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第1話の二本目です。

って、なんだそりゃ、自分でやってて訳が分からなくなって来たぞ(笑)

秋の爽やかな空気が校舎内に充ちていて、どこからか漂って来たキンモクセイの香りが鼻を優しく刺激した。


オレはチラリと隣りを歩く同い年の少女に目をやる。

彼女はキョロキョロと辺りを小動物の様に見て回っていた。

学校の設備が気になっているのだろうか。

転校したては色々と大変なんだろうな。


そんな彼女と目が合って、ニコリと笑ってオレに話かけてきた。

不意打ちに胸を貫かれる。

いかん、いかん。

3.1415…


「誰の鉢巻きから狙いましょうか?」


「そうだねぇ。和水と楓は何処に行ったか分からないから、図書委員で図書室にいる芳生から、狙おうか」


まずは確実に居場所が分かっている芳生に会うため図書室に行く事にした。

裏さんには言わなかったが、ターゲットを決める前にオレ達はすでに図書室に向かっていたのだ。


オレは直接捕まえる行為、つまり鉢巻きを取りあげることはしてはいけないと部長が言っていたが、転校生の彼女は学校の地理もままならない。そのためのオレの出番ということだろう。


図書室にいくための階段をくだりながら、ゆったりとした空気に酔い痴れる。


ハタからみたらカップルがデートしているみたいに見えるんじゃないかな、…はぁ、裏さんみたいな彼女いたらいいのに。


人知れず嘆息を漏らす。

そういや、彼女相手に一目惚れは出来ないとか思っていたことがあったが、ありゃすまん、嘘だった。


でも、こうなると沈黙が気まずい、何か会話の糸口を見つけないと


「裏さん、前の学校どうだったの?」


「これと言って変わった事はありませんでしたよ」


まず当たり障りのない無難な質問をしたが、あっさりとした答が返ってきた。


ここで食いつくのもおかしいし、別の質問にしよう。


「ふーん、裏さんはなんで娯楽ラブに入りたいの?」


「…それは、ですね、…えっと、好奇心って事でお願いします」


何かあるのだろうか。

少し解答を渋っていたようにみえたが、それについて聞くのは野暮ってやつだし、第一オレの仕事ではない。

プラスこれでは尋問ではないか、ここいらで切り上げだな。


「でも、娯楽ラブって面白いですね。普通の部活で入部試験なんてやりませんよ」


「そういえばそうだね。でもうちの部はほら、部長がああいう人だからさ、

変わった事が好きなんだよ」


「表さんも入部試験したんですか?」


「あ、あぁ、したねー、…そんな事も」


いかんトラウマが…


「表さんの入部試験はどういったものだったんですか?私と同じように鉢巻きを?」


「いや、オレのは…鉢巻きじゃ、無くて…」


彼女は無邪気にオレのパンドラの箱をに手をかけてこっちを天使の微笑みで眺めている。

やめてくれ、そんな目でオレを見ないでくれ。


思い出しても身の毛がよだつ。もう二度と二度とあんな目にはッ…

大体、部長がなまじ美人なのがいけないのだ。だから、オレが被害を被った訳だし、多大な犠牲者が生まれてしまったのだ。


「表さん、大丈夫ですか?顔色が優れないみたいですが…」


「へ、平気平気。あ、そこが図書室だよ」


彼女の声で現実に引き戻され、気が付くとオレ達はすでに目的地に着いているのだった。

助かった。

あの瞳で見つめられたら、すべて吐露しちゃうところだったぜ。


図書室の扉を開けて中に入る。


「バカヤロー!また間違えてんじゃねぇか!!」


「あ、…ドンマイ」


図書室では静粛に。


そんなルールは彼らの前では無効のようだ。


「なにやってんすか?」


入ってすぐの所に並んだ長机で行われている愉快な喜劇に声をかけた。


「あ、雨音。聞いてよ、先輩ったら、小さなミスを重箱の隅をつつくみたいにうだうだぐたぐだと…」


芳生は口を尖らせて不満そう言う。


「何が小さなミスだ。誤字を何回したと思ってるんだ!?7回目だぞ!7回!!しかも目立つところばっかりミスしやがって…。おい、ここも違うぞ!検定の『検』が『険』になってんじゃないか!しかも次の段の『検』は『剣』になってんるし、…せめて統一しろ!」


キャスト、土宮芳生、金谷尚貴(かねやなおたか)先輩。


金谷先輩は怒り怒髪天にたっすといった状態だ。


統一とかそういう問題じゃない気がするけど、今の先輩に突っ込んだら、間違いなく傷つくのはこっちのほうだろう。


口は災いの元。何も言うまい。


「早く直せ!文化祭の宣伝ポスター完成させてないのはお前だけだぞ!」


「そんなん完成させても文化祭の日に図書室なんて誰も来ないんだから同じなんじゃないですかね」


「口答えしてる暇があったらさっさと手を動かせ!」


「はーいはい、ちょちょいのちょい」


今の芳生は忙しそうだ。

とてもじゃないが鉢巻きを寄越せなんて言える状況じゃない、と思う。だが、かといって、あの部長の事だから、手に入れないと裏さんは部に入る事が出来ないだろう。


うーむ、困った。


「ん、そういえば雨音なんで来たの?」


「あ、お前部長から鉢巻き受け取ってない?」


とりあえず所有の有無を聞いてみる事にする。


「鉢巻きぃ〜?あぁ、あれね、あるよ!入部早々渡されたやつでしょ。肌身離さず持っとけば願い事が叶うぞ、なんて言われたからハンカチ変わりにいつもポケットにいれてるんだ。まぁ、ハンカチとして使ったことないけどね。それで、それがどうかしたの?」


「あ〜、それく…」


おっとと、オレが手に入れちゃいけないんだっけ。

これで部長の耳に入ったりしたら面倒だしな。

こういう事は裏さんに言ってもらわないと。

と、そういう思いを瞳に込めて裏さんに念を伝える。

どうやら、その思いは伝わったらしく、彼女は瞳を大きくいちど見開いてたどたどしくオレより一歩前にでて、始めて芳生と会話を始めた。


「あの、すみません…」


「む、むむぅ…」


芳生は彼女の全身を舐めるようにジロッと見ると、


「誰?この美少女」


と一言漏らした。


「あ、私は…」


裏さんは照れながら次の言葉を発する前に、


「「まさか!雨音の彼女!?」」


芳生は金谷先輩と一緒に叫んでいた。


放課後で人がいないとはいえこれだけの声を出せば、周りからの視線を感じるわけで…。


奥の資料室いる図書の先生も咳払いしてるし。


「お前!ふざんけんなよ!後輩のクセに先輩より先に彼女を作る奴があるか!」


「雨音!君という奴は!呆れたよ!一人の高校生として恥ずかしいと思わないのかい!?不純異性交遊に励むなんてそんなの青春じゃなくて盛春だよ!盛りの春、分かる?犬猫にさえ劣る畜生の行為、それに今は秋、春ならまだしも、君は年がら年中盛りの兎かい?プレイボーイか!こんちくしょう!」


「ちょっ、芳生、先輩も少し落ち着いて…」


やべぇ、周りの視線が痛すぎる、大体この二人は図書委員で本来ならば注意する側の人間だろうが。


こういう時の芳生は脳の回転率を司る歯車に油さしたみたいに饒舌だな。

そのタービンをテストの時に使えよ。


「ち、違います。私と表さんはそういった関係じゃなくて」


裏さんも必死になって否定しているが、今の二人にとっては火に油だ。


否定…


うん、否定ね、大丈夫、俺の心臓はまだ耐えられる。


「しゃ、しゃべった!?」


いや、喋れるだろう。

大体さっき話かけてたじゃん。

芳生は慌てふためきながらぶつぶつと言葉を発している。


「雨音!?春を買っちゃダメだ!春は僕にはまだ来ていないというのに…。落ち着け落ち着け〜!」


「落ち着いてないのはお前の方だ、芳生。彼女の話を聞いてあげてくれ」


「後輩のくせに彼女を作るな!オレと一緒に二次元党に入ってたはずだろ、雨音!裏切るのか!?」


「先輩は黙ってて下さい…。そんなえげつない政党に所属した覚えはありませんよ…」


芳生と会話していたはずなのにいつの間にか金谷先輩が泣きそうな目でオレに訴えかけてきている。


金谷尚貴先輩は二年生の男子高校生で、我らが娯楽ラブ部長、柿沢秤のクラスメイトである。


飄々とした明るい性格で基本は真面目だが、自分の世界に入ると手が付けられなくなるのが些か残念なところ。

芳生と同じ図書委員という事もあり、オレたちとは顔見知りで時々遊ぶ仲だ。

本人は隠しているつもりらしいのだが、柿沢部長の事が好きらしい。態度でモロ分かりだ。


「あの、私、表さんの彼女じゃなくて、娯楽ラブの入部希望者なんです…」


裏さんはこの微妙なテンションについて来れなかったのだろう。

話題を変えるためか、はたまた、ただ単にオレとの、付き合いを否定したい…ためか…、っうう、あれ?屋内なのに雨かな…。前がうまく見れないよ…。ともかく入部希望という事を芳生に告げた。



「雨音の彼女じゃないの!?…フフフ、残念だったねぇ、惜春するな雨音、フフフ」


着目する点が違うぞ。

芳生はさながら蜘蛛の糸を見つけたカンタダのように嬉しそうに笑いながら、俺の肩をポンポンと叩いて来た。


ふん、何も言うな。


「それで入部試験ということで、は、鉢巻きを持って来いと…」


「む、OKOK!!ならば尋常に勝負だね!やぁやぁ、我こそは本多平八郎忠勝!葵の御旗は世界一ィィィ!」


前回は三国志で今回は戦国時代か。

無双のやり過ぎでいかれたか?


「ほ、本多さん?あ、あのよろしくお願いします」


裏さんはそう言うと頭を下げた。

芳生、勘違いされてるぞ。

このままじゃお前、戦国最強の三河武士ということで彼女にインプットされちゃうぞ。


「娯楽ラブに過ぎたるもの二つあり。僕の鉢巻き、本多芳生。その武勇試してみるかい?フフフ、今宵も我が槍がトンボを切りたいと慟哭しておる」


そんな愉快な槍知らない。

それにしてもこの芳生ノリノリである。



「いざ、勝負!」



「勝負、じゃない!お前は図書ポスターを完成させろ!」


一喝。


いつの間にやら金谷先輩が真面目モードに突入していた。

どうやらオレの疑いが晴れたと同時に態度が変化したらしい。


「はやく誤字を直せ!」


「いや、でも先輩。僕、部活動したいですよ」


芳生は心底嫌そうな表情で、ポスターを書く右手を持て余している。


「黙れ。任務も遂行できない奴に他の事をやっても二束の草鞋がオチだ」


「わらじ?嫌だなぁ、人が草鞋になんてなるはずありませんよ、おばQじゃあるまいし」


「…もういい、早くペンを動かせ。鉢巻きだかなんだかはさっさと彼女に渡せばいいだろ」


「部長に怒られちゃうじゃないですか。あっ、もし、見逃してくれるなら柿沢部長に先輩のカッコいいとこ教えちゃうんだけどなぁ?」


「おし、外行って勝負して来い、ポスター?オレがやっといてやるよ」


金谷先輩…、アンタそれでいいのかよ?


鼻歌混りに芳生から奪ったペンでキュキュと書き始める先輩に礼を言いながら立ち上がった芳生とともに廊下に出る。


「さぁ、待たせたね!えっと…」


図書室前の廊下は入った時よりも静かで、少しの足音や声だけが壁に響く。


「裏です、裏美影」


「うら?変わった名字だね。…っは、雨音、凄い事に気付いたよ!」


「なんだよ?裏表とかはもういいぜ」


「…さ、ゲームの時間だ」


オレ達の名字、裏表の話だったんだ。


芳生は何も無かったかのように仕切り直してキッと彼女の方を向き直し、そして叫んだ。


決闘(デュエル)!」


「…ッ!」


「…」


「…あの…、なにやるんですか?」


「…」


「えっと?本多さん?」


「なに、…しよっか?」


いや、聞かれても。




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