


ミス!

ウサギは逃げ出した!


「はぁはぁ。ふぅ、やれやれ」


ウサギが完全に視界から消え、スフィンは一息ついた。


「……お前急に何してんだよ……」


「……勝ったわ」


「え?」


「勝った。ウサギに勝利!」


「……言ってろよ」


勇者は呆れはてた!


―――――

それはそうとこのアニメ、えーと『マジカル魔法少女スフィンたん』だっけ?

……パッケージに視線を落とす。

『マジカルファラOH☆スフィンたん』。おしいな、さっきのタイトルで70点くらいか。どうでもいいか。

それでこのスフィンたん、実際視聴率は取れたのだろうか。


―――――


「よしっ!見えた!」


しばらく歩くとスフィンはそう呟いた。


「見えたって何が?」


「魔王城」


「あーそう魔王城ね、魔王……じょ、って、はぁぁあぁ!?」


「我々の旅は遂に終点を迎えたわけね」


「はやっ!早すぎるよ!まだ二時間くらいしか経ってないよ!街から片道2キロくらいじゃないか!!」


「2キロって以外とあるわよ。ふう、落ち着いて。魔王は強大な力を持っているだろうけど、WE CAN WORK IT OUT(僕らならやれる)」


「意味わかんねー!お手軽すぎるだろ!城がこんなに近いならミサイル2、3発ぶち込めば終わりじゃん!」


「ミサイル?なにそれ、なんだかこわい響き」


「銃あんのにミサイルがないズレたこの世界観に脱帽です!」


―――――――

色々ぶっとんだ設定を盛りだくさんに、随所にわけのわからないネタを仕込むのがこのアニメの特徴らしい。

それがわかったからといって別に気にすることではない、うん、俺はただの一視聴者であり評論家を気取る気なんてサラサラないのだから。

―――――――


「それはそうと勇者様」


「……なに?」


「覚悟を決めた?」


「あー、いや、ちょっと無理かな。順序的にこれから各地回ってレベルを段階的に上げていかなきゃ魔王に適うわけないと思うよ。そうだな、まずはオオアリクイあたりから攻めようか」


「その点なら大丈夫。さっき倒したウサギの経験値、ハンパないから。今の勇者様レベル40越えしてるし」


「そこまで割りのいいモンスター訊いたことないよ!ってか、そのまえにウサギはモンスターでなくその上逃げられてたじゃないか!」


「覚悟完了!道草という草はないっ!」


「え?」


「さ!道草なんて食ってないで行くわよ!もう引き返えせないんだからね!」


「二人じゃ無理だって……、一国を恐怖に貶めた魔王だろ?最低10人くらいは小隊をくんで……」


「人件費がバカ高くなるわ。もういいから行きましょう。復活したての今なら魔王もセキュリティ会社と契約してないだろうし」


「そんなお手頃な魔王様しらない……」


勇者とスフィンは魔王城の中に入っていった!

中は酷く殺伐としている!


「荒れ果ててるじゃないか……」


「復活したばかりで部下をこしらえる時間を与えなかったの。いわば魔王は、素っ裸の状態。攻めるなら今ッ」


「カッポンとブラシじゃ無理だって……」


「やってみなきゃわからないじゃない」


「やらなくてもハッキリと分かるよ」


「為さねばならぬ何事も。いざ鎌倉!敵は本能寺にあり!」


「どーでもいいんだけど、お前、日本語の語彙が豊富だな」


勇者はスフィンが日本人に思えてならなかった。


「着いた」


「ん?」


「ここが、魔王のいる部屋。この扉をくくればもう戻れない」


「え、もう?」


勇者は焦っていた!


「ちょっとまって!さっき分岐を右に引き返えそう!正規ルートを外れた先にある宝箱にレアアイテムが設置されてるのが通例だからさっ!僕らのステータスが大幅に補正されるハズだよ。戦闘でも役立つハズだから」


勇者は必死に説得を試みた!


「おっしゃる意味がよくわからないわね。そんなことより勇者様。突入するわよ」


「と、突入って?へ?」


「10秒後に閃光魔法を室内に放つから、その隙に魔王の首をたたきおとして」


「無理だよ!ただの学生にいきなりハイレベルな注文しないでよ!つうかデッキブラシじゃ絶対不可能じゃないか!」


スフィンは勇者を無視してカウントダウンを開始した!


「10、9、8……」


「そもそも閃光魔法ってなんだよ。ん?あ、お前それ、…」


「5、4、3…」


「手にもってんの……」


「2、1!」


「閃光弾じゃないか!」


「0!くらえ!閃光魔法【フラッシュ・バン】!」


スフィンは魔王の部屋に閃光弾を投げ入れた!


「ぎゃぁぁぁぁ!」


まばゆい光が室内に溢れだす!

扉の外のスフィンと勇者は魔王と思しき者の悲鳴を聞いた。


勇者は決心を固め、室内に飛び込んだ!


「魔王覚悟!」

「うぅ、目が目がぁぁ〜」


中には目を抑え悶える魔王の姿が!


「えいやくらえ!デッキブラシ!」


勇者はデッキブラシで彼女の面を狙うことにした!


「……彼女?」


勇者はピタリと動きを止めた!

魔王―小さな少女―は見えなくなった目を瞬かせながら必死に来訪者を視界に留めようとしている。


「え?なんで女の子?魔王でしょ?は?子供じゃん……」


「うぅ…、まさか勇、者?ふふん、まんまとヤられたわけか。殺すがよい。目が見えなくては貴様と相対することもできないからな」


「…その言いぶり、どうやら魔王に間違いないようですね?んーと、だけどなんで女の子なんです?」


「魔王が死ぬ前に、娘の私をコールドスイープに入れ今まで生き延びて来たんだ。だがそれもここまで。私もついてない。まさか復活初日に目を付けられただなんて」


「あ、いや、その……」


勇者は辟易していた!

どっからどう見ても自分より一回り年下の少女が命の覚悟しているからである!


「どうしたのだ?この首を取りに来たのだろ?くれてやると行っているのだ、貴様が名声を得る為に命を捧げてやる。この命、もとより父上とともに葬り去られる運命だったのだ。少し遅れたが父上の元に行けるのだ。感謝する」


「いや、えーと」


「さぁ!はやくしろ!勇者!トロトロしていると第二形態になって貴様を喰い殺してくれるぞ!」


「嘘つき」


「!?」


外にいたスフィンが中に入ってきた。


「あなたたち魔族が形態変化の術は会得してないことは周知の事実よ。眠ってただけあって情報が遅れてるわね」


「うぐぬぬ。言うではないか。貴様誰だ?」


「宮廷魔術師スフィン・バルサミコ。魔王の系譜だからって無理して第二形態とか名乗らない方がいいわよ。第三形態くらいが空気になっちゃうからね」


「黙れ。変身は魔王のロマンだ。最終形態戦闘力53万を目指してきた私を愚弄するな」


「それは失礼したわね。マルゲリータ」


「貴様ッ!私を本名で呼ぶな!魔王と呼べ!」


「それはできないわよ。だって私が魔王になるんだもの」


「む?」


「は!?」


勇者は我が耳を疑った!


「えーと、スフィンどういう意味?」


「どうもこうもそういう意味よ。私が魔王に取って代わり現魔王には下についてもらう、勇者様もね」


「い、言ってる意味がわからない」


「鈍いわね。三人で国づくりをしましょう、って言ってるのよ」


「「えぇ!?」」


「ふっふっふ、私の真の目的はただ一つ。世界征服に他ならないわ」


「…あ、えーと、ごめん。ちょっと脳がついてかないや。君は何を言っているんだい?」


「仕方ないから1から説明すると」


喜々としてスフィンは語り始めた!


「魔王が復活したと訊いたとき、どうにかしてこれを出世の足がかりにしようと思ったの」


「だから異世界から勇者を呼ぼうとしてたんだろ?」


「ええ、だけど寸前で考えを改めたの。魔王を退治して、役職を一つ二つ上げるより、その魔王と手を組み、一国の主になったほうが利潤は満ちるんじゃないかって。ああ、溢れる野心を止めることができない!」


スフィンは嬉しそうにカッポンを振り回した!


「おい、アイツ、アホだろ?」


「ええ、薄々感づいてたよ」


魔王と勇者は同時に溜め息をついた!


「と、言うわけだから、勇者様魔王!一緒に国づくりを開始しましょう!」


「「お断りだッ!」」

―――――

勇者と魔王が口を揃えた

ところでDVDは終了。

奇妙なエンディングがながれ、一幕降りたらしい。

ふう

俺は息ついた。

さて、感想。

うん、まあ、面白いんじゃない……。


俺は携帯を開き、時間が時間だというのに気にせず斎藤にメールを打った。

『さいとー。続き、たのむ』


―――――



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