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29(5)


暇な時、別の話のあらすじをぼんやりと考える時があります。

いつか、こういうのもカタチにできたらいいなぁ。

時間と技量、やる気さえあれば直ぐにでも書き始めるのに。




ブリューナク・コックローチ。別名黒き弾丸。

ケルト神話、太陽神ルーの所持する槍ブリューナクは、自らの意思をもち自動的に敵に向かいこれを迎撃するという。また稲妻となって敵を燃やし尽くすとも云われる。

その名を冠する虫は、美しく黒光りする肢体を柔らかに、素早く台所を蹂躙する、再生と誕生を繰り返す昆虫である。


以上が俺達が考えるゴキブリという名の生物だ。

かっこ良すぎじゃね?


「だあああ!ちっがぁぁう!」


廊下に響いていたとしたら恥ずかし過ぎる大合唱を中断させたのは指揮者のようにタクトを鼻高々にふるっていた和水に他なら無かった。


「敵を尊敬してどうするのよ!私達はあくまで奴らを抹殺するのが目的よっ!敵に敬意を払うのも大切だけど、これじゃ私達のが奴らの狂信者みたいになってるじゃない!」


意外にも俺が言いたいことは彼女はわかっていたらしい、彼女が声を大にして叫んでいるのは、ちょっと前に俺が言いたくても言えずに胸に秘めたことに違いは無かった。


「危ない危ない、危うく洗脳されるところだったわ」


お前がそれをいうな。


「私も薄々これは違うと思ったんですよね」


「でしょ、美影。敬意をふるって敵を討つのがハンターのあるべき姿だわ。宗教みたいな真似はすべきでないわね」


頭をかいている美影に同意すると和水は元気よく一回屈伸をすると、気合いを入れるように頬をペシンと両手で叩いた。

土俵入りする前の力士のようである。


「それでは、一番重要な問題について話を移しましょう」


「重要な問題?」


「ええ、決まってるじゃない。対処法よっ!」


和水はそう言うやいなや紙にデッカく『ゴキブリバスターズ』と書きつけた。

ああ、そうだな。当初の目的はそれだもんな。

自分で書いた文字を満足そうに眺めながら和水は自然とゴー○トバスターズの音程で口ずさんでいた。


「とぅとぅとぅ、うぉうゴキブリバスターズ!」


「……」


「あ」


その様子を冷めた目でみる俺と美影。

視線に気づいたらしい和水はほんのり頬を赤くしながら話を変えようとする。


「…え〜、こほん。それではここでゴキブリに出会った時の対処法を昆虫大学ゴキブリ研究学部、裏美影教授からお話を伺いたいと思います」


「は?」


なんだそれ。

恥ずかしさから頭がおかしくなったのか。

和水が急に始めた茶番に、ご指名を受けた美影は意味が分からないといった風に口をあけた。そのまま動きを止める美影に和水は偉そうに語りかける。


「美影教授、こんにちは」


「え、え?私ですか?」


「こんにち、わッッッ!」


「こ、こんにちは…」


無理やり美影を話に乗せた和水は、先刻の“スベリ”を誤魔化すように話を先に進めた。


「それでは早速ですが、美影教授、ゴキブリに出会った時はどのように対処すればいいんでしょうか?」


どうやらこの方式でゴキブリバスターズは成り立っているらしい。

和水が始めたごっこ遊びに仕方が無く付き合う事にしたらしい美影は、焦ったようにどもりながら言った。


「ご、ゴキブリに遭遇してしまった時は、あ、焦らないのが大切ですね」


さながら熊に遭遇した時の対処術のようだ。

時々テレビ番組で登山家の先生がそんなこと宣っているのを見たことがある。


「なるほど、まず第一に焦らないこと。そうですね、やはりこれが一番重要ですよね。それで次は?」


「つ、次?」


珍しく敬語で会話する和水は実に嫌みたらしく有り体に言えばウザイ。

そんなん相手によく美影は対処できるな、と傍観者として彼女達の喜劇を客席から眺める事に徹しよう、と静かに心に誓った。


「そうです、次ですよ。まさか姿を見といて見逃すなんてこと言いませんよね?それこそ生き地獄ですよ。それから彼らの発てるカサカサ音に悩まされて過ごすなんて私には考えられません」


「…そうですけど、」


「美影教授はどのように対処するんですか?」


「……私、ですか?」


追い討ちをかけるように畳みかける和水。

猛攻に焦らないのが一番大事とか言っていた美影がみるみる焦っていくのがわかる。

ヤメロー、可哀想だろぉ!


「さ、殺虫剤をですね、彼らに吹きかけるのが一番効果的かと…」


うん、やっぱりそれが一番効果的だよね。


「殺虫剤がない場合はどうすればいいんですか?」


「はいぃ!?」


美影の答えを根本から覆す質問を和水は浴びせる。

なんだそれ!禅問答かよっ馬鹿やろう!

美影が不憫でならない。

きっと和水はさっきのゴキブリバスターズの件でクスリともしなかった彼女を逆恨みしているに違いないのだ。


「だから殺虫剤を探している間にゴキブリは物陰に逃げてしまうでしょ?敵を目の前にしてそんなの悠長に探してる暇ないわよ」


すっかり教鞭賜る生徒から、いつもの彼女に戻った和水は、教授から学生に格下げされた美影にそう言った。

一理あるようだが、気のせいである。


「ふ、普段から目につくところに、キン○ョールなりフマ○ラーなりを配置しておけば」


「ダメよ美影。そんなもの目に入るところにおいとけば、客人にこの家はゴキブリが出ます、ってアピールするようなものじゃない」


客がくる前はしまえよ。

第三者を決め込んだ俺は口出しはしないでグッとその言葉を飲み込んだ。


「さあ、美影、ゴキブリに出会った時はどうすればいいの?」


「あ、あせらないで、」


「焦らないで?」


「う、…」


言葉を濁らせる美影。というかなんかパワハラみたいだぞ。よくわからんが。

仕方無い、表雨音、格好良く思い人を救う為、口出ししちゃうぜ。


「スリッパや新聞紙で直接叩き潰せばいいだろうが」


「きゃあ、野蛮!女の子がそんなの出来るわけないでしょ!」


体ごとこっちに向けた和水は俺の言葉にわざとらしく体をくねらせた。うぜぇ。


「知るか!だったらお前はどうすんだよ?」


「私?」


テメー一人だけ意見を言わずに済まそうたってそうはいかない。

俺はそういう思いを込めて和水に尋ねた。

ポカンと一瞬考える素振りをしてから彼女は答えた。


「私は北海道に引っ越すわね。即刻」


「ぐっ」


なんていう金持ち意見。


「美影の話だと寒帯には住めないらしいじゃないゴキブリって。だから私は北海道に行くことにするわ。引っ越さないにしてもたしか別荘があったからそこから駆除会社に依頼して屋敷を徹底的に掃除してもらうわね」


「お、お前、ゴキブリが出る度にそんな事するのかよ…」


「ええ。敵に情けは無用。私はゴキブリのいない世界に旅立つわ」


どこか遠くをみるように切ない瞳で、和水はそういった。

なんだこいつ、意味がわからない。


「さ、話を戻すわよ。美影教授」


「はい?」


「ゴキブリに遭遇した時の対処法なんて遭わなきゃいいだけの話よ。だから、対処でなく対策を考えるのよ」


「対策、ですか?具体的にはどういった?」


「ゴキブリを家に入れない方法」


今まで一番、ゴキブリバスターズとして、良い意見が出た気がします。


「ゴキブリを家に入れないというと、ゴキブリホイホイやホウ酸団子、水性コック○ーチのようなトラップ系ではなく、い〜り口裏口勝手口、虫コ○ーズ〜、みたいな感じですかね」


「ええ、その通り、見えない網戸を私は欲しているの」


歌を口ずさみ、通じ合う二人。訳が分からない。

でも、和水の言いたい事は理解出来たぞ。つまりゴキブリを家に巣くわせない方法を欲しているんだろう。


「それにはやはり、家を清潔に保つ事じゃないですかね?ゴキブリもやはり食料も何も無いところに好んで侵入しようとはしないはずですし」


「清潔にしてても奴らは来るわよ。美影だってさっき、ゴキブリは何でも食べる、みたいな事言ってたじゃない」


「ううむ。そうでしたね。でしたら、どのようにすればいいんでしょう」


頭を悩ませる二人。

この話題に完全に飽きた俺は一人、天井の隅から隅へと顔を動かさず眼球だけ左右にキョロキョロと動かす。

視力回復にコレがいい、みたいな事を斉藤が昼休みに言ってたからだ。


「そうよ!美影!天敵とかいないの?ゴキブリの天敵みたいなの?」


「天敵ですか?…いたとしてどうするんです」


「ハブに対するマングース、カエル対ヘビ対ナメクジみたいに、お互いがお互いを潰し合えばゴキブリの数も減るじゃない?だからその動物を町中に放すのよ!そしたら本来的にゴキブリの数も減って人類の未来は明るくなるっ!」


俺がいつか聞いた話によると、ハブの大量発生で困っていた島がマングースを輸入して島で解き放ったところ、別段マングースはハブを狩りするでもなく平和に暮らしたとかなんとか。そんでもって逆にマングースも大量発生しちゃったりして大変だったそうだ。

この話の意味するところは彼らは強制されなきゃ殺し合わないということ。友愛って、大切だよね。


「居ることにはいるんですけど……」


「へぇ!なになに?どんな生物?」


「クモです。アシダカグモっていう結構大きいクモ」


「く、蜘蛛…」


みるみる和水の顔がひきつっていくのがわかる。

引きつる和水に美影は慌てたようにフォローをいれた。


「あっ、でも毒とかはないんですよ!グロテスクな容姿をしてますが、ゴキブリやハエなどの害虫を補食する益虫として知られているんです。アシダカグモが2、3匹住む家は半年でゴキブリが全滅すると言われるくらい有益な虫なんです」


「む、む、無理よ!クモなんて飼えるわけないじゃない!他にいないの!?」


ま、そうだよな。俺もゴキブリの代わりにクモが住み着きました、なんて言ったら意味ないと思うもん。


「他だったら、…猫とか」


「猫っ!?いるじゃないマシなのが可愛さ抜群の愛玩動物、そういうのを求めていたのよ、クモなんて及びじゃないの」


「ただ、あくまで補食する為に捕るわけですから、…食べちゃうんですよね。それに友達の話じゃ、成果として死体をわざわざ見せに来ることもあるそうです」


見てわかるくらいにゾワワと和水が身震いをした。

野性的だな、猫。

俺は犬派だけど。


「だ、ダメ。猫は止めましょう……。可愛い顔してえげつない事するのね、にゃんこって。ほ、他にいないの?海外でもいいからさ」


「外国ですか?うーん、あ、いますね」


美影は思い出したように両手をポンとさせた。


「なになに?水道橋財団が全力を持って輸入するわよ、その生物」


「蜂です」


「蜂…」


「エメラルドゴキブリバチという名の蜂がいましてですね。名前にゴキブリが入るように、彼らこそが唯一無二の天敵といっても過言じゃありません。体は綺麗なエメラルド色で玉虫のようなんですかその習性がもの凄いんです」


「綺麗な、む、虫なら、いいけど…」


「まずゴキブリの脳に針をさし、自分のコントロール化にしくのです。さながらゾンビと化したゴキブリに卵を植え付け、生きたまま幼虫の餌とするのです。やはり、恐ろしいのはゴキブリが寄生虫にでも取り付かれたかのように自ら進んでエメラルドゴキブリバチの巣に進むところですかね。見てて総毛立ちますよ」


「いやぁぁぁ!」


和水は青い顔で叫んだ。

当然だろう。仮にもうら若き乙女なのだから。その点、美影さん、やけに肝が据わってむしろ嬉しそうに話してるけど、それってどうよ。


「うう…、たった今、理解したわ」


やがて、消え入りそうな声で和水は声をあげていた。


「やつらに天敵なんていない。地上最強の生物ゴキブリ」


「やだなー、和水。ゴキブリだって寒帯には住めないし、その点、地上最強の生物はクマムシだぜ」


クマムシ基本データ。

真空、灼熱、極寒とどこでも死なずに生きられるほぼ不死身のちっこい生物。

ちなみにゴキブリもクマムシも弱点は潰されるという点である。


「シャラップッ!私の理解を超える発言は許さないわよ!いいから最強の生き物はゴキブリに決定したの!やつらに適うわけがない、戦いを挑もうとすること自体無謀だったのよ」


「いや、でも天敵もいるみたいだし、少し考え過ぎじゃないか?」


「蜂、猫、蜘蛛を天敵だなんて論外。唯一無二の絶対神ゴキブリ様の降臨よ。凄すぎだわ。やつらにかなう生物なんているのかしら……」


「だから蜘蛛とか猫とか……」

「例えばよ。ゴキブリが人間サイズになったら、誰が彼らを止められるというの?」


「はぁ?」


クモとゴキブリなんざ似たようなサイズじゃねぇか。

ゴキブリがおっきくなるんだったらクモもおっきくしなきゃ不公平だろ。

…どちらにせよおぞましいけど。


「誰にも止められない!そうっ!ゴキブリこそが史上最強の生物だったのよっ!」


等身大のゴキブリなんて想像もしたくないが、同じ分類になるらしいカマキリなら辛うじて想像できる。

そのところ、勝ったよ、俺。等身大カマキリに。イメトレで。

……ごめんなさい嘘です。無理です。勝てるハズありません。


「いや、でも他にもいるだろ。なんか」


「ふん!いるんなら連れて来てよッ!ゴキブリに勝てる奴がいるならその力存分に見せてほしいところね!」


和水がそういきり立った瞬間、

ピーピーピー


とポットが沸騰した音が鳴った。

そうだ、すっかり忘れていた。お湯を沸かしてたんだった。


俺はゆっくりと立ち上がって、元気一杯拳を握りしめて立っている和水の横を通り抜けるとコンセントの近くにあるポットに近寄った。


設定でお湯が出来たら鳴るようにしといたのだ。にしてもお湯ができるまで思ったよりは時間がかかったな、量の調整を間違ったかしら。


「お茶飲むー?」


とりあえず二人に訊いた。


「「飲むー」」


山彦のようにソッコー良い返事が返ってきた。

そうだよ、ソレソレ、女の子はゴキブリの話なんてしないでお茶でも啜ってるほうが健全だよ。


腕を伸ばして机の上に放置ぎみにされていた急須をとる。お茶汲み係りなんて引き受ける気なんて毛頭ないけど、今はともかく、彼女達にゴキブリの事を忘れてほしいからサービスだ。

まったく、ゴキブリなんて今の季節滅多にエンカウントしないんだから、気にするだけ、無駄なのに――ん?


「……」


「雨音さん?どうしたんです?急須持って凍り付いて……」


「で…」


「で?」


「出たぁぁ〜〜ッッ!!!」


「きゃぁ〜〜!!」


そんなバカなっ!

今、冬!冬!


「だっ、だから言ったじゃない!一匹みたら三十匹はいるって!」


「それ言ったのは私です!きゃ!」


ゴキブリがポットの裏にもう一匹潜んでいたのだッ!

俺が近寄った事により、彼も焦って移動を開始した。

それはイコールゴキブリが狭い部室を縦横無尽に走り回るということで……


「きゃぁ!は、はやく!雨音、倒してよっ!男でしょ!」


「この場合、男女は関係ないだろ!うおっ」


そして、俺は情けながら突然のエンカウントに完全に虚を突かれ、美影教授の言っていた、焦らない、を実行することができずにいた。

それは、まあ、教授もそうなんだけど


「きゃぁ〜こっちこないで!だ、誰か助けて!」


パニックである。

パニック状態である。

部室は今パニックルームである。


「うお!何かないか何かないか!ペットボトルとか新聞紙とかないかっ!」


それでも一応俺も男だ。

退治はしたいと思う。


「なんにもないわよっ!徒手空拳で倒してよ!」


「素手はねぇよ!」


「テメェの血は何色だぁ!って、パシンと叩き潰してよっ!」


「知らねーよ!」

カサカサカサ…

そんな俺達を嘲笑うかの如く奴は、リアルにそんな音を立てて一匹運動会を満喫している。

うぅ、くそ!何か武器さえあれば、奴にギャフンと言わせてやれるのに!


カサカサカサ

速い、速すぎる!目にも留まらないって、このスピードのことをいうんだね、でも、気味が悪いのには変わらない不思議!


ガチャ


カサカサラプソディが響くパニックルームにまた新しい音を響かせて部室のドアが開いた。

誰か来たらしいが、今はそんなことより、この地を這う混沌の対処の方が大切だ。


「うぉい、お前たち何やってんだ?昨日、今日の部活動はメンバーが揃わないから中止と言っただろう」


その声は部長!


「今日休みだったんですか!?」


ゴキブリから逃げながらドアの側で仁王立ちしている部長に問う。

確かにみんな遅いなぁ、とは思っていたが、まさか休みにしていたとは知らなかった。


「だから、そうだと言ってるだろう。それでお前達は何やってんだ?真夏のアスファルトをのたくるミミズダンスの練習か?」


確かにそんな風に足をてんやわんやに忙しなく動かしてはいるが、それはひとえに足下を這い進むゴキブリを踏まないためだ。ああ、こういうのをてんてこ舞いと言うのかもしれない。


「ゴキブリがいるんですよっ!」


慌てた口調で美影が部長に教えてあげた。カサカサ…

そんな彼女に復讐するかのように突如としてゴキブリは進路変更をし、美影一直線に走りだしたからたまらない。


「きゃぁぁあ!」


「なにぃ!どこだっ!」


部長はカッコ良くそう言うと、一気に美影の側に走りよった。

一呼吸の間に鋭い目つきになった部長はハンターのようにキョロキョロと床を忙しなく見つめている、


「そこっそこっ!そこです!ああ!」


「むぅ!いたっ!ちぇすとぉぉぉ!」


部長は叫ぶと同時に手に持った何かでゴキブリを叩き潰していた。

ヤバい、しびれる…。あの役目俺がやりたかった……。

って、うん?


「ふぅ、やれやれだぜ。いい汗かいたな」


部長が手に持ってんの、俺の上履きじゃんッ!


「なんで部長が俺の上履きもってるんですかっ?」


「ん?入り口の横に立てかけて置いてあったからつい、な」


ああ、そうだよ!洗ったついでに乾かしてたんだよ!

ドアの横の壁に立てかけてなっ!


それはというと、ソイツ(上履き)でゴキブリ(一匹目)を踏んづけちゃったとこから始まるんだよ!

なのにアンタがソイツで二匹目を退治しちゃったらまた洗い直しじゃないかっ!


「む、なんだその目は?この状況を救ってくれた救世主を崇め讃えるような瞳ではないな」


「別にぃ」


まあ、実際感謝より怒りのボルテージの方が勝ってるし。


だけど、そんな目で見ているのは俺だけのようだった。

他の二人、美影と和水はキラキラと尊敬の眼差しで部長を見つめている。実際パニックを収束させたのはたしかだからな。


「部長…いや、秤様…柿沢秤様…」


「は?」


……かといって、なぜ部長を様付けで呼ぶのか理解できない。


「な、和水?急にどうしたんだ?」


「地上最強の称号はあなたのものです」


「はい?」


「おめでとうございます!部長、いや、秤様!」


どうやら地上最強を敬っているらしいが美影でさえ、意味がわからない事を言い始めたこの状況、始めからいる俺でも理解できないのだから部長なら尚更意味不明だろう。


ぱちぱちぱち……


部室にさっきと違って落ち着いた拍手が響き始める。

それもこれもすべて目の前に現れた地上最強を讃える拍手である。


「え、は、いやこれは、果たしてどういう状況だ…?あ、雨音?」


混乱し始めた部長が俺に縋るような視線を送ってきたが、


「おめでとう、おめでとう」


悪ノリということで、部長の質問には答えずひたすら拍手。俺の上履きを無断借用した上、未だ底に張り付いた死体を拭っていない復讐だ(ちなみにみんな部長の手元は見ないようにしている)。

唯一会話が成立していた相手にも裏切られた部長は癇癪をおこしたように叫んだ。


「えぇい、もう意味がわからん帰れ!さっさと帰れ!」


部室にはおめでとう+拍手と部長の帰れコールが相反するようにシンフォニーするのであった。


「今日は休みだといっただろうが!帰れ!」


帰りたいけど上履きの○○○○(あ〜、なんかおぞましい、全部伏せ字だそんなもん)をどうにかしなきゃ帰れないじゃないか……。




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