第24話
私はよく好きな作品(小説、漫画、ゲームなど)をパロディとして使用します。
それはその作品が純粋に好きだからです。
だから、読んだ(見た)事がない作品はおおっぴろげに使用する事はあまりありません。
逆に言えば読んだ事があれば、いくらでも使用する可能性があるということです。
なぜならその作品に恋しちゃったから…。ただあまりにもマイナー過ぎて気付いてもらえそうにない場合は『パクリ』になるんで自重しますが…。
とにかく、愛=理解ッ!グレートっすよこいつァ〜!
三学期になって三年生が登校しなくなった学校は今や二年生が最上級生といっても過言ではない。
三年に仲が良い先輩はいなかったので特に悲しさは感じないが、人口が減った校舎はやはり過ごしやすさよりも物寂しさのほうが目立つ。
一年生を引っ張るべき存在の二年生もイベントが何もないからか、自発的に何もしてこないし、一、二年間で対立は起こっていないからお互いの干渉はないに等しい。
それに次から最上級学年になる彼らは自分達の天下を満喫するというよりも一年後自分達に襲い来る受験・就活に恐れをなしているように思える。
さらに二年後には自分達一年生もその世界に入ることになるかと思うと今から憂鬱になってきた。
感傷的な気分になりながら部室の扉を開けると、部長が椅子に座って、「うーん、うーん」と唸っていた。
「何してるんですか?」
声をかけて欲しそうだったので声をかけた。
「いやはや進路志望調査表を書けと言われてね。取りあえず第一と第二は埋まっただけど第三が埋まらないんだ」
「え?部長どこの大学行くんですか?」
部長に許可を取る前に机に広げられたプリントを覗きこんだ。
単純に好奇心の勝利だ。
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第一志望 FBI
第二志望 ミスカトニック大
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「第一志望はともかく第二志望は何処か外国の大学ですか?」
「いや、…まぁ、そうだが…」
部長は曖昧に笑いながら首肯した。
進路か…、そろそろ俺も真面目に考えなくちゃな…。
部長のは参考になりそうにないけど。
「ただ第一志望にも問題があってな…」
「なんです?」
部長はヘラヘラとしたふざけた表情から一転キリリとしっかりした顔になり、
「アメリカの住民票がないとなれないんだ」
と告げた。
はあ、部長の担任に変わって心の中で溜め息をつく。
「先生に提出する書類なんだから真面目に書いたらどうですか?」
「むぅ…、何を言うか、私はいつでも真面目だぞ!真面目にネクロノミコンを神保町に探しにいくほどの猛者だ!」
本の街に魔導書があるとは思えないけど。
「はいはい、今はそんなの関係ないでしょ」
「実はあったりして」
「へ?」
「いや、なんでもない」
部長はまた曖昧な笑いを浮かべて力なげに椅子に寄り掛かった。
疲れているのだろう。
この時期は、二年生の受験意識を高める為のガイダンスが激しく一年生の俺でさえ聞くだけでうんざりするようなスケジュールだ。
「そうだ!」
部長は背もたれから背中を外すと、とても楽しそうに第三志望のマスの空白に定規を使って線をひき始めた。
何をしているんだろうか。
部長はしばらく前のめりに線をひいていたが、やがて定規からシャーペンを外して、完成品の上端を持って掲げ「できた」と大きな声で言った。
「何が出来たんです?」
「ふっふっふ、雨音にわかるかなぁー」
部長は進路志望調査表を俺にピッと手渡す。俺は黙ってそれを受け取った。
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どっちが大きい?
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第三志望のマスにはそう書かれていた。図もそのままだ。
はぁ、やれやれ。
完全に遊んでるよ。全く迷惑な生徒だな。
「さぁ、どっち?」
部長が俺の解答を急かす。
はあ、全く何を言うか。
やれやれ、この程度の問題なら小学生の時散々解いたから得意なのだ。
フッ
鼻で笑う。
騙されないよ部長、下の方が大きいように見えるけど本当は…
「同じ大きさでしょ?」
大概答えはこうなのだ。
「ぶー、正解は下でした」
「…ですよねー」
さすが部長。俺の斜め前の解答を突き付けて来る。
「そんな雨音さんには残念賞のプレゼントがあります」
「なんすか?」
部長は一回コフンと咳をすると、右手を部屋の隅にある掃除用具入れに向けながら
「こちら!」
と叫んだ。
は?
部長の突然の意味不明な言動に困惑しながら、用具入れに視線を移す。
あるのは変哲のない部室の背景の一部だ。言われなければ気が付かないような箱である。
がちゃ
ワンテンポ遅れて中の扉が開かれて女の子が飛び出してきた。
…え?
「どうも!」
親方ー!中から女の子が出て来た!
「はっはっは、雨音、サプライズさ!」
「な、っな、な」
中から飛び出して来たのは、安藤さんだった。
なぜ?
「安藤さんがロッカーの中にいるんですかっ!?」
思わず怒鳴った。
当たり前だ。理解が出来ない。なんで娯楽ラブ部室に安藤さんがいるんだっ!?
「だからサプライズさ。雨音を驚かせようと隠れるように頼んだのだ」
心臓に悪すぎるサプライズの仕掛人の部長はそう言うと、当惑し続ける俺を無視して、進路志望調査表を折り紙のように二つ折りにし、透明なファイルに挟んだ。
「隊長お久し振りです!まさか隊長に隊長がいるなんて思いもしませんでした」
「隊長?」
眼鏡のツルをクイっと上にあげ、安藤さん笑いながら言う。
隊長の隊長…、視線を閉じられたクリアファイルを鼻歌混じりに鞄に閉まっている女に向ける。
「部長が?」
「はい。柿沢隊長はピンクエレファント隊長の隊長にあたる方らしいですね」
「俺の隊長っ!?」
何を言ってんだっ!?
部長は部長であって隊長じゃないだろ!
「いやぁ、思い切って声をかけて良かったよ。まさかこれ程まで有能な人材を見つける事が出来るとわな」
しまい終わった鞄を机の上にドンと置いたまま、いつもと変わらぬ口調で部長はそう言った。
「安藤さんと部長は面識がないと思うんですが…」
「面識が無ければ作ればいい。ちょいと話かけるだけだったさ、ねぇ」
「はい!昼休みの時にいきなり声をかけられたのは驚きましたが、今ではもうすっかり友達です」
「ふっふっふ、というわけだ。雨音」
「どういうわけですか…」
もうわけが分からない。
こんがらがった頭を正そうとしてもうまく思考を纏められそうにない。
かぁー、こんな事ならもう少し遅れてくればよかった。
こういう日に限って、美影は先生に呼ばれて遅れているし、他クラスのみんなはホームルームが長引いているときた。
最近一番乗りで部室に来て、不幸な目にあうのがパターン化してきてるぞ。くそぅ、気をつけなくては!
「っていうか、部長なんで安藤さんなんすか?」
名前の前に「よりにもよって…」という言葉が本当は入るのだが、本人の手前自重しといた。
「うん?」
「安藤さんが部室にいる意味もわかりません!というか、知り合って一日目で部室招待ってなんすか!?」
「まぁ、落ち着け…」
部長は鼻で深く息を吐きながら、お茶を一口啜ってからいった。
…確かにちょっとパニックにはなっていたが、やけに落ち着き払った部長の態度がむかつく。
「順に答えて行こう。まず第一の質問からだ。なんで安藤さんか、って話か」
部長はそこでまた一口茶を啜った。
早く言ってくれ。間をあけて勿体ぶっているようだ。
「インスピレーション、かな…」
「そうですよ!隊長、人と人との出会いに理由なんてないのです。お互いの感性の合致が私達二人を巡り合わせたのですよ!」
「…悪いけど、少し安藤さんは黙ってて」
話がさらにややこしくなるから。俺の発言に安藤さんは元気に「了解です!」と答えて、静かになった。
さて、
部長に向き直す。インスピレーションだかなんだかに決して誤魔化されたりしない。
滅多に部室に部員以外を招かない部長が、芳生の思い人の安藤さんをピンポイントに招待するはずないだろう。
それ相応の理由があるはずだ。
「はっきり答えてください」
小さな言葉の節々に怒りのオーラを染み込ませて彼女の鼓膜を揺らすため、銃の弾のように口から言葉を打ち出す。
部長は俺の雰囲気が伝わったのかたじろぎながら返事をした。
「正直に言う、か」
部長は意味深にそこで言葉を切り、それから、おかしそうに、唇を歪ませた。
「ふふふ…見ていたのだよ」
「見て、た?」
なにを?
意味がわからなくて、首をかしげていたら安藤さんがここぞとばかりに口を挟んだ。
「隊長!柿沢さんは受信者だったんです!驚きです!びっくりです!私達のメッセージは届いていたんですよ!」
「は?」
ほらやはり安藤さんが話に絡むと何言ってるか分からなくなっちゃうじゃんか。
部長が受信者?なんの?
…まさか…
「電波の?」
「違いますよ隊長、柿沢さんはなんと我々の屋上での送信風景を千里眼で見ていたそうなんです!」
「…屋上での送信…」
思い出せば何週間か前、宇宙人に勇気をもらうだかなんだかで、俺と安藤さんの二人は屋上に上がったのだった。
つぅか、その時の事を、
「見てたんですか?部長!?」
「ああ、千里眼できっちりとな」
それは冗談として、部長はあの時、気付かれないように俺達の様子をドアから伺っていたというのか!
嘘だろ!?うわぁん!やばっ、あの時の事見られたのなら、頭がおかしな二人組みに見られちゃうよ!だってした行動が、
1.手をつないでグルグル回る
2.両手を空に掲げ、意味不明な事を叫ぶ
って、客観視すればするほど救えない行動取ってたな!俺たち!?
「ぶ、部長誤解しないで下さいっ!」
慌てて部長に叫ぶ。
部長は二回頷いてから、悟ったような口振りで言った。
「仲良き事は美しきかな。ふむふむ、美影には黙っておけばいいのだろ?任せろ、男子高校生なんて得てしてそんなものだから安心しなさい」
「なっ、なんの話してるんスか!?」
「え?屋上での逢引」
「してませんっ!!」
いや、まぁ、他者から見たら似たような行動だったとは思うけどさ…。
それから俺はなんとか部長に弁解し、誤解をといた。
「…そうだというなら仕方ないな」
「やっと分かってくれましたか」
「ふん!期待させといて裏切るとはつまらん奴よ!」
勝手に期待しといて逆ギレしないで下さいよ…。
というかなんの期待だよ、修羅場の?だとしたら俺には一生ないぜ、何ちゃって清純派だからね表雨音は。
「あ、それでなんで安藤さんが部室に来てるんですか?」
思えばその質問には答えてもらっていなかった。
「私はお友達になった柿沢さんについて来てと言われたので従ったのです」
「そう易々と知らない人についていっちゃダメだよ…」
「はっ!以後気をつけます!…ですが、柿沢さんにとはすでにお友達でしたから知らない人ではありませんよ」
「出会って数時間は赤の他人のようなものなの」
この子、マジで大丈夫かな。誘拐とかに注意して欲しい。
「安藤さんがここにいる理由か?ふっふっふ、さすが雨音、いいところを聞いてくるじゃないか」
さっきから質問しまくってますけどね。
「もうじらさないで答えて下さいよ」
「いいだろう。ズバリ言うぞ!」
とか言いつつ深呼吸する部長。
わざとやってるのだからいい加減にしてほしい。
「野球のメンバーさっ!」
「は?」
長く溜められた息と共に吐き出された言葉は一瞬で理解するのは俺にとっては難解な事だった。
「野球って、」
いつか、部長が言っていた言葉を思いだす。「そうだ野球をやろう!」…まさか、
「あの時の話のぶり返しですかっ!?」
「ふん、随分な言われようだな。メンバーが足りません、と言ったのはお前だぞ。だからこうして、」
不謹慎なセリフを言いながら部長は横に佇む安藤の肩に手を回し抱き寄せるようにしてから続けた。
「彼女をメンバーに加えてやったんじゃないか」
「な、なんて勝手な…」
確かに6人じゃ野球は出来ないと言ったのは俺だけどさ、安藤さんの都合もなしに勝手に決めんなよな!
「野球ですか?うわぁい、私は結構得意なんですよ!いつやるんです?がんばっちゃいますよー」
…なんて単純な子なんだ。
っうか、
「安藤さん加えてもまだ人数足りないじゃないですか?」
「えっ!?…あ、本当だ…。…しまったハンドボールと勘違いしてた…」
「もう一回ルールブックを読み返せぇ!」
本当にこの人スポーツのジャンルの知識が疎いな…。