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15(6)


この作品は携帯で読む事を前提で執筆しているので改行を多めにしています。スラスラと漫画を読むみたいに読めるを念頭にした結果ですが、逆にパソコンで読む場合には読みづらいかもしれませんね。

すみません!

でも今更変えられないのです!




16:00


雲一つない快晴がほんのりと赤らみ始め、遠くの景色までぼんやりと朱色に染められていく。注視しなければ気が付かないほど月はまだ白いが、目を凝らし空全体を見てみれば星が見えないこともない。

快晴とまではいかないが、雪が降るほど曇ってもいないから、今年もホワイトクリスマスは期待できそうにないな。もとより期待など微塵もしてないが。

冬の夕方は、暗くなるに従って空気がとても澄んでいくように感じる、思いっきり外で深呼吸でもしたいものだ。

無駄に自然に囲まれたこの屋敷ならばそれはもう歌の一つでも歌いたくなるようなハイな気分になれる事だろう。


「スコーン出来ましたー」


一階から元気な美影の声が二階に轟いた。


「だとさ」


カーテンを引っ張りながら、視線だけを部屋の中心に向けて呟いた。


「うわぁい楽しみだねー」


「じゃ行くか」


「うむうむ」


部屋の中の男子全員(内一人山本を含む)はみんなで連なって、廊下にドアを開け出た。

廊下から一階の階段を下る途中、ほのかに香る焼きたての菓子の匂いが鼻を優しく刺激する。


和水率いる娯楽ラブの女子メンバーが楓のウチに向かうまでの時間を使ってお菓子作りに励んだのだそうだ。

一方、俺たち男子メンバーは二階に残って何をするでもなく惚けていた。

女性が手伝わなくていいって言うんだもん、仕方無いよね。


「やぁー、やっと来たわね、あげるのが勿体ないくらいの出来作よ!」


和水が朗らかに笑いながら、鍋掴みで鉄板をキッチンから運んできた。


「…パンみたいだね」


そのまま濡れタオルの上にトンと置かれた何個かのスコーンを見た芳生が見たままの感想を述べた。確かにそこにあるスコーンと呼ばれる物体はパンと称されればパンになってしまうほどどっちつかずの有様だ。


「少しこね過ぎたみたいですね、でもお味は保証しますよ」


美影が恥ずかしそうに笑いながら、焼きたてのスコーンを皿によそってくれた。

確かに美味しそうな香りだ。これだけの香りならば、ハズレということはないだろう。


全員が席についてからいただきますをして、一口目そっと囓る。


「ん、うまい!」


「確かにお店に並んでも引けを取らないレベルの品物だな」


楓が賛辞の言葉を吐きながら、スコーンを美味しそうに頬張った。


「部長、それで何時くらいになったら俺の家に行くんですか?」


それから口をモゴモゴさせてから、部長に質問した。

部長は自分の口に含んでいた分のスコーンを飲み込んでから答える。


「これから夜食となるおむすびやらなんやらを作って行くから、…そうだな17時半くらいになったらイロハさんのバスでお前の家に向う事になるな、うん」


「おむすびまでサービスしてくれるのか!?なんて親切な旅行なんだ、材料費としてカレーの代金は立て替えてくれるし、部長がまるで天使のようだ」


「ははは、よせやい」


感情の籠った楓の感想三文芝居もいいとこの棒読みで部長は答えた。

落ち着いて考えてみれば部費だというのに。


「それでお握りの具はなにがいい?」


和水がスコーンの2個目に手を伸ばしながら、聞いてきた。


「俺は別になんでも良いけど…」


夕食を食べた後での夜食など、三時のおやつタイムに想像なんて出来るはずがない。

芳生と山本(先生)も俺と同じように答えた。

和水は何も答えていない楓を見ながら、意見を促した。


「お、おこがましいから、塩結びで構わない」


…どれだけ卑屈になってるんだ、楓は…。

彼の返答に和水は一瞬だけキョトンとした後、少しだけ考える様子をし、呟いた。


「塩ねぇ…」


「砂糖と間違えんなよ」


納得がいってないようなので、和水に野次を飛ばす。

彼女は俺の野次に多少憤慨した様子で言った。


「失礼な、それくらい分かるわよ。私が言いたいのは遠慮しなくていい、ということ。具ならイロハがたくさん用意してくれたから」


「そ、そうか!じゃあ、ツ、ツナマヨを食べてみたい」


楓が目を爛々と輝かせて声を上げる。

アレは確かにうまい、俺も結構好きだなぁ。


「ツナマヨ…」


「コンビニやなんかで具がカルビなんてやつもあるじゃないか、それも食ってみたい!」


「カルビね」


「あと一般的なおかかとか…、ああ、もう梅干し以外ならなんでもいい」


最終的結論を言い満足げに一回大きく頷いた後で、また楓は俯いてスコーンを咀嚼し始めた。

梅干しをなぜハブる。


「オッケー、じゃ、今上がったのは取りあえず作っとくから、あなた達は散歩でもしてきなさいよ」


「散歩?」


突然和水は何を言い出すのだろう、確かに部屋の中でボーとしてるのに飽きが来てるのはたしかだが、それならば俺達もキッチンに入ってスコーンのお礼がてらお握り作りくらい手伝ってやるのに。

無言になりながら和水を見ていると、彼女は興味なさげにいった。


「ええ、散歩、言い換えれば探検。まぁ、ぶっちゃければ、料理は男子が入ると邪魔なのよね」


「な、さ、差別だ!女尊男卑だ!男だって家庭的な奴はいるし、調理実習だってうまいやつはかなりうまいぞ!大体コックとかパテェシエなんかも男性人口が高いだろ!多分!」


「そう、それは確かに認めるわ」


和水は一回コクンと頷くと、俺の事を半目で見ながら、


「でも、あなた達は違うでしょ?」


とかぬかしやがった。

悔しいが認めざるをえない。だが…、


「お握りになんざ誰が握ってもかわらないだろ!?」


「なに言ってるのよ!」


喝ッ!

唾が飛んでもおかしくない勢いで和水が叫んだ。

迫力にたじろぐ。


「お寿司でも、単純そうに見えて技術が必要とされるのが料理の難しいところよ!お握りを『なんざ』なんて言ってる時点であなたにご飯を握る資格はないわ!」


「う、うう…」


情けない事に、言い返す言葉もございません。

寸分違わない正論に俺は心中で膝を折る。

あえて一言返すとしたらギャフンってところか…。


「大人しく…散歩行きます…」


「よろしい、出来たらメールで報せるから帰ってきなさい」


和水は蠅でも追い払うかのように手首をプラプラさせた。


「いや、メールはいいや。頃合をみて帰るよ」


お前のメールは古典みたいなんだもん。




女子をキッチンに見送って静々と男子一行は歩きだす。

目的地の定まっていない冒険の始まりだった。


「ドゥー、ドゥルドゥー・ドゥルドゥー、ドゥルドゥッドッドッ、ドゥドゥドゥドゥー、ドゥルドゥ・ドゥー、トゥトゥトゥトゥー、ドゥルトゥトゥー、トゥルトゥトッー」


前言撤回、静々ではなく約一人異常に喧しい。

ちなみにこれだけでなんの曲か分かった人は絶対音感を軽く超越しています。


「先生うるさい」


「『動かない石像』があらわれた!」


山本先生が微妙にテンション上げていずこかを指差した。

その先を見れば、確かに石像が一体ある。


「…」


楓が生徒を代表して返事をしてあげた。


「そうだな」


だがそんな金持ちグッツも今となっちゃ見飽きたもんだ。石像レベルのものなら先ほどからたくさん並んでいるから今更、って感じになっている。

だから、さながら博物館のように展開される古美術に、多少辟易するのは是非も無い事なのだ。


「あ、あっちは『彷徨わない鎧だ!』」


博物館見学に来た小学生の如く勢いのまま先生は興味を移しまくるっている。


「そうだな」


そんな先生に楓はクールに流す。食べ物関係以外に楓が興味を持つものは金銭問題なのだが、美術品にはそのベクトルが向かないらしい。

先生は鎧から視線を楓に移すと、文句を言った。


「なんだそのテンションの低さ!もっと上げろ」


「そうは言われてもな」


「お前今我々は冒険してるのだぞ!クエストだ!ファンタジーだ!それをそのリアリズムで否定するというのか!?」


「否定する気はないが、…ま、やりたきゃ一人でやればいいだろ」


「シニカル過ぎるわ、うんこ!思いだせ、あの時の憧憬を!男子たるもの勇者に憬れて当然!なし、というなら貴様は男じゃないな!」


「男じゃないのはそこの人だ」


楓は顎を俺にふんと向ける。

こっちに話をふるなぁ!


「俺は男だ!女装だって趣味じゃない!」


「…………ともかく日本男子たるもの常に高みを目指すべきであり…」


「シカトすんなよ…」


山本にさえ、呆れられたら俺の精神HPがデッドライン超えちゃうだろ…。


「…であるからして、勇者たるもの健全な魂と健全な肉体を持って魔王に正義を振りかざすのだ!」


妙な演説は続いていたらしい。山本は鼻息あらく自身の勇者論を論じている。

全く…、そんなのに賛同するやつなんているわけ…


「すばらしい!」


いたよ…。

芳生が手をパチパチと叩きながら、嬉しそうな声をあげた。


「僕も勇者になりたい!」


え〜、なに言っちゃてんのこの人、夢追い人?

芳生はすっかり山本に毒されている。誰か彼にキアリーを!


「どうすればなれるんですか!山本先生!」


「…ふ、厳しい修行になるぞ」


「修羅に入るのは覚悟の上だよ!茨の道を踏み締めて、僕は勇者になるっ!」


感動的場面かどうかは知らないが、限り無く下らないという判断は下せる。

早く終われ三文芝居、大根役者の出る幕ないぞ!芳生!

止める人がいないからってすっかり山本はノリノリである。


「よくぞいった芳生、お前をこれから弟子にしよう。私の事はこれからア○ン先生とよぶように」


「了解しました!アバ○先生!」


「うむうむ」


もうアンタそのまま一生アストロンしといてくれないか。


「では、最初の敵はこの彷徨わない鎧だ!呪文を唱えろ!勇者たるもなんでも出来使えいかん!はい!まず雨音から!」


「はぁ!?なんで俺なんだよ!?」


勢い余って俺にまで火の粉が飛んできた。俺は勇者志望じゃないし。

山本はフンと鼻をならして答える。


「勇者にはパーティが必要だろ?職業診断テストだ!芳生もまだ勇者に決まったわけではない!第一志望勇者なだけでな!」


そんな職業はただのニートとかわんねぇよ!


「だからってなんで俺が…」


「パーティに入りたいだろ?もしかしたらお前も勇者になれるか、も」


「俺は別にいいや…」


RGBは中学で卒業したし。


「冷たい事ぬかすな、さ、いいからいいから」


「ふー、しょうがないな…」


芳生が寂しそうな目でこっちを見てる事に気が付いた手前、行動を取らずにはいられなくなった。


「はい、じゃあ、鎧に向って呪文唱えてー」


「呪文?」


「いいから早く唱えろー、感情は込めろよー」


山本が執拗に俺をはやし立てる。急にそんな事言われても浮かぶわけがない。

えーと、なんか無かったかな…


「…まんまるボタンはお日様ボタン」


「はい、チガーウ。それは扉を開ける童歌だ。次、楓!」


俺も違うとは思ってたけどもうちょっとコメントしろよ。


「なにをすればいいんだ?」


楓は仕方無いといった様子でダラダラと鎧の前に立った。山本は背中を押すようにさっきと同じように「呪文を唱えろ!」とだけいう。


「呪文なぁ…」


「魔法だぞ」


「ああ、じゃ、あれ。アギラオ!」


「はい合格、次〜芳生!」


えー、呪文って魔法の事だったのかよ、だったら適当にザキ(ニフラムでも可)って(山本に向って)唱えたのに!


「ついに僕の番だね!いくよ!」


芳生は一人気合いを入れてから唱えた。


「メテオ!メテオ!メテオ!メテオ!」


「…」


「メテオ!メテオ!メテオ!メテオ!」


どんだけ連発すんだ。それじゃ只の流星群じゃないか…。


「メテオ!メテオ!メテオ!メテオ!メテオ!」


誰かこの空回りなコメットさんを止めてやってくれ。


「おしっ、分かった!勇者は芳生だ!」


止めたのは以外にも山本だった。多分今日で一番教師らしい事したな。


「魔法遣い、楓!」


「ふーん」


楓は魔法遣いに認定されたらしい。


「そして雨音は遊び人!」


「まぁ、予想はついてたけどさ…」


「まぁ、レベル20になったら転職するんだな!コロコロと職業変えやがって」




「フリーター=賢者なんで…」


「ふん、まぁいい!」


偉そうに山本(先生)は鼻を一回ならした。

もう…、無聊の慰めにもならんわ。


アンタがゲームマスターだなんて、俺が今までプレイしたゲームで一番のクソゲーだぜ。


ちなみに俺がしたゲームでクソゲートップスリー


---------------------


1位 山本RPB←new!

2位 RPBツ○ールで作った俺の自作ゲーム

3位 部長のクソゲー


---------------------


ちなみに2位にランクインしてる俺自作RPGはある意味超大作であると自負しています。

文章量は少ないのに比べて、ダンジョン容量半端ないし、ラスボス戦は家の裏の子犬に話かけたらスタートするし、途中で死んだ仲間がゾンビとなって後半雑魚モンスターとして出現するし、登場人物は108人だし(これはいい点です)…もうなんていうか、市販されたらプレイして10秒でディスクたたき割りたくなるようなシナリオだけどさ!

山本RPGには勝ったよ!やったね!マルクスアウレリウスアントニヌス(主人公の名前)!


俺が報われた主人公に感涙している横で、山本RPGゲームマスター山本(先生)が言った。


「まぁ、ジョブチェンジの話は置いといて…」


転職って言えよ、そこは統一しろ…。


「そして俺はみんなの師匠だ!」


とんでもない発表をサラリとする山本(先生)。

あなたの職業を自分で決めるというのは些かアンフェアだろ。


「…そういえば師匠は呪文を唱えてないですね…」


「は?」


と言ってやった。

そこで自称師匠の動きがビクリと止まる。アストロンが発動したか?


「そうだな、師匠の実力を見せてほしいところだ」


「僕もみたいなぁ」


楓と芳生も俺と一緒になって先生を責め立てる。

先生は汗をダラダラ垂らしながら、「ちょっとだけよ…」と呟いた。


さぁ、いい歳こいた大人のワンマンショーが始まるよ!


「ふぉ〜〜」


ゆっくりと空中で円を描くように手を回し、


「ふん!」


カメハメ波の構えで、


「バルス!」


山本が叫んだ。


「…」


「…」


「…どうかね」


「さ、行くか」


もうそのまま滅んでください。






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