14(4)
文章を書いていると自分が乗ってる時とそうじゃない時がはっきりと分かる気がします。
乗っている時は次々と付け加えたい事が出てきて、全体的に纏まりがなくなってしまい、逆はもうどうしようもありません。
何事も中間が一番という事でしょうか…。
部室に時計の針が進む音が響く。カチカチカチ…。
部長の馬鹿みたいな思い付き、スゴロクを開始してからもう随分と経ったが、全員未だに前半戦のスペースからでていない。
「長いっ…」
「俺もそれ思いました」
部長がコマをマスに叩き付けるように進めてから、そう言った。
「スゴロクのゲーム展開ってこんなに遅いものなのか!?普通もうちょっと早いもんだろ!桃鉄とか人生ゲームだって、一人長くて30秒だろ」
「だから人数が多過ぎたんですって、6人でスゴロクなんて放課後学校に残ってまでやる事じゃないですよ」
「う、うるさい!バーカバーカ!」
「どうせ最後はなぁなぁで終わるんですからもう終了でいいじゃないですか!」
「い、いや、それは出来ない。女柿沢秤、未だかつて物事を途中で投げ出した事はないし、許されないのだ」
え〜、嘘だよ、俺が知る限り何回かあるぞ、おい。
「だ、だが私も長いのは嫌だ、録画予約してないからな…」
そうか、娯楽ラブの存在理由の一つが『部長の見たい番組までの時間つぶし』だっけ。
個人が見たい番組までの時間つぶし為にある部活。
い、いやだ!こんな部活いや過ぎる。
将来「入りたい部活がないよ〜」とかいう子供には帰宅部員をオススメする事にしよう。間違っても「なんでもいいから所属しなさい」なんて無責任な発言しないぞ。
「だから、誰か一人でもゴールしたらその時点でみんな解放される事にしよう!ほら、一上がりの人は英雄になれるぞ!」
「英雄って…、部長がそんなんだから長引くんですよ!」
「い、いや、違う!それだけじゃないぞ!」
それだけじゃない、って…、少しは自分に非を認めるんだ…。つか全部アンタの責任だよ。だけど偉い!非を認めるんだから…。
と俺が珍しく部長に感心したのだが、そんな感情はすぐさま本人に否定される事となる。
「部活動が長引くのは私のせいではない!
描写が下手なんだ!逐一我々の行動を知らせるようにするからいつもより文章量が増えてしまうんだよ!」
「ぶ、部長!」
あ、禁忌に…。
「どうせアレだろ?表雨音が女装します『いやだあああ』で終わらせるつもりだろ?そんな分かりきったオチの為に大切な番組を見逃したらどうしてくれる!責任取れるの!?責任とって結婚してくれるの!?」
「ちょっ、軽々しくそういう事言わないで下さいよ!」
実際そうなったら困る為に俺が頑張ってるんじゃないか!…頑張るって、何を頑張ってるんだ?
「大体ゲーム展開を足りない国語力で表現しようとしてるのがアホすぎる。現に『振う』っていう単語が連発し過ぎだ!そんなもん全部キングクリ○ゾン(省略)でいいんだよ!」
「ダメです部長!イライラし過ぎて知らなくても良い様な事に触れちゃあ!」
「ほらまた()の中がが違ーう!省略じゃなぁい!割愛だ割愛!愛を持ってぶっ飛ばすんだっ!」
やばい、今日の部長はエキセントリック過ぎる。普段見えない括弧の中身まで見えちゃってるし…。
このままじゃ知っちゃいけない事をぽろりと言いそうだ。
「も、もう良いでしょう部長!言いたい事言ってすっきりしたでしょ?だからもう俺にサイコロを渡して黙ってて下さい!」
「キンクリを使うタイミングがわからないだと!?えぇ〜い、黙れ!そんなもん言ったもん勝ちなんだよ!割愛なんざ簡単なんだ!私が使ってやる、見とけ!!キン○クリム…(割愛)」
割愛
「我いがいの時は消し…(割愛)」
「あ!部長ダメですって!そういう事は俺が心の中でや(割愛)だから(割愛)あんまり調子乗ってるとなぐられ(割愛)」
割愛
「ぬはは、見ろ気がつけばすでにゴールじゃないか!これで好きな番組がみ(割愛)!」
割愛
「全くショックです!youはショック級にショックです!」
美影、何言って(割愛)んの?
「happy endだ!ラッキークッキーもんじゃ(割愛)」
ドゥ〜ン!!
…
「…」
「っは!」
「…少し飛びましたね三点リーダー分」
「な、何故だ…」
ガクッ、残念そうに膝をつく部長。
消し飛んだ時間なんてコンマ数秒だって存在しない。部長が「キングクリ○ゾンッ!」って叫んでから俺の「…」の間しか時計の針は進んでいない。
「なんでちょっとしか消し飛ばないんだ…」
部長は敗退した球児みたいに悔しそうに地面を叩き付ける。
「そういう事だけ原作に忠実なのかよ…」
「ほら、部長、大体コンセプトをお忘れですか?あからさまなフィクションは禁止なんですよ?」
俺の言葉にはっ、と目を見開いた後、部長は名探偵に追い詰められた犯人のように独白を開始した。
「っく、負けたよ。いつもと違うテイストで行こうとしたが結局はそういう事か…、別に構わないじゃないか、どうせゆめお…」
「部長、サイコロは渡してもらいますからね!」
部長からサイコロを奪いとるように受け取った俺はまたそれを振って、出た数字分自分のコマを進める。
全く、彼女と付き合ってると疲れる上に時間の浪費だ。
今のこのやり取りだけで無駄に文章量が増えたじゃないか。
「ゲームは全く進んでねぇのに…」
止まったマスにはなんて事ない、『曲のサビ熱唱』なんて下らない事が書かれていたので『わんわんわわーんわんわんわわーん』って歌っておいてやった。部長が「そういうのを意図としてやったんじゃない」と叫んでいたがそんなの知るか、俺の中で犬のお巡りさんのサビはあそこなんだよ。
「ほい、芳生」
「あ、僕一回休みだから」
「そうか、じゃ楓」
「俺も一回休み」
ローテンションのまま楓が壁に寄り掛かりながら答えた。さっきの楓の様子から考えると、確かに『休み』こそ安住の地のように思えるな。
「私の番ですね」
順番は周って美影の番になる。
ちなみに何も書かれていない無地のマスに止まり続けている無敗神話の彼女だが、それもいつまで持つのだろう。
俺はそんな彼女の後ろから、肩ごしにスゴロク盤を見てみる。
スゴロク盤に未だに明らかになっていない紙がズラリと並んでいる。
「ここからが本当に地獄だ…」
気付けば俺はそう呟いていた。
今まで明らかになった『やられたら嫌な事』が書かれた紙は1枚。
3人の被害者を出した『額に肉』という紙。
相変わらずげんなりした顔のままの楓をみると嫌な事が書かれた紙の破壊力がわかる。
絶対あんな紙には当たりたくない。
俺の願いはそれだけだ。
「きゃ」
美影が声を上げた。
悲鳴…とまではいかないが、それに近い叫び声。
俺は慌てて盤の上を見る。
まさか、第4の被害者か…
頭にはげましの言葉が巡る。
美影のコマ(消しゴムの千切れカス)が置いてあるマスには『もう一回サイコロが振れる』と書いてあった。
「ラッキーです」
なんだよ、さっきの嬉しい悲鳴ってやつかよ。
一人慌ててた俺がバカみたいじゃないか。
美影は当然ながら俺には一瞥もくれないでまたサイコロを振って出た数字分だけ進んだ。
「きゃ」
「ど、どうした?美影!」
またも小さな悲鳴がこだました。
まさか、『紙』あたったのか!?
「うぅ、罰ゲームです」
俺の予想は当たってしまったらしい。美影のコマは残念な事に白い紙のマスの上にあった。なんていうか天国から地獄みたいな。本日二枚目の罰ゲーム。
美影は緊張したようにごくりと喉を鳴すと、それに手をかける。その緊迫感が俺達にも伝わってきた。
彼女は目をギュッと瞑りながら、紙が千切れんばかりの勢いで開けた。
「…」
「み、美影?」
「…えっと、これは…」
「な、何が出たのさ?」
芳生が中を読み上げるようにと彼女を急かす。
だけど美影は少しも思案顔を崩す事なく、紙に穴が開くのではないかというほどジッと見ているだけだ。
「美影ってばぁ!どうしたさぁ」
「あっ、はい。ん〜、どういう意味なのかいまいち分からないんですよ、コレ」
「意味が分からないって、…ね、ねぇ、みせてよ」
さすが全身好奇心土宮芳生。だけど今はそんな彼に感謝だ。だって俺も興味あんだもん、言い方悪いけど美影の罰ゲーム。
「えぇ、こう書いてあります」
美影は困ったといった様子でそれを読み上げた。
「『ひんにゅー』」
へ?
俺は一瞬停止しかけた思考にエンジンをかけ、美影の持っている紙に焦点を絞った。
そこには確かに『ひんにゅー』と汚い平仮名でそう書かれていた。
ひんにゅー…?ひん…にゅう?ひんにゅう。貧にゅう。
貧乳…、貧乳!
貧乳ッ!
バッ
部内の美影を除いた視線(美影は相変わらず「むーむー」唸りながら、自身の手の中にある紙を見続けている)が一斉にある女性に向けられた。
「え…」
ある女性-言うまでもなく水道橋和水女史-は首を下げながら小さく戸惑いの声を上げた。
みんなそれを合図とばかりに嘆息ぎみに息を吐く。
「和水かよ…」
「なんだ和水か」
「和水じゃん」
「せめて漢字で書かんか、和水」
「え、ち、ちょっと、な、なんでみんな私をみ、見んのよ!」
あからさまな動揺を見せる和水。
今までの経緯を考えても犯人は彼女しか考えられない。
「否定できんのならしてみろ!コレ書いたのはお前だろ?」
「わ、わ、わ、私じゃないわよ!」
否定する心意気はあっぱれだが、それをするならせめて接頭を繰り返すな。
訥弁でもろバレ。
「なら誰が書くんだよ?」
「し、知らないわ。で、でも私じゃない!私貧乳じゃないもの!あっ、わかったきっと妖精さんがやったのよ!」
「一人の女子高生の洗濯板を心配して、短冊に願い事書くみたいに祈ってくれる妖精なんて気持ち悪すぎるだろうが。そもそも和水以外に誰がこんな文書くんだよ?」
「っう」
和水の心にダイレクトアタック。
胸の傷は深いぞ、だからさっさとタップしろよ。
「じ、じゃ、逆に問うわ。わ、私だって証拠あるの?」
和水は自信あり気にそう答えた。
「あ…」
今更だが、ここまでざっくりと和水を攻撃するのは男と女としてデリカシーが無かったな、と反省。したがって俺は黙して多くを語らず状態になる事にする。
「証拠がないのに犯人扱いはヒドいんじゃないの」
その一言にみんな口を閉ざす。なんで和水か判断したかを口に出して言うのはあまりにも酷過ぎると判断したからだ。そんな皆の気遣いに気が付きもしない和水は一人勝ち誇ったように、一度咳を「おっほん」とすると、俺を指さして叫んだ。
「犯人はぁ〜〜」
あ〜、と波ダッシュを用いた語尾を以上に伸ばしながら、和水は指を真っ直ぐ俺に向けたまま降ろそうとしない。人から指をさされるのは前からでも気分が悪くなるのでやめてほしい。後ろ指さされ隊は論外。
「この中にいるッ!」
「…」
なんだソレ?
一度は言ってみたいセリフを言ってみただけじゃねぇのか。
つか、指をさすタイミングが違過ぎるだろ、仮に探偵ものだとしたらここは導入部分で、指をさすのは犯人を指名する時だ。
「容疑者は私以外の5人よ!今、各自の顔の下に名前と職業が表記されてます。名探偵ナゴミ少女の事件簿ッ!」
「筆跡鑑定に回せ」
「あぅ」
俺一人じゃ、このテンションの和水を押さえ切れないと判断したのか楓が援軍を差し向けてくれた。
俺も多分無理だから和水の相手は楓にバトンタッチさせつもらおう。
「ひ、筆跡鑑定なんてそんなの簡単に出来ないわよ!こ、この離れ小島じゃね!」
うわぁ、サラリと新設定追加したよ…。
というか鑑定も何も字体で一目瞭然じゃねぇか。
「どこの離れ小島だよ」
楓は少しずれた質問をする。違うだろ!そこじゃないだろ!もっとざっくばらんでいいから!大体場所は『部室』から少しも移動してないよ!
「お…」
「お?」
「沖ノ鳥島よっ!」
「あそこはちょっと無理だろ」
楓が冷静過ぎるコメントを話す。
もっとはっきり言ってやらなきゃダメだ。辛口でもいいから、そう、例えば、
このド低能のクサレ脳みそがぁー、とか
って、…これは少し言い過ぎか。
「あー、なんか聞いたことあるよ!沖の鳥島って!」
ここでまさかの芳生の登場。簡単に言えば二人目の見た目は大人(高校生)、頭脳は子供(幼稚園年少すずらん組)のお仲間さん。
つか、その歳で聞いた事がないほうがこわい。
「沖の鳥島(間違った知識を覚える為の注釈※1)ってアレでしょ!リマンカイリュウ(※2)でホッポーリョウド(※3)のアイランド(※4)の事でしょ?」
「そうよ芳生、よく知ってるじゃない。リアス式(※5)で三角洲(※6)で扇状地(※7)なのよ。少しだけグリーンランド(※8)のガンダーラ(※9)に通じるものがあるわね」
「ああ、確かに!前々からシャングリラ(※10)はエルドラド(※11)だと思ってたんだよねー、ユートピア(※12)みたいな。あれ、…まぁどっちでもいいや、ともかくもう凄い無人島だよね!あ、もう島の次元超えて無人惑星みたいな!」
「サヴァイ部よ!今日から娯楽ラブはサヴァイ部に改名しましょう!」
「それはいいね!だったらこの際、部費を全部をサバイバルグッツに当てるってのはどうかな?念に2回の合宿は無人島とかさ、最高じゃない?ところで和水は無人島に3つだけ好きな物を持ってけるとしたら何を持って行く?」
わけのわからない会話を発展させていく芳生と和水。
終いには、深夜のファミレスの暇人みたいな話をし始める。深夜にファミレスなんていった事ないけど、そんな感じがする。
和水は一考すると即座に衝撃の回答を明かした。
「船、GPS、運転手」
儚ねぇ、切ねぇ、夢がねぇー。脱出する気満々じゃねぇか、ある意味ハングリー精神が満ち溢れてるぜ。
だけどそのバカみたいな答えはないだろ。
もう少し真面目に答えないと芳生が可哀相だ。
「そういう芳生は何を持ってくのよ?あ、但し3つは多いから1つね」
もしもの話なのに条件を絞っていく和水。意味がわからん。
「その前に質問ー」
「なによ?」
「無人島に行くということは『持ってける物を選べる』という権利が貰えるってことだよね」
「うーん、言ってる意味が分からないけど多分そうね」
「だったら僕が持ってくのは『友達』かな、そしてその友達も持ってくものに『友達』を選ぶでしょ、そしてまたその友達もまた『友達』を持っていき、さらにその友達も…(以下ループザループ)」
「ちょ〜と、それはダメよ!だって持ってく『物』だもん『者』じゃないから」
「え?でもよくドラマとかでカップルが持ってくもので相手を選んでるじゃん。『俺はお前さえ居てくれればそれでいい』みたいなキザなセリフさぁ」
急に声音を変える芳生。
魅惑の虹色ボイスの低くて渋い声だ。
「それはそいつらがバカップルなだけよ。ほんとは『お金』を目当てで愛なんて存在してないの。だから当然無人島に彼らが持ってく物も『お金』よ、世の中金ズラよ」
うん、多分その人たち愛も足りないし、おつむも足りない人たちなんだな。
「うわぁ、ヒドいなぁ!愛より金とか…、お金で愛は買えないんだよ!」
「えぇ、全くその通りね。だからサヴァイ部ではそういう上辺だけの身体目的の関係、ないし経済目的を一切排除した探究を続けるわけ」
「違うだろ」
バカな会話で盛り上がっている二人を止めるように楓が落ち着いた口調で二人に割って入った。
もうちょっと早めにストッパーかけないといけないところだったが、まだギリギリで止められるラインだろう。
楓は息を吐きながら、やれやれと言った様子で二人を諭すように、
「今は探偵もんの話だろ?」
と言ってやっ、…
…ち、
「ちがぁあう!楓まで何言ってんだ!毒された!?毒されたのか!?」
「なんだ雨音、まぁ、いいじゃないか。俺はミステリーが好きなんだ」
「名探偵ナゴミ少女…なんとかは多分ミステリーに分類されないと思うぞ」
「そこは和水の手腕発揮だな。期待してやる」
「え、あ、え…。そ、そうだった!すっかり失念してた!そう!私は名探偵!サヴァイ部じゃなくて、ア○ス探偵局なわけ。口癖は『うちのカミサンがね』のシニカルキャラよ!ドーピングコンソメスープを使う事により運動能力もMAXのキャッツアイにへんし〜ん!まってなさい!いま、連続窃盗強盗猥褻物おっぴろげ殺人事件の犯人を捕まえてあげるわ!」
「うわぁい、パチパチパチ」
口で拍手の音を出して盛り上げてあげる。
いろいろと突っ込みたいが我慢だ。
「テンションが上がっているところ悪いが、和水よ。この紙に書いてある『ひんにゅー』ってのはどういう意味か述語も用いて、コノ罰ゲームを受ける美影に説明してくれないか?あ、いや、迷探偵和水よ、この謎を解いてください」
「あ、そうですね、お願いします。『ひんにゅー』だけじゃ何をするのか分からないんです。迷探偵の和水さんならこんな謎ちょちょいのちょいですよね」
挑発するように和水に呼び掛ける女子二人に、和水はくるりと回って視点を彼女らに合わせると、自信ありげに答えてみせた。
「ええ、任せなさい!」
和水はやけにノリノリで自身の探偵キャラを大根的演技で演じはじめた。
「まず文章中の『ひんにゅー』と言うのは『貧乳』を指しているわ。何故平仮名かというと『貧しい』っていう漢字がいまいちでてこなかったから。そしてコレは『貧乳と私を呼ばないで』というメッセージが含まれていて、『人に言われるほど胸が無いわけではないのに部長がわかりきったようなしたり顔で私をそう呼んだのがいけなかったのよ』という意味でもあるの。…あくまで推理だから私の事じゃないけどね!」
和水はいやに犯人の心理をプロファイリングすると、すぐに「つまり『貧乳と呼ばないで』という意味よ」と言い直した。
部長はその言い分を「なるほどな」と聞き届けると、
「だがしかし、納得が出来ないとこがある。私は見た物を正直に言っただけだ。不平を唱える人間にはさげずみが与えられるだけだぞ。そんな推理力じゃコナン=新一ってのも見抜けてないんじゃないのか?」
「なっ、嘘でしょ!?」
なんで驚くんだよ。冒頭を見て無くても、作中にいくらでも表現されてんじゃないか…、コナンの正体は…。
「ともかくこの場合美影の事を『貧乳』と呼べばそれでいいんだな」
「え?えぇ!そうね!私の苦しみを味わうがいいわ!」
「そうか、では、美影改め貧乳ぅー」
「ひんにゅー!」
「はぁ…」
和水と部長の言葉に美影は傷つくでも無く苦笑いを浮かべるだけだった。
ってか、今、さらりと和水は認めたし。
「貧乳、早く次の人にサイコロを渡すんだ。ゲームを進めなくちゃな」
「あ、はい。すみません、忘れてました。でもサイコロなら机の上に置きっぱですよ」
「む、本当だ。じゃ、貧乳から和水にバトンタッチだ」
和水は二人に一度視線を移した後で、机の上のサイコロを探し始めた。
「机の上というか盤の上にあります」
サイコロを探していた和水に美影は丁寧に教えてあげた。和水はその一言で目的の品を見つける事が出来たみたいだ。
「あ、み…貧乳。紙に糸屑がついてるよ」
芳生が美影にヒドいあだ名で教えてあげたが、特に美影は気にするでもなく、芳生に礼を言いながらそれを払う。
彼女は『貧乳』という名を気に入っているというわけではないが、別に構わないといった様子だ。
凄いな、勝者(胸)の余裕ってやつか。
「…」
「ん?和水、早くサイコロを転がさないか」
そんな芳生と楓のやり取りを見ていた和水は無言で唇を結んでいる。
さっきまでの元気が嘘のようだ。
「貧乳の次は和水だろ?たしか」
「えぇ、そうですよ」
「…てあげて」
「え?」
「やめてあげて!胸の大きさで差別するのは劣悪過ぎるわっ!」
「は?」
突如として叫ぶ和水。
さっきまでノリノリで美影を貧乳と罵っていたはずなのに、自分の事を言われているようで耐えられなくなったのだろうか。
「貧乳貧乳言われる辛さがあなた達は根本的に分かってないのよぉ!太っている人にデブなんて言えないでしょ、禿げてる人にハゲなんて言えないでしょ!それと同じように気にしてる事を言うのは冗談じゃなく悪口になるのよ!美影が可哀相じゃない!」
和水の心の底からの叫びにこの問題の当事者である美影は首を傾げながら、部長と目を合わせるとすぐに和水に向き直って言った。
「?いえ私は別に気にしてませんけど」
「うわぁん、か、勝ち組がぁ!」
確かに和水は美影の胸に視線を移して、吹き出すように叫んだ。
なんて哀れな。
「アルファベットで数えたら下からの方が早い人達はみんな死んじゃいなさい!」
「わ、私はそんなにデカくありませんよ」
「じゃあ、何カップよ!?」
くるり、と表情を真剣な物にかえ、和水はたずねる。
つ、ついに明かされるのかっ!?
「…えーと、い、言えるわけないです!は、早くサイコロを振ってください!和水さん!」
「ふん!いいも〜ん。今あなたは貧乳だもん。貧乳貧乳貧乳〜♪…う、…さ、サイコロ降ろっと」
その言葉一つ一つが自傷行為につながっているという事に途中で気付いてか、和水は何事も無かったように、サイコロを振った。
「よぅし、1、2、3…」
元気のよい声をあげながら和水は自分のコマを進め始めた。
「あ、え!?」
その声は驚嘆に変わっていた。
また、彼女は罰ゲームの紙に当たってしまったのだ。
「う、うう。また私…」
和水は泣き出しそうな声でしゃくり上げながら『紙』を盤の上から取り外し、誰にも見せないようにソーと覗きこんだ。
そして、一人だけ、不思議そうな顔をする。
「これって…」
「何がでたの?」
それに芳生がまた好奇心から尋ねた。
和水は一度芳生に視線を移すとオデコに書かれる『米』に手を当てて、こちらにも紙が見えるようにして言った。
「『巨乳とか言われるのは少し嫌ですね』」
「…」
細い筆跡で書かれるその文を今更誰が綴ったかは言う必要もないだろう。
「つまりこの場合…」
「和水を『巨乳』と呼ぶのか…」
楓と部長が声をシンクロさせて美影を見つめた。
------------------------------
14(4)注釈
※1沖の鳥島 別名すべて遠き理想郷。沖の鳥鳥←違和感を感じなかった人は眼科に行った方がいい。「あんな島沈んでも関係ないじゃん」とか言ってる人は脳外科に行った方がいい。
※2リマンカイリュウ 千年に一度現れるという伝説上の海獣。口から火を吹き雷を操り、その咆哮は遥かブラジルまで轟いたという。今は冬眠中。
※3ホッポーリョウド 北方領土という名の北の国の四天王。エトロフ、ハバマイ、シコタン、クナシリから構成される秘密結社。必殺技はボルシチサンダー。
※4アイランド 英語でis land。漢字で藍蘭島。夢と希望で構成される。
※5リアス式 正式名称は牙突リアス式。これを一度見たものは余りの衝撃に失禁するという。108まである。
※6三角洲 三平方の定理の親戚で、こちらはサイン、コサイン、ブイサインによって求められる。
※7扇状地 東北らへんの地方に伝わる伝統的遊戯。扇をもって枠内で血が出るまで互いをはたきあう。
※8グリーンランド 伝説のゲーム、強欲の島。ゲーム機の前で念を発動する事でゲームの世界に飛べるらしい。大きいおにいちゃんが喉から手が出るほど欲している。
※9ガンダーラ インドの鳥人。ひたすら『バシルーラ』を唱えてくる厄介な存在で、その度に旅を中断しアリアハンに戻る羽目になる。
※10シャングリラ ドイツのブランド名。または歌舞伎町にある青少年入店お断りのお店。
※11エルドラド 西洋でいうリマンカイリュウの事。または京都の一見さんお断りのお店。
※12ユートピア ありえない妄想の果て、玄人達がたどりつくと言われる土地。多分もうすぐ辿り着ける。