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15(10)


文章を打ちこんでは消し、打ち込んでを消し、…そんな事を繰り返してココの前書きは完成されます。




芳生がドアを大きく開け放った。

ドアが開けられると同時にイロハさんは部屋の中に飛び込む。仕方無いので俺もそれに続いた。


「!」


部屋の中では誉さんが椅子に座って本を読んでいた。

急な来訪者にしばらく面を食らった顔をしていたがやがて不機嫌そうにハードカバーの本を閉じ横の机の上に置くと、窓の外をに視線をやりながら言った。


「ノックくらいしなさい」


「関係ありません」


イロハさんは一般常識を一蹴し、ズイっ険しい顔で前に一歩進んだ。


「観念するのです」


真剣な目付きで、ジッと誉さんを睨み付ける。誉さんはその視線に少しも怯む様子はなく、慣れた、という感じだ。


「はあ、またその話か…」


その話…?

どの話だ?


「また言い掛かりをつけにきたのか?」


「今日こそすっきりしましょう」


今日こそ、という事は毎回その話をしているということになるな。だが、こんなRPGごっこを毎日するだなんて、普通に考えてありえないだろう。ともすれば、今、この双子が話している内容は俺たちの伺いしれない別の話題ということになる。それこそ誉さんが呆れるくらい繰り返された別の話題に。


「お前もしつこいな。そんなものないと言っているだろう。言い掛かりをつけるなど迷惑千万だ。お前は昔から決め付けてかかる癖があった、小三の時のアフロ瓦割り事件で反省しなかったのか?あの時だって、お前が…、…ッ」


誉さんの澱みなく続けていた言葉が切れた。

イロハさんと会話するうちになおっていた彼の顔はまた鳩が豆鉄砲を食らったように変化し、焦っているのが一目でわかるくらい酷い表情になっている。

どうやら部屋にいるのが、妹(もしくは姉)のイロハさんだけでなく、俺や芳生がいるという事に今更になって気が付いたといったようだ。

つか、アフロ瓦割り事件の詳細が気になる。


「イロハ…、お客様まで巻き込んで…」


なぜか声を顰めて誉さんは尋ねた。

イロハさんは一瞬考えるように無言になると、


「学友の方がいたほうが分かりやすくなると思いまして」


とさらに一歩前に進んで誉さんとの距離をつめる。


「そういう問題じゃないだろ…、はぁ、全く…」


溜め息を吐きながら、立ち上がると、心底嫌そうな顔で彼女と対峙する。

二人の口振りからみるにどうやらラスボスうんぬんではなく、何かあるようである。


「ねえ、ボスは?」


今までずっと廊下にいたらしい芳生がドアからひょこりと顔を覗かせ俺の背中に向って聞いてきた。知るか、そんなもん。


「コイツがラスボスです、調子がいい時には口からスペシウム光線を撃ってきます」


うわぁい、そいつは強敵だぁ。


「すっ、すげぇー」


「嘘です」


知ってます。


「…え、だとしたら冒険は?」


芳生は訳が分からないといった風にキョロキョロと誉さんの部屋を見渡しながら小首を傾げた。

訳が分からないのは、俺も同じだから答えようがない。


「イロハに担がれたんですよ。彼女に代わって私が謝罪します」


芳生の疑問に答えたのはイロハさんでも俺でもなく、部屋の真ん中でシャッキリと立っている執事だった。

誉さんは丁寧に俺達の方に頭を下げる、目の前のイロハさんをまた睨み付けた。


「それでどういう事だ?お客様まで巻き込んで…」


言葉の節々に怒りの感情が込められているのが分かるトーンで誉さんは言った。

彼の言う事を信じれば、どうやら我々娯楽ラブ(と言っても今は俺と芳生だけだが)はイロハさんにいい様に利用されてしまっているらしい。

どこをどのように利用されたかは分からないけど。


「簡単です」


誉さんに対し、イロハさんは相変わらずの口振りだ。


「出してください」


突き出した手をクイクイと挑発するように上下させてイロハさんは誉さんを見下すように見つめた。

誉さんは面倒くさそうにまた小さく溜め息をつく。

そのまま、二人はお互いを見つめあったまま無言になった。


「だす、…って、何を?」


いつの間にか背中にぴたりと張り付いた芳生がヒソヒソ声で聞いてきた。


「俺もよくわからねえ。ただ状況を見るにイロハさんは誉さんが何かを隠してると思っているみたいだな」


「その通りです」


俺達の内緒話が聞こえていたらしい、イロハさんが口を開いた。誉さんは同時に眉をしかめる。


「いい加減にしろよ。イロハ」


「いい加減にするのはあなたの方です」


一触即発な険悪ムードになってしまっているんだが…。

というか兄弟喧嘩なら本当に俺達がいないところでやってくれ。

二人が火花を散らす度に俺と芳生の空気も段々と重くなっていく気がする。


「だから知らないと言っているだろ」


「なるほど分かりました。あなたがそこまでしらばっくれるのなら証明してもらいましょう」


イロハさん頬をピクリとさせると、ドアの前で立ちすくむ俺と芳生の方を向いて、まるで十年来の友人に話しかけるように言った。


「雨音さん、芳生さんお願いします」


はぁ?

意味がわからない。

芳生でさえ俺の顔の横で口をあんぐりと開けて彼女をみている。

何やらお願いされたが、何をすればいいのかわからないなんて初めての体験である。


「な、何が?」


やっとこさ口からその質問が出ていた。

出るまでの時間が異常に永く感じたな。


「簡単ですよ」


「…イロハ、我々は雇われているんだぞ」


「私も奥様に雇われているのです」


イロハさんは俺の質問に最後まで答える事なく、誉さんの発言に先に返事をしていた。

再び、二人の視線のぶつかりあう中間地点に火花が舞う。


「奥様からの依頼なのです」


「だから私は知らない。仮に知っていたとしても、言えるはずないだろう」


「嘘かどうか口では判断できません」


会話に参加しているのは二人だけで、俺と芳生は相変わらずだんまりだ。

というか、口を閉ざさずにはいられない。

何故なら、彼らがなんの話をしているのか分からないからだ。

流れから、和水と和水の母親が絡んでいるのはわかるのだが、深淵の部分がどうなっているのか教えてもらっていないので全貌がいまだに理解できずにいる。

俺らは完全に置いてけ堀状態である。


「…ねぇー、僕、部屋で休んでてもいいかな?」


俺の肩に顎を乗せた状態で芳生はボソリと呟いた。


「まあ、少し落ち着こうや」


俺だっけ部屋に行きたいけど、名前を呼ばれたんだからそういうわけにはいかないでしょ。

さっきまでRPGごっこに夢中だったイロハさんが、急激に冷めてしまったのがいまいち謎だ。


「隠し立てするとはタダではすみませんよ」


「…ふぅ、もういいから部屋から出てってくれないか?ああ、お客様は一緒にお茶でもいかがです?」


「お客様を利用……、協力してもらうのは私です」


言い直しの前がかなり気になるところだが、話に決着が付きそうだ。

イロハさんは久しぶりに顔をニヤけさせると、改めて案内するように手をこちらに向け開いてから言った。


「さぁ!町人A、遊び人!やってください」


「えっ?」


「はっ?」


今度は役職名で指名を受けた俺ら二人。

油断していたわけじゃないけど、いきなり過ぎるのはたしかだ。


「やる、って…何を?」


芳生がもっともな質問をした。

そうそれ、俺もすごく気になってる点。


「証言をして下さい」


「証言?」


「そうです。こう腕を伸ばして、指差しなから『意義あり』と叫ぶのです」


ゲームがRPGから別のジャンルに移っている気がする。

というか、なんの話をしてるのかわからないから意義の唱えようがない。


「意義あり!」


にも関わらず芳生は指を指しながらそう叫んでいた。


「なんの話してるのか、わからない!」


そして核心に触れる芳生。

えー、そんな風に尋ねるの!?


「ああ、まだ話してませんでしたか」


「うん」


「なご…」


「イロハ!」


イロハさんが何かを言おうとする前にそれを誉さんが名前を大きな声で叫んで止めた。

彼女は少しだけ目を大きく見開いてからすぐに誉さんの方を向いてふてぶてしく尋ねる。


「なんです?」


「なんです、じゃないだろ。お客様だぞ…」


「お客様ではなく、家族、パーティです。さて、いつまでたっても前に進まないのでそろそろ話を進めましょう」


「イロハ!」


誉さんがまた名前を読んで引き止めようとしたが、その制止を振り切ってイロハさんは事の概要は打ち明けた。


「和水お嬢様がテストの答案用紙をここに隠しているのです」


「はい?」


和水が…なんだって…?

テストを…ここ、誉さんの部屋に隠している、って?


「…イロハ、内の問題を外の方に漏らすのは使用人として失格だ」


呆れた口調で息を吐きながら誉さんがイロハさんを嗜めた。一方彼女にはそんなもの全く無効のようである。


「だから外ではないです。パーティですから」


RPGの話題をそこで持って来る辺りが流石だ。

だけどいまいち意味がわからない。誉さんもそういう気持ちしかった。


「…さっきからパーティって、なんの事だ?」


「討伐隊の事です」


イロハさんの解答に誉さんは何も言っても無駄という事を悟ったらしく、静かに閉口するとドシンと引きっ放しにしてあった椅子に身体を預けた。


「雨音さん、芳生さん質問です」


「なんです?」


和水のテストの行方など、俺達二人が存じていない事くらい彼女は分かっているハズだろう、それなのに質問をしてくるという事は外からの情報集めというところに違いない。

というか和水がテストを隠し、それの結果が悪く親に叱られようとぶっちゃけ関係ないし。第一和水とはクラスが別だからテスト前に接点もつ事も少なかったからな。


「この間の期末テストは何教科でした?」


「え…」


意外な質問だ。

てっきり和水がやましい事してないか聞かれるかと思ったら教科数とは…、えっーと、いくつだっけ、国語、世界史、数学?…


「8つだよ」


俺が数え終わるより先に芳生が答えていた。


「8つ、ですか…、ありがとうございます」


「それがどうかしたの?」


「お嬢様がこの間の期末で奥様に提出された答案は全部で6枚でした。残り2枚はどこにあるのでしょうね」


イロハさんは芳生の質問に答えると同時に黙ったままの誉さんを流し目で見た。


「お嬢様は今までテストが返却される度に私や奥様より先にあなたに会っていたのですがね」


「…」


「お嬢様が小学生の時から、です。私、ずっと疑問だったんですよ」


それはまた随分と気の長い話だな…。

和水にしてもよく今までバレずにやってこれたな。

俺は小6の時にためにためたテストがバレたけど。


「あくまで仮定ですが、誉がお嬢様のテストの隠し場所なのではないでしょうか」


「っ〜、分かったよ!」


じわじわと攻撃されて誉さんはついに折れた。

そして気怠そうに腰をあげると机の鍵付の引きだしに鍵をさし、それをひく。


どうやら完璧にイロハさんの予測は当たってあたらしい。紙の束をドンと机の上に置いた。

黄ばんでいる一番下の紙などがその歴史を物語っているようだ。


「やっと分かってくれましたか」


「ああ、ただお嬢様には秘密にしといてくれ」


「ええ、お嬢様には私がピッキン…、アバカムで発見したと言っておきましょう」


机の上に置かれた紙の束にイロハさんはゆっくりと近付いて一番上の紙を手に取って見つめた。悪いと分かっちゃいるけど、俺も目をしぼってそれを見る。


名前の欄の右には先生の赤ペンでそのテストの点数が書かれていた。


「コレ…」


なんで…?


点数を見て疑問が浮かぶ。

そこに書かれた数字は『95』、決して親に見せられない数字ではない、いやむしろ率先して見せる答案だろう。

思い起こせば和水は俺と違いテストは出来る人なのだ。

この間のテストも赤点は無かったって言ってたし。


「お嬢様は小さい頃から90点越えの答案をためて、大人になった時に奥様に見せるのが夢なのだそうです」


誉さんが静かに言った。

イロハさんは無言で手元のソレを見る。


「…話はわかりました」


そして、ゆっくりと言葉をつなぐ。


「奥様には見つからなかったと言っておきましょう。ただ…」


和水も憎い事するじゃないか…、…ん?ただ?


「隠していたのは事実ですからお仕置はします」


あ〜、和水、ドンマイ。





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