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15(9)


昨日投稿予告したのを完全に忘れてました…。

あぶなかった…


パラメーター


ホウセイ

レベル(年齢) 16

職業:勇者

装備:ひのきの棒

使用呪文

エアブレイク

備考

師匠から受け継いだのは惰性だけ。


イロハ

レベル(年齢) ?

職業:メイド

装備:機関銃

使用呪文

シカト

備考

主人(雇主)にも追従しない屈強な心をもつ。


アマネ

レベル(年齢) 16

職業:遊び人

装備:ウサ耳バンド

うさぎのしっぽ

使用呪文

アキレル

備考

実は口笛を吹けない。


…自分でいうのもなんだが、この中のメンバーで一番真面目なのは遊び人であろう。




「トゥルルルル、トゥルルルル」


「芳生?」


突然芳生が舌を絶妙に震わしながら、言い始めた。


「トゥルルルル」


「え?なに、お前二重人格者なの…?」

「違います。雨音さん」


芳生の奇行に多少引いていた俺の横にイロハさんが立って彼を見つめていた。

違います…、って、…なにが?


「彼の言葉は頭でなく心で理解するのです」


ニヤリと笑いながらイロハさんは緩慢な動きで芳生に歩み寄った。

…この人が無表情を崩すのは、こういう関係の時が多いな。


「ドゥルルル、ドゥルルルル」


「トゥルル、トゥルルルル」


「!?」


な、何をし始めた、こいつらぁ!?

イロハさんは芳生と一緒に舌を震わせて鳥でも呼ぶように芳生の音にシンクロさせ始めている。


「はっ!?」


こ、これは!?

り、理解したぞ!


「トゥルルルル」


「ドゥルルルル」


彼らは、


「…」


コマンド表示音で会話してるのだ(※ドラ○エなんかでセリフと共に流れる効果音)!


「…声優をつけようよ」


「…そうですね…、ラチがあきません…」


俺の意見にイロハさんだけは同意して下さったが、…どうやら芳生は納得していないらしい。


「ニャー」


「は?」


「ぴこん!『はい・いいえ』」


「…」


久方振りに人語を喋った芳生はどうやら猫語で質問をしたらしい。残念ながら俺はうさぎだからちょっとわかんねぇや。

まぁ、テキトーに答えるから関係ないけど。


「いいえ」


「ドゥウウウン!」


「!?」


「おやおや、雷でよく聞えなかったな。すまんがもう一度いってくれ…」


「もう行くぞ芳生!」


オデコにびしっ、とチョップしてやった。




「行くってどこに?」


取りあえず廊下を直進して階段を下るところまで来たけどこれから先の予定なんて俺に聞かれても答えられるわけない。

大体なんでこんな事になってるんだ…。

今思い返して見たら発端は『探検でもしてきなさい』という和水の言葉だし、散々盛り上げたのは山本(先生)だ。

双方とも今はいない。


つまり、


「あなたのそのひのきの棒で魔王を討つと、将来的にはそれが伝説の剣になります」


「えぇ!?剣じゃないのに剣になるの!そ、それは凄いや!」


物凄い盛り上がりを見せる彼らを諫めるのは、俺の仕事になるのか…。


「まさかこのひのきの棒にそんな秘密があるとは…」


「勇者とは常に奥の手を用意しとくべきです」


む、無理です!誰でもいいから助けて下さい!


「それだけではありません」


「えぇ!?さらに秘密があるのっ!?」


「はい。このひのきの棒は真名を唱える事により技が発動する事ができるのです。ちょっと貸して下さい」


「良いけど…、はい」


「卍解ッ!」


「…」


何をしてんだ、あの二人は…。


「…え?真名は?」


「真名が卍解なのです」


出来るならば遠くから見てるだけにしたい二人の会話を、収拾がつかなくなる前にわりこませてもらう。

はぁ、ほんとに鬱になってくる。


「そろそろキッチンに行ってみようぜ、オニギリくらいなもう作り終わってるだろうしさ」


言うことが思い付かなかったが、取りあえずはそういう事にして早々にこのRPGを終わらせる事にする。

この奇妙なおままごとを盛り上げるのは俺の仕事ではない。そういう事は部長とかに任せておけばいいのだ。

ヤラレキャラにはなりたくないし。


「うー、そうだね…」


残念そうな顔で芳生は溜め息をついた。


「仕方がありません」


イロハさんもなんとか納得してくれたようだ。

はぁ、良かった良かっ…


「早めに魔王を倒す事にしましょう」


って、分かってないよ!


「…いや、だからイロハさん、一回キッチンに行ってみましょうって」


「落ち着いて下さい」


俺は落ち着いてるよ。

冷静だよ。


「キッチンに行く途中でラスボスの城に乗り込むのです」


「へ?」


ラスボスの城?

何をいってるのか分からないが、ともかく、早く終わらせようぜ。


「ラスボスの城がキッチンに行く途中にあるのっ!?」


「ええ、こちらです」


そのままスッと振り返り廊下を引き返し始める。

えぇ〜い、もうなんでもいいや!


覚悟を決めた俺も彼女の後に続く。


「あああ〜、イロハさん!僕が前だよ!勇者が一番前は当たり前でしょ!」


一番前を歩くイロハさんに小走りで追いついた芳生が、彼女の肩を小突きながら、なんともウザイ事を言い始めた。

イロハさんは少しだけ首を芳生の方に向けて、答える。


「私が影の勇者です」


「はぁ!?何を乗っ取りにかかってるのさ!?」


その発言に芳生は顔を真っ青にして身体をビクリとのけ反らせて言った。

どれだけその職業に執着を持ってんだ。

誇りある職業の侵略を恐れている芳生にイロハさんはゆっくり子供に言い聞かせるように口を開いた。


「落ち着いて下さい。真の勇者とは力に溺れ、肩書きに驕り、権力を濫用し、血脈に縋るようではいけないのです。私はそういう事を言っているのです」


「つ、つまり…?」


「世間一般で勇者と言われる人達は真の勇者ではありません」


「ええっ!?」


衝撃の事実を伝えられた芳生は口をガパッと開いて、さらに身体をのけ反らせた。

イロハさんが何を言いたいのか分からないが、これだけははっきり言える、彼女はゲーマーだ。


「じゃ、じゃあ、真の勇者ってのは…!?」


芳生は開けっぱになっていた口を無理矢理開閉して、そんな質問をした。


「町人Aです」


「…?え?」


「しかしただの町人ではありません、最後の町の名前を門の前で教えてくれる人物です」


イロハさんは澱み無く意味不明な事を宣う。

一体この人は何を言っているのだろうか。


「『ここは○○の町です』って言う人?」


「そうです」


「ええ〜、なんでぇ?あんなの超ダサイじゃーん」


「…何も分かっていませんね」


息を一回だけ彼女は吐くと、芳生の肩に手をぽんと置いたまま、彼女はまた歩き始めた。


「ゲームをやっていてこういう疑問を感じた事はありませんか?敵のレベルが主人公に合わせてどんどん強くなっていく、と」


「んー、よくわからないけど、主人公が当たるモンスターのレベルが段々と弱から強になっていくって事?」


芳生は首を傾げながら尋ね返した。イロハは一度だけコクンと頷くとすぐに話を続ける。

というかなんの話をしてんだ、あんたら。


「これはつまり最初の町の周辺に生息するモンスターは雑魚ということになります。反対に最後の町-例えば魔王の城の城下町など-の周辺に生息するモンスターは強いという事になります。当たり前の事ですけど」


「あ、なるほど!王様を守ってるんだね!」


「その通りです。そして当然、この強い敵に囲まれている町にも、魔王を倒さんとす勇者はいます。ですが運の悪い事にその町の周辺のモンスターには戦って勝てそうもありません、経験値を得てレベルをあげる事が不可能だからです。つまりこの町に生まれた時点で、すでに勇者という就職口は閉ざされたも同然なのです」


「…うわぁ、可哀相だ…、それじゃ雑魚に囲まれた町の勇者は運がいいね…」


「ええ、彼らは生まれた時から運のパラメーターはマックスです。セコいものです」


肩をすくめながら、呟くと、また言葉を繋げた。


「脱線しました。話をもどしましょう。つまり私が言いたい事は真の勇者とは運に見放されても自身の信条を曲げずに頑張っている者の事を指すと思います。勇者の信条とはもちろん他者を助ける事です。さてこの場合真の勇者とは誰になるのでしょう?」


「あっ!分かった!最後の町の勇者でしょ!」


質問されると同時に勢いよく芳生は片手をブンと上げて、答えた。

…まぁ、話の流れ的にそうなるだろうな…。


「正解。さて、次の問題です。それでは強い敵に囲まれているにも関わらず最後の町は何故滅びないのでしょう」


矢継ぎ早に質問を繰り出すイロハさん。そしてその質問にも芳生はノンタイムで即答する。


「最後の町の勇者が守ってるからだ!」


やけに発展した解答だな、おい。


「正解です」


「やったー!」


芳生は両手を上げて精一杯の喜びを表現する。

イロハさんはそれを見て小さく微笑むと、さらにつづけた。


「ラスト問題。それでは最後の町の勇者とは誰でしょう?」


イロハさんの微笑はとても愛らしいものだったが、無駄口を叩かなければという限定条件つきなのは和水と同様らしい。氷の微笑と名付けよう。


「わかったぁ!それが門の前にいる町人Aなんだね」


「おお、さすがです。つまり最後の町の勇者が皆を守るという夢を捨て切れず、門を守っているから町は平和なのです。きっと彼は町を守れるレベルになるまで様々な苦労をしたに違いありません、それこそ本気を出せば魔王を楽勝で倒せるレベルに本当は達しているのでしょう、ですが彼が町を離れると侵略される恐れがある。だから彼は町を離れずに守っているのですよ!」


「「なっ、なんだってー」」


って、よくよく考えたら全部彼女の妄想じゃないか!

町人Aにそんな壮大なストーリーなんてねぇよ!

と、俺は心の中で割り切ったけど…


「そ、そうだったのか…」


我らが勇者様はどうやら感慨を受けたらしい。この与田話を…。


「僕、反省したよ…」


「分かればいいのです」


「決めた!」


一瞬落ち込んだ顔になったが、すぐに芳生はいつもの明るい顔に戻って、言った。


「僕、町人Aになるよ!」


ああ、ほら騙されてる。


「それでは勇者が抜けた後釜に私が入りましょう」


「うん、いいよ!まさに最強パーティになったね!」


↓芳生の言う最強パーティ


町人A:ホウセイ

影の勇者:イロハ

遊び人:アマネ


だ、ダメだ!こんなパーティじゃ、松明もレミーラも覚えずに洞窟に突っ込むようなもんだ!


「ええ、このパーティならばどんな相手でも一撃です」


現代風に言えばフラッシュも覚えずに暗闇の洞窟に突っ込むようなもんだ!


「うん、いけるいけるぅ」


仮に覚えさせても主要ポケ○ンに覚えさせちゃったみたいな。


俺の心の中での突っ込みは彼や彼女に届く事はないけど、無口になっている俺を見て、少しは察してほしいところである。

ああ、でも、もし俺がサトラレでも、きっと変わりはしないんだろうなぁ。


「着きました」


ぴたりと一つのドアの前で立ち止まって、イロハさんが言った。俺と芳生も足を止める。

位置的に言えば始めにいた場所、廊下の端にあるイロハさんの部屋の一つ隣りだ。

確かにキッチンまでに通る道ではあるが、階段まで来たら遠回りにもほどがあるだろ。


「こ、ここが…」


「ええ、ラスボスの城です。我々の旅は遂に終点を迎えたわけです」


ゴゴゴゴ…


「…」


その前に一つ言わせてもらえば城ではなく部屋である。


「が、頑張るぞぉ!」


「ええ、気合いをいれましょう」


「…」


ドアにはネームプレートがかけられている。


「ノックはいりません。芳生さん、慎重に扉を開けてください」


プレートにはこう書かれていた。

『ほまれ』

誉さんとはさっき会った執事である。イロハさんとは兄弟にあたる人らしい。


芳生はドアの横に立つと肩を壁につけながらそっとドアノブを握った。

プレートのネームに芳生は気が付いていないようだ。

黒いマジックペンで丁寧な書体の文字。

汚い字の俺にとってはかなり羨ましい限りである。


「遠慮はいりません。ぎったぎたにしてあげましょう」


「…」


あんたどんだけ誉さん嫌いやねん。






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