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第4話(1)

小説上の設定として一日を一話分にしています。

ですので、その一日が長くなった場合は第1話のように分けて投稿する事にしています。


十月三十一日、世間はハロウィンムード全快で無教徒のくせしてジャックオランタンを玄関に飾ってる家を見るとブギーマンじゃ無くてもぶっ壊したくなってくる。ミミズ食べないマイケルのほうね。


この時期に開かれる文化祭ったらもちろんその影響をモロに受けているわけで、更にうちのクラスの出し物はお化け屋敷ときたもんだ。どんなものになるかなんて火を見るよりも明らかだろ?


昨日の文化祭準備は酷かったな。


いたるところに魔女の格好したやつとか、獣の耳飾りをしてる人、馬のマスク被ったやつとかがいて、一般教養があると自負している俺にとっては見てるだけで頭が痛くなる光景だったさ。てか、馬のマスク流行ってるのか、センスを疑うね、隣りに鹿のマスクも並べとけよ。


…まぁ、一番痛かったのは俺なんだろうけどな。

前日、三十日


文化祭当日の打ち合わせの為部長に呼び出された俺達娯楽ラ部員はてっきり文化祭本番での打ち合わせでもやるもんだとばかり思っていたわけだ。


現実は違った。


楽しそうな和水、クスクス笑いの美影、哀れみの視線を送る楓、すでに満点大笑いの芳生、満足げな柿沢部長、そして


どんより鬱ムードの俺様。


「世界の不幸をすべて背負った様な顔してんじゃない」


部長は悪戯をしている子供の様に無邪気な笑みを浮かべながら俺に化粧を施す。


「部長はアンニョイな気分が吹っ飛んだからいいかも知れませんがね、俺のこの状況を客観視してもとてもじゃないがハッピーな人に見えるわけないじゃないですか。頭の中がハッピーな人に見られるかもしれないですけどね」


「全く、何をそんなに嫌がる事がある。コスプレは日本の文化に昇華したと言っても過言ではないのだぞ?」


「あぁ、悪しき流行ですね。百歩譲ってコスプレは有りにしましょう、だけど女装は…ないでしょ」


「こらこら、専門職の方に失礼だぞ、ふふ」


笑いながらファンデーションをパタパタさせる部長。

眼前にこんな美人の笑顔があって時めかない人がいるのだろうか。

いや例外が一人ここにいた。俺だ。この状況じゃたとえ妲妃や楊貴妃、美影が迫っても武士が如く断ることが出来るね。

いや、うん…やっぱ無理だわ。


「確かに失言でしたけどコレだけは言わせて下さい。ナンデ俺ガッ!?」


「罰ゲームと皆からの推薦だ」


ジロリとみんなをねめつける。

その瞬間に目を逸らす他の奴等。

お前ら…


今の俺の状況を軽く説明しよう。


メイド服、女装、以上。

ご丁寧にかつらまで用意してある。


「罰ゲームは掃除でパーだったんじゃないんスか?」


「まぁまぁ、結構美人になったんだから構わんだろ、なんだかんだでお前だって乗ってるじゃないか」


っう

確かに乗ってるというか興味がなくはないが…、誤解ないように言っておくが決して好奇心から逸脱して目覚めたりはしないからな。


「さ、出来たぞ。完成だ。生まれ変わった雨音、これが私ッ!?匠の技のお陰で〜」


部長は似てない声真似をし手を止めた。


「こっち向いてよ」


和水と芳生が声を揃えて言う。


いや、俺だってみたいし…。


「その服装は我が和水メイド隊隊長、盛林五郎八(もりばやしいろは)提供だということを忘れないでよ」


「この時世に本物のメイドがいる家庭があるなんて…」


「正確には家政婦だけどね。さ、早く。ねぇ、雨音、こっち向いて、恥ずかしがら〜ず〜に♪」


渋々奴等の方を向く、いつもムーミンこんな気持ちだったのかな。

胃が痛い こないだ腹で 今日は胃腸(涙)。


「わぁお〜」


和水は嬉しそうに歓声をあげた。


「案外可愛くなるものね、雨音ってのは女の子らしい名前だと前々から思っていたのよ!いま私の中の歯車が合致したわ!」


「本当美人だねぇ」


「いやはや何とも、なかなか似合ってるぞ」


「男の人とは思えませんね」


各人各様の反応を見せる皆様、こう言われると今自分の顔がどうなってるか気になって来るのが人の性だ。


「雨音ちゃん、ほら鏡」


部長が声音を変えて俺に手鏡を手渡した。

黙って俺はそれを受け取り覗きこむ。

鏡の中の見慣れた顔は、見知らぬ少女の顔になっていた。


「いや、自分でも驚きましたよ」


言葉が詰まって、うまく発音出来ない。

この顔だったら一発で俺だってバレないんじゃないかな。



「まさに化ける粧。女の人って怖いスっね。それとも素材がいいからかな」


「匠の業のお陰だ」


「はいはい、でも部長、コレで満足ですよね?」


「満足した豚より不満足な人間の方がいい、私の野望はそんなとこで止まりはしない」


野暮の間違いだろ?


「いや、なに言って…」


「呼び込みメイド雨音ちゃんの誕生だ!」


わぁー、ぱちぱち


呼び込み!?


「って、世間の目に晒す気ですか!?コレをッ!」


「部員だけに見せるのは勿体ないできだな、コレは」


「いや、部員の目だけで死にそうなのにクラスの目が加わったら昇天ですよ!」


「喜びで?」


「悲しみで!」


「諦めろ雨音、その状態の部長が俺達の意見を聞き入れるわけないだろ」


楓が小さな子供を宥めるように静かな口調で言った。

お前の言う事はもっともだがその通りにしてたら色々と弊害が出て来るんだよ。


「胃薬なら俺のをやるよ、16歳だから二粒な」


「楓には悪いが薬は貰わないぜ!薬事法違反でどっちみち貰えないけどな!胃薬はオッケーだっけ?忘れた!とにもかくにも俺は絶対に拒否するからな!部長には屈しない!」


「雨音!部員の心得はどうした?」


「心得だろうがなんだろうがこれだけは譲れません!俺はここから一歩も動きませんからね!」


「ふ、私にそんな態度を取るとは雨音も偉くなったものだな、良かろう。娯楽ラブの規則に乗っ取りゲームで決めるとするか、これなら公平だろ?」


「ゲーム?そんな規則があったんスか?いや、ダメです。乗りませんよ!絶対に」


「お前の秘密を美影にばらすぞ」


部長が俺の耳元で小さく囁いた。

秘密?俺に秘密なんてないと思うし、仮にあったとして何故に美影?


「は、秘密だかなんだか知らないですけどね、んなハッタリかましても無駄ですよ。ばらすせるような秘密があるんだったらやってみて下さいよ!」


「交渉決裂か、致し方有るまい、美影ー、雨音はお前の事がぁ、す…」


「ぬわぁあ」


あぶ、ねぇえ!

俺は咄嗟に右手で部長の口を塞ぐ。

今、好きって言おうとしてたぞ!部長の口を塞がなかったら間違いなくばらされたところだ。って、なんで知ってんだよ!


「私が…なんですか?」


しかし、時すでに遅し、美影が食いついてしまった。


「いや、なんでもないから、うん、マジでなんもない、気にしないで和水達と戯れててくれ」


「はぁ、本当になんにもないんですか?」


「なんもないなんもない!」


「部長さんは?」


「ふがぁ、ふぐ、あふぁねはぁ、みふぁげが、す…、むがむが」


部長が猿轡を破ろうと口を開くが、そうはさせまいと俺は必死に手でその口を押さえる。知られてはいけない。少なくとも今はそのタイミングじゃないだろ。

そんな俺と部長の姿を見ていた美影は何かあるとふんだらしく悪戯そうに思い付いた顔をした後目を細めてすすすっと俺の近くに寄って来て俺と部長に続きを促した。



「『す…』なんですか?」


「いや、だからあのねぇ」


「雨音さんが…」


「うん、俺が、ね。し、質問があんのよ」


「質問ですか?どんな?」


「す…」


「す?」


「ス、スカンディナヴィアって何処にあったけ?」


「え?」


俺は何を言ってるんだろ。

はぁ〜、サッパリサッパリ〜。


「ヨーロッパのほうじゃないですか?」


馬鹿正直に答えてくれてありがとう。

なぜだが、その誤魔化しが奇跡的にも功を奏したらしく、美影はなんだか納得がいったようにこの話を切り上げてくれた。



「で、いつになったらこの手を離してくれるんだ?」


緩くなった俺の手を押し退けて部長は言った。


「あ、はい、って、なんで知ってるんスか!?」


あくまでこそこそと部長に聞く。

今回はなんとかなったがこのラッキーが次回も続くとは思えない。

危ない橋は叩く前に渡らぬに限るだろ、これが俺の人生哲学だ。

改善点があるなら是非ともご教授願いたいものだ。


「はぁ、見た目は可愛い女の子でも力は男だから困る。あんなあからさまな態度だったら大抵の人は気付くだろ、少なくとも楓は知ってるぞ」


「マジで!?うまく隠してたはずなのに…」


「あれで隠してるつもりだったら世間の探偵の浮気調査費用はガク下がりだ」


「なんか人生をターンエンドしたい気分ですよ…、今、リセットしたら彼女の転校の時からやり直せるかも…」


「残念、お前がリセットしたら娯楽ラブ入部試験からだ」


「思い出させないで下さいよ」


その思い出はトラウマとして開けちゃいけないパンドラボックス行きにしたあと、鎖でがんじがらめにして心の海に沈めましたから。


そんな俺の様子をぼんやりと見ていた芳生は急に声をあげて、


「雨音、誰かに似てると思ったら、」


「あんだよ?」


一呼吸おいてからさながらヒマラヤの雪男を発見した探検隊員のような声をあげた。


「和水に似てるぅう!」


「「はいい?」」


和水と声と目が合った。

急に何言い始めんだ、俺と和水が似てるってんなわけ…、


…ん?


俺は視線を鏡と目の前の和水の顔を何度か往復させる。


これは…


「確かに、似てなくはないな」


「ね、そっくりだよ」


「まぁ、確かに似てるといえば似てるわね、通りで可愛いわけだ。ふふん」


和水が鼻をならして自画自賛した。

かつらがたまたま和水の髪型みたいに少しパーマがかった長髪だからな。


「でもこの髪はかつらだから」


「あぁ、こら、外すな!そんな短い髪のメイドなんて私は認めん!早く被って校内見回りに行くぞ!」


「はいは…、ってなんでですか部長!!俺はここから一歩も動かないってさっき宣言したばかりでしょう」


「ああ、確かに言ってたな。良かろう、お前の気持ちをくんで今回の『各出店の事前調査』は美影と二人で行かせてもらうか」



部長と美影が二人きりになるということは、

…すべてを理解しました。


「ゲームをしましょう」


「むっ、そこまでお願いされちゃ、仕方無いな」


鬼、あんた少女の皮を被った鬼や!

鬼の采配に従うしか我が道はないのか。



「それでは…、コイントスで決めるか」


部長は財布から10円玉を取り出すとそれを指で弾き器用にも手の甲に乗せて逆の手で覆い隠した。


「もめたらコインで、だろ?」


「うちに節足動物ルールは無かったはず。数字の方が裏ですよね…」


俺の名字は表。

俺の恋する人の名字は裏。


愛しの女神よ、俺に力を


「うらァッ!」


ニヤリと部長は笑って、そのコインをみんなに見せた…





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