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14(6)


言いたい事がずれていってしまう…

私はそういうグダグダ感が本来の高校生の姿だと思っています。『青春』と呼ぶべきでないその『普通』を描く。それがこの作品を書くにあたり私が定めた目標の一つです。


話変わりますけど、明日も投稿します。←投球予告


(この14(6)を投稿するにあたりちょっとしたミスがありました。今度は大丈夫…なハズ。まぁ、こういう風にいろんなポカを私もやらかすと思うんで気が付いた方は気兼ねなく指摘して下さい)




誰かまたあくびした。

それが伝染するように『ふぁ〜』の大合唱になる。

そんなダル×2モードを切り替えるように部長が元気を絞り出した感じの声で言った。


「ほ、ほら見ろ、ゲームセットは近いぞ…」


「部長があと6を出せば上がりですね。だけどなんですか、手前の…」


「実は私も後悔してる」


ゲームはついに終盤を迎えた。

みんなのコマはついにゴール手前まで迫っている。

特に部長はすでに6を出せば上がりというある意味リーチの状態。

だが、しかし皆の表情は晴れなかった。

理由は明白。


「とんでもない事をしてくれたな」


「っう、楓…。せめて敬語で責めてくれ。ほら私は先輩だし、部長じゃん」


「いいから早くサイコロを振ってくれ。こちとら早く帰りたいんだ。今日の洗濯物係りは俺なんだからな」


「…はい、でもこれだけは分かってほしい…」


「?」


「私の見たい番組は実質帰宅時間を合わせて見逃す事が確定した。だのに私は一所懸命にゲームを終わらせようとしているんだ。この前向きな姿勢だけは認めて頂きたい」


「ゲームが終わってからそう言うのは言ってくれ。さ、早くサイコロをふるんだ」


「…サー」


前回引き続き、和水の冷たい言葉+楓の冷ややかな言葉に部長も反省をしながら、サイコロをもう一度ギュッと握り直したようだ。


そう、部長がここまで塩らしく楓に責められているのにはわけがある。彼女の配置が良く無かったのだ。


ゴール手前の惨状を説明しよう。


《ゴール》

+

【嫌な事が書かれた紙】

+

【嫌な事が書かれた紙】

+

【嫌な事が書かれた紙】

+

【セーフマス】

+

【5マス戻る】

+

【セーフマス:部長コマ】

:

:


とありのままを記号で出来うる限りを説明してみた。


まぁ、分かりやすく文章で説明すればゴール手前に部長が【紙】を3つも設置しやがったって事。

おぉ超分かりやすい。


「みんなすまない。だが、もう終わらせてやる」


ボッ、部長の目に炎が灯った。


「このスゴロクが終わったら、私、帰るんだ…」


「…」


無理やり失敗した時の保険の為か死亡フラグのような物を立てようとする部長。瞳に宿った火も最早線香花火のように儚いものに変わっていた。


あきれたよ。


「部長さん、その前に質問してもいいですか?」


「ん、なんだ美影。構わんが手短にお願いするぞ」


と、美影が静かに手をあげてそっと部長に質問した。


「はい、あの…これって、ピッタシゴールにつかないと折り返すんですか?」


「それはつまり、…あと3マスでゴールという時に6を出してしまったら、余った分逆に進む…、というわけか?」


「ええ、そうです。もう折り返しルールをなしにすればゲームも早く上がるんじゃないんでしょうか?」


「それは出来ない」


美影の提案をキッパリと断る部長。


なぜに?


「女、柿沢秤、妥協は許されないのだ!」


部長はかっこよくそう言い放つとサイコロを振った。


そう、瞳を閉じれば蘇る、今回の部長の勇姿…


『誰か一人がゴールしたらみんな解放される事にしよう!』



目茶苦茶妥協してんじゃん。


「ふー」


「あ」


覚悟を決めていたはずの部長から溜め息とともに、気力が漏れた。

部長のサイコロはそううまく行くはずもなく、3を指している。

つまり、『紙』だ。


「部長、ドンマイです」


最後のヤマを超える事が出来なかったのだった。

結果としてフラグが成功したわけだ。まぁ、そもそも確率的にそっちのが高かったけどね。


「なんだろうこの気分は…。喩えるならばドラ○エのスゴロク場で1ターン目で床を調べて落とし穴にハマったみたいな、なんとも言えない切ない気持ちは…」


「喩え下手ですね」


「うるさい、黙れ」


部長はそっと紙はスライドさせてそれを引いた。


「こ、これは…」


部長は中の内容を見ると同時にメタルキ○グに遭遇した時のように輝いた表情に変化した。鼻息を荒げて、彼女は微妙ににやける。


「何が出たんですか?」


「うん、まあな。落ちた場所を『調べる』してみたらスゴロク券が見つかった、そんな気分だ」


質問した俺の顔をちらりと見て二度三度頷くと部長は全体に向って声を張り上げた。


そう、それはまるで修学旅行先に落ちていた下着(パンツ)を夕食の時に誰の落とし物か尋ねる先生のようにハキハキとした明るい声で。


「誰だぁ〜、かっこよく『告白』だなんて書いたのはぁ」


にゃに!?


「俺」


部長が舌打ちをしながら手を上げた楓を見た。


…ん!

つか、告白ッ!?


「また貴様か」


「そんな言い方ないでしょ。俺の紙の3枚分全部出ただけ」


「ま、そうだが…。それでなんだこの『告白』ってのは?」


部長が誰もが気になっている言葉をニヤニヤとしながら吐いた。

ああ、もちろん俺も知りたいさ。


「だから、言葉通りの意味です。断るのも言い訳を考えるのが面倒だから苦手なんですよ。告白って」


「ちょ、待ちやがれ」


絶え切れず声をあげてしまった。


「その言い草だと何回か経験ありって感じだな」


ここでいう経験というのはもちろん、告白をされた事がある、という経験だ。


「?」


俺の質問に楓は一度こくんと首を軽く上下させた。


っく、この野郎…。

なんか俺の内から新たな感情が芽生えるのを感じる。

嫉妬、嫉妬というやつなのかっ!?これがっ!?


「それで全部断ってきたってわけか?」


「いや、中学の時一度だけ断るのが面倒だったからYesにした時があったな」


「え?」


部員の耳が全員ダンボになる。


「そ、それって甘酸っぱいトチオ○メみたいな中学生日記!?」


和水がさっきまでのだらけきった雰囲気が嘘のように満ち足りた顔で身を乗り出して楓の話に食い付いてきた。

やっぱり女子って人の恋バナすきだよな。…俺も言えたもんじゃないが。


「意味がわからない」


「いや、だから、初彼女ってわけでしょ」


「ま、そうなるな。小学生の時も1回告白されたけど断ったし」


しょ、小学生の時だとっ!?ど、どんだけ進んでいるんだお前の学区内!

俺が小学生の時なんて、女子とちょっと仲良くしただけで友達から『エロエロ〜』ってからかわれたもんだぜっ!

女子しか受けられない保険の授業を疑問に思いながら外でドッチボールを楽しくやってただけだぞっ!?ビデオ見てるらしいという噂にさらに頭がこんがらがった純粋な小学生時代に、楓は『付き合って下さい』『無理』っていう会話をしていたなんて同じ地球の時間を過ごしていたとは思えん!

な、なんてこの野郎、モテモテなんだ。モテモテ王国の住人か貴様はっ!?同じ時間軸の人間なのかっ!?

と、俺が怒っても仕方無いな…。


「そ、それでその彼女さんとは今も続いているんですか?」


今度は和水じゃなく、美影も食い付いてきた。

もちろん美影もどこと無く楽しそうだ。


「いや、別れたよ」


ざ、ざまぁみろ!


はっ、いかんいかん、人の不幸を喜んでは…。


「あ、それは…」


「ドンマイだな!楓っ!」


臆面に出すまいとしてもどうして楽しい声になってしまうのが、年齢=彼女いない歴の俺のダメなところだな。

だけどそんな自分嫌いじゃないぜ。


「なんで別れたの?」


芳生がズバリと質問した。

やっぱお前のそのなんでも知りたがる性格好きだわ。


楓はそんな芳生に顔を向けると、何やら考えるように上目遣いになって、呟いた。


「フラれたんだよ、たしか」


フラれたって!?


「告白されてフラれたのかっ!?」


「ん、そういえばそうだな」


だとしたらその女も飛んだ食わせ物だよな。自分から告白しといて自分からフルのは少しダメな気がするぞ。と付き合った事がないけど思ってみる。

楓とのカップル関係がどんなのかは知らないが、それがわかった上で告白しろよ、青臭いガキがっ!

と心の中でだけ思ってみる。


「3ヶ月くらいかな」


楓は特にいつもと変わった様子の無いトーンで自分からさらに暴露した。その声からはなんの感慨も感じていなさそうに思える。思い出に浸る感じも特になし、ただ淡々と事実の記録のみを報告している感じ。

この調子なら、…行けるかもな、


「なんでフラれたの?」


この質問。


俺の思った通り楓はノンタイムで教えてくれた。


「ドライ過ぎる、って…」


「…」


…みんなが無言になった。

そして静かに、その彼女に同意した。




「しゃぁぁい」


静まり返った部室の空気に起爆剤となるべき部長の雄叫びが響く。

いきなり声をあげるから少しびびってしまった。


「今はそんな事より、この『告白』だ!して何?私が告白されればいいの?」


「そうですね」


楓は先ほどの空気など無かったかのように、そう同意した。


「なら、楓、ほら私に告白しなさい。眉目秀麗、明眸皓歯、才色兼備なワタクシに告白できるなんて運がいいわよ」


「そうか」


なんか和水のようになって乗ってきた部長にクールに楓はそう言うと、部長の前に立ち直り、ダラダラとした様子で向かい合って告げた。


「好きだ」


なにそのムードもへったくれもない声音。そんな雰囲気じゃ、百歩譲って二人の告白のバックグラウンドが校舎裏だとしても、ダイオキシン溢れる焼却炉の目の前だよ。


「あっそう、それで?」


「付き合って下さい」


だけどその言葉はやはり重みがあるな。

特に、…今の俺には…。

楓のその言葉に呼応するように部室の空気も自然とピンと張り詰めたものに変わった気がした。

その張り詰めた空気の弦をハサミで何も考える事なく切って見せるのが柿沢秤という女だ。


「無理〜、だって私、みんなのものだから一人のものになんかなれないんだも〜ん」


究極にイライラするブリッ子のまま部長は楓の告白を無下に断った。

まぁ、同意しても、冗談みたいなもんだしな。

そんな部長の返事に楓は少しもむかついた様子をおくびにも出さずに言った。


「そうか。あ、そうそう、コレは罰ゲームだから」


「…」


楓の一言に部長はグゥの音も出ないといったように、後ろを振り向いて俺に、


「なんか負けた気がする」


と敗北宣言した。

だって実際その通りだし。

罰ゲームで他人告白するのは人道を外れる行為だからね。




「違います!」


そんな部室の雰囲気を建て直す気なのか、烈火の如く美影が突如として声をあげた。


「ど、どうしたの美影…?」


「どーしたもこーしたもありませんッ!なんですかその、人を馬鹿に仕切った告白は!」


「え?なんか美影、起こってる?」


「ええ、ええ。怒ってますとも人が人に想いを伝えるという素晴らしい行為を嘗めきった今のシミュレーションにはほとほとあきれさせられました」


め、珍しい事があるもんだ。あの普段温厚な美影がここまで目くじらたてて怒るだなんて。


「納得出来ません!やり直して下さいっ!部長さん、楓さん!」


「…」


名前を呼ばれた二人は互いに見合わせて同時に


「「え〜」」


と意義を申し立てた。


「面倒くさい」


「時間もないしもう今のでいいじゃないか」


「部長の言う通りだな、むしろあんな風にだらけきってる感じが、高校生っぼくていいと思うが」


「最後の罰ゲーム宣言が青春という二文字を際立たせているな。勘違いと思い上がり、今の青春ドラマに足りないスパイスをうまく取り入れた現実的な素晴らしい出来だったと私はおもっ…」


「絶対違います!」


部長の言葉を完璧に否定してから、美影は「良いですか、告白というのは…」と、自身の思う、『告白』というシチュエーションを説明しはじめた。


「1、自分の感情に決着を付けるものであるからして、心の防波堤を乗り越えた勇気を感じさせる言葉じゃなくてはいけません!」


美影の思うところの告白概念。




今の内に心に刻み付けておこう。確かに同意できるところがあるし…


「2、相手からのOKをもらう為に告白する側だっていろいろと言葉を考えてきているはずです。シンプルなのもいいですが、ここは是非しっかりして頂きたいたいものです」


むっ、つまり美影は単調に「君が好き」とかそういう言葉より何か付け加えた言葉がほしいということか…、なるほど、勉強になるなぁ。


「3、呼び出された時点で告白される側の子も(ああ、来るな)と思って予感しているはずです。ならばそれ相応の態度を、もちろんそんなの微塵も気にしてない風に「あ、なに、なんか用?」みたいな態度を取る男子がいるらしいですが、それは男らしくなくてアウトです」


「うむ、つまり告白される側もずっしり構えておけという事だな」


「ええ、その通りです部長さん。続いて4です。残念だけどフる場合には相手を傷つけずにやんわりとした言葉を選ばなくてはいけません、相手を立たせて、尚且つ、恨まれないような言葉…、ここが一番大切で、難しい所です」


フる時か…、俺には縁がない話だな。


「そして最後に5、フラれたら潔く場を去るのがマナーです。フラれた腹癒せに相手を傷つける一言を吐くなんて言語道断です。罰ゲーム宣言だなんてもってのほかです。もちろん相手にお別れ-この場合のお別れは普通のサヨナラという意味です-かけるのを忘れてはいけません」


ううっ、俺にしてみれば耳が痛い最後の条約だな。

しっかりと男らしく去る。了解です美影長官。

でも、出来れば、…

…オッケーの返事に手を取り合って一緒に喜びたいところだな。


「以上を踏まえて、もう一度告白をやり直して下さい!」


そう最後に部長と楓に言い切ると美影を一回大きく鼻から息を吐いた。

小柄な美影が大きく見える。


そんな彼女に圧倒されるように一度席に着いていた楓もまたダラダラと立ち上がり、「わかったわかった」と言いながら部長の前に立った。

部長も仕方無く付き合っているという感じでダルそうに頭を掻いている。


「カットォッ!」


また美影が声をあげた。

カットって…映画じゃないんだから…。


「なんですかその立ち絵!もっとしっかり襟を整えて!部長さんもほら!どっしりと物臭は違います!やり直しです、向き合うところから」


「ふぅ、わかった。しっかりやるよ。さっきの美影が言った通りやればいいんだろ」


「そうです。アドバイス通りやれば完全にドラマを超えたものが出来るんですよ!」


「ああ、ええーとまず…」


「まずは姿勢をよくして、はい、覚悟を決めた感じで彼女に男らしく告げるんです、間違っても『こ〜いしちゃたんだ、多分』とかナヨナヨした疑問文にしてはいけませんよ!」


なんか恨みでもあんのか?


だが、楓は美影の言葉通り姿勢を正して、きっちりと部長に向き合った。


そして楓の口から告白の言葉が…


「カットォッ!」


「え?」


突然また遮られて楓は言葉を濁らせた。


「俺まだなにも言ってないぜ」


「ええ、今回楓さん大丈夫でした。問題は…」


そこで美影はグルリて俺と芳生の方を向いて、腰に手を当てていった。


「雨音さんと芳生さんです」


「「へ?」」


突然名指しされて俺と芳生は目が丸くなる、だって今俺たち関係ないじゃん。


「ちょっと待ってよ。今僕たちキャストじゃないよ」


「ええ、芳生さんの言う通り今実質スポットライトを浴びる主役は部長さんと楓さんの二人です」


「だったら…」


「ですが二人は今、言うなれば黒子のような裏方の仕事をしているんです!裏方がただ観客のようにぼんやりと劇を見るようではお話になりませんよ」


「いや、ここは部室だし、演劇部みたいな豪華な舞台装置もないから黒子の仕事なんざ出来るはずが…」


「ほらっ!その考えです!その考えだからいけないのです!ここが部室?だからどうしました?コートがないとテニスが出来ませんか?卓球が出来ます。プールがなければ水球が出来ませんか?ハンドボールが出来ます!それと同じです。ここが部室と思う固定観念がいけないのです!いいですか?ここはいまから西日がさす校舎裏です。そういう風に心理描写するのです!」


えー、なんか全然意味が分かんないよ…。

だ、だが、うん。なんか少し感動した。俺は囚われすぎていたんだ。思い込みだ。自由な心で、羽を伸ばして…リラックスリラックス…。

今からここは校舎裏…校舎裏…。


「あ、ほらでも僕いま空気だから見てるだけにさせてもらうよ」


俺が思い込もうとしている横で芳生がなんともずれた言い訳を開始した。

せ、セコい!点線という立場を利用した巧妙な言い訳だ。


「だからこそです!」


「へ?」


そんな芳生の言い訳は波に乗ってる美影に通用しないようだ。


「芳生さんは空気だから何もしないというのですか?そんなのは空気じゃありません!古来より日本では空気は主役級の活躍をする大事なキャストなのですよ!例えばドラマの佳境で流れ始めるタイアップのBGM、アレだって本当に現場で流れているはずがありません、当たり前です、実際に流れていたら主人公が戸惑います、ですがあれは空気が場を盛り上げているという事なのです。空気の大切な役目です」


「…」


なんか、今日の美影はやけに語るなぁ…。

恋愛ドラマとか好きなのかな、俺はあんまりドラマとか見ない人だからよく分からないけど。


「えっと、つまり、僕は…」


「歌って下さい」


「…え?」


「それが空気の仕事です」


「う、うん!わかった!僕精一杯空気を演じるよ!」


精一杯空気を演じる…なんかやっぱりちょっと違う気が…、


「準備オッケーですか?雨音さん」


「へ?準備ってなにが?」


「…もう、話聞いてました?雨音さんは心理描写を担当するんですよ」


「う、うんだから…」


「ナレーションです」


「…了解」


監督状態の美影に逆らえない事を悟った。


※ ※ ※ ※


告白 BGM:螢の光


ほーたーるのひかーりー♪


西日がさす校舎裏、緊張しきった面持ちの男子生徒が今、壁に背中を預けて待ちぼうけていた女生徒に歩みよる。

ザッザッザッ、足音はしっかりと一定のリズムで力強く彼が地を蹴っているのを証明しているかのようだ。


ふーみよーむ、つきーひ♪


「お待ち申し上げていた」


女生徒はそう呟くと背中をピンと張り、ずっしりと両の脚を地にたて自らの身体を支えた。


いつーしか、とーしもー♪


彼は彼女を見受けると静かに、そして堂々と一回息を大きく吸った。さながらそれはダイ○ンのサ○クロン掃除機のようだ。そしてたったいま吸った酸素を落ち着いた呼吸で吐きだしながらそれに言葉を乗せる。

そう、もう彼に後戻り出来る道など残されていないのだ。


あーけてぞけーさはー♪


「我が心に決着を着けにきた」


「うむ」


「覚悟はいいか?俺は出来てる」


わかーれゆーく♪


「ご慕い申し上げる。願わくば汝と永久を共にしたいものぞ」


とーまるもーゆーくーも(二番)♪


彼は頭を下げて、手を差し延べた。


「それは…」


女生徒は一度だけ大きく空を見上げるとまたすぐに彼の姿を見つめて、重たくなった口を開けて返事をした。

空には二人の行く末を見守るようにたなびく細長い雲がつらなっている。

彼は自らの心臓の鼓動の大きさに驚いた。


「…出来ない」


その言葉が、空気に溶け行く刹那、彼は確かに時が止まったのを肌で感じた。


ちーよーろずーの♪←空気


「理由…理由をお聞かせ願いたい…」


彼は止まってしまった時間の歯車を回転させるように言葉をゆっくりと紡ぐ。


ああ…、なぜだろうか…、


先ほどまで高鳴っていた心臓が今では落ち着いて、静かな鼓動ではないか。

熱を感じていた耳朶も、すでに冷めきっている。


ひとーことーにー♪


「拙者に貴殿は勿体ないで候う」


「…」


彼はその言葉を聞き届けると自嘲ぎみに一度鼻を「ふっ」と鳴すと踵を返し、彼女に背中を向け、片手をピッとあげて、確かな声で言った。


「邪魔したな」


あーあ、フラれちゃったデース!!涙が零れないように上を向いて元気の出る歌を歌って帰りマース!!


「さーきーくとばーかーり」←ハモり


ヒュウゥー


突然彼を慰めるように取り巻く一陣の風が舞い上がった。


男子生徒は風になった―

女生徒が無意識のうちにとっていたのは【敬礼】の姿であった。涙は流さなかったが無言の男の詩があった。

奇妙な恋慕があった。


うーとおーなりー♪


バァァァァン【終劇】


監督:裏美影

主演男優:五十崎楓

主演女優:柿沢秤

ナレーション:表雨音

友情出演:空気(土宮芳生)


※ ※ ※ ※


「これ…なんか…」


「ええ…なんか…」




「「しょうもなぁーい」」



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