15(11)
こんばんは。
気付いたら今までで一番長くなっている第15話ですが、まだまだ続きます。
14話も長くなったので、少しは自粛しようと思った矢先にコレですよ。
この計画性のなさ、自分自身でたまりません。
ああ、今日の夕方頃また更新します。
…この更新予告、毎回しようかな…。
まぁ、いろいろとあったが、またマイクロバスに乗って、今度は楓の家に向う事になった。
「いってらしゃいませ」
出かけに誉さんがお辞儀をして、俺達を見送る。
「彼は免許を持ってないのです」
彼の前を通り過ぎる前にわざわざ聞こえるような声の大きさでイロハさんが呟いた。
「免許を取りに行く暇がないだけだ」
小さな反論を最後まで聞くこと無く、イロハさんは車庫に向っていた。
ギスギスしてるなぁ。
バスの中。
オレンジの光が前から後ろへと線になって流れていく。
トンネルを通過してしばらく経つと、俺達を乗せたバスは市街地に着いていた。
楓の家に向っているのだ。
その途中。
企画監修を担当なされたという和水が嬉しそうに立ち上がって、わざわざ通路の真ん中まで来ると叫んだ。
「レクレーション係りも担当させてもらった水道橋和水でーす!」
それを言うならレクリエーションじゃね。
というかこのタイミングで何を言い始めたんだ、この女。
また、重くなり始めた瞼を半分だけ押し上げて、和水の様子を伺ってみる。
「バスの中は単調な景色ばかりであきたでしょ?そんなあなた達にゲームを提供するのが私の役目よ!」
「ゲーム?」
「そう、言うなれば私はムード盛上げ楽団。退屈な日常に遊びをクリエイトする神より遣わされた存在、真の名を大天使ナゴミエル!」
神様は随分とお暇らしい。
俺達のムードを盛上げてる暇があったらもうちょっとやる事あるだろ。
そんなナゴミエルのいっちゃた発言を素直に受け取るやつなんかいるハズもなく、車内は気まずい沈黙に包まれながら、バスは信号でぴたりと停車した。
アイドリングストップってやつだろう、キチンとエンジンまで停止させるので、余計に彼女の沈黙が煽られる。
「…」
長い時間そのままの格好で立ち竦んでいた和水だが、やがて信号が赤から青に変わり、バスが発進するとその震動でよろけた。
無様な。
「無視しないでよ…」
座席の通路側についている丸い輪っかでなんとか体勢を整えてから彼女は力無く呟いた。
「遊びの内容によるな」
俺の前の座席から偉そうな声が響いた。
墜ちた天使(エンゼルフォール…だっけ?)こと、柿沢秤部長が腕組みをしながらそんな事を尋ねたのだ。
和水はやっとこさ聞こえた他者の意見に顔を明るくさせると、にっこりと笑いながら答えた。
「ええ、今回私が提供する遊びはこちら!」
和水が活力を取り戻すと、姿勢をシャッキリとし、俺達に聞こえるように大きな声で叫んだ。
「演劇ですッ!」
…あー。うん。
おっし、寝よ…。
ふぁー
と楓があくびをして
「俺は寝るから着いたら起こしてくれ」
と言いながら、目をつむろうとした。
あ、俺も夢の中への旅路に付き合うよ。
「ちょっと!楓!ただの演劇じゃないのよ!私が考え付いたのは新しい演技、言うなれば演劇改よっ!」
慌てて和水は楓の座席を掴んで揺すり始める。
「やめろ、気持ち悪い」
かたくなに睡眠を取ろうとする彼に比例して揺すり幅も段々と激しくなっていく。
「話をきぃきぃなぁさぁいぃ」
「…」
ついに揺れはこれでもかっ、というレベルに達した。
「…わ、わかったわかった。話だけは聞くから…、ゆ、揺するのはやめろって」
「ふぅ、それじゃあ、言わせてもらうわね!」
開放された楓が力無く座席に身体を預けると、気分を変えるためか、目頭を指で軽くもむ仕種をした。
和水はそれを偉そうに見届けると腰に手を当てて、ニヤリと笑いながら大きな声で叫んだ。
「演劇部!」
演劇部…
さっき聞いたって、演劇すんだろ、一人でやっとけよ。
「演劇部の演技よ!」
はにゃ?
バスの中のみんなは和水の言う演劇部改のルールに頭の上にハテナマークを浮かべる。
演劇をやる、といって演劇部は別に間違っちゃいないよ、ただ俺達は娯楽ラブだろ?
第一演劇部なんて俺には縁がないものだ。文化祭の時に活動してた気がしないでもないが…、というかウチの学校にあったっけ?それすらもよく思い出せない。
そんな俺たちの疑問に答えるためか知らないが、和水は言った。「ルールは簡単、演劇をする演劇部の演技をするのよ」
…取りあえず日本語を纏めてくれ。
「…」
「聞こえた?」
しかし、返事が無かった。
「だから、演劇をする演劇部の演技を…、まぁ、ぶっちゃけ普通に演技をするだけなんだけど…」
演劇をする演劇部を演じる…。言ってる意味はなんとか分かったが、何がしたいのか理解出来ない俺は隣りの美影や通路の和水には内緒で目を閉じようとした。
ああ、素敵な暗闇。
今の俺の格好も忘れさせてくれるのは睡眠だけだよ…。
楓には抜け駆けするようで悪い気がしてくるが、バレなければ問題ないだろ。だってホラ、乗り物って揺籠みたいで心地良いじゃん。だから、和水の話を聞かずに睡眠を取ろうとするのは至極当然な事なんだよ。
カクン
かぶりをこいだら肩に箒がけするように紙の毛がサラリと流れた。
ああ、すっかり違和感なく忘れていたけど、俺はいつまでこの格好(女装)していればいいんだろう…。
コレをしている限り俺は一人だけ仮装しているわけだし、演劇をしているといっても過言じゃなく、ね…
ゆっくりと包まれるように俺は意識を沈めていった。
「おきろー!」
「っうわ!?」
いつの間にか俺の横にいた和水が俺の身体を押しながら叫んだ。激しい目覚まし時計である。
…うう、仕方無い。
楓も協力してるんだし、俺も大天使様の遊びに付き合うとするか…。
「でも、演劇をするにしても、…バスの中でですか?」
右の美影が俺を挟んで左の和水に尋ねた。
和水はその質問を待ってましたとばかりに、飛び付く。
「ええ!フフ、詳しくは旅のしおり9ページを見なさい!」
口角を緩ませながら言われた和水の言葉に、美影は素直に従って、手持ち鞄の中から青地のしおりを取り出すと、ペラリと捲り目的のページに辿り着いて視線を文字に落とした。
俺もそっとカンニングするように見てみる。
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『演劇部連続殺人事件』
作:水道橋和水
和水『犯人はこの中にいます』
美影『本当ですか』
雨音『誰ですか』
秤『私です』
和水『秤さんです』
芳生『本当ですか』
秤『本当です』
楓(死体)『…』
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「なに、コレ…」
「台本よ!」
いや、それはなんとか理解出来たけど、俺が疑問視してるのは内容に関してである。
シュール過ぎるだろ…。
ともかく、酷い。その一言に尽きる。
「ボツ」
「な、なぜ!?」
しおりがぽーんと頭の上に落ちて来た。どうやら前に座る部長が後ろ目掛けて放り投げたようだ。
確かに放り投げたくなる内容だけど、後ろに座る俺たちの事も考えてほしい。
「何故、じゃないだろう」
部長は素直に和水の質問に答える。
「連続殺人とか謳ってるくせに楓一人しか死んでないじゃないか」
「っは!?」
そこじゃねぇだろ。
ストーリーとかタイトル云々より文章構成を責めようよ。
「題名と内容が矛盾してる。よってボツ」
部長はクールに和水に言い放つと、座席にゴロンと横になったらしい。震動がこっちまで伝わってきた。
和水はどもりながらどうにかしようと足掻こうとする。
「う…、ち、違うの!楓の前に、…や、山本先生が惨殺されてるのよ!」
おーい、山本。アンタも死体の仲間入りだぜ。
「ほう、どんな風に?」
急に盛り出された後付け設定に部長は激しく食いついた。詳細を尋ねる必要性が皆無だというのになぜわざわざ聞くかな…。
「ど、どんな風、って?」
「だから死体の状況だよ。首吊りとか溺死とか感電死とか…」
和水は言葉に詰まりながらも律義に返事をする。
本当になんでそんな細部まで決めるかな。
「そ、そうね…、ま、まず爪が全部剥がされてるわ!」
「ふむ」
いきなり逸脱した展開が見え始めた。
「さらに、腕がボキボキにおられて、目潰しされてるの!しかも腹からは内蔵が飛び出てて、首も切られてるわ、脳漿も床に飛び散ってて、あと、舌も抜かれて…」
「なかなか興味深いな」
怖いよ!
それじゃミステリーじゃなくてスプラッタじゃねぇか!
コイツの脳内どんだけブラックなんだよ!
「内蔵はただ出るより、そのハラワタとかで首を括らせるのはどうだろうか?」
「良いわね、それ。だけどそれだと首切りっていうシチュエーションができないわ…。どちらをとるべきかしら」
部長の提案に和水は渋る。
いや、まて落ち着け。なぜミステリー(和水の物語の分類上)なのに残酷性を求めるんだ。
「もういっその事、二回殺すのはどうだろうか?つまり一番最初に見た時は首吊ってたんだけど目を離したスキに切断されているとか…」
一度で二度おいしくない。
山本(先生)は空想中で惨殺されている自身を憂いてか、顔を真青にしている。
当然だろう。
こいつら二人、怖すぎるよ…。
「こめかみに鉄パイプを刺して、そこから脳漿が滴るとか…」
「そ、それじゃ、床に溜まった血で絵を描きましょうよ。『マサクゥル』って!」
それではすでにホラーの領域である。
凄惨ミステリーの演出について語りあう二人に呆れながら俺は目をシパシパさせ、呼吸を整える為深呼吸した。
よく見れば楓や芳生も同じように呼吸を整えている。
山本に至っては過呼吸一歩手前だ。だ、誰か彼にエチケット袋を被せてあげて!
「部長さん!和水さん!空想でもそんなの不謹慎です!」
美影が声を荒げて盛り上がる二人に割って入った。
ああ、さすが俺の最後のオアシス…。そして娯楽ラブ女子の最後の砦、もといダムだ。
男子でも吐き気を催すスプラッタ話で盛り上がる部長と和水の二人に水をかけるのは彼女しかいない。
「もうちょっと現実的なシチュエーションにすべきですよ!バラバラ殺人とか」
…えー…。
汗が頬をゆっくりとつたった。まさか、彼女も…、ああ、もうなんか、溜め息しかでないよ。
「もう、美影、何がバラバラよ!私は背筋が凍るような惨殺がいいのよー」
認めてんじゃねぇか!
コレじゃ最早愉快犯だよ!
つかバラバラ殺人もそうとう狂気だからね、冷静に考えれば!
「ちっちっちっ、甘いですよ。和水さん」
「な、なによ」
「ただのバラバラじゃありませんよ。なんとバラバラにされた肉片はその日の食卓に出されてみんなの胃の中におさまっているのです。これなら厄介な死体の処理方法も解決する完全犯罪ですよ!」
ギャァアアアア!
だ、誰か彼女を止めて!
は、吐き気がぁぁ!
一口ゲロがぁぁ!
「完全犯罪になったら探偵が出る幕無くなるだろ」
「あ…」
部長の指摘に美影は今気付いたように声をあげた。
って、部長も指摘すべき場所を間違っている。
ああ、でも彼女は向こう側の人だからそういう事はしないのか…。
うぐ、吐きそう…、でも飲んじゃった…。
「全く爪が甘いな。だが人食はなかなか良い着眼点だと思うぞ。だからこういうのはどうだろうか?まず山本は部屋で一人にいる時に…」
このあと、
バスは2回と多めの休憩をはかり(もちろん男子が新鮮な外の空気を吸う為だ、女子はケロリとしていた)、17時ちょっと過ぎに楓の家に到着したのだった。