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第20話


うーむ、書くことのネタ切れです…




授業中お腹が痛くなった。

鈍痛が絶え間なく襲いかかる。


おかしいな、俺は病弱じゃなかったハズなのに。朝食べたヨーグルトのせいだろうか。必死に我慢していたが遂に耐えられなくなった俺はタイミングを見計らい、手を上げて

「トイレ言ってきます」と先生に告げた。

「いっといれー」英語教師の下らないギャグに教室は乾いた笑いが起こったが、そんなもの俺にはどうでもいい、許可を取ったのだから早々に教室を出てトイレに向った。


授業中のトイレは静寂に包まれている。

とてもじゃないがこの間安藤さんが乱入したとこと同じとは思えない静けさだ。


個室の洋式便座に座って俺はポケットから携帯を取り出し、メールを問い合わせてみる。

数秒して、『新着メールはありません』と表示された。

まぁ、俺にメールするような友達はいまみんな授業中だからな。ははは…、言い訳じゃないよ。寂しくなんかないんだからね。

少しだけの寂寥感を封じ込めるように携帯をパチンと閉じて、ポケットにしまう。


パタン


携帯を閉じる音とリンクするようにトイレの入口のドアが閉じられる音がした。

閉じられる、ということは開けられていたということだ。そして誰かが開けたということ。


足音がしてガタガタと慌ただしく隣りの個室に誰かがはいる音がした。


授業中にトイレを利用するなんて余程切羽詰まってるんだろうな、俺が言えた事じゃないけど、


ううっ


また、腹が…


俺は痛みを和らげるように身体を曲げた。


こうしていると気分がよくなる気がする、まぁ、十中八九気のせいなのだけど。


そのままの姿勢で何分かたった。

俺は今が授業中だという事を忘れて腹痛と格闘し続けていた。

だけど始めに比べたら幾分か楽になった気がする。

痛みもようやく収まってきたし、そろそろ授業に戻らないと心配される、まぁ、今日一日はこれで大丈夫だろう。

立ち上がろうとした時だった。


「あの…」


声が聞こえた。

隣りの個室からだ、どことなく緊張しているように慎重な物言いで、隣りからそう言う声がした。

俺に話しかけてきたのか?

一瞬なんの話をしてるのか分からなくなった。


「な、なんすか?」


もしかしたら電話してるのかもしれない、だとしたら俺が返事をするのはおかしな事だから、念の為小さな声でそう聞いてみた。

隣りの個室の彼は俺からの返事に「ああ、良かった。もう行ったかと思ったよ」と安堵の声をもらすと、それからすぐに


「すみませんが、紙をわけてくれません?」


と聞いてきた。


「紙ですか?」


「うん。こっちトイレットペーパーが切れてて、芯しかないんです…、わけてくれると凄い助かります」


「別に構わないけど…、つうか外れてたらすみません、あなた…」


向こう側の彼と会話をしていて、感じたのはやけに聞き覚えのある声だという事だ。


「芳生ですか?」


その声からある一人の男がイメージ出来ていた。

土宮芳生その人である。


「そうだけど…もしかして雨音?」


「ああ!やっぱり!お前も授業中に腹痛くなったのか!」


どうやら壁向こうの人物は芳生で間違いないらしい。

よくわからないが、授業中に教室以外で知り合いに会うという変わった出会いにテンションが上がってきた。


「うん、凄く痛くなって耐えられなくなったんだ!」


「俺も俺も!それにしても凄い偶然だなぁ」


「ほんとだよねー、びっくりだよ!」


芳生も驚きの声を上げた。

それから少し無言になると、


「あ、雨音、紙ちょうだい…」


と催促した。


「わりぃ、忘れてた」


俺は誤魔化すように笑いながら、自分の個室のトイレットペーパーに手を掛ける、

…ん?


からん


「…」


「雨音、どうしたのお?」


無言になった俺を心配してか芳生は声をかけてくれた。

…どうしたもこうしたもない。


「芳生、落ち着いて聞いてくれ…」


「な、なに?」


実際のところ俺の方が落ち着いていなく、今現在頭の中はパニック状態だ。

非常にまずい事になった。


「俺の個室にも、紙がないんだ」


そうなのである。

壁から突出する形で左側に備え付けられている二つのトイレットペーパーがあるべきところにロールは存在していなかったのだ。


「え?それって」


「俺も、紙がないんだ…」


芳生の個室も無かった、といった。つまり二人とも汚い話がケツが拭けない。

…どんだけさぼってるんだ!トイレ掃除!保健委員!


「どっ、どーすんのさ!」


「どうしよーもない、マジで…クソっ!」


「しょーもないギャグ言ってる場合じゃないよ!このままじゃ僕達閉じ込められちゃてる事になるじゃない!」


「ギャグなんて言ってねぇよ!それよりマジでどうすんだよ!これじゃ『みっちゃんミチミチう○こして紙がないから手で拭いた〜もったいないから食べちゃった〜♪』ってやつじゃないか!」


「なになんなのその歌!知らないよ!」


「え?知らない?小学生の時流行ったんだけど」


「どうでもいいよ!雨音真剣に考えてよ!」


壁向こうの芳生はお冠むりである。

まあ、確かに、真剣に考えてはいないけど、俺には最終手段があるし…。

ポケットをまさぐる。


じゃーん


今朝駅を歩いている時、制服にも関わらず教習所のティッシュを配っていて、俺はそれを受け取っていたのだ!

ありがとう、ティッシュ配りのお姉さん!小学生にも節操なく配るあなたのその懐の広さに今凄い救われていますよ!

あ、俺ももうなんちゃってもう単車取れる年齢か。


「ふっふっふ、慌てるな芳生」


「な、なにさ急に不敵な笑い声だして…、僕たちの状況わかってるの?」


「ああ、わかってるわかってるさ。それを踏まえた上でコレを見るんだ」


下の隙間から隣りの芳生の個室にポケットティッシュをちらりと見せる。

芳生は「あっ!」と大きな声をあげた。


「わかったか芳生、つまり俺は今無敵なんだ。ポケットティッシュがなけりゃ全財産の千円札を使うか真剣に悩むところだがその心配は無いんだぜ」


「あ、雨音…」


「俺の常備に感動して声も出ないか、ふっふっふ」


「だめだよ!」


…はにゃ?

だめ?

だめって、…なにが?


「ティッシュは水に溶けないから流しちゃいけないんだよ!そもそも便器に流していいのはトイレットペーパーしかないんだからね!」


「お前この状況でなに言ってんの?ピンチだよピンチ。緊急避難だろ」


「ピンチだろうが関係ないよ、朝礼で校長が言ってたでしょ『トイレットペーパー以外流すな』っと」


…校長の話、そういえばそんな事言っていた気がするが今の状況でそんなの悠長に思いだしてる暇はないだろ。


「水に溶けないと水道会社の人が困るでしょ!トイレのトラブル8千円だよ!」


「だから仕方ないって…」

実際ここでティッシュペーパーを使おうが悪いのはトイレットペーパーを置いて置かなかった保健委員だし、ガムを流したりするより100万倍マシだろ。


「ともかく僕は絶対に反対だからね!トイレにはトイレットペーパーしか流しちゃいけないんだから!」


「お前、…じゃどうすんだよ?」


紙があるのに彼いわく拭いちゃいけないというのだ。意味不明にも程がある。

げんにポケットティッシュの役割なんて鼻かむかお尻をふくかくらいしかないだろう。今有効活用しないでどうするんだ。


「どうしようもない」


「そんなはっきり言うなや…」


別に俺は構わないと思うのだが…、先生だってこの状況だったら許してくれるはずだろう。


「このまま休み時間になるまで待とう!」


「はぁ!?」


いきなりの芳生の進言に思わず口からそんな声が飛び出した。

休み時間まで待つ、だって?冗談じゃない!


「今日の英語、最後に単語テストがあんだよ!出席しなきゃ0点じゃねぇか!」


そうなのだ。

非常に迷惑だが、あの英語教師、いつも単語テストを授業終わり10分前に行うのだ。

ほんとに何を考えてるのかわからない、開始時にやればいいのに。


「…あ、そうなの…。雨音勉強してきたんだ…それじゃ脱出しないとね…」


ぶっちゃけ勉強はせず、いつもノー勉で挑んでいる単語テストだが、四択なので勘でも案外当たるのだ。

ただ出なければ0点だ、これは非常に痛い、それだけは避けなくては。


「あ、ああ、そういうわけだから俺は早々に脱出させてもらうぜ」


「まあ、仕方ないか…」


渋々納得してくれたようだ。

やれやれ、やっと芳生の支持も得られた。

俺は安堵の息を吐きながらポケットティッシュをパリと開けた。


ギィ


それとリンクするようにまたトイレのドアが開けられる音がした。

ビクリと動きを止めてしまう。

芳生も同じように息を飲んでいる。

いきなりの第三者の介入である。

あ、この人にトイレットペーパーの事頼めばいいじゃん。俺がそう思った時だった。


「おい、芳生。大丈夫か?」


ドア向こうの人物がそう尋ねた。


…ん?

この声は…


「楓か?」


おそらくだがドア向こうの人物は楓である。

声と喋り方に覇気がないもの。


「へ?あ、あれ、…雨音か?お前、何やってんの?」


「何、って…トイレ?」


それ以外にやる事があるのだろうか。


「あれ、芳生は?」


「僕はこっちだよ!」


楓どうやら個室が二つ閉まっている事に気がつかず、俺の個室の方だけに話しかけてきていたようである。

その事に気が付いたらしく楓は一回「あ」と声を上げてから、


「芳生はこっちか」


と向き直した、っぽい。


「それでどうしたの、楓。僕を訪れて」


「ああ、トイレが長いんで先生が心配して、様子見て来いって、仕方無いから見に来てやったんだ。それで大丈夫か?腹の具合は」


あー、だったら俺のクラスもそろそろヤバいかな。みんな心配してるだろうし…多分。


「お腹は平気なんだけど…」


「?」


「紙がないんだよね」


「…」


それから芳生は楓に事の顛末を告げていった。




「はあ、なるほどな」


「うん、それで悪いんだけどトイレットペーパー取ってくれない」


「うむ」


「楓、俺の分も頼む!」


「…」


「楓?」


いきなりお願いしたのが悪かったのか楓は急に黙りこくってしまった。

そんな、芳生の分だけ取って俺の分は取ってくれないなんてイジメ?


「楓〜、おーい」


「すまない…」


「は?急に謝ってどうしたよ?」


本当に反省している声で楓が謝ってきた。

…意味がわからない。

なぜ、楓が謝るのだ?


「実は…、昨日、掃除用具入れにストックしてあるトイレットペーパーを…無断拝借してな…」


「…え?」


ようは楓がトイレットペーパーをパクッたというのか。

だから俺らの個室に紙がないのか。

…セコい。セコすぎるぞ五十崎楓…。


「なんでそんな事すんだよ…」


「うちだけオイルショックだから…」


「わけわかんねぇ事言ってんじゃねぇ!個室のトイレットペーパーまでパクるなんてどういう了見してんだお前は!」


「そ、そうだよ楓、酷いよ!ストック分はまだしも個室の紙を盗むなんて窃盗だよ!」


ちなみに学校の備品であるトイレットペーパーを盗む事自体罪である。


「ま、まて落ち着け!俺が取ったのはストック分だけだ!個室を見た時ちゃんとトイレットペーパーはあったぞ!」


「今ないから困ってんじゃないか!楓反省しろ!二度と盗るんじゃないぞ!」


「うう…すまなかった…、だが、おかしいな…昨日確かに便座の後ろにトイレットペーパー幾つか積んであったのに…」


「え?」


言われて俺は慌てて後ろを振り返った。

そこには…




「…」


「…」


「ん?二人ともどうした、黙って…今から俺下のトイレに紙を取りに行こうと思ってるんだが…」


ジャャー


二つの個室から水が流れる音が響いた。


なんていったっけ、こういうの諺で、えーと、灯台下暗し?




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