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(前回の続き)
やはりこの差を埋める為にはより多くの面白い小説を読むのが一番だと思います。
まあ、そんなわけでなんか面白い小説あったら紹介して下さい。
好きなジャンルは『少しイカれてるの』ですが、『ファンタジー』、『ミステリー』、『感動』というかもうなんでもオッケーです。
あ、漫画もオッケーです!
よく読む漫画は『アクション』、『ファンタジー』、『ほのぼの』、『ギャグ』…あと…『少しイカれてるの』…。
夜の公園は何処となく神秘的だった。
公園の遊具たちは月明り-と言っても満月でもないので微量だが-を浴びる事によって不思議な異次元空間を作りだしているように錯覚させられる。
楓の地元にあるという絶好のビュースポット、星見ヶ丘公園に着いた俺達は、早速当初の目的である天体観測を始める事にした。
「あれ?楓さん、あっちに観測所ありませんでしたっけ?」
だが美影のその一言によって予定は多少変わる事になるのだった。
「観測所?あったけど去年潰れた」
「…そうなんですか…」
美影は過去形での答えに暗い表情ですごく残念そうに呟くと、無言になって地面に視線を落とした。
「どうしたの美影?」
そんな顔を見てたら思わず尋ねてしまった。
だって本当にがっかりしてるみたいなんだもん。
「ちょっと思い入れがある場所だったので…」
彼女は伏し目がちにそう答えた。
「そう…。でも天体観測ならここでも出来るし、さ」
「…そうですね」
「和水のやつが持ってきた望遠鏡が結構本格的なやつだから、かなり充実した天体観測になるって」
「え、ええ、そうですよね!私、星を見るの好きだから今からわくわくして…」
すぐに元の明るい表情に戻った美影は、持って来たビニールを芝の上に敷き始めた。
その向こう側では芳生と和水が脚立付きの天体望遠鏡を組み立てている。不安になる二人組みに設置をまかせたな…、おい。
各々、準備を始めている中、発案者の部長は何やら楓と会話をしていた。
なんの話をしているのか気にならなくはないが、今はともかく、風に捲れ上がったビニールシートを押さえている美影の手伝いをしなくては。
自身の鞄を重しとしてシートの端っこに置きシートが捲れるのを防ぐ。
さて、それじゃあ、シートもしき終わった事だし、コレに寝転びながら空でも眺めるとす…
…ズズっ、鼻をすする。
「…」
まて、落ち着け。
ズズっ、もう一回すする。
尋常じゃない寒さだぞ、こんなところで寝転ぶ…のか。む、無理だ!大人しく亀のように丸くなりながら空を見上げるくらいしかないんじゃないの…
「中止ー」
「え?」
これから先、どの様なスタイルで星を見上げようか考える俺の思考を遮断するかのような部長の声が辺りに響いた。
中止…?
天体観測が?寒いから?
「なんでですか?」
一番近くにいた美影が部長に尋ねた。
部長は偉そうに髪をかき上げてからしれっ、とそれに返事した。
「今の楓とお前の話を聞いて私は理解したのだ」
「…私と楓さんの話…?」
「うむ」
「潰れてしまった観測所?」
「ああ、その通りだ。潰れたと言ってもこんな辺ぴなところにある建物を崩すなんてそう簡単には出来ないだろう。発破解体なんてできるわけないし、ましてやまだ閉館して一年くらいしか経っていないのだろう。十中八九建物はまだ残ってるだろうよ」
部長は何が言いたいのだろう。
建物がまだ残っているからなんだというのだ。
…嫌な予感がしてきた、もしこのサブが純粋な寒さだけならばどれだけ嬉しい事か…。
「建物、ですか?どうなんでしょう…、最後に行ったのは随分前の事だから分からないですね」
「心配はいらないさ、間違いなく残っている、私の勘がそう告げているからな」
ビシッ、とかっこよくいいきる部長。
その自信が何処から来るのか教えてほしい。
「…でも建物が残っていても運営してないのだから意味ないんじゃ…」
「意味がないものなんてこの世の中にはないぞ美影、さ、行くか」
会話の波に乗りながら部長は普通にそう言った。
…行く…?
「観測所に、ですか?」
嘘だろ…、運営していない建物、って事は廃墟じゃないか。こんな夜中にそんなところに行く勇気なんて俺にはないぞ。
「今の流れからそこ以外にどこがあるのだ、ほらお前らも組み立てたのをしまえ、移動するぞ」
部長の話も聞かずに一生懸命天体望遠鏡を組み立てていた芳生と和水二人に部長は聞こえるよう大声をあげた。
やっとこさ、という出来だがなんとかその望遠鏡を組み立てた二人にとっては無情なる宣告である。
二人は珍しく文句を言わずに静々と片付け始めた。
「で、でも部長さん、誰もいない建物でも、それって、…不法侵入なんじゃ…」
「でもでも、じゃない美影」
鼻で笑った部長に対し、美影は「はぁ」と間の抜けた声をあげた。
「バレなければ問題ない」
法律の事に詳しくないから分からないけど、絶対不法侵入だろ。
「…って、美影…なにやってるの?」
「シートを片付けてるんですよ」
美影は腰を曲げて折角敷いたシートをコンパクトにしようとしている。
まさか…
「まさか美影…、行く気?」
納得したというのか、今の部長の話に。
本気で行く気か、その潰れた観測所とやらに。
「え?だって今から向かうんじゃないんですか?」
俺に聞くという風ではなく、後ろにいる部長に聞く、といったかんじで美影は尋ねた。至極当然の事のように部長は「その通りだ」と返事をする。
忘れていた…美影は変なところでノリがいいんだった。
普段常識人、肝心なところで変人に乗る、それが裏美影だった!
美影も乗る気、これは面倒な事になったぞ!俺も別に構わないけど、なんというか不法侵入から罪悪感に苛まれるのはごめんである。
さぁ、どうするか…
「や、やめようよ!」
俺が思考を必死で巡らせている時だった、望遠鏡の片付けの全権を和水に任せたらしい芳生が慌てたように、美影と部長の間に割って入って開口一番そんな事を言った。
「何か問題でも?」
部長がニヤリと嫌な笑い顔を作りながら芳生に聞く。
問題は山積みで大盛りだが、…芳生はなんと答えるのだろうか。
「…これ、間違いなく死亡フラグだよ!」
「へ?」
彼の答えに部長は一瞬だけひるんだみたいに、間抜けな声をあげたがすぐにキリっと真剣な顔になり「どういう意味だ?」と聞いた。
「意味というより運命だよ、このままでは我々はみな無惨な死を迎える事になるって!」
「お前何いってんの」
いつになく暴走している芳生の肩にぽんと手をおく。
「ひにゃあ!」
「わ」
とてつもない大声を上げて芳生は飛び上がった。
俺はそれに驚いて声をもらしてしまった。
芳生はそのままバックステップ2、3回踏んで俺の背後にまわる。
なんだか忍者みたいだ。
「な…、なんだ雨音か、びっくりさせないでよ」
「それはこっちのセリフだぜ、それでお前何を言ってんだよ?」
芳生はゆっくりと元いた位置に向って歩きながら、言った。
「いい?セオリーって分かる?」
「理論」
その質問には俺ではなく部長が答えた。
「セオリーは理論だ。だからどうした?回りくどい言い方はやめないか」
「…そうなんだ」
質問者が解答を知らなかったらしい、芳生は一人だけ納得がしたように頷いてから、すぐに顔を上げて部長にビシッと人差し指を立てながら、言いきった。
「ホラーセオリーだよ!」
ホラー…、…なにそれ。
ホラー理論?
芳生は疑問から無口になっている俺達とは真逆に雄弁に舌を滑らす。
「言うなればホラーの法則。そういう行動したら死ぬだろ、っていう死亡フラグの事さっ!」
ようやく彼が言わんとする意味が理解できた。
ホラー映画の中の法則について彼は言及しているらしい。だが、
「…それが今なんの関係があんだよ」
そこんとこがいまいち理解出来ない。
「雨音分からないの!?僕たちは今まさに同じ轍を踏もうとしているんだよ!」
だれが通った後の轍だよ…。
「…つまりぃ」
長く息を吐いてから今度は鼻から息を吸い、十分に酸素を蓄えた後で芳生は力一杯叫んだ。
「深夜に廃墟で若者がッー」
闇に包まれる公園の遊具たちを揺らさんばかりの大きさだ。
民家が辺りにないのが幸いだな。
「遊びに行くって事はー」
夜中公園で絶叫するのはいかがなものだろうか。
「間違いなく心霊現象に襲われて死ぬぅー!」
ぬぅー
ぬぅー
ぬぅー
「…」
…再び夜の公園に静寂が戻った。
叫んでいた芳生もハァハァと呼吸を荒げている。酸素を出し尽くしたらしい。
何処かでフクロウだかミミズクだかの鳴き声が聞こえた気がした。
気のせいだけど。冬だからね。
「つまり今から閉館した観測所に行くのが嫌だと、そう言いたいわけだな?」
部長が纏めてくれた。
そういえば芳生はホラームービーとか嫌いなんだった。
文化祭の学生製作のちゃっちぃお化け屋敷でもあんなにビビっていたのだから、それこそ夜の廃墟は無理という事だろう。
「嫌じゃないけど夜の廃墟は危険が一杯!」
警察のポスターの見出しみたいな言い方で芳生は言った。
「危険ねぇ…」
確かに不良の溜まり場とかになってたら危険かもしれないな、…だけど、
ちらりと横目で部長を見る。
この人がいれば何も怖くない気がする。イスラエルだかの武術で最終兵器部長になってくれるはずだから。
芳生は相変わらず口を開かない俺達を見てイライラしたように言った。
「まだ分からないの?だから不良、ないし若者達が夜の廃墟ないし廃屋に、肝試し、ないし遊びに行くと、まず間違いなく、死霊にハラワタを食われちゃうでしょ?映画の冒頭でさ!ホラーではそういう掟になってるの!」
ホラー映画見ないくせに微妙に詳しいな、おい。
「芳生、貴様、ようは自分が怖いだけじゃないか?」
しかし、最終兵器の牙は芳生に向けられたのだった。
パーティアタック。
「こ、こ、怖くなんかないよ!お化けなんかいないもの!た、ただ、ぼ、僕はすべての可能性を鑑みてだね、じ、実際にどれだけ致死率が上がっているかを測ると、だね…」
なら吃るなや。
ああ、今猛烈に柚ちゃんと芳生を会わせてあげたい。
彼女ならきっと芳生の恐怖をもっと煽ってくれるに違いないのに…。
「ふん。私は私が思う道を行くだけだ。先人が罠にかかったのは間抜けだったからだろう、ならば私には関係はないな」
「そんな驕りが死を招くんだよ!」
「シオマネキ(蟹)なら食ってやる。行くぞ芳生、グダグダ言ってる暇があったら行動を起こせ、ホラーの法則なんざお前が崩してやれ」
「無理ー!」
「行くぞ、もし幽霊が出たら私に考えがある」
「無駄ー!」
「幽霊だって元人間だからな、逆に脅かしてやるんだ」
「む、無謀ー!」
襟を捕まれた芳生はズルズルと部長に引かれていった。
先行する楓がちらりと後ろを心配そうに見たが、特に何をするでもなくスタスタと歩いていく。
「書いてあったもん!ホラー法則の精がいるって漫画に書いてあったもん!」
芳生の引かれ者の小唄は、夜の公園に虚しくこだました。
「だって、仮に僕達のストーリーが映画だとして、ここから見始めた人は間違いなく、この若者達は死ぬんだな、って思うくらい確実に…ホラーがぁ〜…」
和水がヨタヨタと望遠鏡を担いできたので仕方無く持ってやった。
部長に引き摺られる芳生は相も変わらず、必死になって部長を止めようとしているが、あの状態になっている部長を止めるのは至難の技だろう。
というわけで、俺は諦めました。