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前回の投稿で、前書きの文章を後書きにしてしまうという失態をやらかしてしまいました。

まぁ、別にいいんですけど、いつか『後書きを書くのは最後だけと決めている』とかほざいてたのにあの誓いはなんなんだ、っていう話です。どうもすみません。

と、いうわけで、前回の後書きは前書きという気分で読んでくれたら嬉しいです。


そんな謝罪文で、いつも頭を悩ませる前書きが埋まるという事実にそんな甘えは許さない!と自らを戒め、新たしく、実質今回分の前書きを書き始めたいと思います。


さて、なんだかんだでもう9月。台風一過、涼気とみに加わりめっきり秋らしくなる夏の終わり。

行き遅れたセミの鳴き声、夏の終わりの大嵐、夕立でたつ虹の空、夜に早秋の虫の合唱団。

切なさ一杯、ひぐらしの鳴く頃に、私が綴るはゴキブリの話。

それ自体が既に笑えないギャグ、いっそ指差して笑って下さい。

まさか、ここまで長くなるとは、執筆当初は予想だにしていなかったです。

プロット(というかベッドでの妄想)段階では、短話でまとまるハズだったのに、こんなに情熱をもって奴らの事を書くとは思いもしませんでした。

でも実際奴らは凄い。

それだけでも伝われば、今回の話は成功といえるのかもしれません。





んなこたぁない。




事の発端は、今はゴミ箱という棺に眠る彼が、冬だというのに俺達の前に姿を見せた事に始まる。

ゴキブリに季節は関係ない、という事実に驚きだ。

美影の説明じゃ、熱帯地方が主な生息地の彼らは寒さに弱いはずなのに、不思議である。


「だとしたら名前を考えなおさないといけないわ」


「は?なんで?」


美影のゴキブリ講座から時間がたち、ようやく部内は落ち着きを取り戻してきていた。

そんな中、和水がまた意味不明な事をほざき始める。


「ゴモラだなんて可愛らしい名前奴らには似合わないわ」


「可愛…らしいか?つうか、さっきお前が言ってた通り古代怪獣とか色とかコンセプトの繋がりがなかなかあってピッタリだと思うんだが」


何だかんだ言ってゴキブリの新名称にゴモラは合っているような気がしてきたのだ。円谷プロには申し訳ないけど。

俺の肯定的意見に和水はヤレヤレといった風に息を吐いてから続けた。


「まったく雨音は何にもわかってないわね。怪獣殿下こと古代怪獣ゴモラは今じゃ大怪獣バ○ルでウルトラ○ンのように人類の味方なのよ」


「うっそ!?マジで!?何それ!何の話ッ!?詳細を教えてくれっ!」


あの大阪城を徳川家康さながらドーンしたゴモラさんが人類の味方っ!?

んなバカなっ!貴重な文化遺産を破壊したんだぞ!


「私もよく分からないけど、こないだ見たテレビでポケット○ンスターよろしく、主人公のパートナー的扱いを受けていたわ。立ち位置的にはピカ○ュウのようにね。いけっ!ゴモラ!突進だっ!みたいな」


うわぁ、マジかよ。ゴモラとか特撮怪獣にはそんなに興味ないけど、その番組すっごい見てみたい。


「そ、そんなんやってんだ……。おかしいな、俺が小さい頃、再放送で見たゴモラさんはどっかの島の恐竜の生き残りで理不尽に退治されてたような記憶しかないのに…」


幼心に人口に膾炙できなかったパターンのガチャ○ンって記憶している。


「ふふふ、まったく良い感じに時代の波に乗り遅れてるわね。今じゃゴモラは究極生命体とだって共演しちゃうんだから」


「な、なんだってー!」


そんな奇跡のスピンオフッ!?


「太陽光を克服したアルティメットシイングと怪獣殿下がバトル……し、信じられん……。ツインテールという可愛らしい名前をもってるくせに容姿がアレな怪獣を始めて見た時くらいの驚きだ……」


なにをどうやったら彼らが共演すんだよ……。

さすがにそれは和水の嘘だろうが、俺は驚きという名の動揺を落ち着きに出来ずにいた。

ちなみに怪獣ツインテールはハサミムシによく似ています(個人的見解)。


「まぁともかく、私が言いたいのはゴモラは物凄く人気で、その地位を着々と不動の物にしてるの。そんな彼におぞましい虫けらの名を与えるなんて失礼じゃない?だから一から考え直すのよ」


「なるほどな」


和水の言いたい事は理解できた。

俺もよう知らんが、巷では、ゴモラブームが起こってるらしく、今や敵対関係を表明したゴキブリには、そんな名前は勿体無いということだろう。


「ゴモラについては忘れましょう。これ以上ウダウダやってても前に進まないわ」


和水はそう言うやいなや、美影の前にあった紙を凄いスピードで取り、ペンで「名称」と新たに書き出した。


「さぁ、ゴキブリについての新しい名前を考え直しよ!」


ぐるり回って話が一番始めに戻っただけである。

なんて面倒くさい女だ。


「どんどん意見をだしてちょうだい!ゴキブリにピッタリのおぞましい名前を!」


狂ったように叫ぶ彼女をみてデスメタルバンドを彷彿とされた。

俺の中でデスメタルはそういう歌詞の歌を歌ってそうなイメージだからである。


「あの、その件だったら」


額に『殺』の字でも浮かび上がりそうな勢いの和水に、美影が静かに語りかけるように口をひらいた。


「もう『ゴキブリ』でいいんじゃないでしょうか?あの時はゴキブリとの共存の道を示す上で、親しみやすい『ゴモラ』の名を与えたわけですが、目的が一転、対立に転がったわけですし、『ゴキブリ』は彼らの不気味さを現す上で、やっぱり一番の名前だと私は思います」


「ああ、最初はそうだったよな。元は和水が名前からしてキモい、みたいな事言ったからゴモラになったんだし、対立関係が表明した今は元の通りキモい名前のゴキブリでOKだよな」


確かに美影の言うとおりである。

もとからゴキブリは彼らを現すにはピッタシの名前なのだ。


「同意。だったら新名称じゃなくて普通に名称は今まで通りゴキブリね。これは確定」


そういうと和水はペンを滑らせるように、『名称』の項目の下にゴキブリとつけたした。

結局そうなるんかい。


「それでは次に彼らの二つ名を決めましょう!」


「「はぁ」」


次から次へと出る和水の今日のプログラムに、美影と一緒になって口を開けてしまった。

二つ…名?

なんか懐かしいトラウマの響き。

前に部長がそんな事いってなかったっけ?


「二つ名って……い、いつかの座右の銘みたいなやつですか?」


美影がやけに震えた声で和水に訊いた。

どうしたんだろう、さっきまで気丈に場を進行していた彼女らしくない。


「えぇ、その通りよ“乳【おっぱい】”、美影」


ブッ、たまらず噴き出す。そうだ、そうだった、よくわからないうちに美影の二つ名は和水によってそんな変なのに決められたんだった!


「や、やめて下さいよ!その話はもういいでしょう!」


顔を真っ赤に紅潮させて美影は和水に注意を促した。

俺はまともに女子二人をみることが出来ずに視線をそらす。というか出来るわけがない。



「懐かしいわね。私はヤマトナデシコ七変化【フラッパー】だっけ?」


なんのてらいもなく、どこ吹く風の和水は独り言をぼやくように続けた。


「たしか雨音が“一週間後の惨劇【シーモンキー】”だったわよね。懐かしいなぁ、あんな風に馬鹿やったのが随分昔に思えるわ、しみじみ」


現在進行形で馬鹿やってるよっ!


「な、何が言いたいんですか!和水さん?」


まだ尾をひくように顔が紅い美影が呼吸を荒げながら再び和水に質問をした。

和水は「うむ」と勘違いした仙人みたいな頷きをすると紙に「二つ名」と書くと楽しそうにその真意をあかした。


「ゴキブリの二つ名を決めるのよ!…さっきからそういってるじゃない」


「「はぁ?」」


また美影と一緒に口をあんぐり。


「「そ、それってつまり」」

「あの時のような」

「茶番を」

「ゴキブリあいてに」

「「行うって」」


「わけかよッ?」

「わけですかッ?」


息ピッタシに和水にそう言う。そうこれが、二人始めての共同作業ッ!…うぅ、嫌すぎる。

和水は俺達のシンクロ攻撃をもろともしないにこやかな笑顔で、


「うん、そう」


と頷いた。

その瞬間、堰を切ったように深いため息が自然と口から飛び出ていた。


「ま、いいけどさ……」


なんかもう何でもよくなってきた。なすがままだ。もう、どうとでもなれ。

美影もそんな気持ちになっているらしい。

「そうですね」と精気の無い瞳で和水に同意していた。


「じゃあ、はい美影からっ!」


「ふぇ!?」


ビシッと立てた人差し指を美影に向けて、和水は急な指名を行った。美影は彼女の範疇外の行動に目を丸くして驚きの声をあげた。当然である、何事も突然すぎるのだ和水は。


「な、なんですか?」


「もうっ、話聞いてたの?ゴキブリの二つ名を決めるのよ!さぁ、美影!あなたの比類無きネーミングセンスを見せてちょうだい!」


「二つ名って……、ゴキブリのを考えるんですか?私がッ!?」


「ええ、そうよ、だからそう言ってるじゃないの。美影ほら、紙、これに貴方の力を存分に奮った力作を描きなさい」


楽しそうに和水はそう言うとペンと紙を美影に手渡して、書記の権利を彼女に再委譲した。

慌ただしくそれを受け取った美影は、悩ましげにペンを顎にトントンと当てて和水の言い付け通りゴキブリの二つ名について考え始めたようだ。

どうやら逆らっても無駄ということを悟ったらしい。


「思い付きました!」


ペンを勢いよく滑らせて、美影はどこか誇らしげに考えついた二つ名を発表してくれた。


「こんなんどうですか?」


完成したらしい名前が書かれた紙を一人眺めていた美影は納得がいったように頷くと楽しそうにソレを発表した。


「“黒き弾丸【ブリューナク・コックローチ】”!かなりの自信作なんですが」


紙に綺麗な字で書かれた文字を見て一言。


「「かっけぇ!」」


和水と一緒に叫んでいた。


何だかわからないが、ゴキブリの二つ名にしてはやけにかっこいい気がする。

ブリューナクとか意味は知らないけど、なんか痺れる。

黒き弾丸、とかもRPGとかに出てきそうで憧れる二つ名だ。

和水も同意見らしい、キラキラと瞳を輝かせている。


「スッゴい良いじゃない。素直に感心しちゃうわ!ゴキブリの二つ名とは思えないくらい!コックローチとか響きがいいじゃない」


「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいですね。まぁ、コックローチは普通に英語でゴキブリという意味なんですけど」


「あ、そうなの…」


一瞬ポカーンとした和水は、直ぐにキリッと表情をもとに戻して、続けた。


「兎にも角にも、ゴキブリの二つ名は“黒き弾丸【ブリューナク・コックローチ】”で決定ね。何だかゴキブリには勿体無いくらいのカッコいい名前だわ」


どこからか取り出した赤ペンで美影の書いた新しい二つ名を丸で囲むと、感心したように和水は息をついた。

まったく、出来る事なら、もう一度俺の名前を美影にリネームしてほしいくらいである。


「勿体無くなどありませんよ、和水さん。彼らは賞賛に値する活動能力をもっているのだから、これくらいの二つ名が相応しいのです」


鼻を嬉しそうに鳴らしている事から美影も自分のつけた二つ名が褒められて嬉しいのだろう。

ただ、付けた相手がゴキブリってどうだろうか?もの凄く微妙な気持ちになってくると思うんだが……。

そんな俺の心情は関係なしに、和水は恭しく頷くと、ゆっくりと地球環境を語る中学生のように、カッコいい事を言い始めた。


「うん。そうね。私達人類が地球の支配者だとか勘違いして傲り高ぶり、生き物に敬意を払うのを忘れた時、人類はゴキブリに敗北するのかもしれないわ」


……なんだこいつ?

なんで話が地球規模になってんだよ。


「和水さん!そうですよね!私もそう思います!」


え、ちょっ、美影!?

な、なにこのテンション!?

ヤバいッ、ついて行けない!!


「私達は大切な何かを忘れていたのかもしれないわ…」


気のせいか、和水はうっすら涙目になっている気がする。

って、嘘だろっ!くだらなさがここに極まれりッ!?


「ゴキブリと、そしてゴキブリの生きた三億年に、我々人類は敬意を払い、良好な敵対関係を築いていかなくてはならないのね」


「和水さん!私なんだか感動しちゃいました!」


良好な敵対関係…、なんだ、この矛盾は。


「そうよ!美影!私達娯楽ラ部から、ゴキブリに対する理解と敬意を払う事を始めるべきなのよっ!」


「はい!」


部室の意味不明テンションゲージが天頂を突き抜けた。


「それでは胸に刻みつけましょう!せーの!」


和水は腹一杯に息を溜め込んだ。


「ゴキブリに敬意をッ!敬意をッ!」


「ゴキブリに敬意をッ!敬意をッ!」


「!?」


目の前で繰り広げられる光景に俺は理解出来ずに、瞬きも忘れて、見入ってしまった。


二人の女子高生がテンション高めに、新興宗教のように台所在住不気味な黒い虫の名を叫びながら、万歳を繰り返しているのだ。

なんだコレは?


俺の脳の理解のキャパシティを軽く通り越す非日常だ。


「雨音!何を黙ってるの!ほらっ!ゴキブリに敬意をッ!」


「う、あ…」


「ゴキブリに敬意をッ!」


「ゴ、ゴキブリに…」


「「ゴキブリに敬意をッ!」」


「ゴキブリに敬意をッッッ!」


ヤバい、俺の中でなにかが吹っ切れた。

こういう電波的所行は安藤さんの仕事と相場が決まっているのに…。

あれ、なんだか涙が止まらないよ。





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