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第1話のエピローグ的な小説です。別に読まなくても大丈夫なんで『まだ1話かよ、くだらねぇー』っていう人は読み飛ばして下さい。
次からは普通に本編を進めます。
時刻はすでに18時をまわり、、校内残っている生徒はほとんどいなくなっていた。
校庭では、運動部系が元気な声をあげているがそれもじきにやむ事だろう。
しまっていこー、おーう
校舎の窓を震わせてそんな声が校舎に飛び込んできていたが、閑散としている廊下ではその頑張りを聞き届ける人などいなかった。
いつもは、だ。
一人の少年、いや、青年が電気が消されているため薄暗くなった廊下を足音をたてながら早足で歩いていた。
「っくそ、うまく土宮に乗せられたか…」
悪態を吐きながら、走っているとも解釈できる速度で歩く。
後輩の仕事を引き受けたはいいが、思っていたよりも量が多く幾分と時間がかかってしまい彼はその時間を取り戻そうと急いでいたのだった。
別に家に早く着いたからといってこれといって用事などないのだが、ひさしぶりにパソコンをいじるのも悪くないかもな、と彼は思いながら、靴を履き替える為自分の下駄箱、兼ロッカーに急ぐ。
その途中だった。
何かが置いてあった。
何分、校舎はもう夜といっても過言ではない暗さだ。
そのため最初はゴミ袋が転がっているのかとも思ったが、どうやら違う。
それは人らしい。
彼の通う羽炉学園の制服をきている為、学生には違いないのだが、時間帯が時間帯だけに未知なるものへの恐怖が先立つ。
それを見た青年は驚いて声が出そうになったが、なんとか押さえ、おそるおそるそれに近付く事にした。
女生徒らしい。
もしなにかの病気などで倒れているならば、一大事、先生を呼んで来たほうがいいだろうか。
とにかく、意識があるかどうか確かめるのが先決だ。
彼は即座にそう思うと恐怖心をふりはらい、その人に声をかける事を決心すると
「あの…」
近付いて顔を覗きこむ様に話しかけた。
「ふぐぬあっ!?な、なんつう…」
その人は結局くーくー寝息をたてて寝ているだけだった、ひとまず病気などでは無かった事に安心する。
が、その一方、新たな事実に彼は驚愕した。
「美人なんだ!スリーピングビューティィィ!」
まず、こんな廊下で女の子が寝ている事に疑問を持つべきなのだろうが、今の彼にはそんな考えを持つ余裕もないのだった。
「これは、俺が王子様っうことで目覚めのキスをすべきなのだろうか!?おしっ、しちゃうぞ…って、さすがにそれは犯罪かっ…!だが、こんなとこで寝てると風邪をひいてしまうわけで人肌で温めてあげたほうがいいよな!それくらいはセーフだよな!…いや、アウトだろ!やっぱ、普通に起こすべきか否か…」
二人きりの廊下でうんうんと唸りながら如何なものかと思案していた彼のそばでスースーと寝息をたてていた女生徒だが、彼のその声で目が覚めそのままの状態で上半身を起こした。
あれだけ騒いでいたのだから当たり前だろう。
「…ここ、どこ?」
起き上がった彼女は目が覚めるとともにそんな質問を彼にした。
「…ここは学校だけど」
チャンスを逃したとばかりに彼は落ち込みながら答えたが、それを行っていたら人として色々アウトだったという事に彼は気付いていない。
「学校?…」
彼女は一度そう呟くと、寝ぼけ眼のまま辺りを見渡すと、
「学校だ…」
彼の答えを確認するかのように彼女はもう一度反芻した。
「学校ォォォゥ!?」
「っえ!?ど、どうしたんですか?」
女子生徒は最後にもう一度、彼の答えを叫んだ。
「どうして、私はまだ学校にいるの!?」
「いや、知らないよ!」
「ああ!鉢巻きがない、あの娘だわ!あの新入りの娘ねぇ!」
「あのもしも〜し?」
「許すまじ、この屈辱、じわじわといたぶってあげるわ虫けらどもがぁ!」
「あのもしも〜し〜?」
「あ、どうも、起こしていただいて感謝致します。あなたに起こしていただか無ければ私はずっとここで寝ていた事でしょう」
「あ、はぁ」
急変した彼女の態度に彼は多少困惑したが、お礼を言われて悪い気はしない。
今までの口調が嘘のような丁寧な言い回しに彼は彼女に何処と無く気品を感じた。
それによく見れば彼女の制服のリボンの色は赤、それは一年生という事を示している。
羽炉学園では学年毎にリボン、ネクタイの色が変わり、一年が赤、二年が黄色、三年が青となっている。この色は入学の際、その年の色を買ってもらい三年間その色で過ごしてもらうという寸法だ。つまり来年になれば前に一つずつずれ今度は青が一年生として入学する事になる。
そして、彼は自分の年齢以下の方が好みだった。ロリコンまではいかないが。
「失礼なんですが、今何時かどうか教えて下さりませんか?」
「はぁ、えっと…」
彼はポケットから携帯電話を取り出すと液晶画面で時刻を確認し、彼女に教えた。
真暗な廊下が一瞬光に照らされる。彼は予想以上の眩しさに目を細めた。
「もう、そんな時間…」
彼女は一度そうぼやくと、上半身しか起こしていなかった体を完全に起こして、立ち上がった。
「それではワタクシはこれで失礼させていただきます。あなたには何から何までお世話になりました、ありがとうございます」
「はぁ、どういたしまし…、ちょっ…」
彼の返事を聞き届ける前に彼女はそれを言うと同時に走り出していた。
今、彼女はは豆つぶほどの大きさになっている。
「せめてお名前だけでも…」
そのセリフは何かをされた相手がいう物で決してした側が言うものではない。
完全に彼女の姿が視界から消えた。足音がだんだんと小さく遠くになっていく。
彼も彼女も気付いていなかった。まだ、彼女の靴が上履きだという事に。彼女がそれに気が付くのは自宅に着いてからだが、それはまた別の話だ。
彼女がいなくなった為、また一人きりの状況に逆戻りした彼は孤独を嘆くように一度大きく息を吐くとまた自分のロッカーに行く為に歩き始めた。嵐のようだったな、と彼は思った。
歩きながら、呟く。
「あの娘、可愛かったなぁ、一年生かぁ…、まぁ、俺は秤一筋だけど、…ん?何だ」
彼女が倒れていた(寝ていた)場所に何か白いものが落ちている。
彼はそれを屈んで手に取ると、携帯のライトで照らしてよく見た。
ハンカチだった。
位置から考えて先ほどの彼女ものと見て間違いないだろう。
「これは、届けに行くしかないな。フラグがたったわけか!しかし、どうするか…、おっ、裏に名前が書いてある」
白地の布のハンカチには黒いマジックで和水と書かれていた。
「なんて読むんだ…これ?ワスイ?イズミかな?…イズミだな!一年生のイズミちゃん!可愛い名前だぜ!」
彼は後輩の土宮芳生、表雨音、五十崎楓からナゴミという同級生がいると聞いてはいたが、彼らの情報から、ナゴミというのは明朗快活、天真爛漫な女生徒と思っていたので先ほどの彼女と結び付く事は無かった。
彼の記憶の中では前半の彼女は居らず後半の丁寧な口調の彼女しか存在していなかったのだ。
彼はそっちのほうが好みだからだった。
「お〜し、イズミちゃんにこのハンカチを明日届けにいって、『ありがとうございます。先輩、お昼御一緒どうですか?』なんつぅてな、ハハハハ、おっと、秤には浮気じゃないって言っとかないとな」
和泉と和水似てると言えば似ているが白が足りない事に彼は全く気付く気配が無かった。
この日、暴走妄想勘違いの男が一人誕生した。
その名も、-金谷尚貴、高校男子二年生、男女関係に疎い今日頃頃。