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外伝(2)


やる気はある。ストックもある。


だのになぜ、こうサボリがちになってしまうのだろうか?

答えは遥か霞のなか……




夜も更けた。

両親はすでに寝息をたてている。

普段なら俺も床につく時間だが、今日は違った。

アニメ鑑賞中である。


――――――


城下町についた!


「それで?」


勇者の質問にスフィンは頭を抱えた。


「でって言われても……、異世界からやってきたアナタが勇者じゃないと知れたら……」


「別に平気じゃん?だって俺が勇者じゃなくても代わりの勇者は見つかったんだしさ。ほら、伝説のカッポンが抜けたのがその証拠だろ」


スフィンの手にはカッポンが握られている!


(にしても、女の子がカッポン握ってるって、シュールだな)


「そういう問題じゃないわ」


「ん?何がさ。あ、わかった!さては自分が勇者やるのが不安なんだな?いいか、お前はその不安を見ず知らずの他人に押し付けようとしてたんだぜ、ざまぁみろ」


「ちっさ……。アナタがどう思おうと勝手だけど、少なくとも私はそんなに心が狭くないわよ。私が言いたいのはそんなことじゃなくて……」


「うーん?なにが?魔王倒す勇者が代わりに見つかったのなら万万歳だろ。ああ、俺の事なら心配しないでくれ。1ヶ月は長いけど気長に待つから。運がいいことに明日から夏休みだしね」


勇者は異世界にワクワクしていた!


「べ、別にアナタがどうなろうと知ったこっちゃないけど!別問題が発生しちゃってるのよ!」


「はあ?」


「もし、王様にこのことが知れたら、」


「知れたら?」


「最悪打ち首獄門……」


「……え?」


「いえ、それで済めばまだ……、一族郎党根絶やしもありえるわ……」


「……」


勇者はみるみる青ざめていく!


「はあ!?意味わかんない!なんで!?か、代わりの勇者が見つかったんだからそれでいいじゃん!」


「私に言われたって王様は硬派なお方だから仕方ないのよ!口癖が『死を持って償え』なんだから!」


「恐っ!恐すぎるよ!お宅の王様!」


「……そう?」


「俺がメロスだったら即刻暗殺試みてるよ!ここの王様が魔王みたいじゃないか!!」


「く、口を慎みなさいバカッ!犯罪者には厳しいけど、市民には優しい方なのよ!」


「確かに町民はみんな明るいよな……話に聞く魔王が復活したとは思えないくらいだ……」


「王様が箝口令を敷いたのよ。パニックを恐れてね。そういうケアもしっかり出来るお方なんだから」


「そんな良い人が俺を殺す意味がわからない」


「嘘つきが嫌いなのよ」


「俺は嘘ついてないじゃん」


「勇者じゃないならただの異次元人じゃない。身分詐称は十分に罪よ」


「……どうとでもいえ」


「ともかく、死にたくないなら誤魔化すしかないわ。はいコレ」


「ん?」


勇者はカッポンを手に入れた!


「その剣さえもってれば、疑われることはないハズよ。いい?何がなんでもその剣はアナタが抜いたことにするの。もしバレたら私まで罪に問われちゃうかもしれないじゃない」


「あ、ああ、それはいいけど、ちょっと……」


「どうしたの?」


「これ、めっちゃ、お、重いんだけど、」


勇者が両手でようやく持てるくらいの重さである!

スフィンは首をかしげた。


「私の時はそんなに重くなかったけど……」


「う、嘘だ!み、見ろよ!あまりの重さに手がブルブルと震えだした!」


「はっ!そうか。先代勇者ゴルゴのように選ばれた系譜しか扱えないようになっているんだわ」


「……ゴルゴンゾーラさんがどうしたって?」


「つまり、真の勇者にしか扱えないようになっているのよ。この場合私にしかね」


「それはおめでとうさん。俺は別に勇者じゃなくていいし、カッポン持って魔王を討伐になんか行きたくないから構わないよ」


「と、とにかくバレないようにするのよ!平静を装いなさい!」


「い、いや無理だって。これ立ってるのもやっとなんだよ?」


「王様の前まで私がそっと持っとくから我慢して!私が触れてさえいれば重さはなくなるハズだから」


「……なんて不思議なマジカルカッポン……」


「なにか言った?」


「い、いや、なにも!それより城門についたぞ」


「え、ええ、それじゃ行きましょ。覚悟を決めてよ。この門をくぐったら引き返せないわよ。生きるか死ぬかの瀬戸際なんだから」


「ラスボス戦っぽいんですが……」


――――――


盛り上がってきたところ眠気がMAXに近づいてきた。

口からは欠伸がとめどなく漏れている状態である。

くだらんアニメだな…。

マジでこんなのが人気だっていうのかよ。

そういやいつぞや山本が部室に貼ったポスターがコレだった気がする。

……思いだしたくない遠い昔の記憶だ。


――――――


「あああ、まだ死にたくない、逝きたくない」


「だから上手く誤魔化せば大丈夫だって言ってるじゃないの」


二人は謁見の間に向かって歩きだした!


「こんなところで命を賭けることになるなんて思いもしなかったよ」


「しっかりしなさい。私達が今から会うのはこの国を治める王様であって、残虐非道な魔王じゃないんだから」


「心情的には似たようなもんだからな。あ〜あ、直前にセーブポイントないかなぁ」


「?」


スフィンは話がわかっていない!


「どうせ異世界に来るならもっといいシチュエーションが良かったよ」


「勇者に見定められて異世界に流されるって最高にかっこいいシチュエーションじゃない」


「俺は勇者じゃなくて、ただの漂流者だろ。あっちの世界じゃ俺行方不明になってんのかなぁ」


「大丈夫よ。1ヶ月くらい連絡とれないくらいで、死んだことにはされないわ」


「失踪期間1ヶ月って十分すぎるだろ……」


勇者はため息をついた。


「だったらどういう感じで異世界に来たかったのよ?」


「んー、そうだな……例えば」」


「うん」


「お前が麒麟で」


「は?」


「俺が王様」


「……」


「迎えに来るわけよ」


「……それはまた」


「天命をもって主上にお迎えする……」


「随分と野心的ね」


スフィンはため息をついた!

勇者はケロリとしている!



「もしくは、デジタルワールドの危機を救うためとか。こういうのだったら無限大の夢もって頑張っちゃうのになぁ」


「世界の危機を救うなら今と同じ状況じゃない」


「俺は傷つきたくない。痛いから」


「え?」


「手足となるコマが欲しい。最初の三匹から選ぶとか、センコークーラとか、悪魔合体とか」


「他人任せは流行らないわよ。魔王は強大なんだから。ペットやなんかじゃかなわないわ」


「はぁあああーー。帰りたい……」


スフィンの呆れた瞳!

勇者に効果はないみたいだ!


「さ、着いたわ。いい?失礼のないようにね」


「こ、ここが謁見の間……。王様がいるところか」


勇者は思わず唾をのんだ。

荘厳な扉がそびえている。



「頑張ってね」


「え!ちょっとまってよ!スフィンは着いてこないのかよ!」


「ええ、一介の中堅魔導師の私じゃ王様にアポなしで謁見なんてできないわ」


「あ、あれ……宮廷魔術師なんじゃないの?」


「宮廷といっても位があるもの。私はせいぜい使いっぱ。異世界への奔流なんて危険な術、位が高い魔術師がするわけないじゃない。まぁ、今の地位に甘んじる気はないけど」


「宮廷女官バルサミコの誓いはどうした?奔流じゃなくて韓流の間違いだろ?知ってるか、韓流ってカンリュウじゃなくてハンリュウって読むんだぜ!?」


勇者は混乱している!


「そんな誓いたてた覚えはないわ。いいから早く行ってよ!周りの目が厳しいんだから」


謁見の間前で騒ぐ二人は極限まで目立っていた!


「ラスボスといきなりタイマンなんて今の俺じゃ無理だって!今俺レベル1だよ!メラも唱えらんないよ!」


「さっきからわけのわからないこと叫ばないで!王様を待たせれば待たせるほどあなたの寿命は減っててるのよ!」


「……え?」


「王様は嘘の次に待つことが嫌いなの」


「……逝ってきまーす!」


勇者のその時の笑顔は、この世界に来て、一番良い笑顔だったという。


「あ、その前にいい?」


「どうしたの?」


「カッポンがめっちゃ重い」


「我慢して。その問題については後で真剣に考えましょう。……ああ、そう、少し言い忘れてことがあるんだけど」


「なにさ?行けって言ったり引き止めたり、忙しい奴だな」


「マナーについての大切な話だからよく聞いて。部屋に入ったら、まず王様の前まで気をつけで歩いていって。剣は鞘から出しちゃ駄目よ」


「それはひょっとしてギャグで言ってるのか?」


勇者の手にあるのはむき出しのカッポンである!


「黙って。スズランテープでマークしてある位置まで来たら土下座するの」


「文化祭かよ」


「王様から質問されると思うから、丁寧な口調で話してね!以上。健闘を祈るわ」


「ああ、それじゃあ……」


勇者は限りなく明るく言った!

「アリーヴェデルチ(この世から)!」


勇者はアリーヴェデルチを覚えた!


――――――


今更、なんだけど……。

このアニメいろいろとイかれてるな。


――――――


ゴゴゴゴ……

謁見の間は緊迫した空気に包まれていた!


「お前が勇者か?」


「……はい」


勇者はスフィンの言われた通りに行い、取りあえず一命は取り留めていた!


「よい、面をあげ」


(どこの殿様だよ)


「ははぁ〜」


「よいぞ、近こう寄れ」


(だから、どこの殿様だよ)


「ははぁ〜」


言われたとおり勇者は王様に近づいた。


(このオッサン、白粉に公家眉毛……ほんまもんの馬鹿殿や。まじでスフィンの言うとおり名君なのだろうか)


「して、お前が勇者とはまことか?」


「はい、間違いありません。このカッポ……伝説の剣がその証拠」


王様の質問!

勇者の汗を吹き出した!


「そうか。ふむ、確かにそれが抜けたとなると認めざるを得ないようだな、異界の者よ……」


「はっ、ありがとうございます!」


「それではお前には選別として、後ろの宝箱の物をやらう」


「あ、ありがとうございます!」


(なんていいやつだ、この公家眉毛!今まで馬鹿にしててごめんよ!)


勇者の後ろにいつの間にか宝箱が設置してあった!


「それでは早速、取ってみるがよい」


「はは」


勇者はカッポンを持って立ち上がった!

重さでよろめいてしまった!


「…っ」


「むむ…、……その剣、重そうだな」


「ま、まさか、かーるがるでございますよ!」


勇者は腕の屈伸運動を行った!

勇者の筋肉は限界である!


「いや、だが今よろめいたではないか?」


(疑り深いな、このハゲ!)


「い、今のは、」


「うぬ」


「勇者独特の闘法、パントマイムでございます」


「ぱ、ぱんとまいむ?」


「は、軽いものを重く見えるようにし敵を欺く戦闘法であります。常日頃体に染み付いておりますがゆえ、つい出てしまったようであります。お許し下さいませ!」


「う、うむ、そうか、そこまで言うなら許してやろう。以後気をつけるように」


(今の嘘に騙されるだなんて、こいつとんだ馬鹿殿じゃね?)


「ありがとうございます!」


勇者はパントマイム(嘘)を覚えた!


(さて、宝箱だ)


「失礼します」


「うむ」


勇者は宝箱を開けた!


勇者は50Gとどうのつるぎを手に入れた!


「……」


「なんだその目は」


「いや、特に、何も……」


―――――


悲惨だな。

え?

まだ続くの?




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