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14(2)


物語を執筆するにあたり、絶対避けて通れない話があると思います。

最終話に向って描かれる俗にいう『伏線』ってやつですけど、自分はそれを多少なりとも意識して書いて(打って?)来ました。もちろんそれは最終話だけでなく、その手前や下らない事も意識しています。

まぁ、私がここで言いたいのはたまには前の話を読んでみれば新しい発見が見つかるかも…、という事です。


↑おお、久々に前書きっぽい!




またいつか、和泉式ちゃんに会える時が…




あの時、日が暮れ帰宅を急ぐ人込みに紛れながら柿沢秤部長はそう言った。


この事だったのだ。


心理学だかなんだか知らないが彼女の狙い、それはまた俺を女装させようとしている事に違いない。

部長は俺が紙になんて書くか完璧に予想していたのだ。


心の中で悪態をつく。


何が心理の勉強だ。

ただ単にアンタが楽しみたいだけだろう、と。




「何が出るかな、何が出るかな」


部長は上機嫌にサイコロを転がす。盤の上で音をたてて、転がるサイコロはやがて静かに制止した。


「2!今日の当たり!」


サイコロの面にはぽっちが2つで、それを確認すると部長は自分のコマ(シャーペンのキャプ)を「いーち、にぃー」と大きな声で言いながら、進めた。


いやに楽しそうな彼女を見て思う。

部長がわざわざ俺を女装させる為に、スゴロクを仕込むのは少しばかり回りくどい気がする。スゴロクでは自分もリスクを負う可能性があるうえ、俺が確実にそのマスに止まるという保証もない。それなのにスゴロクを選ぶという事は、部長は文字通り『楽しむ』事が至上の目的なのだろう。


それにスゴロクならば、もし俺が『女装』のマスに止まっても、それは純粋な罰ゲームだから俺も諦めがつくと考えての事だろうか。




「はい!!」


部長が止まったコマはなにもかかれていない無地のマスだった。


「何もなぁーし。次ッ!はい!」


「あ、俺ですか」


部長から押し付けられるようにサイコロを受け取って、俺はマス目に書かれている命令を確認した。


スタートから6マスまでの間に『やられたら嫌な事』が書かれている紙は一枚だけ、3マス目に置かれてある。


つまり俺はサイコロを転がして、3以外を出せばいいのだ。


もし、3が出たりしたら…


い、いや、負のイメージはそれを引き寄せる。大丈夫だ。俺はアレには止まらない!


それにもし止まったとしても女装に当たる確率は15分の1なんだ。女装以外なら耐えられる。他の人が何を書いたかは知らないけれど、3以外を出せばいいだけのはなし。


「でりゃぁ」


気合い一発。

サイコロの底面を撫でる様に手首にスナップを付けて放る。

コロコロというよりもカカカという小気味よい音をたててサイコロは転がった。

机の上を落ちるギリギリでそれは止まった。


上面にはぽっちが4つ。4だ。


「ふぅー」


「チッ」


俺は息を吐きながら自分のコマを4つ分進める。隣りで部長があからさまに舌打ちをうっているが、あえて気にしない方向で。

最初の関門を乗り越えた先で止まったマスは無地で何も書かれいない、セーフマスだった。

運は俺に風向きがあるらしい。



「はいよ」


隣りでわくわくしている芳生にサイコロを渡す。


「わーい、おぅし、いくよー!ホウセー号、発進!」


芳生は心底楽しんでいるようだ。ニコニコと笑ったままで、意気軒昂にサイコロを手から滑り落とす感じで転がした。


だがしかし、動きが止まったサイコロのぽっちは赤い点が一つあるだけだ。


「…1」


あれだけ気合いをいれたのに、なんだか不憫だな。


「…はっ!えーと、…いーち!」


芳生は無理やり自分のテンションを底上げするように声を大きくあげながら、自分のコマを進める。


「ん。なんか書いてある」


芳生が止まったマスには、部長が事前に書いた『命令』が書かれていた。


『フリダシにもどる』


「…これって…」


「む?見てわからんのか?スタートに戻れ、という事だよ」


「う…、うん…」


スタート時のテンションは何処に言ってしまったのだろう。完全に意気消沈した芳生はまた「いーち」と声をあげながら折角の前進を無為に帰した。


「普通一マス目に『フリダシに戻る』は設置しない」


「普通のスゴロクと一瞬にしないでくれ、これは言うなれば普通のスゴロクをベースに産まれた全く新しいスゴロク、そう名を冠するなら『ネオロク』だッ!…かっこいいな…」


「勘違いし過ぎですよ」


楓が芳生からサイコロを受け取って指摘したが、部長にとってそんなものは馬耳東風。いつも通り流されているが、楓も気にした様子もなくすぐに受け取ったサイコロを放った。


「…ッ」


「おや、おやおやおや」


コロコロ転がりやがて止まったサイコロの面を見て、部長は途端にニヤニヤと笑い出した。

一方、楓は軽く顔が青くなっている。


俺は二人の変化を疑問に思いながら、視線をサイコロに落とした。


ああ、なるほどね。


単純な話、楓はハズレを引いたのだ。サイコロは3を指していた。


スタートから数えて3マス目には、半分に折り曲げられたノートの切れ端が置いてある。


つまり、本日初の罰ゲーム。


「はぁ、3だな。はい」


溜め息とともに自分のコマを進めた楓は、嫌そうにそのマスに置いてあった二つ折りにされた紙を広げて中に書いてある文を声に出さずに目を動かして読んだ。


それからすぐに眉尻を下げて楓は、


「…これ、俺が書いたやつだ…」


ペラリとこちらに書いてある文字が見えるように垂らした。そこには楓のカクカクした丁寧な字体でこう書かれていた。


『額に肉』


「ひたいに…にく?なんだそりゃ?」


それはひょっとしなくてもキ○肉マンの事を言っているのだろう。俺にはゆでた○ご先生作品以外に『肉』が額に刻まれているキャラクターを知らない。


「いや、ほらよく合宿とかで一番最初に寝た人のオデコに書かれるじゃないか」


ああ、つまりマジックペンで瞼に眼球書かれるのと同じくらいの頻度で行われる落書きの一種ですね。


「…楓は書かれた事あんの?」


「俺はない。だがやられたら嫌だな、と思ってな」


念の為に聞いてみたが、やはり楓はそんな経験はないようだ。

そもそも羽路学園にそんな下らない事をやるような人は一人も見当たらない。


「そうか。最後にこれだけは言わせてくれ、楓」


「?なんだ雨音?改まって…」


「Don't mind!」


「は?」


だが、何事にも例外は付き物だ。

ちなみに、その例外は高確率で俺達のそばでニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。


「ゴー」


ポン、死神が楓の肩に手を当てて、件の笑いを浮かべながら言った。


「は?」


「ゴー」


「なんですか?部長」


「マッソー!!」


「ついにイカれたか、前からガタがきてると思ってはいた、ぐっ、ぐあああああ!!」


「リングに稲妻はしるぅぅぅ」


憎まれ口をたたいた楓はもういない。

死神のサイレントステップによって背後を取られた五十崎楓は、ガッチリと背中をホールドされていた。


「ぐ、は、離せ!」


「それは出来ない。何故ならそれが『ルール』だからだ!」


ビシッ、眼光が迸る。


羽交締めにされている楓には悪いが、ほんの少しだけ任務を遂行する女、みたいな感じで部長がかっこよくみえた。


「さぁ!やれぇ!早く打つんだ!和水【ピッコロ】ぉぉ!」


「えぇ!任せて!作品を通してみても存在意義が低すぎる主人公の兄貴なんて私のマジックペン、マカンコウサッポウがけっちょんけっちょんにしてやるわ」


部長からごを受けた和水の手にはいつの間にか、黒のマジックペンが握られていた。


「くらいなさい!マジックジックマジックママジックゥ〜」


「や、やめろ!ばか!触るな!部長も離してくれ!このっ」


楓は激しく首をふりながら、足をうまく使って和水を牽制し、部長の魔手から逃れようとしている。

だけど、部長は強い。

なぜだか知らないけれど、そこらへんにいる男なんて目じゃないくらいに。


単純な腕力では楓が勝っている筈なのに、なかなか振りほどけない。


「あぁー、ダメよ、楓。もがけばもがくほど、歪になるだけよ」


「腹を括りなさい。いいじゃないが、レスラーの仲間入りが出来るんだぞ」


悪魔超人の二人が、楓の前から後ろから言葉を吐く。


「た、助けてくれ!雨音!」


あの楓が他人に助けを求めるなんて珍しい事があるもんだ。そんな思いに報いたいとは思うが、悪いが楓を助けると、邪魔をするなぁ、とか言われて俺もキン肉○ンにされてしまうかもしれないので、それは出来ない。


なんだか苛めの連鎖みたいだな。とポヤーと思った。


「わぁ、女子二人と戯れるなんて羨ましいなぁ」


「っく、雨音、貴様…、ほ、芳生、お前なら…」


「悲しいけど、これって戦争なのよね」


シニカルに告げる芳生の声にはいつもの張りがない。

まだ、スタート地点にいるのが、嫌なのだろう。


「美影…」


「えーっと…、水性ですし、ね」


ガックシと肩を落として、楓は力を失い、部長にもたれかかるように崩れ落ちた。


合掌。


「ふふふ…、ふははは」


「うぷぷ、なかなかお似合いよ!」


「なんか牛丼好きそうな顔してるもん、ああ、カルビ丼でもいいぞ」


「でもほら額に肉と書くだけで、取っ付き難い楓の人相が良くなったわよ」


「俺、…ベジタリアンになる」


額に肉と書かれた楓は心なしか泣きそうに、肩を震わせて言った。

そして、右手で握り締めたままだったサイコロを隣りの美影に「はい」と渡す。

受け取った美影は眉の間に皺を作りながら「3以外、3以外…」と不気味に呟いている。

「えい!」


彼女は小さく気合いを入れて、サイコロを机に落とす様に転がした。


コロコロ…


やがて動きが止まり表になっているサイコロの面にぽっちは



4つ。


「よ、よかったぁ〜」


美影は安堵の息を吐きながら、嬉しそうに自分のコマを進め始めた。


「何がよかったのよ?」


「え?えーと、紙が置かれたマスじゃなくて良かったと…」


「も〜、美影、そんな気概だからダメなのよ。いい?紙が置かれているマスだろうとなんだろうと、気にしすぎれば、その結果を引き寄せる要因になると、この間テレビで高名な霊能者が語ってたわ」


「4」微笑みながら美影は俺のコマの横に自身のコマを並べる。


「確かにそうかもしれませんねー、はい、和水さん」


和水の意見は美影には、八面玲瓏崩す事なく、サイコロを和水にパスした。


和水は美影が自分の意見を気にしてもいない事を感じとったらしい。溜め息混じりに注意した。


「分かってないわね。そんなんじゃGS美影になれないわよ」


「はぁ」


「見てなさい。私のフリを!大切なのはどんな道だろうと、進みきる自信と信念。我が前に道はあり、後ろになし。さぁ!輝け!光ある道よ!」


和水は変な演説をしながらサイコロを振う。


「…」


「もっと、光を…」


結果は、散々なモノだった。


「…」


「さて、和水。見たら分かると思うが…」


「嫌よ!」


「嫌よ、じゃない。ルールだ」


「絶対に嫌ッ!なんでそんな事されなきゃいけないよ!?」


和水がここで言う『そんな事』とはもちろん額に肉と書かれる事である。

さっきまで楓をあんなに攻撃していたというのに、それは少し卑怯じゃないだろうか。

楓を含む全員の思いを受けてか、部長はやや嘆息ぎみに呟いた。


「…お前のサイコロを見なさい」


「ッ」


部長の指摘に和水は静かに視線を下に落とし、すぐに顔を上げると、唇をワナワナと震わせて、文句を言った。


「サイコロなんてただの六面体じゃない!そんなのに流される運命なんて私は御免だわ」


またこいつは的はずれな…。楓の時はあんなに乗り気だったのに今更文句いうなよ。


「いいか和水、その六面体で命を落とす方もいらっしゃるんだ。それを額に肉だけで済むんだから安いもんじゃないの」


「人の命は天秤にはかけられないわ!」


「立派な事言ってるつもりか知らんが理屈じゃないんだよ。この罰ゲームはな」


「個人の意見は尊重されるべきよ!この日本国という社会では…」


「つべこべ言うなぁ!」


「きゃあ」


ついにぷっつんした部長はさっきと同じ様に和水の後ろに周りこむと、羽交締めにした。


とても正しい判断だと思う。





「グダグダ言うなぁ〜〜」


「や、やめっ!何をするのよ!って、楓!?あなたなんで私のマジックペンを握ってるのよ!」


両手をバタバタさせている和水を力強く押さえる部長に楓は目配せした後、不気味にニヤリと口角を上げて、マジックペンのキャップをポンと気持ちいい音をたてて開けた。


「観念するんだな」


「いやっ!いやよっ!お願い助けてっ!」


「ダメだ。恨みはらさでおくべきか」


涙目で訴えかける和水にピシャリと冷たく言い放つ。

憐れだ。少し和水を可哀相に思ったが、楓にはそれ相応の行為をしているから、部外者である俺から口出しする事は出来ない。


「諦めろよ」


「っ!?雨音あなた何言ってるのよ!いやっ!絶対に!額に肉だけは絶対にいやよぉ」


「わかった。額に肉だけは勘弁してやる」


「えっ、ほんとっ!?」


「ああ。…『米』な」


「へ?ひ、ひにゃああああああ」


楓の怒りは『テ○ーマン』の方に向けられてしまったらしい。

ジタバタする和水の額にはキュキュといい音をたてて、『米』と書かれた。


和水を観察していて面白かったのは、『米』を書かれる時には大人しくなり、その両眼を見開いて猫みたいに「ふー、ふー」鼻息を荒げていた事だ。


マジックペンの芯が額から離れると同時に部長の束縛が免除された和水は支えを失った様に両膝をついてから、そのまま亀のように身体を折り曲げてうずくまった。


「うう…、もう、お嫁にいけない…」


しゃがれた声で呟きながら和水は額を隠している。さっきよりも身体を丸めて、断固としてもう身体を起す気はないらしい。


一人引きこもり状態となった彼女を俺達は見守る事しか出来なかった。


「やれやれ…。全く、ダメだな、貴様ら。それくらいで心が折れてるようじゃ話にならんぞ。スリー、ツー、ワン」


部長はそんな和水を見下しながら、机の上に残されたサイコロを親指と中指で摘むと、一度鼻を鳴らしてから、


「ゴォー、シュート!」


指パッチンする要領でサイコロを転がした。

サイコロはうまい具合にテーブルの上でコマのように回り始める。


俺は一度部内を見渡した。


ああ、なるほど。

部長からスタートして順番が一巡したらしい、だから巡り巡ってスタート地点に戻ったわけか。


てか、部長はこの地獄のスゴロクはゴールまで続ける気なのだろうか。


鬱だ。


これから先、ノーデータの紙が14枚待ち受けている。

女装の確率、14分の1。


「よ〜みがえれ!」


やんややんやと回転を見ている部長に芳生が苛立った口調で注意した。


「部長、サイコロを回さないでよ、時間かかるでしょ」


確かにその通りだ。

部長のサイコロはシャーと音をたてながらまだ回り続けている。

そんな至極まっともな指摘にも部長が納得がいかないといったように唇をとがらせて、反論した。


「む?何を言っているのだ。芳生。この黄金長方形の回転を見て何も感じないというのか?」


「黄金長…?なにそれ?」


「全く何も理解していないようだな。ふぅ。いいか芳生、お前はこれから『出来るわけない』と四回だけ言っていい」


「出来るわけない?」


「そう。lesson4だ。敬意を払え」


「出来るわけない出来るわけない出来るわけない」


「…」


「さぁ!部長、四回言ったよ?何が起こるのさ」


喜々とまだスタート地点に止どまっている芳生は楽しそうに聞いた。

そんな芳生を部長は瞬きを1、2回したあと眉毛をつり上げて、芳生に


「チェストー」


でこピンした。


「あいった!」


「フン」


「いっうぅ〜…。なにすんのさ!?」


「甘ったれるな!いいか今のは一回にしかカウントしな…、と、サイコロが止まりそうだな」


軸がぶれ始めたサイコロ独楽を部長は両手を机についてそれを見た。

サイコロは最後に華々しく散るように大きく一回弧を描くように回転すると、その動きを緩慢に制止した。


赤色が、あった。


「む、1か」


部長はサイコロの数字を確認すると残念そうに息を吐き、すぐに盤にある自分のコマを右手で摘んだ。


「いいか、この一歩は小さな一歩だが人類にとっては大きな一歩なのだよ…ん?」


ただのスゴロクにそんな壮大なコンセプトない。


俺がそう突込もうとした時だった。


突然部長はさながら反復横飛び上半身版といったように盤とサイコロの間を何回も行ったり来たりする奇行に走り始めた。


なにやってんだこの人?


全員が訝しげな瞳で部長を見る。

どうやら部長はサイコロの数字を何回も確認しているらしいのだが、何度見ても数字が変わるはずがない。

何をそんなに構う必要があるのだろう、俺はそんな意味を込めて、部長のコマの現在位置を確認した。



「ああ、なるほど」


「何がなるほどなんです?」


隣りの美影が小首を傾げて聞いてきた。

俺は部長のコマを指差して答える。


「あれ」


「え?」


美影はしばらく顎に手を当てて考えていたが、すぐに合点がいったらしい。


「ああー、なるほどです」


「でしょ。ほら部長も早く諦めて下さいよ」


俺はしつこくサイコロの数字を確認する部長に言った。


「あ、あ、あ、諦める?な、な、な、何を諦めるというのだ?」


言葉につまりながらも平静を装おうとする部長に、半ば呆れつつ、俺はまたスゴロク盤の上にある部長のコマ(2マス目にある)を指差した。


「2+1は3ですよね。3マス目には楓直筆の罰ゲームマスですよ。早く罰を受けて下さいよ」


「な、な、な、ななな何をいいっ、て、ているのかな?な?」


ラッパーのように、いや、バグが発生した音声再生ソフトみたく部長は慌ててそれを否定する。

もちろん否定仕切れていない。


「いい香りがするわっ」


ガバ


その時だった。

亀の子になっていた和水が身体を起した。

かなりの勢いだったので隣りでボケーとしていた芳生が声を出さない悲鳴をあげていた。

和水の瞳はキリストの奇跡を目の当たりにしたかのように輝いている。


「柿沢秤部長!」


「…なんだね?水道橋和水君」


「罰は罰です。甘んじて受けて下さい!」


先ほどの事もあるのだろう。復讐のチャンスとばかりに和水は本当に目をキラキラ輝かせている。

彼女の口から飛び出すのは正論なのだが、なぜか和水がいうと多少ムカツク。

目が見開いているからだろう、額の『米』の高さも必然上がっている。


「な、ちょっと待たんか!」


「何が?」


「何がじゃない!…何がじゃ…ぁ」


どんどん言葉尻が下がっていく部長を生暖かい瞳で眺めてあげる。

もう諦めろよ。


「…サイコロを見ろ…」


一同の気持ちを察し切れていないのか、部長はビシッとサイコロを指し示した。


「サイコロがどうかしたの?」


みんなを代表して和水が片眉を下げて聞いた。


「…よく見ろ…」


「だから何よ」


部長の声はか細い、文字通り蚊の鳴くような声だ。

そんなトーンで続ける。


「…回転は死んでいない」


「は!?」


「回転は生きている…!」


「…どこがよ。完璧に目は1じゃないのよ」


「ふー、だから、ふー、よく、ふー、見なさい、ふー」


「さ、サイコロが動いているッ!?」


「息で動かそとしてるだけじゃないか!」


思わず叫んでしまった。

だって、あからさまだったんだもん。


結果。


部長の額には、『中』という文字が刻まれたのだった…。




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