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前書きを書くのは好きです。ただ書くネタがないのです。


満腹感が俺に足を休めるように語りかけてくるが、後がつかえているため、それは出来ない相談なのだ。

夕食を済ませて脱衣所に辿り着いた俺は外界を遮断する薄いピンクのビニールカーテンをひいた。


夕食のカレーに舌鼓を打った後、直ぐさま風呂で身体を洗い流すように言われた。なんでも、さっぱりした状態で星を見に行くのだそうだ。


それにしても、桜さんの手作りカレー…、うまかったなぁ…。

前日に大体の下準備までしていたらしく、カレーはお肉や野菜にまで味が染み込んでいて、…あぁ、思い出しても涎がでる。


本当ならば、ゆっくりと居間で満腹感を落ち着けたいところだが、さっきいったように後がつかえているため、出来ないのが残念である。


夕食後の風呂は、夕飯前に何人か済ませていたので、後は残りの数人がお風呂を頂く事になっていた。

五十崎一家は楓を除いてすでに俺達がくる前に済ませていたらしい。


まったく至れり尽くせりである。

最初の時点じゃ、お風呂まで頂くなんて思いもしなかったよ。

でも、まぁ、何処かで湯に浸かるとは思ってたけど。


「あ、忘れてた」


脱衣所兼洗面所の鏡に写った顔を見て俺は自分がカツラを付けっ放しだったという事に気が付いた。


「…」


っうわ、恥ずかしい!

ずっとこの格好のまんま五十崎一家に対応してたのかよ!しかもよくよく考えたら昼食の時も、和水の家でも、違和感なく女装を受け入れてたし!

がぁぁ〜、こえぇ!洗脳されかけてるやんけー!


バカだよ!俺は本物のバカだよ!

俺は紅潮する自身の頬を眺めながら、頭部に手をかけて、カツラをずり落とそうとした、時だった


コンコン


「!」


ノックされる木製のドア。

頭の中で一瞬だけ見た、カーテンの向こう側の景色を思い出してみる。

あれだ、このカーテンの向こう側には洗面所があって、トイレがあり、ドアがつけられていたはずだ。

つまりドア、トイレ、風呂の順番に並んでいた。


今ノックされたのはトイレのドアでは無さそうだ。

つまり誰かがこの脱衣所に入ろうとしているという事。


「ふ、風呂頂いてます!」


慌てて俺は叫んだ。


「…入る」


がちゃ


ドアは俺の返事を完全に無視して、中に人物を招き入れる。ドアを開ける際の一言が理解不能だ!

うぉーい!

中に人がいるっていってんだろ!誰だよ!入る、ってなんだよ!


ドアに鍵が付いていたなら間違いなくかけていたというのに何もないから…、かぁー、まさかそれがこんな事態を引き起こすとは…。


今の声は聞き慣れぬ声だった、という事は五十崎家の誰か、であろう。

カーテンの向こう側に誰かが近付く気配がする。

気まずい!気まずい!気まずい!

俺は慌てて脱ぎかけたズボンをキチンと腰まであげた。


何々何!?

シャンプーか何かが切れてたの?いいよ別にそれくらい気にしないから!


薄いピンクのカーテンにぼんやりとシルエットが写される。

俺より一回り小さい小柄な影だ。声質や体格から女の子である事は間違いない。


「開ける」


「はぁ!?い、いや、ちょ、ちょっとまっ…」


じゃららら


カーテンが小気味好い音をたてて右側にまとめられた。


開ける、じゃねぇ!人の意見を聞け!小娘!


「…」


少女は無言のまま俺を見上げるように、上目遣いで睨み付けている。

やめてくれ…、いい感じはしないから…。


「…、えっと、なに?」


俺の前には楓の妹の…


「梓ちゃん…だっけ?」


とおぼしき人物が立っている。

ショートカット…、いやボブカット、だっけ?髪型に詳しくないのでよくわからないけど、まぁ、短めの髪型の少女がくりんくりんな両目で俺をジッと見ているのだ。

もちろん五十崎一家の例外にもれず、可愛い。

そんな状況だったら年下趣味じゃなくてもときめいてしまう。

…いや、マジで。


「気安くちゃん付けしないで」


梓ちゃんは俺にピシャリと言って、前に一歩進んだ。

迫力に押されて俺は一歩後退する。

なぜか洗濯機に蹴躓きそうになった。


「え、な、え?」


訳がわからない。

い、いきなりなんだ!?

夕食の時は無口だけどフレンドリーっぽかったのにさ!?


「あなたにちゃん付けされるなんて虫酸が走る」


…初っ端からありえないほどの嫌われ具合である。

俺なんかしたっけ?


「えーと、…梓、さん?」


「名前で呼べなんて言ってない」


どないせいっうねん。

この好感度マイナス娘。


「五十崎さん…」


取りあえず名字で呼んでみたところ反論が無かったので、ひとまず話を進めてみる。


「いきなりどうしたの?」


「単刀直入に聞く」


ビシビシと、用件しか言わない彼女に、俺はなんとかついて行こうとシナプスを一生懸命に繋げる。

話の展開スピードが常人の3倍くらいあるぞこの娘。


「…」


「梓ちゃ…」


「名前で呼ぶな」


そういう印象をもった矢先にしばらく口を閉ざしていた梓ちゃんはやがて決心がついたように、俺に向って聞いてきた。


「あなた、…」


どうやらまだ決心が完全についたというわけではなさそうだ。彼女はそこまで言うとまた口を閉じて、所在なげに俯いた。

一体どうしたというのだろう。

いきなり初対面に近い人の脱衣先に迷いもせずに乗り込んでくるような女の子が、ここに来て何を戸惑うというのだろうか。


「どうしたの?」


このままじゃ、埒があかないので催促する意味を込め、相手を警戒させないようにニッコリと微笑んだ。


「気持ち悪い笑顔」


「…」


ピシッ


この、…ガキっ!

俺は確かに額にシワがよる音を初めて聞いた。


「でもお陰で決心がついた。単刀直入に言う」


彼女の短刀ならば先ほどから2、3回俺の心臓をえぐっている。


「あなた楓にぃのなんなの?」


「は?」


楓の、なに?

っえ、?


「ど、どういう事?」


「さっきから見てて」


小さな身体からは考え付かないほどのオーラが発せられ、俺の身体に纏わりつく。

こ、怖い!負だ、負のオーラだ!


「あなたが一番楓にぃと仲がいい様にに見えた。お互い肩をすり寄せていたり、楽しそうに会話をしたり」


「…え?」


えっーと、コレは…何?

…港のヨーコ、って意味?


つまり、梓ちゃんは、


「正直に答えて、楓にぃとあなたの関係は、そ、その、こ、恋人、なの?」


お兄ちゃんが誰かに取られるのが、嫌な、超絶ブラコン、って事!?


「ぶっ!…はははは!」


い、今時ブラコン、って、ひ、ひゃははは、は、はやんねーよ、なんだよこの娘、大人びてると思ったらてんで逆じゃねぇーか!し、しかも俺が本当は男だって見抜いてないってことじゃん!

ぶっわははは!

堪らず吹き出してしまった。


「し、真剣に答えろ!」


急に笑いだした俺に梓ちゃんは顔を真赤にして怒鳴った。怒りから赤いのか、恥ずかしさから赤いのか、はたしてどちらか?


「ぷっ、くくく…、ご、ゴメン、い、いやぁ、安心していいよ、楓とはそんな仲じゃないから」


俺は笑いすぎて絶え絶えになった言葉でなんとかそう返した。俺の言葉に梓ちゃん安心したように小さく「そう」と呟くと、すぐに顔を上げて、


「だったら、あんなに仲良さそうにしないで!」


と理不尽な要求をしてきた。

こ、この娘…

おもしろい!


さっきまで年上との接し方も分からないくそガキとか思ってたけど、不器用な生き方で楓を慕っているブラコン少女が最高に俺のツボを刺激した。

こんな態度取られたらからかいたくなってくるのが人のサガだ。


「いや、」


えっーと女言葉女言葉、大丈夫、俺には金谷先輩を騙し切ったという実績がある。


「それは無理よ。私楓の事好きだもん」


っく、自分でやってて気持ち悪いが、目の前の少女の百面相はそんなものを軽く吹き飛ばすエンターテインメントがあった。

真赤になっていた顔が今度は青白くなっていく。すぐ表情にでるタイプの子なのね。


「な、な、なにを…」


歯をかちかちと鳴らしながら戸惑いを表情にだす梓ちゃん。


「多分、楓も私のこと好きね…」


もし、本当にそうだとしたら俺は世界の果てまで行っちゃうけどな!何回も言うけど俺にそういう趣味ないし!

あくまでコレは梓ちゃんをからかうホワイトライだ!4ヶ月早い四月バカさ!


「嘘だ!」


うおっ、急に語尾を強めて怒鳴るもんだからおののいてしまった。多分森中のカラスが全羽飛び立つ勢いだった。

梓ちゃんは今にも泣きそうな顔で俺を睨み付けている。


「楓にぃは梓が、梓が一番だって、い、いつも言って…」


先ほどまでのクールキャラを早くも崩し始めた梓ちゃん。


「梓ちゃんは楓の事好きなの?」


「…はい」


潮時だな。

これ以上続けてたら、ほんとに泣き出しちゃいそうだし、可哀相だ。


俺は右手を頭の上に乗せた。


梓ちゃんはそれを「?」と見ている。


「楓はさぁー、意外と乳ある方が好きなんだよね。だから俺じゃ無理なんだな」


そう最後に嘘を付きながら右手でカツラを掴んで、外した。


「え?」


梓ちゃんは目を丸くして、キョロキョロと俺と俺の右手にある毛を交互に見て、「男…」と震える口で呟いた。

ご明察。


「ごめんごめん。部活の罰ゲームでこんな格好させられててさ」


悪ノリし過ぎたのを素直に謝りつつ、俺は弁明を開始する。


「だから楓といつもみたく男同士の普通の話してただけなんだ。特別仲がいいってわけじゃないから安心してよ。…ああ、あとごめんね、少し調子乗り過ぎたみたい」


最後にまた謝罪の言葉をいれた。

俺の言葉に梓ちゃん、しばらくボーと惚けていたが、顔の色が先ほどよりも濃い赤色に変化し顔から火を吹くととめに、


「わ、私の方こそ失礼しました」


と言ってカーテンをしめて、慌てて脱衣所から帰っていった。その慌てぶりは壮観である。何もないところで蹴躓いてたし。


おぉ、ふむふむ。

敬語使えるじゃないか。


俺は右手のカツラをぽんと洗濯機の上におくと裸(決して変態的意味ではない)になって風呂場に入った。


今日は面白いもんが見れたな。グッスリト眠れそうだよ。


ニヤけを止めるため、俺はタライの中のお湯を頭からザバッ、とかぶった。


「うぷぷぷ…」


止まらなかった。

風呂場には俺の笑い声が響く。

ただ笑っているだけなんで通報はしないで下さい。


「うぷぷ」


あの顔を思い出したら、笑いが止まらんわ。





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