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第3話

短いですが本編です。


神よ!これがあなたの選択か!?厳しい試練を俺に与え、それを成し遂げた所で何の意味があるのだ!


ぐきゅるる…


助けてくれ女神様、

水無し一錠パッーと効くやつとかロシア軍を征する為に開発した薬をくれ!


ぐきゅるる


まずい…

このままじゃ死ぬ。




朝、七時、学校に行く為の電車に乗る。

いつも通りの何も変わらない日常の一ページ。


電車に揺られて五分、異変が俺に襲いかかった。こ、これは…

腹部に痛みというよりも、内側から弱いブローを連発でくらっているような形容しがたい腹痛が連続で起こり始める…


これは、つまり、アレかな…

下痢ということかな?(イグザクトリー)



今朝飲んだ牛乳か…

それともプリンか…


止まらない急行、なぜ乗ってしまったんだ…自分…。


俺の揺られている電車は結構混んでいて満員というほどではないが座席はすべてうまっている、こんな状態で万が一もらしたとしたら…、想像したくないが俺の頭はそれでいっぱいだ。


例えばあそこのドア前の女子高生2人は俺を『うわぁ、この人高校生にもなって…』って、指指して笑うだろうし、左斜め前に座っているサラリーマンは眉をしかめて無言で俺から距離をとるに違いない。


もし、悪魔に魂を売ることでこの痛みから開放されるのなら大安売りで、というかタダで渡すし。


ぐきゅるる


…ぐ、くそぅ、完全体にさえなればこんな痛みなど…


ぐきゅるる


なってみろよ完全体に


ぐきゅるる


マジですか?ありがとうございます!!!



なんて事が出来たらいいのに…。


いくら変な事を考えても腹の痛みは癒える事なく、幸せそうに笑っている他人が見てるだけで憎たらしく思えて来た。いまの俺はダークサイドだ。この腹痛を他人に移せるなら総理大臣だって殴れるね。


嗚呼、誰か俺の腹への残酷な天使のテーゼを止めてくれ。


キィィィン


電車は耳に痛い警笛音を響かせて真っ暗なトンネルに突入する。



車窓は途端に黒くなり、鏡のように車内を映しだした。

窓の向こうの俺は今にも死にそうな顔でこちらの世界の俺を睨み付けている。

俺の痛みが分かるのはもう一人の俺だけだよ。


そんな俺の頭にはトンネルを照らす為の照明が線になって、まるでSF映画のビームのように通り抜けていく。


こういうのが死ぬ寸前にみる…、なんていったけ…、ほら、そうそう走馬灯だよ。


それに呼応するように過去の出来事が走馬灯のように蘇ってきた…


あれは小学3年の時だった。同級生の中村が学校のトイレでう○こしてたのを発見した俺は教室のみんなにそれを教え『中村う○こマン』って囃立てたら中村の奴泣いちゃたんだよな…


すまなかった!中村!謝るから助けてくれ!


ガトンゴトン


電車の揺れとともに俺のHPが減って行く。誰か…、俺にキアリーを…。


「あれぇ、雨音じゃん。おはよー」


今まで何故気付かなかったのだろう、すぐ横に芳生が立っていた。


「おう」


小さく応じるが俺に話しかけるないでほしい。

言葉を出す度下からも出そうになるわ。


「そういや昨日の『赤い彗星』みた?」


赤い彗星というのは最近やっているドラマであり、決して仮面の人ではない。


「いや…」


「マジか?うわぁ、昨日凄かったのにねー」


「そうか」


つか、あのドラマ俺見てないし。

というより、マジで話しかけないでくれ、お前が嫌いとかそういうのじゃなくて死の瀬戸際で会話する余裕がないんだよ。

おそらく相手が美影でも同じ事思うから安心して黙っていてくれ。と、思うけど芳生の事を考えるとそんな事口が裂けても言えない。誰だって友情を失いたくないだろ。


そんな俺の様子がおかしい事に芳生は気が付いたらしい。心配そうに俺を見て声をかけてくれた。


「どしたの?テンション低いよー、なんだか楓みたいだよ」


「いや、腹の調子がね」


「お腹が痛いの?」


「ああ」


「大変だねー」


芳生は人事のように(実際に人事だが)言うと、携帯を取り出していじり始めた。

どうやら俺の話しかけないでくれという思いを感じ取ってくれたらしい、流石芳生だ。やる時はやる男だと思ってたよ。


と思った矢先、


「この画像すごいよ」


「あぁ、そうだな」


「このブログうけるわ」


「面白い面白い」


「昨日楓とメールしててさ」


「…」


こいつ…、わざとやってんじゃないだろうな。


矢継ぎ早な芳生の言葉のラッシュに、堪らず指摘するしか俺に生き残る手段が残されていなかった。


「悪い芳生、腹が痛くてちょっと会話出来ないわ」


「えー」


「悪い、マジで腹ヤバいんだ」


「それじゃ、しょうがないね」


芳生は落ち込んだように下を俯き、静々と携帯を開いた。


悪い、芳生、今度メシ奢るから。


ふぅ、でも芳生と会話してたらだいぶ腹が楽になって来たぞ。中村様のお陰だな!

この調子なら行けるぞ。

耐えられる!


ガトンッ!


突如電車が大きく揺れて耳を劈くような甲高いブレーキ音が車内に響いた。

振動が起き、その衝撃で車内の人達は前のめりになり倒れそうになる。

しばらく車内は足に力を入れないと倒れてしまいそうな傾斜だったがやがて水平に、というか完全に停車した。


「どうしたんだろ?」


芳生が不安そうに話しかけてきた。


「し、信号じゃないか?」


祈りのように俺は答えるが、頭の中は色々な憶測がたっている。その中で一番有力な推測を俺自身必死に否定しようとしていた。


まさかな。


そんな儚い俺の願いを打ち消すが如く、車内に無情なる車掌さんのアナウンスが流れた。


『ただいま線路内に置き石が発見されたため除去作業を行っております』


お、置き…


ふざ、ふざけんな…。


ちょっと、置いたやつを俺に教えてくれよ。

今から呪殺するから。

あぁー、でも置き石って人の手でされる限定なのかな、風とかで飛ばされて線路に乗るとかあるのかな。でも、石だから風で飛ばされるなんてないと思うけどな。だとしたら動物とか?


「置き石か、これは電車遅れるね、遅刻はしないにしても遅延証明書貰っとこうか」


「遅延証明書集めはお前の趣味だもんな」


「そんな微妙な趣味ないよ!」


いや、芳生と会話している場合ではない。ヤバいぞ、お腹の調子はよくなってきたけど、このままじゃアウトしてしまう可能性が、しかも隣りには芳生がいる。見ず知らずの他人ならまだしも知り合いとなると気まずすぎるだろ。

芳生は学校の人達にばらしたらりしないだろうが口を滑らすかもしれないし、曲がり間違って美影の耳にでもはいったら…、


ギャアァァァ!


ダメだダメだ!ネガティブな事考えてたらいけない!

ポジティブだポジティブシンキングに路線変更だ。


そうだな例えば


ラーメンだ!ラーメンの事考えるんだ!そしたら腹の痛みなんてすぐに忘れるはず!


味噌、塩、醤油


…うん、どれもうま…ハグァァァ!


腹がぁ!


セカンドインパクト(第二波)!?


中村め、フェイントかけやがったなぁ!


死ぬぅう!


こ、この状況でこの状態は俺が一番恐れるパターンじゃないか、あと一駅だってのに…。


「ちょっと雨音!?大丈夫?顔色わるいよ」


「本格的に痛みが…」


「頑張ってよ!あともう少しだよ」


「こ、ここに来て今までで一番デカい波なんだ、どうあがいても絶望っていう言葉が頭の中でぐるぐる回る…」


その時漸く電車が動き始め謝罪のアナウンスが流れるが遅れた事よりも俺のお腹に謝罪してほしい。


それから二分後、電車は俺達の目的地である終着駅に到着した。


約10分の遅れだ。


しかし、その10分で俺の運命は翻弄され、デッドエンドを向える確率を大幅に上昇させた。


プシュー


電車のドアが開くと同時にたくさんの人が我先にと飛び出る。俺もその一人だ。


「雨音!」


「芳生先行っててくれ!」


つか、何なんだ!この人達は俺よりも状況がヤバいのか?どうせ電車の乗換えとかただ何となく急いでんだろ?なら俺に譲れ!


人ってなんでこんな数があるんだろう、少しくらい減ったって誰も文句言わないじゃないかな。


ホームから階段を駆け上がる。


後少し。


後少しだ。


駅構内のトイレに入る。

汚らしい駅のトイレ、なんか臭い駅のトイレ、いつも床が何かしら濡れている駅のトイレ。


今の俺にとっちゃお前がすべてぇえぇ!


「…中村…」


そんな思いとは裏腹に口から零れた言葉は俺と同じ理由でトイレに並んでいる人達があまりにも多過ぎたからだ。


ここに来て神は俺に試練を与えた。


行列に並びたがる心理とかあるらしいけどそういうので並んでる人は今すぐ俺の前から消えてくれ。

というか譲ってくれ。

俺の前には6人。


ドアが開く度交代で個室の中に入って行く。


後4人。


俺が回りを気にしない子供だったならば地団駄を踏むか順番抜かしをしているところだっただろう。


というかペースはやいな…。


後2人。


流れるようなスピードだ。

みんな俺の様な人達だから他の人の事も考えているのだろう。


後1人。


危機を脱すれば付け焼き刃でもいいのだ。

他人を思いやる心、それがここにはある。


なんと美しい利他愛主義、忘れられた和の精神。

俺も絶対に見習おう。


感動で目頭が熱くなる。

我が前に人はなし、我が後ろに人はいる。


がちゃ


個室の扉が水の流れる音とともに開かれた。

すっきりしたようなサラリーマンの顔、覚えています。あなた一番先頭だった人ですよね。今度から自分、尊敬する人にあなたをあげさせて貰いますね。


俺は彼とすれ違って個室に入る…はずだった。


少し太り気味の男がその個室に入ろうとしたのだ。

あの男はさっきからあそこにいたので何をしてるのか気になってはいたが、順番抜かしをしようとしていたのか、あんたは俺より後に来ただろ。

堪らず文句を言う。


「ちょっとアンタなにしようとしてんスか?」


「トイレに入ろうとしてんだが」


「そうじゃないです。列に並んで無かったのになんで抜かそうとしてるのか聞いてるんです」


「あんたらが並んでんのは和式だろ?俺は洋式に並んでたんだ」


血管がブチ切れそうになる。なんという勝手な理論。さっきまでの美しき日本人像が崩れていく。


あの部長でさえ、そんな勝手な事やらないぞ!


「何酷い事言ってるんですか、そんなに洋式でしたいんだったらちゃんと並んでか…ゥッ…」


きゅるる


ヤバい、この人と口論している暇がない。

あと数秒で…


「大体学生のくせに大人に指図するとは何事だ」


お、おとなとか学生とか、いまは…かんけい、な…


おっさんが何か言っているが俺の耳には入って来ない。

言葉をつぐむ。悔しいが反論したら、時間がかかりそうだ。

位置的に考えてこの人を押し退けるの無理そうだ。

その時、水洗トイレの流れる音と共に和式の個室のドアが開いた。


中から満足そうに学生が出て来て手洗い場に向かっていった。


おっさんを無視してそっちに入る。


和式だが、俺はどっちでもいい。

負けた気がするが背に腹は変えられない。


後ろからおっさんの勝ち誇ったような鼻で笑う音がしたがこっちはそんなの気にしている暇がない。


ズボンを下ろし和式トイレに跨がる。

油断は禁物だ。ここでミスをしたら元も子もない。



「ふぅ」


安堵の息がもれた。

無事スタイルが整った。

開放快感感動。


さっきまでの苦痛が嘘の様な楽々な気分になる。


今度は走馬灯じゃない思い出が蘇ってきた。


始めて和式トイレ使った時、向きを逆に仕様しててたんだよね。ほら、モッコリしてる方に背を向けてね。


下の事だから間違って使ってる事を人に教わる事なくってそのまま何年も仕様してたんだけど、この間の掃除の時にトイレ美化ポスターを貼ろうって話が持ち上がって友達がモッコリしてる方に貼ろうとしてたから『いや、逆だろ、そっちじゃ背中だろ』って注意したら『こっちが前だから』って注意されて始めて気が付いたんだよね。


俺と同じ勘違いしてる人がいるはずだから気をつけてくれ!


ふぅ、落ち着いてきたぞ。


ポスターか…。

確かにこのスタイルだと目の前に貼ると凄い注目するよな。


ん?


目の前にラクガキに気が付いた。


『上を見ろ』


マジックで書かれたそんな文字が目に入った。

どうせその通りにすると次に右を見ろで、そんな事を何回か繰り返し最終的には『なにキョロキョロしてんだよ、バカ』って書かれてんだよな。そんな罠に俺ははまんないぜ。


次に右を見てみる。

右側にもラクガキがあった。


『このラクガキを見て振り返った時、お前は死ぬ』


こいつとはうまいメシが食えそうだ。


左を見てみる。


『くせー』


うるせー。


トイレしてる間って暇だからな。ラクガキでもいい暇潰しになるもんだな。


この薔薇描いた人うまいな、才能あるよ。


『ポーニョポーニョポニョメタボの子♪』


喧しい。


さ、すっきりしたぞ。


俺はズボンをあげて立ち上がる。


あのおっさんにはムカついたが終わり良ければそれで良し。


トイレから出た所に芳生が立っていた。

俺を待っていたのか、素晴らしい友情を感じる。


「芳生、待っててくれたのか?先行けって言ったのに」


「うん、お腹大丈夫?」


「あぁ、だいぶ楽になったよ」


「でも、まだ顔色悪いよ」


「本調子じゃないからな。あと、学校でもう一回トイレに行くつもりだよ」


とりあえずは危機を脱出。

これでいいのだ。


「良かったらコレ使って」


芳生は下痢止めを俺に手渡した。


「水無しでいけるよ」


って、


もって早くに渡せよ!



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