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最近はおもしろい小説に出会う率が高いです。

自分の作品もそう思われるようになるといいなぁ。


ゲームはスゴロクに戻る。

俺が振ったサイコロは別になんて事ない、無地のマス目に止った。

一安心だな。

芳生にサイコロを渡すと同時に自分のコマを進めた。

受け取った芳生は無言でそれを振う。あんなに元気一杯だったのにここまでの長丁場になると、さすがの芳生も疲れてきているのだろう。


「…部長、本当に手前の三つどうにかなんない?」


「ふ、ふん。空気の言葉なんざ聞こえるか」


「ブー」


文句をいうように唇をとがらせて芳生は、紙をすっと取り上げた。


サイコロを振った芳生は残念な事に、また『やられたら嫌な事が書かれた紙』にぶち当たったのだった。


「えーと、何々…『ちょかいをだしてくる』」


「俺が書いたやつだ」


筆跡は俺のもので間違いない。部長への当てつけの為に書いた文章だ。


「これってのはつまり…」


「ちょかいを出される空気…」


「っは、はん」


部長が芳生の方を向いて、


「きょ、今日の空気は窒素濃度が少し多いなぁ、こ、このままじゃ窒素酔いしちゃうそ」


「…」


まぁ、何も言うまい。


「楓、僕もうなんだか疲れたよ」


「…寝ろ」


「俺が終わらせてやるとかそういう意気込みが欲しかったんだよ。はい、サイコロ」


芳生から楓にサイコロは渡された。楓はそれを溜め息を吐きながら転がす。


「チッ」


舌打ちが彼の口から漏れた。

終わり一歩手前の楓もやはりゴール前の3枚に引っ掛かったのだ。


「なんなんだ、いい加減にしろ…」


楓は苛立ちを隠すことなく、言葉に出すと、紙をペラリと取り上げた。

口では文句を言いながらも、キチンとルールに従うあたりが偉いと思う。


「なになに、『歯医者』…なんだこれは?」


「あっ、はーい、私のだわ」


憔悴しきった感じだった和水は、嬉しそうに手を上げて自己主張を開始した。


「私って…、なんだこれ。人にされたら嫌な事でなんで歯医者なんだよ」


「私いま虫歯治療してるのよ」


「だから、なに」


「あいつら、ほんとに酷いもんよ!」


和水は憤慨を隠す事なく、ぶちまける。


「今までの専門医がちょっと外国に行ってるから仕方無く近所のワニの歯医者さんに行ったのよ!ところが…」


和水はそこで大きく息を吸った。

つか歯医者の専門医ってなんだよ、そんなんあんのか。

…行きつけの診療所はあっても、専門医なんていないと思うけどなぁ…。


「あいつら調子に乗ってんのよ!私は奥歯を治療してもらってるんだけど、まずあの麻酔、単純に怖いわ!なまじ先生の手元が見えるから余計に恐怖よ!」


「目を瞑むればいいじゃないか」


楓が静かに正論を述べた。

全くその通りです。

だが、和水には正論は通じない、コイツの思考は俺達の予想斜め右上を行くのだ。


「何言ってんの?治療はすでに先生とのサシの対決になってるのよ?目を閉じた時点で負けだわ!」


「そんな事考えてんのはお前くらいのもんだよ」


「…そうかなぁ、結構いると思うけど、…あ!これだけじゃないのよ!」


和水はここぞとばかりに愚痴をぶちまける。…ここは娯楽ラブという場であり間違っても月光町○ちゃい者クラブじゃないのでお前で部活の活動目的を改めるのはやめて頂きたい。…もとより娯楽ラブに活動目的なんざないに等しいがな。


「痛かったら手を上げてって言われたから上げたら『はい、我慢してね〜』って我慢できないから手を上げたんじゃない、アンタバカ?って言おうにも口が塞がれているから文句も言えないわ!」


正確には塞がってるんじゃなく開けっ放しなだけだかな。喋ればいいじゃん、舌うごかしてよ。腹話術師の人が言ってたけど、マ行パ行以外は唇をつけなくても喋れるらしいぜ。

と声に出さずに心の中で呟く。


「それだけじゃないわ!ドリルッ!何あの音、キュイィンって…人をバカにしてるの!?怖いわ、あの響くキュイィンがまた私の恐怖を煽るのよ、そしてその振動で脳が揺れるの」


んでもって耳から耳垢が零れそうな感覚におちい…、まぁ、何も言うまい…。


「わかるわかるよ和水ッ!僕にも経験あるよ!」


なぜか芳生は勝手に激しく共感し始めた。

ちなみに俺は今まで生きて来て虫歯0というアイデンティティを誇る高校生。素直にこれは自慢させてもらう、凄いでしょ。


「分かってくれるのね、芳生!そう、歯医者さんは虫歯治療してるんじゃないんだわ、彼らは私らが苦しんでるのを見て楽しんでいる究極のサディストなのよ!そうサディスト、彼らはサディストよ、虫歯で苦しむ美少女の顔が苦痛に歪むのを見て楽しむ変態よ、あの顔を半分覆うマスクは嫌らしい笑いが浮かぶのを隠すためにしているのよ!」


いや、その理屈はおかしい。歯医者がそんな変態ばかりだったら日本国民大半が虫歯持ちになっちまう。

つか和水はSとMは知らなくてもサディストっていう言葉は知ってるんだな。と新たな発見。


「そして治療中のあの微妙な痛み、痛いとも言えないむず痒さ。アレを誤魔化す為に私はある結論に至ったの」


「な、なに!?今まで和水先生には本当に参考に出来る意見を頂いてます、今回はどんな理論を下さるですか?」


和水を持ち上げる芳生。

彼の凄いところはこれは皮肉でも世辞でもなく、本当に純粋な気持ちで褒めているところだ。


「ええ、うふふふ」


和水は褒められて笑いを堪えきれずうれし笑いを漏らしながら、ぶっ飛んだ意見をほざき始めた。


「私が辿り着いた結論、それはっ!」


今までのでも散々ぶっ飛んだ和水氏の意見…。

更なる焦らしはいらないが、俺がここで入る事によってまた引っ張られることになってしまっている、という罠。


「あいつら真面目に治療してないのよ!」


「また、そんなバカみたいな…」


「バカじゃないわ、こう思ったのにはある確信があるのよ?いい、足りない脳みそフル稼働してよぅく考えてみて、歯医者さんが私たちの虫歯を完全に治療したらどうなると思う?」


「どうなるって、…そりゃぁ」


治るんだよな?だったらそこでお終いだろ。


「どうもなんないでしょ、治療費払ってハイバイバイ、お大事にー、ってか?」


歯医者にかかった事ないんで知らないが普通の医者とさほど変わらないだろ。


「そこよ!」


びしっ、と和水は人差し指を突き立てて、俺に迫った。


「そこ?」


「普通の医者ならお大事にでいいけど歯医者はそうは済まされないわ!」


「意味がわからないんだが、マジで」


「鈍いわよ、雨音!最初に言ったでしょ、あいつら真面目に治療なんてしてない、って」


「…いや、してくれてるだろ…」


「はぁ、全く。いい?今はもう21世紀よ、地球が産まれて2000年ちょっとも経つのよ!そんなに経ってんならすでに完全に虫歯を治療する技術も完成しているはずなのよ!それが今だに削って埋めるしかないなんてありえないわ!」


…危うく聞き逃すとこだったが、今和水は地球が産まれて2000年って言ったか?…いや、よそう、突っ込むのはまだもうちょっと我慢だ、今そんな下らない事に神経を磨り減らしてたら今後の彼女の駄目理論に対抗出来なくなってしまう。


「虫歯を完全に治療する…、これは完全に予防するという意味も含まれているわ、虫歯この地球上から無くす技術がもう完成しているはずなのよ、だけど彼ら歯医者はその技術で私たちの歯をフッソコートしないの、…なぜだかわかる?」


ああ、なんだか和水が言いたい事が分かってきた。

だが、乗りたくないので無言で彼女に対応する。和水はそんな俺を見て、まだ気が付かないのか、というようなバカにしきった視線を俺に送り続きを説明しはじめた。


「虫歯がこの世からなくなったら歯医者は廃業していまうからよ!歯医者だけじゃなくキシリトールガムの会社も歯ブラシメーカーも歯磨き粉メーカーも廃業ね!以上が歯医者が真面目に治療していないと言える理由よ!」


「…」


ごうんごうん。


暖房機具が稼働する音がさっきよりもはっきりと俺の耳に届く。それもそのはず、だって皆が口を開いていないからだ。

パチ…パチパチ

そんな沈静の中、感動的なオペラが終わった後のように静かに、拍手が響きはじめた。

音の発生源は言うまでもなく芳生だ。


「す、素晴らしいよ、和水!感動した。確かにその通りだ!虫歯が完璧に予防されたら歯医者なんて職業はなくなってしまうから彼らはほど良く虫歯を残してるという事なんだね!まるでキノコを養殖するように僕らの口内を菌の苗床にしてるんだ!またいつかブーメランのように戻ってくるように!」


だとしたら…

こ、こぇー、歯医者マジこぇー!…ってそんな事あるか!


「そうよ!歯医者なんて職業は本当に医者の風上におけない職業よ!医者は次はどこに病が来るかわからないから仕方無いとはいえ、歯医者は確実に歯にくる事が分かってるのに対処しないの!…だからよく歯の詰め物が外れるってわけ!それだけじゃないわ、私は経験ないけど歯の矯正ってあるじゃない?」


ああ、あの鋼みたいなのが歯についてるやつか。


「アレは酷い!歯を見せて笑うという行為が矯正のせいで威嚇にしか捕らえられなくなるのよ!牙を見せてるように錯覚させられるわ。これは患者に歯医者が精神攻撃を仕掛けているのよ。やっぱりサディストなの、あいつら」


「…」


もうなんか俺がバカみたいに感じられて来た。気のせいだけど。


「ともかく歯医者は手を抜いてる。これは確実。同じ理由で眼科もね、視力が落ちるように設定してるわ」


「…レーザーで視力上げる治療が確立されてっけど?」


さすがにこれ以上彼女をのさばらせると、お医者様方に悪い気がして来たので地味に反論させてもらう事にする。


「ああ、聞いた事ある。眼鏡派、コンタクト派、それとも…レーシック派?って奴ね!…そんなの簡単よ」


「なんだよ、言ってみろよ」


と彼女に安い挑発をしてみる。

だが和水は当然の如く飄々と俺に反論するのだった。

例の如く間違った意見で。


「目先の利益に捕らわれたのが一つ、眼鏡屋と眼科医が喧嘩したのが二つ、実はそれでも視力は落ちる、ってのが三つ」


「酷い意見だ…」


「意見じゃない、事実よ事実」


和水は偉そうにふん反り返って俺に勝者の笑みをぶつけて来た。

もういい、俺の負けでいいから、誰かコイツの頭を冷やす意味の冷や水をぶっかけてやってくれ。

俺が呆れを通り越した嘆きの溜め息をつくと同時に、部長が口を開いた。


「和水お前の主張はわかった」


「あら、部長」


「正し過ぎる、私から付け加える事は何ひとつない斬新な意見だ」


「そうでしょー、うふふふ」


えー、ぶ、部長まで何言ってんのさぁ!

アンタの持ち味は最終的には常識人ってところだったのによぉー


「私が聞いたところによると、すでに切れない電球というのが開発されているらしいのだが、電器屋が反対している為市場には出回らないのだそうだ。それと同じだな」


…この女郎、ただ単にウンチク語りたかっただけじゃねぇか。


やっぱり部長は俺が知る部長で、自分至上主義のお方で間違いが無かった。


一人納得した俺の横で部長は続ける。


「ところで『歯医者』を罰ゲームにするにはどうしたらいいんだ?そもそも私の質問、人からされたら嫌な事、ってのに微妙にあてはまらない気がするんだが…」


「…そうねー」


「普通に何もなしでいいだろ」


楓は和水に被せるようにボソリと呟く。

まるで祈っているかのようなか細い声だ。

まぁ、実際そんな罰ゲームなんて好んで受ける人なんていないだろうけど。楓のその気持ちは嫌というほど理解出来るし…。


「そうだなぁ…」


部長は和水と一緒に腕を組んでを何やら思案顔になる。

楓の罰ゲーム『歯医者』を考えているのだろう。


「和水なんかないか?お前の『紙』なんだから」


「そうね、…罰ゲームになるなんて考えて無かったから…。私としてもなんでもいいんだけど…」


「ふむ、そうだな。それじゃ…。帰りのコンビニで楓にはメン○スとコーラをプレゼントしよう」


「は?」


あ〜、あれね



「なんで罰ゲームでものをもらえるんだ?」




どうやら楓さんはご存じないらしい。あの学生オーソドックスの罰ゲームを。

どうでも良いけどソックスじゃなくてドックスのが正しいと最近知った。


「日頃お前には迷惑をかけているからそのお礼、ってところかな」


「…まあ、そう言われて悪い気はしないな、素直にその気持ちは尊重させてもらいますよ」


一回いい笑顔になる楓。

楓ダメー。

部長の言葉は7割は悪意で構成されてるから、そんな安易に乗っちゃいけないってもう一人の俺が言ってるよ。

大体メ○トス+コーラの恐ろしさは有名だと思うけど、…、まさかその知識のなさが悲劇を招く事になるとわな。

これを楓に教えてやるのは簡単だけど、…


…人から物もらう時の楓はものすごく嬉しそうなんだもん。言えないよな…うん。


「うむ。さ、これで『歯医者』は終わりだな。次は…えっーと、美影の番か」


「はい」


薄着の美影がサイコロを楓から受け取る。

美影はそれを「またか」と言った憂鬱げな顔で手のひらの上でもてあそんだ後、やがて決心がついたように、一回彼女は息を吸った。

その時だった。


「ちょっとまったぁ!」


スムーズなゲーム展開を遮断する和水の声が部室に響いた。

譲渡式を済ませていた楓と美影はもちろん奥で司会進行を担当していた部長も何事か、といった顔で和水を見る。


「メンコーラじゃ、私が取り上げた『歯医者』に微塵もカスってないじゃない!」


絶対にはやらない略称はさておき、和水はどうやら楓の罰ゲームに納得がいっていないようだ。

あの『紙』を書いた張本人がそう主張している限り、ゲームマスターの部長はそれを無視する事は出来ない。


「なら、どうすればいいんだ?」


部長はさっきと同じ質問を和水に尋ねた。

待ったをかけたはいいがその内容は考えていなかったらしい和水は戸惑いを隠す事なく、「あ…、えっと…うん…」と言葉を濁している。


「歯医者を『される』。ってのがネックになってるんだがな」


助け船にもならないわかりきった泥船が部長から出されるも、和水は明確な『歯医者』の定義を打ち明ける事ができそうにない。

とうとう痺れを切らしたらしい部長が


「はぁ、分かった。私が歯医者をしてやるよ」


と意味不明な発言をするまで和水の迷いは続いていた。


「歯医者、をする?」


あなたは医学部卒のお医者さんじゃないでしょ。

和水の次のセリフがどうなるかは知らないが、その発言に疑問付だらけに陥っている彼女の顔はすぐに部長の行動によってエクスクラメーションマークに変化する事となるのだった。


「楓、口開けろ!」


「は?」


部長はそう叫ぶと同時に楓の前に回りこみ、その「は」の状態で制止した口に左手をガッと押し当てて固定すると、人差し指を立たせた右手を楓の口の中に突っ込んだ。

…って、なにやってんの!?


「!」


「左手は添えるだけ、だから簡単に口は閉じられるだろう。だが閉じたら殺す。あともっと口開けろ、指三本縦に入るくらいな」


部長はそう脅し文句を言いながら指を楓の歯に這わせる。「んがんが」言いながら殺されたくないからだろう、楓は口をさらに開けた。ゆっくりと、腕全体を右下奥歯から下前歯に移動させていく部長。ブツブツと学校で定期的に行われる歯科検診の時の歯科医が呟く謎の呪文、「1から5斜線、6C…」とか言いながら部長の指は徐々に左下奥歯に移って行く。

その非日常な光景を見て俺はぼんやりと、Cが虫歯って意味だっけ、炭素だから?とか考えていた。ちなみに斜線がセーフ…だと思う。


「ッ〜〜ン〜ン、ッ〜」


楓は声にならない叫びをあげながら(口を閉じられないのだから当然だろう)必死の抵抗を試みるが、音だけで部長を止める事など出来るはずもないのだった。

今の彼女に手をだしたら顎がぱかりと裂かれそうだしね。


「下最後、CO2!」


部長はそう叫ぶと右手の動きを止めた。CO2…、二酸化炭素?…あんた絶対意味分かってないだろ。


「ン、フゥ…」


楓が口の中に指を突っ込まれたままで器用に一息ついた。動きが止まった部長を見るとどうやら作業が終了したらしいという事がわかる。楓は安心したように所在無げに揺らしていた両手の動きを止め、ピシっと気をつけの状態になっていた。踵も付けてるし。


「次、上!」


「ン!?ッゥ〜〜」


一旦停止したのはタメ兼フェイントだった。部長は今度は指を上の奥歯に当てて作業を開始するのだった。


「ッ〜〜〜」


「赤の28、黒15!」


歯科医部長の報告はすでにテキトー極まりない状態まで昇り詰めている、それならまだ最初の方が、らしかった。


「ハートのエース!ダイヤのエース!」


もうすでになんの脈絡もなくなっている。

それにしても、部長。よく他人の口の中に手を入れられるな…、クールな楓だって唾液分泌量は人と大差ないはずだから、手に唾は絶対つくはずなんだが…。俺は自分のだったら美影以外の唾は耐えられな…、…自分で考えてて気持ち悪いからやめよう。


「おし、検診終わったぞ!」


部長がそう言うと同時にまた楓は安心したように息をはいた。

ちなみに検診と書いてイジメと読みます。


「ふひょお(部長)?」


だが、変わらず部長の指は楓の口の中に存在している。


「…」


「ふひょお、はひゃくはふひへふらはい(部長、早く外して下さい)」


楓が相変わらずモゴモゴとよくわからん事を言っているが彼女はそれに答えず無言で楓の顔を見つめている。

俺は、口に手を突っ込まれても怒らない楓の度量の深さに感心していた。


「うりゃ」


「はふ!」


また突然だ。部長は今度は両手の人差し指を楓の口内にぶっこんだ。

そしてそれを横に引っ張る。

口の内部から外側に引っ張られた楓の頬はいびつに歪み、掃除機の床掃除の際に使うノズルの形みたいになっていた。

簡単に言えば両頬を抓られて、引っ張られてる感じ。内側からだけど。


「ふひょう、なにするんふか(部長なにするんですか)?」


さっきより人語に近付いた言葉で部長に尋ねる楓。よくよく観察してみれば喋る際に舌が部長の指に当たらないように注意しているように見える。なにフェミニスト?


「『歯医者』という和水の『紙』もクライマックスに近付きました」


「?」


部長はなおも楓の口を人差し指で横に広げながら、そう言った。クライマックスどころかあんたさっき自分で終了って言ってたじゃん。


「そんな楓にラストを締めてもらいたいと思います」


「はあ」


部長のこれまた動向不明な提案に短く楓は答える。

というか部長はいつまで楓の口内に指を突っ込み続ける気だろうか、気に入ったのか、湿り気がある口内が?バカップルでもないのによくそんな事できんな人前で。

部長はやっぱり指を口内に入れたまま、言葉をつづけた。


「締め作業は、楓君。この状態のまま、『学級文庫』と言って下さい」


「なぜ」


楓はやけに流暢に質問しかえした。

あー、またレトロな遊びを部長は持ち出して…。

下らないにもほどがありますよ。


「いーから」


器用に楓は尋ね返してから、渋々といった感じで、その言葉をはいた。

あーあ、なんか知らんがドンマイ。


「学級う○こ」


「はい終了〜」


してやったりと部長は指を楓の口から抜いた。






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