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14(5)


なんだかんだで段々と一話分が長くなってきている気がします。

キリがいいところで終わらせると残念ながらこういう風に伸びてしまうのですが、ちゃんと決めた上限文字数の中に話を納めたいものです。


そして一話分が伸びれば当然投稿も遅れるという罠。

私だって急いで完成させてるつもりなのですが、それでも遅れちゃうのは…、仕方無い事なのです…。




ここまで来ると耐久レースだ。

超スピードで順番を回そうと部長はパッパッと早回しで再生されるビデオみたく行動する。

アクセラレーター。


「はいっ!」


紙に書かれた罰ゲーム、『イジメ』(著、和水)を引き当てた部長が俺にサイコロに渡してから、


「さぁ、煮るなり焼くなり好きにしろ!」


と般若のように顔を怒らさせながら、叫んだ。

しかし、誰もみんな部長を見るだけで、口を開こうとはしない。

その薄い反応に部長はタジタジしながら、


「私をイジメてくださいっ!」


と続けて叫んだ。


なんだよそりゃ。

普段の気丈な部長からそんなセリフが聞けるのは、ギャップがあっていいのかもしれないが、生憎俺に人が困っている顔を見て喜ぶ趣味はないし、それが自身の欲望(番組)の為だと思うとムカツク。

というかこの流れ何回か繰り返してる気がするが気のせいという方向で。


「さぁ、どうした?私をイジメないのか!?シマリス君風に言ってやろう!いぢめる?」


さて、俺達は部長にどうやって対処すればいいんだか、


1、『いぢめないよぉ』

2、『いぢめるよッ!』

3、『しまっちゃおうねぇ』


うん、シカトでっ!


ところで、気になる事がある。部長がひいた罰ゲーム、


「…イジメってなにすんだよ?」


一概にイジメっていってもたくさん種類がある気がする。

俺は今まで生きて来て人にイジメたことも人にイジメられたこともないのでいまいち何をすればいいのかわからない。

右手に握らされたサイコロをいじりながら、誰に聞くでもなく尋ねた。


「あれじゃない?○○菌とか、いって囃立てる…」


芳生が答えてくれたが、それはちょっと違うと思う。


「いや、それはガキ過ぎるだろ」


「いいえ、あってるわ。それ以外に何があるというの」


和水が声をあげた。


「あってるって、はぁ?」


「イジメっていったらそれ以外にないじゃないの、秤菌秤菌エンガチョ、エ〜ンガチョって」


「なんだよそれ、小学生じゃないんだから、…もっと、ほら他にもいろいろあると思うぜ、靴隠したり、無視したり、バケツの水被せたり、あとえっとー、…ん?」


ふと、俺を見る視線が痛くなっているのに気が付いた。


「なんだよ?」


「酷い…、き、鬼畜っ!」

「え?何?俺に言ってんの?」


和水がイジメの定義が低すぎるから、付け加えただけなのになして批評を食らわなきゃいけんのじゃ。


それに俺が言ったのもさほどレベル高くないぞ(と思う)!


「アンタ以外に誰がいんのよ!そんな事ばっかり考えてるなんて脳みそが溶けてるんじゃないっ!?」


「ええ!?なんだよソレ、お前のイジメのレベルが低いから付け加えただけだろうが、理不尽だぜ!ソレってどうだよ!?」


俺はそう言って周りを見渡した。


はっ


「え…、ちょっ、…なんでそんなに冷たいの、視線…」


主観だが、俺に注がれるその視線は間違いなく恐れを抱くそれだった。孤軍奮闘。

特に美影さんから注がれるそれが。


「す、凄いですね。雨音さん…」


凄いって、何をさして言ってんのさ?


「え、いや、違うよ!ドラマ!そうドラマだって!前にやってたドラマでやってたやつを言ったんだよ!ほら、あれだよ、果てしなく〜遠い〜♪」


俺の言い訳は誰の心にも響かなかったらしい、視線の冷たさ相変わらずだ。


そんな俺の後ろにいつの間にかまわりこんだ部長が立っていた。部長は俺の肩に手を置いて言った。


「最後にお前に一つだけ言っといてやろう」


「え、なんスか?部長?」


「『私は負けない』!」


部長は本当にその一言だけ言うと、引きっぱなしだった椅子の上にドカッと座り、頬杖ついて「どうぞドMな私を苛めて下さい…、これで満足か?」と、高圧的な態度で俺を威圧した。


なんで俺に言うんだよ。

それにそういうのは苛めって言わないだろ。


「さぁ、みんな!鬼畜でドSな表雨音を讃える声を上げようではないか!」


現:苛められっ子、柿沢秤娯楽ラ部長が皆(部員一同、俺除く)を焚き付けるように声を上げた。彼女は瞳を輝かせると、頭の上で手拍子をピストン運動の如く、一定のリズムで叩き出す。


え、なにその変な流れ…。


「せーの、で行くぞ!せーの…」


ぱん、ぱん、ぱん


突然場を仕切り始めるイジメられっ子、しつこく言うが今まで俺はイジメられっ子を見た事ないけど、こんなのは間違いなく違うと言える。


「きっちっく(鬼畜)!きっちっく(鬼畜)!きっちっく(鬼畜)!」


放課後暗い校舎に響く部長の声が響きわたる。

じょじょにチラホラと他の部員からも声が上がり始める。


「…」


「きっちっく(鬼畜)!ほら!美影、もっとおっきい声で、そんなんじゃ雨音に気持ちが届かないよっ!」


「はっ、はい!きっちっく(鬼畜)!きっちっく(鬼畜)!」


なんで放課後の部室で叫んでんだよ。

てか、これ絶対にイジメと違うだろ、まだ○○菌とかのがそれぽかったぞ。

眉をしかめて部長を見てるのだが、段々と彼女は調子づいてきたのがわかる。

というかこういう光景をテレビの向こう側で見た事があるな、ホストクラブかなんかの夕方の特集で。


「あ〜ま〜ね〜はッ!」


「「きっちっく(鬼畜)!きっちっく(鬼畜)!」」


いま、娯楽ラ部員の心が一つになった(俺を除く)。


「「きっち…」」


「ちっがぁぁぁぁうっ!」


「鬼畜ぅ?」


「なんですかッ!?そんなポケモンの鳴き声みたいな声に俺は騙されませんよ!」


首を斜め横に45度傾けながら、可愛い声を出して言う部長。


「これじゃ俺がイジメられっ子ですよ!大体鬼畜鬼畜って俺はなんもやって無いじゃないスか!」


「ほら、ドラマやなんかじゃ立場逆転でイジメっ子は最後にはイジメられっ子になったりするじゃないか。アレの再現」


「そもそも俺はイジメっ子じゃありません!」


「イジメは見てるだけで何もしなければその時点でそいつもイジメに参加したという…」


「あんたイジメられた事ないだろッ!」


はぁ、もうダメだ。全く取り付く島もない。諦めよう、部長が相手だとそう思うのが大切だ。


俺はそう判断すると、まだ能書きをたれる部長を無視し机の上でサイコロを転がした。


「ッ」


「おや、ふふふ」


俺の後ろからサイコロを見た部長が盤を指差しながら笑った。

数を数えなくても分かるのが辛い。

俺が注意していたのは、『紙』に当たる事だ。


「ほら、早くしないか」


口角を上げて部長が俺を急かす。

くそ、分かってるくせに。俺が出した数字分進めれば待ち受けているのは、白い『紙』だ。やられたら嫌な事が書かれた紙。


俺は今回ソレに当たったのだ。


今まで明らかになった紙は4枚。


『額に肉』(著:楓)

『貧乳』(著:和水)

『巨乳』(著:美影)

『イジメ』(著:和水)


この中に俺が書いたものはまだ一枚もない。

これから先、俺を待ち受けている紙が誰が書いたものなのか、どんな内容なのか、それはわからない。

だが、忘れてはいない。

俺がどんなものを犠牲にしても避けなくてはならないものは、俺が書いた『女装』の紙だという事をっ!


「早く捲らないか」


「はい…」


部長の無慈悲な声が背中を押すように俺に突き刺さる。


一体どうすればいいというのだ、部長の目的は公式に俺を女装させる事に違いない。

嫌だ、嫌過ぎる。

出来る事なら逃げ出したい。だが、今のこの状況でそれが出来る人なんてこの世には存在しないだろう。

えぇい、ままよ!


「てりゃ」


俺は乾坤一擲、紙を捲りそこに書かれた内容を読み上げた。


「『暴行』っ!…え?」


「あ、それ俺が書いたやつだ」


楓が手を上げていった。


「人からやられたら嫌な事なんて早々に思い付かなかったから適当に書いたんだ」


「お、おい、『暴行』ってなんだよ。俺が今からこれされんの?」


「それがルールだしな。俺は何も言わない」


「おい!か、楓、今からでもいいから少し内容を柔くしてくれ!じゃないと入部試験ときみたいになっちまう!」



思い出しても身の毛がよだつ入部試験。よく分からない暴行を部長から受けて以来俺は痛い事から意識して遠ざかってきた。痛い事を喜ぶ人なんてマゾヒストだ。俺は少なくともその人種には分類されない。


「入部試験なんて懐かしい事言ってくれんな。アレにはほんとに酷い目に合わされたもんだ」


うんうん、と一人思い出に浸るように首を上下させる楓。


「だったら分かるだろ。お前後ろを見ろ、指を嬉しそうにポキポキ鳴らしてる女を見てたら軽々しく暴行を受けろだなんて言えなくなるから」


「あ。うむ。部長がやけにやる気満々というのは理解した」


楓の後ろにいる部長はいつ『オラ、わくわくしてきたぞ』と言い出すか、というほど喜々としている。


「わかった。お前も部長から九龍城落地(ガウロンセンドロップ)なんてくらいたくないよな」


「納得してくれたか、楓!な、なら…」


「かと言って紙にはもう暴行って書いてあるから今更内容を変えようにもどうしようもない」


「その通りだ。おぅし、さがってろ、楓。いまからイジメっ子に復讐を開始するから」


部長がズイっと楓を押し退けるように前にでて、ニヤリと笑いながら構えた。


「まずはキャメルクラッチから」


「ちょ、ちょっと待って下さい部長!」


このままじゃ俺の命が危ない。早く楓に変更を依頼しなくはっ!


「楓のいう暴行っていうのは部長が想像している暴力を行使する事じゃないんですよ!」


「…は?」


ああ、俺は何いってんだ。

だが、ここで誤魔化さないと死ぬ。ならば頑張るしかないよ頑張るしかないだろ、My mouth!


「ふむ、それならどういう意味なんだ、楓?」


「俺?」


部長の矛先が俺にではなく楓に向けられた。これはつまり俺の命運を握るのはmy mouthではなくhis mouthになるわけだ。

た、頼む楓!俺の命を救うはお前のその発言にかかってるのだ!


「ああ、あれだあれ。俺が言ってる暴行ってのはイジメみたいなもん」


「い、イジメだと!?」


「言葉の暴力はもちろん、身体に与える痛みかなんかの暴力全体を含めて暴行って意味」


「つまりそれをトータルして…」


「イジメという言葉がピッタリだな、って事」


楓は一人自信に溢れた顔で俺の代わりに部長に言ってくれた。

俺は心底彼に感謝する。


だってそうだろ?部長はさっきまでイジメられっ子だったんだから俺は部長にさっき自分がされた事をすればいいのだ。さっきまでされていたこと…


「まぁ、落ち着いて座って下さいよ、鬼畜」


「…」


ぬははは、快感じゃ。

部長から暴力を受けずにすんだし、さっきの仕返しも出来るなんてコイツはなんていい罰ゲームなん…ッ


「ッッ」


「ま、これ位は許されるだろ」


部長の指が俺のオデコで弾けた。


「いってぇ…」


「ふん。ただの暴力をでこピンだけで勘弁してやったんだからいいじゃないか。そんなことより早くゲームを進めようじゃないか」


「ああ、そうっスね、はい芳生」


「オッケー、次は僕か。パッパッとやって一気にトップに踊りでてあげるよ!」


イコロを受け取った芳生はまた懲りずに嬉しそうにソレを振った。

あいつのそのポジティブさには本当に感心させられる。


「うわぁ」


「どした?」


そんな天真爛漫土宮芳生が珍しく間の抜けた悲鳴をあげた。いや、まぁ、間が抜けてんのはいつもの事だが。


「あたあたあた、あたっちゃたんだよぉ」


「は?なに?ケンシロウ?」


「違うよ!ほら!紙がだよ!」


芳生はそう言いながら盤の上にある一枚の白い紙をひったくるように取り上げると頭をうなだれてソレにあてた。


「ショックなのはわかるけどよ、案外いい内容かもしれないぜ」


「みんなが『やられたら嫌な事』を書いてるのに良い内容なんてあるわけないじゃんか」


「あ、そうだな」


そうだった。そもそも俺がいまこうして地に足つけて立っていられるのは楓の機転のお陰だったんだ。

楓が親切に部長避けとなるあの言葉にしてくれたから、なんのダメージになったんだった。でこピンは食らったけど。


「ま、落胆すんのは中開けて内容を確認してからにしれよ」


「そりゃMの雨音はどれを引いても当たりかもしれないけどさ…」


「おい、ちょっとまて。今の言葉聞き捨てなんねぇぞ。誰がなんでMなんだよ」


「う?部長が雨音はそう言えば喜ぶって言ってたから言っただけだけど」


「部長!?」


俺は芳生から視線を外して部長に移した。

頼むからやめてくれ、美影の前でありもしない俺の性癖を吹聴すんのは。


「コラコラ、芳生。そう気安く言っちゃダメだとこの間教えてやったばかりだろ」


「あ!ごめん部長!Mの人は待ったがかけられるのが好きなんだったっけ」


「そうだ。こう極限のジラしというのに彼は極上のエクスタシーを感じるのだよ」


「黙れ!この鬼畜!」


俺は部長に言葉を吐きつけた。

怒鳴ったところでこのアマは止まりはしないが…。


「やれやれ。芳生との心理学の勉強を邪魔するとはなんとも無粋じゃないか、表雨音君。一生口を開けなくなるように地面のそこに埋まるかい?今なら無償で手伝ってあげるけど」


「な、何をいってるんですか!結構です!そんな事してくれなくて!」


一生の終わりが土の中なんて御免だ。


「ほ、ほら、芳生!早く紙を確認しろよ!」


ともかくこの話を切り上げさせるしかない。

部長はいま間違いなくムシャクシャしてらっしゃる。思い通り俺に暴行出来なかったからだ。今彼女に手出ししたら倍以上の力でねじ伏せられるに違いないだろう。

用意に想像できる。

テレビに映る部長の卒業アルバム。似てもない声音でアナウンサーが『ムシャクシャしてやった。今は反省している。被害者の方にあやまりたい』とかなんとか部長が供述してるとかほざいちゃうんだ。挙句の果て部長の活動なんてしりもしない禿頭のクサレ校長が『彼女はとてもいい子で…』とか語りだすんだ。

俺の事なんてそっちのけで。


「うー。目をそむけたい現実が手の中に」


「い、いいから早く確認しれよ。部長が怖いぞ、急がないと」


「えーい、男は度胸!でりゃ」


芳生の気合い一発、紙が破れんばかりの勢いでそれを開いた。


「『みんなから無視をされる』っ!あっ、これ僕がかいたやつだ!」


「ちょっち見せて貸して触らせて」


部長が芳生の持っていた紙を奪いとるように取り上げた。


「ふむ、確かにお前の筆跡だな。それで書いてある『みんなから無視をされる』をされるとは如何な意味なのだ?」


「意味も何も…、書かれている通りだよ。みんなから無視されるのは辛いじゃん」


「ふむふむ、確かに。シカトというやつだな」


俺も部長と同じように納得する。みんなから無視されるのは確かにどんな暴力よりも辛い事だろう。皮肉な事に芳生のあげたそれが一番イジメに近かった。


「だが、ゲームのルール上これから芳生を無視しなくてはぁ、ならない!」


「えー」


微塵もショックを受けていないといった感じに芳生が声をあげた。不服ならもっとそれに適した声の調子があるだろ。


「では今から芳生は空気だ!いないものとして振る舞うぞ!」


「ちょっと部長、地味にメンタルに響くんだけど…」


「3、2、1…、はい消えたー、今この瞬間から芳生という人物はゲーム終了まで私たちの脳内から消えたー。漫画的表現だと今点線で表されてまーす」


うわぁ、本当にサラリと酷い事言ってのけるな部長。芳生が可哀相だ。


「もうしょうがないなぁ」


今やいないものとされた芳生はただあきれたように息を吐く。

ふとその隣りで楓が呟いた。


「俺まだサイコロ貰ってないぞ」


「あ」


部長が続けて声をあげた。

しばし考えるようにしていた部長はオズオズと芳生のいる方向にペコペコと話かけた。


「あ、あの空気さん。サイコロを…」


点線芳生にへりくだる部長。


芳生はそれにニコリと笑って楓にサイコロを渡すのだった。


おぉ、なんて大人な対応。


サイコロを平穏無事に受け取った楓はそれをあくびしながら、振った。楓はすでに飽きがきているらしい。

そんなのは他の部員も同じだが。


「なにこれ?」


サイコロ通りコマを進め終わった楓が片眉を上げて疑問を口にした。


「部長、『動物のモノマネ』ってなんです?」


「書いてある通りだろ」


楓が今現在止まっているマスには確かに『動物のモノマネ』と書かれている。

ケチなどつけられないくらいしっかりとした日本語だ。


楓は何を疑問に思ったのだろう。


「好きな動物のモノマネをやれ、ってことだよ」


「好きな動物でいいんですね」


「ああ、お前の好きな動物になりきれば、それで…、楓?」


「…」


「なに?もうモノマネ始めてんの」


突然黙りこくった楓は、部長のその問いにコクリと二度ほど頷いた。


「…」


なんの鳴き声もださない動物。楓が今演じているのはそういう類いの動物なのだろうが、…全くもってなんのモノマネをしてんのかわからん。

だって彼、ただ突っ立ってるだけなんだもん。


「…」


「もっと分かりやすい動物にしろよ」


たまらず俺は楓に話かけた。だが、それでも無言を貫き通す。


よかろう、そっちがその気ならこっちもこの気だ。


「…」


当ててやる!


「コアラ!」


「…」


「パンダ!」


「…」


「プレーリードッグ!」


「…」


今上げたものは正解にかすりもしなかったらしい。

無言というのはハズレということだろう。


「なんだよ…。分かるわけないだろなんのアクションもないんじゃよ…ん?」


「…」


「か、楓、それって…」


楓は口をモゴモゴと動かしている。お口クチュクチュモン○ミンみたいな。


「モ〜」


「!」


そしてその鳴き声ッ!

決定打!


「牛だ!」


「…」


俺の答えをシカトする楓。

どうやらハズレだったらしい。


「は?なんで、牛でしょオイ」

「…モ〜」


「いや『モ〜』っていって口をモゴモゴ動かしてたら牛以外にありえ…」


「わかりましたっ!!」


俺の声を遮るように可愛らしい声が轟いた。驚いてそっちをみれば、美影が嬉しそうに手を上げている。


「みか…じゃなくて貧乳?」


「わかりましたよ、楓さん!正解は…」


先ほどの和水よりも名探偵っぽく貧乳(美影)は言い放った。


「『キリン』ですね!」


「…うん」


「っな!?」


やっと人語を話始めた楓はコクリとまた頷く。


「正解」


「やりました」


正解と言われて、軽くガッツポーズをとる貧乳(美影)。

いや、ちょっと待てよ!


「『モー』ったじゃん!牛じゃん!それに口をモゴモゴ動かしてたしさ…」


「キリンも『モー』って鳴くし、反芻動物だ」


「な、なんだよソレ…。それにしてももうちょっと分かりやすい動物を選べって…」


「好きな動物だろ?俺はキリンが大好きなんだ。そんな事より正解を導き出した貧乳には賞品をやろう」


「わぁい、本当ですか?何くれるんです?」


嬉しそうに手を差し出す貧乳(美影)。飴玉か何かをねだっている子供のように純粋な目だ。


「ああ、コレ」


「…あ」


その両手にポトリとサイコロが落とされた。

一度それをちらりとみると、楓の方を向いて彼女は言った。


「…ありがとうございます…」


露骨に嫌そうだ。


まぁ、とにもかくにもこれで順番が回るようになったのだ。楓から美影にバトンタッチはスムーズに完了した。

美影は受け取ったサイコロをすぐに机の上にコロコロと転がす。

ぼんやりとそれの行くすえを見つめていた美影だったが、ある数字に止まった瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。


「『紙』…」


コマを数字分進めた美影はまた顔をしかめて、白い紙を溜め息をつきながら、取り上げた。


「また、罰ですか…」


「まぁ、仕方無いじゃない。運命なんてそんなもんよ」


「割り切れば…、そうですね」


前半の無敗神話が嘘のようだ。巨乳(和水)に慰められながら貧乳(美影)は落ち込みながら紙を読み上げた。


「コレ、私が書いたやつだ…『服を脱がせられる』…」


「あ〜…」


意味が分からないといった様子の和水、芳生、楓を放っておいて、その意味がわかる俺と部長は静かに納得していた。

それはあからさまに美影から部長に対する怒りの訴えなのだった。前に行ったナントカゲームの罰ゲームに対しての。


「そ、それで部長さん。まさかここで服を…」


「脱げ」


「そんな慈悲を…」


「そいつは無理って話だな。誰よりもそこに書かれている内容を理解しているはずだろ。服を…ってな」


「酷いです…」


「酷い事があるか、前回はやってのけただろ」


そう言いつつ明らかに笑いを堪えている部長は肩がフルフルと震え出していた。一方、美影はというと恥ずかしさか、はたまた怒りからか肩がフルフルと震えている。

それに前回と比べても取り巻きの人数があまりにも増えすぎているだろう。


「い、一枚づつですよね…」


「制服を脱げと言っても脱がないだろ?」


「そ、そんなの当たり前…いや、ちょっと待って下さい」


彼女は部長の言葉をそう言って遮ると何か思い付いた顔になった。

そして、ニヤニヤと笑いながら部長に答える。


「いいですよ!制服脱いでやります!」


「へ」


部長を始めとする部員一同全員が驚きの声を上げた。


「え〜っ!?」


「な、なんでわざわざ自分を奈落に突き落とすんだ!?」


「ふふ…、違うんですよ雨音さん」


彼女はそう意味ありげに微笑むとブレザーのボタンを三つ外し椅子に丁寧にかけた。

紺色の学校指定のセーター姿になる美影。

続けてそれも脱いでリボンも外した。


その様子を見ている男子はみんな顔を真っ赤にして呆然としている。朴念仁楓でさえだ。

部室は一時パニック状態になった。

美影に肉薄していた部長は後悔からか、

「私のせいだ、私のせいだ…」とブツブツと呟きながら頭を抱えている。


「もう部長さん、大丈夫ですよ。私の頭は正常ですって」


「そんな事ない。いかれちまった…」


「いやだなぁ、失礼ですよ。えい」


「!」


美影はそう気合いを入れると腕をクロスさせて長袖のシャツをグィと上に上げた。

…薄い青色の制服のシャツを…。


「うわぁ!み、美影ぇっ…え?」


間抜けな悲鳴が俺の口から最後まで出る事は無かった。

騒然としていた部室は水を打ったように静まり返っていた。


「美影、やめてよ…。普段冗談を言わない人がそういう事するのはさ…」「へへーん、私も雨音さんの真似ですよー。秘技・下に一枚っ!」


美影はそう言いながら、黒いTシャツを端を親指と人差し指で挟んでパンと引っ張った。


「暖房がつよいなと思ってたところなので丁度よかったです。はい、和水さん」


美影はそう嬉しそうに笑うとサイコロを和水に手渡した。

なんて人騒がせな…。


「っ?」


チカ


目に刺激を覚えて俺は思わず瞼を堅く閉じた。


なんだ…、な、


頭を後ろに不自然に移動させ、突然の刺激-光を確認する。

光は美影の左手から発せられていた。


左手から光…?

あ、ああ…


一瞬疑問に思ったがすぐに答えに辿り着く。なんて事はない、ただ単に美影の左手にある腕時計の文字盤に蛍光灯の光が反射しただけの話だ。


でも美影って腕時計してたんだ。

金色の男物の時計なんかして重くないのだろうか。俺なんて入学祝いに貰った時計、邪魔になるんで一週間くらいで外したけどな。


「?なんですか?」


「な、なんでもないよ。えーと、美影が半袖になるの始めて見るなって思っただけ」


「…あー、そう言えばそうですねぇー」


俺の視線に気が付いて質問してきた美影に言う。


考えてみれば美影は転校生で薄着になる夏には彼女に会ってもいないんだった。ということは当然、夏服指定だった時に、彼女とは顔見知りでもなんでもない状態だったんだ。

そう考えると不思議な気分になる。


羽路学園では10月は制服移行期間として、夏服冬服どちらでも自由に着る事が出来るのだが、美影が来たのは丁度肌寒い頃だったので、彼女が半袖姿になるのを見るのは今日が始めてだった。部長発案のゲームの時も薄着にはなったが、あの時美影は学校指定の長袖のシャツだったからな。


美影の着ている半袖シャツにはなにも書かれていないので、面白みに欠けるところだが、シンプルなのはとてもいい事だと思うよ。

だけどやっぱりこういう時は英語が読める子供ならドン引きするような英字がプリントされたシャツを着ていてくれたらギャップがあってよかったのに。


「よぅし、クリアよ!」


和水が腕をブンブンと振り回しながら、大きな声を上げた。


どうやら彼女が止まったマスには何も命令が書かれていなかったらしい。


そいつはよかった。


「さ、次は部長の番よ。分かってるでしょ?私いい加減飽きてきたの」


「う。耳が痛いな。和水、そう言う事はやんわりとオブラートに包んで言うのが日本人のマナーだぞ」


「つべこべ言わないでよ」


刺々しい和水に促されて、ゲームは再び一巡目に戻った。




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