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14(3)


前に、更新は一週間以内…、とかなんとか言っちゃたから、頑張ってそれを達成出来るように、文章を綴っています。


もっとも本文自体はすぐに準備出来ても、それに修正加筆をするのに時間がかかる場合や、逆に本文が出来たのが一週間ギリギリな場合なんかは面倒なのでそのまま投稿するパターンが多々…。


文章の質が落ちるのは、嫌ですけど仕方ありません(もとからそんなにありませんし)。

非常に大変ですが、私はこういう縛りがないと、さぼってしまうので丁度いいのかもしれませんね。




ムス


一言で表すならその表情で、


「さて、続きまして表雨音の番になります」


ラー○ンマンさんがサイコロを苛立たしげに俺に放り投げた。


「うわっ、と、とっと。ちょっと、部長ッ」


なんとか宙に舞う六面体をキャッチ出来た俺は、崩れかけた体勢を机に左手をたてる事で整えてから文句を言った。

部長はそんな俗世の事なんざ全く興味がないといったような目付きで暗くなった外の様子を眺めている。

どこかシュールなその映像を見ていたら文句を言う気もどこかに失せた。

俺は視線を自身の右手に包まれているサイコロに移す。

透けて見えるはずなどないが、感触は感じる事が出来る。ほのかに部長の体温が残っている温かい六面体。


「えい」


俺はそれをふり払うように軽く放った。

別に気持ち悪いとかそういうのじゃなくて、美影の事を思うとそんな他人の感触を楽しむ(変態的意味ではない)のは如何なものかと思ったからだ。いや、まぁ、別に彼女とはまだ友達の域を出てないんだけどね。…まだ、ね。まだ…。うん、つか…いつ、出んだろ…。俺、友達から。今の自分の立ち位置は虚勢ではなく友達以上恋人未満だとは思うんだよね。


だから、もうちょっとだと思うんだよ。


自身に言い聞かせる、いや、ストレートな言い方にすれば、励ます。


この思いをここで終わらせるつもりは毛頭ない。


俺は美影が好きだ。


比喩でもなんでもない。彼女の雰囲気が、いや、彼女が造り出す空間が堪らなく愛しい。

だがしかし、俺はそれを感じる度に背反する、苦しさを感じるのだ。

この動悸を抑える薬があるなら、是非とも拝借したいところだ。命を養う酒で事足りるなら、一万は出して構わない。


そんな下らない妄想を書き消すようにもう一人の俺が自分を責める自分の声をあげた。


『女々しい奴だな』


彼女に一言『君が好き』と、使い古されたセリフを吐けば、そんなもう一人の自分を隅においやり、俺は楽になれるはずなのだ。他人の手垢がついた言葉でいい、『付き合って下さい』でも『I love you』でも、なんでもいい。オリジナリティにかけてても、ステレオタイプだろうがそんなのは関係ない。

たとえ次の日瞼が腫れる結果であろうと、大切なのは、彼女に気持ちを伝えるという事だ。


…いや、違う。

正直に言えば自己中心的考えだが、俺は俺自身の心情に決着をつけたいのだ。




だが、問題はタイミングだ。そりゃ、美影にすでにパートナーがいないという確率もないわけではないし、元より俺の事なんざアウトオブ眼中なのかもしれない。

それでも必要なのは決着だ。初めてここまで本気で他人を好きになれたんだ。なんでかは分からない、強いて理由を答えるのならば、前世からの-、とか、運命を-、なんて言葉を使うしかないけど。



俺は暗くなりかけた自分の意思を引き上げる為、止まっているサイコロを確認した。

しばらく罰ゲームの紙はないので安心出来る。


俺は指し示された数字の数だけ自分のコマを進めた。


進んだ先にあるマスには『スクワット30回』と書かれていたがなんの問題もない。

重しも付けてないスクワットなど児戯に等しいだろう。俺は次の番の芳生にサイコロを渡すと、その場でスクワットを開始した。


こういう罰ゲームばっかりだと楽で助かるな。


「ふぅ、ふぅ」


出来るだけ呼吸のリズムを崩さないように屈伸運動を繰り返す。

15回過ぎたあたりから、倦怠感が俺の両脚に纏わりつき始めたのだが、美影の手前平静を装った顔をした。


「6だ!しゃあ!」


上下する視界が芳生が喜んでいるのを捕捉した。

6をだしただけで何が嬉しいのだろう、21、22…。

ドベだっただけに最大の数字を出した喜びもひとしおなのだろうか。


俺は苦行を忘れる為に芳生の行動を随意観察していた。


「あ」


ふと、くぐもった声で呟かれた。

芳生ではない、声をあげたのは隣りの楓だ。


「一回休み、だな」


「う、うん」


喜びも束の間、スゴロクで一番メジャーな命令マスに止まってしまったらしい。

芳生は力無げにだらしなく口を開け天を仰いだ。


「楓、はい。カタキを討ってちょうだい」


「…善処する」


運だから行動は関係ないだろ。


芳生からサイコロを受け取った楓はそれを手の中で揺すった後で、机の上に転がした。

結構な秒数手の中で振っていたが、それだけ罰ゲームマスを恐れての願掛けだろう。


「…」


そのまま楓はなんの数字が出たのか知らないが、リアクションもないままに隣りの美影にサイコロを渡した。

反応がないという事は願掛けが成功したのだろうか。「あ、はい」


「ん」


急に目の前にサイコロを差し出されたのだから、美影は少しだけ驚いたようだったが、


「ようし、次は私ですね!」


すぐにサイコロを受け取り、ソレを握った自身の握り拳をこめかみの横にもってきて気合いをいれてから、先ほどの芳生以上に楽しそうな声を出してサイコロを転がした。


被害者三人(楓、和水、部長)のあの有様を見た後でよくテンションあげられるなぁ。


と、素直に感心させられる。


「やった!セーフです!」


野球の審判みたいに左右に両手を広げた後で美影はサイコロを和水に渡した。

いやぁ、いつも以上にいい笑顔してるね、美影。


そんな美影とは打って変わって和水は憮然とした顔で、不機嫌そうにサイコロを受け取ると一度小さく

「フン」と鼻を鳴らしてからサイコロを振った。


美影に敵対心でも抱いているのだろう。


「ッ」


そしてすぐに彼女は鼻白んだ。

だが、それも一瞬だ。和水はピシピシと静かな音をたてながら額の『米』の字の隣りに青筋を浮かべ、眉毛をピクピクと動かして、歯をカチカチ言わせながら言葉を淡々と繋げた。


「…何よ。私を困らせる為に仕込まれてるんじゃないのッ!?コレッ!」


バンバンと机を叩く和水の様はまさに痺れを切らした子供そのもの。そういえば随分前に見たテレビの中のチンパンジーが似たような事してたな。…ドンキーコ○グも。


「サイコロを使うスゴロクで細工なんて出来るわけないだろ。落ち着くんだ、和水」


「落ち着いてられないわよ!何よ、もう!なんで美影はさっきから何も書かれてないマスなのに私ばっかりヒドい目に合わなきゃならないのよ!…もう、もうやだぁあ〜」


諫めようとした部長を捨て置きおきながら、和水は駄々をこねる。文句をいうのに疲れたからか、それともただ単にガキなだけなのか、最後には本当に幼稚園児みたいな泣き声をあげ始めた。涙は零れていないから、半分は冗談みたいなものだろうが、もう半分は本気であろう。


…はぁ、全く…。

テ○ー、君ってやつは(尊敬からじゃなく呆れからくる叫び)!


俺はそう思いつつ和水のコマの止まったマスを見つける。

そのマスにはこう書かれていた。


『うでたて伏せ10回』


「やれッ!それくらい!」


ガクガクになった足の震えを押さえて立ちながら俺は和水に叫んだ。


うでたて伏せくらい、なんて事ないだろうが!


その叫びに和水は観念したように

「わ、わかったわよ!」と、どもりながら叫び返すと、床に両手をついてうでたて伏せの基本スタイルをとる。

腕を真っ直ぐに伸ばして身体が横から見て三角形になっているあれだ。

厚着の服の上からでもわかる細腕をなんとか動かして和水は一回だけうでたて伏せを達成した。


「プッ、強調される胸がないと哀れだな」


和水の正面に立っていた部長が、彼女の頑張りを苛めっ子のように揶揄したが、和水は特に気にした風もなく、一度上目遣いに部長を見てから(和水は伏せ状態に近いから当然だが)、下の床を見ながら言い返した。


「今時アニメキャラのワンポイントのパンツはないんじゃないかしら、部長」


「なっ!貴様!スカートの中を覗いたな!」

「私は男子がいる中、こんな格好させられてるのよ…、いいじゃないスカートの中を覗くくらい減るもんじゃないし」


「へ、減るのだ!なんか心の潤いが蒸発するのだ!やな奴やな奴やな奴!牛乳を一気飲みしたい気分だ!」


どっちが嫌なやつかの判断は俺にはつけられない。

慌ててスカートを押さえて和水からバックステップで距離をとる部長。

部長が和水に皮肉を言ったら言い返された。今日の和水はなんか刺々しいな。…っていうか部長、…なんのアニメキャラのパンツをはい…、い、いや、なんでもない!何にもないぞ!


「大体胸があったらうでたて出来ないわよね、灰色パンツの美影ちゃん?」


「灰色じゃありません!白です!それに私うでたてくらいできま…、っは!?」


そこで美影は完熟トマトみたいに真っ赤になった顔を覆い隠すように両手を頬につけた。

自分で自分のパンツを暴露したのが恥ずかしいのだろうか、それともセクハラ発言に乗せられてしまった事だろうか、どっちを取るにしても俺が和水にかける言葉はただ一つ…


いいぞ!和水、もっとやれ!


「そ、そんなのいいから早くうでたてをして下さいよぉ、サイコロだって和水さんが握ったままなんですよ!」


部長と同じように和水から離れた美影がさっきまでの事を忘れようとしてだろう早口でいった。

サイコロはずっと和水が握っているらしい。つまり、今は順番待ちの状態。

おそらく床に付けた手の平との間にあるのだろうが、よく痛くないな。


「す、すぐに…、や、やる、わよ」


和水は震える声でそう言った。いや、震えているのは声じゃない、和水の身体全体(主に腕)だ。


「もうなんでもいいから早く!うでたて10回くらいパパっとすませなよ!ほらっ!あと9回!」


和水を芳生が急かす。

未だにドベ(次が一回休みだし)なのが気に食わないのだろう。


だからゲーム展開を早めたいに違いない。


「ほ、ほーせーには、と、とらえきる、ことが、できなかった、ようね?」


「何が?」


プルプルと震えながら芳生に唱えるように和水が言った。


「…」


さっきから小刻みに震えるだけで、これといった動きを見せない和水を見て俺は一つの結論に辿り着く。


(あいつ、力ねぇなぁ…)


うでたて10回どころか1回しか出来てないじゃないか。

しかも普通は身体を持ち上げるのに苦労するはずなのに、あいつは下げる事さえままなっていない。ヒドいの一言につきる。


まぁ、それを言っても和水は否定するだろうけど。



「わ、私のう、動きを、…っっよ」


「動きを捉える?」


力強く言い切るべき言葉が小さいので迫力も何もあったもんじゃない。

和水はそれでも言い訳をやめようとはしなかった。


「私はも、もうすでに100回はうでたてしてるわよ、…早すぎて見えないようね…ッ」


「ぅえ?」


こんな状態でも上から目線の偉そうなオーラは変わらずだ。


「ふ…ふふ、いつか芳生は私に言ってたわね。『僕はお箸で蠅を捕まえた事があるんだぁ』とかなんとか。…あ、あれは嘘でしょ?」


「な!ほ、ほんとだもん!汚いからお箸は捨てたけど、僕が蠅を捕まえた事は事実だよ!」


「だめよ、わ、わたしは誤魔化されないん、だから…、あ、あなたの動態視力じゃ蠅を捕まえる事なんて、で、出来っこない」


「嘘じゃないもん!」


「だったら。み、見えるはずでしょ?わ、私の超高速うでたて伏せが?ほ、ほらこんな会話してる間に私のうでたてはすでにオッカイ(億回)を達成したわよ!」


「…む?むむむ…」


芳生はそこで考えこむように腕を組んで和水を見た。


彼らのやり取りをみていたみんなは呆れている。

いくら芳生でもそんなのに乗るはずがないだろう。


「…見えない」


「っく、視野が狭いわっ!」

それはお前だろう。


「わ、私、重力修行でもしてるの…」


和水が動かないまま、また何秒か過ぎた。

正確にいうと小刻みに震えてはいるが、うでたて伏せらしい動きを見せないまま、だ。

ブツブツと念仏のように独り言を唱える和水を、部員一同は応援するでもなくただ置物を眺めるようにジッと見るだけだ。


ある意味冷淡だなぁ。


「はぁ、なんでわざわざ自分の身体を苛めなきゃいけないのよ…。コレ考えた人頭おかしいんじゃないの…」


荒れている呼吸に混じって和水はそう呟いた。

もう崩れるのは時間の問題だろう。

和水にうでたて10回なんて無理な話だったんだ。よくよく考えれば和水は温室育ちのお嬢様で蝶よ花よでちやほやと回りに甘やかされて育てられて来ているのだ。今まで力仕事をした事だって皆無。それこそ、腕2本で自分の体重を支えることなんて不可能なのかもしれない。


「おいおい、和水。お前は箸より重たいものは持ったことないのかよ?」


俺は腰に手を当てながら這いつくばっている和水に尋ねた。


「?そ、それくらいあるわよ」


「へぇ。嘘臭さぁ」


俺の一言に和水は一瞬だけピクリと眉を吊り上げたが、すぐに考えように視線を合わせないように斜め右下に首を傾けた。

それだけ見ればまだまだスタミナはあり余ってそうだけどな。


「あ、ただ、ボーリングのピンはちょっと持てなかったわね…」


「…え?」


ピン?


いま、あいつはボーリングのピン、と言ったか?

球ならまだしも、ピン?


「えーと、ピン?ボールじゃないの?」


「ピンよ」


凜と言い放つ。な、何を偉そうに。だけど、大丈夫か、ソレが持てないなんて、かなり筋力やばすぎるだろ。

俺の心配をよそに、和水は先ほどの言葉に付け加えた。


「5歳の時だけど、ね」


「な、なんだよ。子供の時かよ、びびらせんな。そうだよなぁ、いくらお前でもピンくらいは持て…」


「ボールは、今でも、無理」


「…そっか」


ま、まぁね、ほらボールのポンドはピンからキリだから、ね、と明るい見通し。


「と、いうわけだから、ぶ、部長、も、もういいんじゃないかしら?」


「…」


『と、いうわけで…』がどこにかかっているのかは分からないが、名指しで呼び掛けられた部長は無言で和水を見ているだけで特に何か行動を起こそうとはしていない。娯楽ラブのすべての権限は部長が握っているから、ギブアップにも彼女の許可が必要だというのに。


何秒か経ってから部長は遅い反応を示した。


「和水」


「ぶ、部長!もう勘弁してよ!」


遠巻きに見ているだけだった部長は和水のそばに寄って、足を曲げてしゃがみこむ。

ただ、名前を呼んだだけなのに、それを合図と言わんばかりに和水は自分の徒労を捲し立てた。


「なにをだ?」


キツそうに身体をプルプルと震わせる和水を見ていれば彼女が何を懇願しているかわかるはずだろうに、部長はあえて素知らぬ顔でそう答えた後悪戯そうに微笑んだ。それでもそれを天の助けとばかりに和水はすがりつく。


「み、見ればわかるでしょ…。う、うでたて伏せを、よ」



「そうだなぁ…」


とぼけるように間延びした声をあげながら、部長は和水の肩にポンと手を置き、それから人差し指をツツツっと背骨にそう様に動かす。

やがて部長の指は和水の臀部に辿り着いた。


「…ぶ、部長…?」


背中にむず痒さを感じてだろう、残った体力で身体を嫌そうに、左右に揺らしながら和水は戸惑いの声をあげた。

部長にその声は届いているはずに違いないのに、彼女はそれを気にする素振りもなく、和水のお尻の上で文字を書くようにクルクルと人差し指で円を描き始めた。


「な、…なにすん、のよ」


体力の残量ゲージがピコンピコンなっている状態の彼女にその手を振りほどく力は残っていない。

その前に和水の手は床につけられたままだ。四つん這い…うでたて伏せのその状態の事もそう言うのだろうか?無知な俺にはわからないが、今の部長と和水を見てこれだけは言える。


妙にエロい。


部室の一角で繰り広げられる耽美な世界に、みんな顔を赤らめながら(主に美影)無言でその光景を見守っている。

部長は視線を感じてか、母の帰りをいじらしく待つ子供が砂をほじくるようにしていた指を止めて、和水の顔を仰ぎ見るように、頭を床につけてねっ転がった。


あぁ、やばい。二人のバックグラウンドに、百合の花が咲き乱れてるのが見える。

俺のβエンドルフィン、自重してくれ…。


部長の身体は今や完全にフローリングの床にベッタリとつけられている。キチンとモップがけしてるから(俺が)、トイレの床ほどは汚くないにしても、床は床で布団でもベッドでもないそこに、普段潔癖症ぎみなとこがある部長が全身を任せるなど、ありえないにもほどがある。


今日の部長はどうしたのだろうか、熱でもあるのか。


「ぶ、部長?」


すぐ下に部長の顔がある事に戸惑ってか和水は怯えたように彼女を呼び掛けたが、部長はまた悪戯そうにクスクスと笑うだけで特に大きな反応は見せない。


ああ、なんという事だ。

俺の知らない間によくわからんカップリングが誕生するとは…。


「ふっ」


部長は自分の頬を撫でる美影の紙の毛を息を吹いてどかすとまたクスクスと妖艶な笑いを浮かべた。


物凄くエロチシズムを感じられる。

いつもの二人がそんな事やってたら…、の話だが。

しかし残念な事に今の二人の額には『中』と『米』が描かれている為、何をやってもギャグにしか見えない。それに気付くと、二人の後ろで咲いていた百合もオニユリになってから、ラフレシアになり枯れた。


秘密の花園終了(俺の中で)。


「和水よ…」


浮かべていた笑いを鎮めた部長が、今度は真剣に和水の目を見ながら呟いた。和水はその声にためらいながら

「なによ」と小さく答える。


「私がさっきから何を言いたいか分かるか?」


「わからない、わよ…」



多分、日本いや世界を探しても部長の心の内がわかる人なんていないんじゃないかな。


「お前のお尻に必死になってメッセージを送っていたというのにシカトするから…」


「し、シカトじゃなくて、り、理解不能だっただけよ」


「仕方無いから目と目を合わせて会話してやる」


「あ、理解『可』能。だから、寝そべっているのね。だ、だけど、部長はさっきから何を伝えたいわけ?」


「ああ、すまない。お前の額の文字とプルプルと震える顔を見ていたら思わず笑いが起きてしまってな…」


「再び理解不能、理解不能、理解不能、理解不能。ぶ、部長が言えた事じゃないでしょ、それ」


「それもそうか」


そこで部長は身体を反転させて、和水の顔の下から出ると、目にも止まらぬ早さで立ち上がり、和水の前に立った。

もちろんスカートを押さえて和水から見えないようにしている。


「お尻にさっきから私は四角を描いてただろ」


そう言いながら、部長は空中でカクカクと四角を描いた。


「そ、んなの、わ、わかるわけない、でしょ」


和水の体力の限界が近付くに伴って、和水の腕はすでに彼女を支えるのに限界がきている。


「つまり私が言いたいのは、だな」


「ええなに?」


喉から辛うじて絞り出されたような声で和水は聞き返した。その声に一度だけ大きく部長は溜め息を吐く。

まるで

「まだ、気がつかんのか」と暗に含まれている感じだ。

和水はそのメッセージ(?)を別に気にしているようには見えない。


「さっさと、お前の手のひらの下にあるサイコロを返さんかこのバカモン!ゲームが進まんではないかぁ!」



部長はそう叫びながら和水を支える右手を軽く蹴りあげた。

だけどそれだけで、体力の限界を迎える和水を崩すには事足りている。


べしゃあ


そんな効果音をたてながら和水は床に顔面から崩れ落ちたのだった。


「い、痛い…。あうう…」


和水はそう呟きながらも、うでたて伏せという苦難から開放された事に嬉しそう笑いながら部長にサイコロを手渡した。


部長はそれに、うむと軽く頷いてこたえる。


あれ


そこで俺はふと疑問に思った。

部長ってサイコロ二つもってなかったっけ?

二つサイコロがあるなら無理して和水からサイコロを取る必要はないのでは…?




「さぁ!次だぁ!」


俺の疑問は部長の声に消し飛ばされた。



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