32(6)
さて、今日(投稿日)はなんの日でしょ?
ホームルームはいつものようにテキトーに終わり、放課後お掃除タイムがやってきた。
席順とか関係なしにあみだくじで掃除班は分けられたので、悲しきかな、俺と美影はロミオとジュリエットのように離れ離れ……、ま、部活で会えるから別にいいんだけどね。
「ドンドンズズ」
「がんこちゃーん」
俺は高山とバカみたいに歌いながらも、お昼休みに見た情景を思い出していた。
美影との会話で中津川と楓についてのわだかまりは大分とれたほうだったが、心晴れやか、とまではいかなかった。
理由は今の掃除のメンバーにある。
廊下掃除、担当六班。
メンバー女子二人男子二人。
いや、なに、さすがにクラスも一年いたら打ち解けた雰囲気になるもんだけど、それは男子に限った話で女子とはめったに口を訊かないから、仕方ないのだ。
掃除班のメンバーには高山というわりかし仲がいい男子がいるからまだいいが女子の方が、今の俺にとっちゃ相当ネックだった。
一人の女子、渡辺はまだしも、もう一人が中津川。
「……」
いやぁ、なんか最近ご縁がありますね!運命の赤い糸でつながってるみたい!それなのに俺じゃなくて楓に惚れてる!不思議!
それしてもドンピシャリ!
掃除班代えして一週間もたってないってのに、運命のイタズラってやつが許せないぜ!
意識すればするほど気になってくるわ。
気まずい!気まずいよ!
一人で勝手に意識してるだけとはいえ、中津川さんは今日だけでお腹いっぱいだよ!
ああ、コックリさんに怯えてただけのお昼に戻りたい。そして出来ることならイタズラ心なんてださないでそのままガッカリで一日が終わるのを待ってればよかったんだ。
そうすれば、あんな楓のモテシーンを見ずにすんだのに……。
…にしても中津川から惚れられるだなんて楓もなかなかやるな。彼女、ウチのクラスじゃ美影の次くらいに可愛いぜ。俺的に。
ああ、くそ!
悔しくなんか、悔しくなんかないんだからね!
美少女落とすテクニックを楓さんに是非ともレクチャーしていただきたいところだ。
…ああ、でもやっぱり、
気まずい。
気まずいよなぁ。
気にし過ぎとはいえさぁ。
いつもは男女お互い不干渉で黙々とお掃除するのに、…中津川のことが気になって仕方ない。
だっけっど、気っになるっ、昨日よりも、ずっーぅと〜。
あらやだ!これが恋ってやつかしら!ドキッ!気になるアイツはクールビューティー!
……とまぁ冗談はさておき。
俺はモップを持つと、腰に力を入れて廊下をキレイにすることにした。掃除に力をいれることにより無心になれる、そうこれが表家に伝わる秘奥義、ミレ二アムキッチン・デ・キレイキレイッ!
「らっくってらっくっちん」
「きれいきれい」
高山と平然と会話をしながら、中津川と渡辺の方をチラリと見やる。
二人はチリトリと箒をもってブラブラ立ち話に花を咲かせていた。
ちょっと女子、少しは真面目に掃除しなさいよねっ!
脳内で自分が委員長キャラになりきって二人に注意するイメージをしてみたが、完全に俺の範疇を超えていたので(マイナスイメージが強すぎたという点で)現実世界に召還するのは自重しておこう。
「151の夢〜」
「151の思い出〜」
高山に軽く合いの手を入れながらモップについた綿埃を空中で揺すって落とす。
ああ、たく、なんでこんな胸にモヤモヤ抱えたまんま掃除しなくちゃなんねぇんだ。
それもこれも中津川が楓に告白するから悪いんだ。
……モヤモヤ、モヤモヤか。言い得て妙だな。
正体に検討はついている。
この感情、おそらく楓にムカついているからだろう。
そう、簡単に言えば彼のモテっぷりに嫉妬(SHIT!)しているのだ。中津川にではない、楓にだ。
醜いと言われればそこまでだが思春期なんだから考慮してくれ。
と俺は、二人だけの問題にまったくといって絡んでいないけど、見合いをひたすら進める近所のオバサンみたいな感じで二人の関係についてあれこれと考えていた。
「ほっ、ほっ、ほぉたるこぉい」
「こっちの水はあぁまいぞぉ、そっちの水はにがぁいぞぉ(公害的意味で)」
高山とのセッション中も、常に脳内の議題は中津川さん一色である。
冷静に考えれば本当に俺は蚊帳の外で関係ない人なんだけど知っちゃったら知っちゃったらで気になるのが人のサガだ。
ふむふむ、とりあえず楓のモテ期がこれで終わってることを祈ろう。バカエデーバカエデー(真言の呪文)!
と、近所のオバサンではなくただのクレーマーになり果てたところを高山が俺の背中をドンとたたいた。
「いてぇ!な、なにすんだよっ」
「そりゃこっちのセリフだ。お前こそ人の話きかないで上の空で何考えてやがる。俺の話、どうしたら、ブタのモノマネで命を助けてもらえるか真剣に考えてんのかよ」
ええ!?うそっ!そんな話してなかったよね!
しかも、地味に背中痛いし、
大体お前は憂鬱な掃除の時間も楽しくていいよな、なんてったって大好きな渡辺さんと一緒に愛のお掃除タイムですもんねっ!
俺はそんな悪態が口から出るのをぐっと飲み込んで、咄嗟に出そうになった言葉の意味について深く考えてみた。
「……」
「ん?急に黙ってどした?」
あ、そうかそういえば。
俺はすっかり忘れていた高山の恋愛事情について思い出した。
図書室で調べ学習してた時、斎藤が高山は渡辺が好きだって言ってたな。
あの時はどうでもいいやとスルーした問題だけど、今の今になって思い出すのは、きっと神様の啓示か何かですね!
「ところで高山よ」
「んあ、な、なんだよ」
「お前渡辺のどこが好き?」
渡辺さんのほうをチラリと見ながら、俺は高山に尋ねた。
「そりゃお前まず顔だろ。それから性格、気質、体系…。すべてに置いて俺のど真ん中ストライク……って、ぅおい!」
かかったなっ!アホがっ!
口滑らせてくれました。
俺が得た情報はあくまで予想であって、高山が実際彼女のことをどう思ってるかは未知数だったというのに、はっきりとたった今、彼の口から確かな証言をいただいたわけだ。
「渡辺っすか。ふーん」
「う、ぐ、ぐぬぬ…」
鼻での笑いを引っ張っていたら、その秒数分に比例して高山の顔はみるみる赤くなっていった。
わははは!
きっと俺が美影が好きって部長とか楓にバレた時もこんな感じだったんだろうな。
わははは!
だったら笑え、笑ってやれ!あの頃のオシャマな自分、そして今ここにいる哀れな若人をっ!
わははは!ははは、はぁ、……いつまで片思いなんだろう。俺。あれから大分たつのに……。
心の中の笑い声はいつのまにか深いため息に変わっていた。
片思い、というワードで、今の自分を思い出したのだ。
そろそろ新展開見せないと、何もかも、過ぎて言ってしまう感じがするぜ。
せめて、
せめて二年になる前には、こ、告白をっ!
「だぁぁ!」
「ぎゃっ」
からかい過ぎたら高山から反撃を食らった。
痛い。
手刀で刺されたわき腹が、ジクジクする。
「ま、まちがった、ことは、言ってないだろ……」
「黙れ!人には踏み込んで欲しくない領域があるんだ!わきまえろ!もうバレてるから大目にみてやるがな」
「それはそうだけど、お、お前もどうよ…」
「?なにが?」
そりゃ決まってるだろ。
俺は痛みが響く脇を抑えながら、空手黒帯高山さんに言葉を選んで投げかける。
「好きなところ、一番が、顔ってところだよ」
「え?おかしいか?十代な男子としては健全じゃないか?」
「……」
シレッと普段と変わらない口調で彼は答えた。
言わなくても当たり前だろ?というニュアンスが含まれた返答である。
ええ、ええ。その通りです。健全です!健全過ぎるほど健全ですとも!
ただぁしっ!
「人としては最低だけどなっ!」
ビシっ、脇に当てていた手を、高山にカッコ良く向けながら言い放った。
「はあ?意味わかんねぇ。んじゃ訊くけどお前は初対面の女性を見るときどこ見んだよ」
胸。
…冗談。冗談だよ!
そりゃまず顔とか容姿とかだが、
「今はそんな話してないんだよ。性格をみろ性格を。人間外見よりも中味の方が大切なんだぜ」
「モチロン性格もバッチグーですよ、渡辺さんは。それプラス外見も良いと来たら惚れるしかないじゃないか」
「ふーん」
それは美影にも当てはまることだ、フッフーン。
「それに人は見た目が9割なんだぜ?中味なんてなかなか見れたもんじゃないし、外見は中味も表すもんなんだよ。ほら、面接とかで肥ってると自己管理も出来ない奴と判断されて減点されるって話あるだろ?つまりそういうことさ。その点で、外見で好きになるのは間違っていないわけだ」
う、言ってることは正しいような気がする。
例えばよく、俺達の年代で『痩せたら可愛い』と言われる人がいるけどこの歳になるまで体型を気にしてこなかったということはこれから先痩せるだなんて望み薄だろ。
高校生にもなって寝癖つけて登校してくるやつは総じてだらしないやつだし、制服の着こなし方にもそれがでている。
ズボラなやつは見た目もズボラなのだ。
「つまり、顔!顔が人のステータス!神様は平等というけれど、生まれ落ちた瞬間のスタート地点は各々違うのさっ!」
「ちょっとまって!さっきお前が言ってたのは見た目を気にしてない奴はそれ相応の中味しかないってことだろ!それがなんだ今の話は!これじゃまるっきし選民思想じゃねぇか!」
不平等だよ!
どんなにガッカリな顔でも性格が良い人なんざゴマンといるだろ。むしろイケメンなんかより多いくらいだ。
俺だって一所懸命生きてる!
「間違いないぜ!俺はこの16年という歳月でそれを悟ったんだ!どっかの偉い人も言っていた『恋愛は美男美女がするものだ』ってな!」
「なんだよその悲し過ぎる格言わ!認めん!認めんぞ!そんなものっ!」
それだったら中津川と楓の恋愛事情が正しいことになってしまうではないかっ!美男美女、…ちくしょう!
俺達にも恋愛という娯楽を与えてくれたっていいじゃないか!
「でも実際その通りじゃないか。ドラマなんかじゃ常にイケメンと美女の恋愛模様。仮にこれがブサイク同士の恋愛ドラマにすり替わったとしたら誰も見ないぜ!ブサイクパラダイス、視聴率低迷だ!」
「そんなんテレビの中の世界なんだから当たり前じゃないかっ!どうせフィクションなんだから理想の恋愛型が見たいに決まってる。現実の世界の引き合いにドラマを出すこと自体間違ってるぞ!」
「だから最初に仮にを入れただろ。ともかく俺が言いたいのは結局世の中は顔だってこと。理不尽で不条理だけど、残念ながら世界はそういう構築式でなりたってるんだ」
「っう」
マズい、反論できない。
性格の方を優先すべき、だというのが俺の本来の思想だが、どう足掻いても、結局は顔という結論に至りそうだ。
そもそも俺も美影には一目惚れに近い形だったし。
…もちろん性格も大事だったが、二の次になったのは確かだ。
「どうだ反論できまい!私の選民思想説が有力なのだ!わははは」
「だけど、渡辺にそれ面と向かって言えるのかよ?お前は性格より顔のがいいね、ってよ」
大体思想には適わなそうだから個人を攻撃することにした。
「はん!褒め言葉じゃないか!渡辺もきっと喜んでく……っ」
「私がどうかしたの」
「!」
き、気が付かなかった。
いつのまにか渡辺が俺達の後ろに箒を持って立っていた。
自分の話を耳の届かぬところでされていたのが、気にくわないのか、どことなく不機嫌な顔で俺達の事を睨みつけている。
「な、なんでもないよ!なぁ雨音」
「あ、ああ。全くもってなんにもない!」
俺と高山は取り繕うように慌ててそう言ったが、渡辺はというとまだ完全に信じてはいないらしくジト目でこちらを見ている。
「そう?」
「うんそうそう!!」
二人同時に同じタイミングで首を大きく上下させる。
これで少しは信用してもらえればいいのだけど。
「と、ところで急にどうしたんだよ」
「うん、言いたいことがあったんだ」
「えっ、何?」
見たまんまドキンと顔を嬉しそうに火照らせる高山。顔に出過ぎです。ウブで可愛いじゃんか。
そんな彼の様子を知ってか知らないのか、渡辺はそのまま普通に続けた。
「話てばかりいないで真面目に掃除してよね」
「…はい」
その指摘には、
反論できない。
俺と高山はすごすごと大人しく箒を握り直し、廊下の塵を集めはじめた。




