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13(3)

私にはネーミングセンスというものが皆無です。

だからサブタイトルを味気無い数字だけにしたのですが、前述の通り何回か前書きとサブタイトルの場所を間違えました。多分2回。

それこれも全部、私の脳が数字だけという事で混乱してるからに違いありません。

そこで!

素敵なネーミングセンスをお持ちの方、各話にサブタイトルを付けて下さい。

作者の足りないオツムを補ってくれる方、大募集です。



図書室のドアを開けて出て行った二人の後を追うように、そろりそろ〜りとついていく。


どっちみち一年生は同じ棟なのだ。ついていくというよりも、教室に戻る為に同じ道を通っているという方が正しい。

決して出歯亀ではないし、友人として芳生を見守っているだけと断っておこう。


俺と楓の位置からは二人が何を話しているのかは分からないけれど、楽しそうにお喋りしているという事だけは見て取れる。


「どうやら土台造りは完成したみたいだな」


隣りを歩く楓が安心したように呟いた。

こいつは時々友情に厚いときがある。シビアな奴だと思っていたがそれはまた違う話らしい。


「めでたしめでたしだな。ま、俺はなんもやってないけどね」


「そう言うな。お前も二人の仲を取り持ったんだ」


「取り持つって…、まだそこまでの段階じゃないだろ」


昼休み終わりの廊下はまだどこか騒がしい。さすがにボール遊びに興じる人達はいないようだが、トイレやなんかに向う人たちで廊下はごった返している。


移動教室のクラスの奴等が連なって階段を降りて来た。

向こうの棟に移動教室が固まっているからそっちに行くのだろう。


前を行く安藤さんと芳生の二人はそんな人達の列にぶつからないようにそっと左に寄って階段を昇り始めた。


「うわぁ、あがんの面倒くせぇ」


「そう言うな急がないと遅刻だぜ。次、お前のクラス、数学だろ?」


楓が階段の混み具合をみてげんなりしていた俺をはげますように言った。


そう数学だ。少しでも遅れると大目玉をくらう、俺が一番嫌いな教科。


クソ、俺は文系だから数学はいいじゃん…。

脳がついてかねぇんだから仕方無いじゃねぇか!


「なんで知ってんだよ…」


「さぁな」


俺達二人も芳生達に続いて階段に足をかけた。


なんとなく上を見る。


仲が良さそうな二人がそこにはいた。

あっちは男女でこっちは男男か。なんか惨めだな。


俺もいつか美影と一緒に階段をお喋りしながら昇りたいものだ。

俺が美影と会話を交わすのは主に部活中、つまり放課後だけだから、悪く言えば前を行く二人に嫉妬心を抱いていたのかもしれない。


「あーとから、来たのに、おーいこされー」


「…なんだよ…。楓?」


「別に」


ノリノリで水戸黄門を歌っている楓に少しだけむかついた。


「あ」


「どうした?」


ずっと上を見ていたから気が付いたのだが、前を行く芳生と安藤さんが移動教室に向っている人にぶつかった。


丁度折れ曲がりの為に階段が切れているスペースでの出来事だ。

二人はすぐに謝ったのでぶつかられた方も、別に気にする感じもなく階段を降りていった。一見なんの問題もなかったように見えるが実はそうではない。


俺と楓が衝突地点に辿り着くとやはり杞憂では無かったらしい。


「それは?」


俺は身を屈めて、床に転がる白い財布を拾う。


「さっき二人がぶつかった時に、多分安藤さんが落としたんだと思う」


「ふーん。なら早く届けた方がいいな」


上を見る。

すでに階段を上がりきった二人はそれぞれの教室に別れようとしているところだった。


急がなければ。


安藤さんが教室に入られてからでは、呼びかけるのが面倒になってしまう。彼女が所属する5組に知り合いはいないし。


「おーい、あんど…、じゃない…そこの人ぉー」


危ない危ない。

名前で呼び掛けるところだった。面識がないのに名前を知ってると怪しまれるからな。


小走りで、彼女達のもとに走り寄る。芳生もまだ教室に帰ってはいないようだ。

俺の声に安藤さんと芳生は振り返った。


「あ、ピンクエレファントさんじゃないですか?何かご用事ですか?」


今更だけどあんな名乗り方して後悔。エレファントじゃなくてフロイドとかにすりゃ良かった。


「いや、用というか、…コレ」


俺はそう言って白い財布を差し出した。


「あ、私の財布」


それを見て取ると、びっくりしたように目を丸くした彼女は、手をパタパタとさせ自分のポケットを探り、


「…落としていたのですか」


虚しく潰れたポケットにそこはかとなく悲しそうにしながら、聞いて来た。


「うん。さっきの階段の所でね。はい」


彼女は右手で軽く持って差し出された財布を受け取ると、嬉しそうに頬擦りしはじめた。


おいおい、そんなペットみたいな…。


「いやはや…、これを無くしたら困るところでした」


「いや、気付いてよかったよ。それじゃ…」


そう言って俺は楓がいる位置まで戻ろうとした。

その時だった。


「ああ、待って下さい。ピンクエレファントさん」


「…何?」


俺の名前-もっともこんなふざけた名前じゃないが-を呼ばれたので足を止める。


彼女は財布をポケットにしまってから俺の方にペコリと頭を下げながら言った。


「有り難うございました」


「どう致しまして」


丁寧なお礼を言われたので返す。

彼女はゆっくりを顔を上げて、俺を見るとニコリと笑った。


「私って昔からどこか抜けてるって言われるんですよねー」


頭を掻きながらそんな事を言う。

そんな事を俺に言われてもなぁ。


「まあ、いいんじゃない?次から気をつければ」


「そのセリフを前も言われたんですよねぇ」


「前?」


彼女は少し溜め息を吐いてから髪を掻き揚げた。


「はい。私よくお財布…というかお金を無くすんです」


「それくらいならみんな結構やってるから気にする程じゃないよ」


そう言って俺は安藤さんの後ろで所在なげに佇んでいる芳生を見た。

忘れ物大王、土宮芳生にも当てはまる事だからだ。


あいつこの間部室に財布を中に入れた鞄を丸ごと忘れてったからな。


芳生は俺の視線に、頬を少し赤らめてプイっとそっぽを向いた。


「はぁ、私の場合、お金を落としたというか…」


「…どうしたの?」


「はい、文化祭の時ですねー」


彼女は首を微妙に傾げながら語り始めた。


「私のクラス、文化祭で古本屋をやったんですよ」


ん?

古本屋…。


「それで各自いらなくなった本を持ってくるように言われたんです。持ち寄った本を売り物としてだすんです」


…ちょっと待てよ。

古本屋って、…



…1年5組の古本屋…、


BOOKFOFの事かッ!


「それで私、持って来た本の中に千円札挟んだまま売りに出しちゃたんです。栞代わりに使ってた奴なんですけどねぇ」


栞代わりにお札を使うだなんて…


「…」


って、それはともかく…。


俺は記憶を探る。


俺の部屋の机の本棚。漫画がぎっしり詰まった棚の上。あまりスペースがない小説棚の中で唯一小説じゃない本が置いてある。10月末の文化祭で買った本。一応全部読んだが正直あまり為に成らなかった、あの本。最終結論がメモをよく取れ、だもんなぁ…。


確かタイトルが…


「『忘れ物をなくす本』…」


「っえ?」


彼女は驚いたようにピクリと体を震わせた。


「その千円札を挟んだままにした本って、『忘れ物をなくす本』じゃない?」


「…そ、そうですけど…」


「やっぱり!やっぱりなぁ!なんか聞いた事があると思ったんだ!後ろに名前書いてあったからか!」


確か出版日の所に鉛筆で『安藤ちなみ』と小さく書いてあったはずだ。

だからか!俺が彼女の名前を始めて聞いた時に覚えた違和感は!


「ど、どうして御存じなのですか?」


驚きながら彼女は聞いてきた。

いや、驚くというよりビクビクと怯えているようだ。


超能力者か何かだと思っているのだろうか、この俺の事を。


「エ、エスパー?」


やっぱり思ってやがった。


「違うよ!」


「そ、それならばどうして…」


「…俺がその本を買ったんだよ」


怯えられても困るので素直に言う事にした。


俺の答えを聞いた瞬間、彼女は前のめりになって、驚いたように声を上げた。


「あなただったんですか!ピンクエレファントさん!」


「へ?あなたって?」


喧騒が止み始めた廊下で物凄い大声で彼女は叫んだ。


「その本、私が持って来た本の中で唯一売れた本なんです。『忘れ物をなくす本』って!私それが凄く嬉しくて、しかも間に挟んでいた千円札まで見つけて下さったんです。お礼がしたくてその後購入者を探したんですけど見つからなくて…、いやぁ、助かりました。コレってまるで運命みたいですよね!」


目をキラキラ輝かせ、グィと俺に接近しながら彼女は言った。


「あ。えっと…」


急に至近距離に来られると困る、というか戸惑う。


「その後係りだった子に挟んであった千円札を渡されたんですが、その際、『その千円届けてくれたの親切そうないい人だったよ』と聞いて凄く感謝をしたものです。しかもその千円札を届けてくれた方が今度は私が落とした財布を拾って下さるとは!凄いです!凄い偶然ですよ!これは!」


「ああ、うん、そうだね…、す、凄い偶然だねぇ…」


どんどんこっちに寄ってくる彼女にぶつからないように俺もじりじりと後ろに下がっていく。


ふと、彼女の向こう側を見ると、芳生がこっちをジト目で睨み付けていた。


『雨音…、君って奴は…』


と瞳が語っているかのようだ。


いや!違うんだ!芳生!


そう言いたくてもどんどんと芳生との距離が離れていく。


「それでですね!ピンクエレファントさん!」


「あ!は、はい?」


にじり寄っていた彼女がぴたりと足を止めた。

それでようやく俺も自身の足を休める事が出来る。

というか、俺の名前ピンクエレファントになっちまったのかよ…、まだシーモンキーのほうがいいんだけど…。


「お礼がさせて下さい」


有無を言わせず彼女はそう言い放った。


「…」


「…」


えっと、今、なんて…


「…はい?」


数秒遅れてやっと機能を再開し始めた口で、聞き返す。


いま、彼女はなんて言った?



「お礼?」


「はい!お礼です!」


「お礼ならさっきお辞儀までしてもらったよ」


「違いますよ!違います!」


両手をブンブン振って同じ言葉を二回繰り返す。


「一度ならず二度までもお世話になったこの身です!いや、パソコンの事を入れれば三回」


彼女の体のお世話までした覚えないんだが…。


「恩返ししなくてはバチが当たるというものです!」


「…そ、それで?」


「はい!ですから恩返しさせて下さい!」


そこで彼女は言い切ったという様に「ふぅ」と息を吐いた。


恩返し…、だって?


何言ってんだ?この眼鏡女史。


「恩返しです!」


また同じ事を繰り返す彼女。

純粋なまなざしでこっちをジッと見ている。


「いや、いいよ。別にそんな…」


遠慮する俺に彼女は、片足を踏み出して、ビシッと言った。


「ダメです。恩は恩で返さなくてはいけないのです」


それはちょっと押し付けがましくないかなぁ。というか、第一…


「恩返しって何するのさ?」


一番の問題はそこだ。


「はい。何するんですか?」


「…」


聞き返して来た。

聞き返して来やがったぞ、コノヤロー。


「知らないよ…」


額に手を当てて言う。

なんだよ、それ。具体的プランもないのに提案すんなや。頭痛くなってきた…。


「いいえ!」


そんな俺の呆れを吹き飛ばすように彼女は大きく声をあげた。


「知らないではありません!良いですか?ピンクエレファントさんがして欲しい事を言えばいいのです。それが恩返し…、おぉ、まさにそうじゃないですか!?」


「ああ、そうだね、多分。うん」


一応納得。

まさにその通りだとおもったからだ。



「俺がして欲しい事ね…」


今、俺が一番して欲しい事。

そんなの決まっている。

芳生との友情が悪化しない事だ。

だからと言って、『土宮君と仲良くしてやって下さい、安藤さん、あなたがです』なんて言ってみろ。それこそ馬鹿な行為だ。

意味不明な上、余計なお世話。


しからばどうしたら良いか。

それが問題だ。


「じゃ、とりあえず気をつけしてくれるかな?」


「気をつけ…、ですか?はい」


言われた通りにピシッときれいな気をつけをする安藤さん。

こんな疑いなく言う事を聞いてくれると、彼女が将来詐欺かなんかに引っ掛からないように心配になってくる。


「回れ右」


「回れ…?」


不思議そうな顔をする安藤さんにニッコリ笑って言う。


「右」


「は、はぁ」


右足を引いてその足を軸に体を反転させる。

うーん、素晴らしい。まさにお手本となる回れ右だ。


「足踏み、始め!」


「え!?」


「右、左、右、左」


「右足でえっと、左足を…」


「1、2、1、2、オッ1、2」


「は、ははははい」


彼女の背中に向って号令をかける。

言われた通りにする安藤さん、言っちゃ悪いが廊下でそんな事してるなんてバカみたいだ。


「それでは一、全隊進め!1、2、1、2」


「はい!1、2、1、2!」


言われた通りに歩きだした安藤さん一(人)小隊に発破をかける。


「もっと腕を高く上げて、顎引いて前を見る!そう!運動会のように!」


「こ、こうですか?1、2」


「いいぞ!おぅし、そのまま5組に向って前進!」


「はい!ピンクエレファント隊長!」


俺はその隙に自分の3組の教室に駆け出した。

途中振り返り、ピッと手をあげ、芳生と楓に挨拶する。


楓はいつも通りの無表情、芳生は相変わらず不機嫌そうな感じで佇んでいた。


なんか悪い事した感じで罪悪感が…、い、いや、俺は何にも悪い事やってない。気のせいだ俺の良心よッ!


…素直に後で芳生に謝ろう…。


「あの隊長?なんだかコレ、恩返しに関係ないんじゃないですかね?…

…隊長?

隊ちょぉぉう!いずこへ向かわれるのですか!?たいちょ〜う!」


後ろで安藤さんが騒いでるがもう関係ない。

今は芳生への謝罪文-彼女に俺はなんの興味もないという事を伝える文-を考えなくてはいけない。


「ピンクエレファント隊長ー」


だから、安藤ちなみさん。


「隊長ー、また会いましょう〜」


もうお会いする事はないでしょう。さようなら。






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