第22話
前回は名前について語ったので今回は内容について触れたいと思います。
……と言っても触れるべき事がイマイチ思い浮かばないので今回はコレを書くことにした推移でも語ることにしましょう。
そう、この作品、「ノン・ストップ!!」を書き始めた理由、それはっ!
5割暇つぶし
3割逃避
2割修行
と、いったところでしょうか。
暇つぶしについては、そのままの意味です。専用パソコンを持たない自分は握りしめた携帯電話がソレの代わりようなものでした。妄想を形にしてみたい、その気持ちからキーをコツコツと打ち始め、気がつけば自分の(携帯)タイピング速度はなかなかなものになっていました。
パソコンだったらブラインドタッチは余裕レベルの速度になっていたことでしょう。非常におしい事をしました。
逃避とは現実逃避の意味です。まぁ、これは、…勉強から逃げたかっただけですね、はい。
修行もまんまです。自分の文章力を上げたいという意味から始めました。
ま、バランスを考えずに語るのはいつものことという事で今回の前書きは終了。
次、語る事が思いつかないけど、今が終わればそれでいいやぁー。
お昼後で非常に眠くなる五限目の現代文、調べ学習で図書室にやってきた。
現代文で調べ学習…ねぇ。
担当教師の山本の怠慢としか思えない、これが立派な授業といえるのかよ。
しかも調べるテーマは『公害』について、と来たもんだ。社会科目でやるべきだろ、とは思ったが、山本はしたり顔で『これがほんとの公害(校外)学習だな』なんて外でないのにほざきやがった。
現代文だったら、文学作品とかについて調べさせろよ、…まぁ、どちらにせよやる気は出ないのだけど。
「くぁあ〜、マジ意味わかんねぇよ」
資料探しのすべてを女子メンバーに委ねた俺と斎藤の二人のサボリ魔は、図書室の学習用デスクの前でぼんやりと座って彼女達が本を探して戻って来るのを待っていた。とは言ってもこのまま何もしないのも退屈なので、持ってきた『は○しのゲン』に手をかけた時だ、斎藤が突然そんな事を言い始めた。
「何がだよ?」パラパラとページを捲り、右耳だけを斎藤に傾ける。視界には戦争の悲惨さだ。
「高山を見ろよ」
「高山?」
視線を上げて、クラスメイトの高山が女子と仲良さそうに会話しながら本を一冊棚から出しているのを捕捉した。
「高山がどうかしたよ?」
ギギギ…、歯ぎしりをしそうになったがギリギリで留める。そういえば『は○しのゲン』にもこの擬音よくでるけど、『ラララ…』と見間違えて、『なんでこの人達、苦しんでるのに楽しそうなのだろう』と小学校の時へんな勘違いしてたな。どうでもいい上に不謹慎だけど。
「あいつさ、渡辺の事が好きなんだよ」
面白そうな話になってきたので、本を閉じて机に置き、斎藤と向き合うような形になる。
「まだ確信はねえけどほぼ十中八九そうだろうぜ」
「根拠は?」
「あいつの態度みればわかるだろ。もろだぜ、もろ。見ろ、高山のあの緩んだ顔…」
渡辺ね。
クラスメイトの女子の名前が斎藤の口から飛び出た。裏美影という名前ではなかった事だけは喜びたい。
だけど、俺は渡辺についてよく知らないので、できる限り自身の脳に記憶されている『渡辺』という女子を検索かけてみることにした。
渡辺…出席番号が女子で一番最後で、美影とも結構仲がいい女子。ルックスは普通。正直あまり印象に残っていない。単純に俺がクラスメイトの女子とさほど打ち解けてないからかもしれないけど、…まあ、普通の会話は出来るレベルの仲かな。
それでその渡辺がどうした?
と斎藤に聞く前に俺は気がついた。
「あ、おい、高山の隣の女子って渡辺じゃねぇか?」
高山が談笑している相手の女子が俺の記憶する渡辺と符合したのだ。
って、なんだとっ!?
高山の野郎、神聖なる調べ学習の時間中に女子とランデブーとか見下げ果てたやつだな!
「だからさっきからそう言ってんじゃん。今頃気がついたのかよ…」
「う、ま、まあ、友達として奴の恋は応援してやろうぜ」
悔しさを滲み出さないように、平静を装う。
内心はかなり悔しい。別に渡辺を好いている訳ではないが、同じ条件の友達に一歩先に進まれている感じがあったからだ。
「まあ、俺も基本は応援してるよ。だけどよぉ〜」
浮かない顔のまま、斎藤は机の上にへたれる形でベタリと張りつき、こもる声で、
「あいつ見てると俺はこれでいいのかなって思えてならないんだよなぁ…」
と悲しげに言った。
「なんだそれ?高山見てなんでナーバスになんだよ」
正直な気持ちを吐露した瞬間、斎藤はガバリと起き上がり、俺の目を見ながら、早口で言った。
「恋とかマジ青春じゃん。羨ましいなってことだよ」
言い終わると一度嘆息し、今度は椅子の背もたれに思いっきり首を仰け反らせながら、「あ゛〜」と不気味な声をだした。
それで俺はこのヘンテコなサインにどう返事をすればいいのだろう。
「俺の言いたいことわかるか?ようは俺は青春してぇんだよ。ドゥユゥアンダスタンン?」
髪の毛振り乱しながら突然起き上がって再度同じ質問をぶつけてきた。
「まあ、なんとなくは」
とりあえず答えといた。
「ふっ、どうだか」
聞いといてむかつくことを言いながら、斎藤は椅子をバンと勢いよく弾きながら立ち上がった。
「恋したいなっ!」
「…」
なんだこいつ。
「…なんで俺にお前の気持ちがわからないって言い切れんだよ」
恋したい男の子の気持ちは俺には理解できない、と斎藤は言った、失礼な、少なくとも美影を好きになる前は俺もお前と同じ気持ちだったよ。
と、心の中で反論しながら訊いてみた。
「わからねえよ!」
俺の意見とは反して斎藤はズッパシ言い切る。
なんだよその態度…。
「失礼な。高校男子の辛い胸の内くらい俺にだって理解できるわ!」
「あり得ないね!柿沢さん、水道橋さん、尚且つ裏さんもいる倶楽部に所属してる奴なんかに俺の気持ちは絶対に理解できないね!充実した生活しやがって!」
「は!?」
はぁぁぁ〜!?
何その勝手な理屈!
娯楽ラ部の連中と一緒にいてなんで俺が充実してるって言い切れるんだよ!むしろ逆だよ!もどかしさが多すぎて大変なんだよ!
「じゅ、充実なんてしてないって!お前とおんなじだよ!俺も!」
「知るか!負け犬の俺を笑って高山の世界に帰ればいいだろ!」
涙をこぼさんとす勢いで斎藤は俺の両肩に手をあてて叫んだ。
「雨音のバカ!もう知らない!」
憎々しげに斎藤はがなり立てる。
山羊がいそうな小道に独りぼっちにさせられたような気分だ。
というか、忘れてもらっちゃ困るがここは静粛が原則な…
「こ、ここ図書室…」
なのだが。
そのまま揺するので気持ち悪くなってきたがなんとかそう言った。斎藤は周りを見渡してから小さく舌打ちをすると俺の肩から手を離した。
「恋愛!」
何かを決意を固めたように拳を握りしめて斎藤は宣言した。それで俺はそれを聴いてどうすればいいんだ。
「はいはい。いい脳外科医紹介してやるから落ち着けよ」
とりあえず医者を紹介しておこう。
引きっぱにされていた椅子の背もたれをポンポン叩きながら言った。立ちっぱなしは、迷惑なんで彼に着席を促したのだ。斎藤は文句も言わずすごすごと元のように椅子に座った。
ちなみに良い脳外科医なんて知らないけどテレビでスーパードクターみたいの紹介してたから訊かれたらそれを答えよう。
「はあ」
椅子に座ったはいいがまだ落ち着かないようすの斎藤はため息を吐いた。
「ああ、くそ…」
机に両肘をたてて、頭を抱える。
「恋、してぇな…」
なんかもう末期だよ。
「わかるぞ少年!」
「わっ」
やっと落ち着いてきた斎藤の肩をぽんと叩きながら、突然別の男が割って入ってきた。
って、あんたは…
「金谷先輩っ!?」
「お、雨音か?なんだか久しぶりだな」
「ええ、久しぶ…、じゃなくて、なんで先輩がここにいるんですか?」
斎藤の横に芳生と同じ図書委員で部長と同じクラスの金谷尚隆先輩が突っ立ている。
斎藤とは面識は無かったらしい、斎藤は「えっ、誰?」と言う目で先輩と俺との顔を交互に見渡している。
「図書委員だから図書室にいる、当たり前だろ」
言ってることは一見正しそうに思えるが、根本的になにかおかしい。
「図書委員でも授業中は授業を受けるはずでしょ!?なんで今いるんですか?…まさかサボって…」
「ちがぁぁう!図書担当の先生が今日お休みだから図書委員が交代で各時間の受付やる事になったんだ!まぁ俺としては英語?が潰れてラッキーって感じだけとな」
「ああ、そうなんですか…」
無理して受付つけなくとも図書室は廻ると思うだが、気のせいなのだろうか、内部事情がわからない俺にはなんとも言いようがない。
「ともかく」
金谷先輩は俺との会話を打ち切ると、目線を下にむけて斎藤の方に向けた。
「話は聞かせてもらった」
盗み聞きじゃねぇか。
と密かに思ったが指摘する雰囲気じゃないので心の内にだけにしまっておこう。
「恋したい。非常に切実な願いだ。そして俺もその気持ちよくわかる」
「わ、わかってくれますか!?」
今まで落ち込みっぱなしだった斎藤が突然活気を取り戻したかのように顔を明るく綻ばせた。なにその食いつきの良さ。俺の時とは随分違うんじゃねぇの。
と彼との友情の方向性について軽く嫉妬しといた。
「ああ、甘酸っぱい青春のほろ苦さには恋というスパイスはどうしても必要なものだと俺は思うわけだよ」
甘いのか酸っぱいのか苦いのかせめて味覚は一つに統一しろよ。
「ええ!僕もそう思います!全くその通りですよ!」
斎藤よ、何故一人称を恭しくした?
「やはり、君とはいえ感性が合う。ならば、表に対するこの沸き上がる憎悪の気持ちもお互い通じ合うことが出来そうだな」
「ええ!…先輩!」
お互いろくに知らない赤の他人だったのに、初対面から早数分、すっかり二人は打ち解けようとしていた、…俺の悪口で。
「死にさらせ!表雨音!」
「運が良すぎるぞ、お前は!」
シンクロ率120パーセント!
「調子乗ってんじゃねぇ!」
「人の気持ちを考えろ!」
ふた方向から発せられる罵詈の数々に、今話題の『キレやすい現在の若者』だったら彼ら二人に殴りかかってるかもなぁ、とありもしない妄想をしてみた。
「柿沢さんは、雨音じゃ手にすることができない高嶺の花さ!」
「そーだ!秤は同い年が一番好みなんだぁ」
斎藤と金谷先輩のダブル意味不明発言が始まったらしい。
話半分で聞き流すあたりが大人の余裕ってやつかな。
というか、金谷先輩の根拠のないその発言はなんなんだ、そういえばこの人、部長に惚れてるんだっけ。
部長の本性知ってよく幻滅しなかったな。
「水道橋さんは、お前なんてどうも思っていない!」
「そ、そーだ!彼女年上趣味だってこないだ言ってたぞ!」
なんで和水の名前が今あがるんだよ…。つうか、金谷先輩はさっきから何をいってるんだ?
「裏美影さんは、雨音のことなんかどうでもいいのさ!」
「うん、多分そう」
うっ。く、くそ。随分あっさりと言ってくれるじゃないか。斎藤も先輩も。
最後だけカチンときたがそこは大人の余裕だ。別に表情を崩さない。ははは、そっすね、って軽く笑ってやれ。
「話は訊かせてもらった」
「わっ」
俺がカッコ良く大人の余裕を晒すシーンで空気が読めない大人が突如として介入してきた。
只今の時間の担当教師、山本治朗その人である。
「先生急になんですか…」
「おぉ!我らが山本先生ではないか!」
「山本先生っ!あなたなら俺達の気持ちわかってくれますよね!」
嫌がる俺とは違い、隣の二人はやけに山本を慕っているようである。
なぜだか現れた山本は、偉そうに頷くと、落ち着くようにと欧米人さながらは手をふんふんと胸の前で波立たせた。
「ああ、よく分かる。表雨音は一回死んどくように」
き、教師が生徒に向かって暴言をはきやがった!
貴様!教育委員会に訴えてやる。
「だがしかし、恋したいとはなんだ!?甘ったれるなぁ!」
「えっ、先生」
カッと鬼のような形相に変わると、山本は教壇に立っているときよりもイキイキと話し始めた。
なんだなんだ、仲間割れか?
「俺の目が黒い内はこの学校の生徒に青春時代を味あわせん!貴様らを待っているのは俺がプロデュースした暗黒時代だけだっ!わっはっは」
最低教師だ。やはり教育委員会に報告…。
と、俺が思案していると金谷先輩が山本に意義を申し立て始めた
「くっ、裏切りやがったかっ!?山本先生」
「裏切りではない!!俺の人生を追体験してもらうだけだ」
ヌワハハハ、とわざとらしくふんぞり返りながら山本は二人に言い放った。
とりあえずあの人が悲しい青春時代を送っていた事だけは理解できた。したくなかったけど。
「っく、コレまでなのか…」
ガクリと図書室にひざを折る先輩。
「俺達には、先生が用意した線路しかないのか…羽路学園に入学したばかりに」
先輩はただひたすら悔しそうに床に拳を叩きつけている。
なにやってるんスか、先輩。
恥ずかしいんでやめてください。
「諦めたら試合終了だぜ!」
「はっ、君は名を知らぬ後輩!」
ガックリと手を床につけたままだった金谷先輩の横にいつの間にか席を立った斎藤が、彼を支えるように肩を抱き付き添っている。
斎藤はビシッと親指を立てながら歯を見せて笑った。
「き、君は…」
「二人なら奴と闘えます。っふ、それからまだ名乗ってませんでしたね。俺の名は斎藤……」
「彼の名前は、斎藤アフロダイAです」
なんかこのままじゃ空気に成りそうだったんで発言させてもらった。
「え、ちょっ、あま、お前何をいって!?」
ふむふむ良かった良かった。
何故だか知らないが先輩は斎藤に勇気づけられたらしく、取り戻したの活力で立ち上がると、一回大きく天を仰いだ。
「ありがとう、斎藤アフロダイAくん!君のお陰で進むべき道が見えたよ!」
「えっ、ちょ、待ってくれ、俺の名は斎藤…」
「わっはっは!言ったな金谷尚隆!年齢=彼女いない歴、私と同じモテない春を歩む者よ!貴様と私はいわば同一人物のようなものなのだよ!」
すっごく、楽しそうな山本は勝ち誇ったようにコーホーコーホーと深呼吸した。それはお父さんです。
「何を言う!俺は違う!」
口では否定しつつもなんだか焦っているような先輩。
なんか可哀想だ。
……って、俺も哀れんでいる暇ないよ、一年後の姿かもしれないんだからっ!
「黙れ!俺達はアンタの言いなりになんてならない!俺達は恋をして、恋に泣きたいんだ!」
先輩、それ失恋です。悲しすぎです。
だが、山本にはその発言が何故か効果あったらしい。
雷に撃たれたように衝撃的な表情をしている。ブルブルとふるえ始めた。
え?どこがよかったの、今のせりふ。
「恋をして恋を失ったほうが、一度も恋をしないよりマシである、か。っふ。負けたよ」
自嘲ぎみに先生は笑うと、目元に片手を当てて涙を拭うジェスチャーをしてから、優しく微笑み斎藤と先輩の肩を叩いた。
「君たちの情熱に…」
ニッコリ、その表情だけならいい教師みたいだな。
「お前たちなら、俺の歩けなかった道が見えるかもしれん」
「先生っ!!」
「ふ、頑張れよ」
…なに、この茶番。
「あの、」
格好いい青春のワンシーンを演じて(と、本人達は思って)いる三人におずおずと、女生徒が近寄ってきた。
三人の視線が彼女に集まる。
女生徒は言いづらそうに、指をイジイジと可愛らしく絡ませながら、
「ここ、図書室なんで、静かにしてくれませんか」
と注意をした。
「…」
おめでとう。
一瞬にして図書室に静寂が戻ってきたよ。