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アイデアはあっても文にするって大変ですね
例えば…、だ。
俺が生きている中で部長のように破天荒で型破りな人物がいようと、その人と関わりあいになるかどうかを最終的に決めるのは自分本人なのだから、その人物の提案に乗るかどうかも自分で最終判断を下せるものだと俺は思っていた。
だけど現実は違った。
本当の世界というのは残酷でよく人は運命を切り開いて生きているとか言うがそんな事簡単に出来るハズがない。
どんなに頑張っても変えられない運命というのは、たしかに存在し、俺たちの日常にぽっかりと口を開けて時間とともに飲み込むんだ。
勉強やスポーツなんかでこれ以上ないと言うほどに努力を重ねても絶対に届かない本人の限界点があるという事はもう16の学生でも気が付いている事実だ。
自分が思った様な成果がでないのは努力が足りないからだ、と大人は言うが、才能は努力じゃ買えないことくらい人生の先輩たる大人達ならとっくに理解してるはずだろ。
今回の場合、俺に足りなかったスキルは話術とカリスマといったところだろうか。
俺の目の前には手描きの日本地図がバンと段ボールに貼り付けてある。
製作部長。図画工作の才能はなかなからしい。
でも、こんな張りぼて見んの文化祭以来です。
そして俺の手にはダーツの矢が握られている。
「コレは、つまり…」
「簡単だ」
諸悪の根源、妖怪高飛車はそれはもう楽しそうに拳を高く振り上げると、口を大きく開けて聞き慣れたフレーズを叫んだ。
「65億人の大質問」
世界規模ですね。
「ダーツの旅!」
…もうヤダ、この部活。
「土宮ディレクター!」
「はい!」
高飛車、もとい部長が某ミュージシャン兼タレント(所ジョ→ジョジョ)の似てないモノマネをして、芳生を呼ぶと元気な声を上げてディレクター役の芳生は意気揚々と飛び出して行った。
似てねーモノマネやってんじゃねぇ。黙ってシンプソ○ズのホー○ーの吹き替えでもやってやがれ!
「それでは一投目、どうぞ!」
「オッケー!僕に任せてよ!」
「パジェロ、パジェロ」
手をたたきながらたき付ける部長。
部長…日本地図にパジェロなんてありません…。
そんな部長のコールを気を良くし芳生はダーツの矢を投げた。
びしっ
綺麗に矢は突き刺さる。
北海道の上の海に。
「ほら!ささった!やっぱり僕って才能があるのかなぁ」
矢を刺す競技じゃない、狙いを付ける競技だ。
「…オホーツク海か、少し遠いな」
少し遠かろうがなんだろうと、そんなとこ、ぜっっっ〜〜たいに行きませんからねっ!
「…次!五十崎ディレクター!」
さすがの部長も距離というのを考えているらしい、ここ(羽路市)からそんなとこまで行くには色々と面倒事が出て来ることくらいわかっていたようだ。
「俺の番か…、悪いが俺で決めさせてもらおう」
「いや、むしろ遠慮なく決めてくれ」
「やっぱ、雨音も近場がいいだろ?精々2、3県またいだあたりが狙い目だな」
その意見には頷かざるをえない。まぁ、もっとも、俺に言わせれば、県をまたがなくてもオッケーなんだがな。
「フフフ、そんなにデカい口がたたけるかな?さぁ、やれるものならやってみてくれ」
とかなんとか部長は楓を挑発している。なんでやねん。
目的地を決める為のダーツであって勝負しているわけではないでしょうが。
それでも楓はいたってクールだ。部長の声を気にするでもなく、カッコよく腕をふりおろすと、その手からダーツの矢が光のように放たれた。
うお、なんか様になってるな。投げ方がプロっぽいぞ。
矢は俺の動態視力じゃ捉えきれない速度で音もなく飛んでいった、
が、
「あ」
バシンと音がし、気が付いたら、ダーツの矢は壁に弾かれて床の上をコロコロ転がっていたのだった。
無様な…。
「か、勝った!楓に勝った!」
「…ミスった」
楓の失敗を慰めるでもなく、追い討ちをかけるように芳生が両手を上げて喜んでいる。
なんつぅ、友達思いがないやつだ。
「ウィナー、芳せぇい!」
あ、楓VS芳生だったんだ。
「おっと、そんな事より、問題は解決してないぞ。全く貴様らノーコンだな。役立たずが」
レフェリーの真似して軍配を上げていた部長だが、突然我にかえった様で、落ち込んでいる楓にとどめをさすように冷ややかな視線とともに侮蔑の言葉を吐き捨てた。
泣きっ面に部長、痛いんじゃなくて腹立たしい。楓もこの気持ち味わっているのかな。
「さぁ、次は美影だ!見せてやれ、お前の真の力を!」
「わ、私ですか!?」
芳生と楓を微笑ましそうに見ていた美影は部長に急に名指しされて困惑している。
あの慌てふためきようといったら間違いなく油断してたんだな。
そりゃ、そうだろ。
…というか、部長が名指しする順番って、本当に慣習とかなく気分だよな…。
男子→男子と続いて女子に入るなんて、…まったく読めないお人じゃ。
「えっと、ダーツ…とか、やった事ないんですけど…」
とかなんとか言いつつきっちりと構える美影。
でもやっぱり素人なのだろう、楓のと比べると正直あまり綺麗な構えでなない。
「心配しなくて大丈夫よ!針の方を先にして投げれば狙い通りのとこにブラッ○ジャックのようにズッピシきまるハズだから!3rdも一撃で撃破ね!」
そんな美影にハツラツと応援の言葉をかける和水。
なんてアバウトな説明、そんなんで狙い通り行くんだったらこの世から的当て系の競技はなくなっているよ。
「えい!」
小さく気合いの声をだしながら美影は矢を投げた。
びしゅ
もちろんど素人の矢は何処にも刺さる事なく床に楓の矢とお揃いに転がっていた。
まぁ、投げる時に目を閉じたら刺さるもんも刺さんないよな。
「ダメだな。そんなんじゃタワシも貰えないぞ」
「そ、そんな事言ったって、…始めてだったんだもん」
「まぁ、いい、次はなご…」
びしゅ
部長が言い切る前に和水はすでに投げきっていた。
「…み、だ」
そしてその矢は部長の目の前をギリギリのところで飛んでいき、これまたどこにも刺さる事なく、壁に弾かれ床の上に転がっているのだった。
…あの壁、大丈夫か?楓、美影、和水、合わせて三人の矢が当たってるんだが、…もし、傷が付いてたりしたら弁償するんだよな。
「あー、おっかしいわね。京都あたりを狙ったのに…」
「な、ななな和水、その前に私に何か言う事はないのか…?」
部長は今の惨劇に顔を青くしながら和水に威しをかけるように尋ねた。
いまの矢は一歩間違えてたら部長に突き刺さっていたもんな。しかも顔面スレスレ。さすがの部長も驚いたのだろう。
「ん?…そうね。あぁ、わかった、『的の前にいると怪我するわよ』」
「違う!私が合図するまで投げるんじゃない!危ないじゃないか!それから謝らんかバカもの」
「私が謝るの?なんで?」
「当たったら危なかったじゃないか!」
「当たらなかったんでしょ?」
「それは、そうだが…」
「ならいいじゃない。心が狭いわよ部長」
スッゲー、あの部長を説き伏せてるよ。言ってる理屈は正しくないが。
「くっ、和水…。覚えておけよ。…まぁ、いい、雨音投げなさい。それにしても誰もまともに当てられもしないとは…。うちの部にスナイパーはいないのか…」
「その心配はありませんよ。部長」
かっこよく部長に言って立ち上がる。
「む、自信満々だな」
「ええ、筋肉は信用出来ない」
「は?」
「ダーツは骨で支える、風が蠅の動きだ」
勝算がないわけじゃない。
中学の時の友達に結構ダーツがうまいやつがいて、ソイツから手解きを受けた事があるのだ。なんだかブルがどうとか難しい事を言っていたが、ようは紙ヒコウキを投げるようにビュと意識して投げれば、
「おおー、本州に刺さった!」
俺のピンと張り詰めた集中を解いたのは、部長の歓声だった。
はっ、と気付いて先ほどまで俺の手の中にあったそれを確認する。
それは、
それは見事に狙い通りの位置にあった。
狙い、そう、北海道や沖縄じゃない。四国で無ければ九州でもない。
暑くも無ければ寒くもない、中途半端な気候のここ。
「それでここは何処だろうな…」
部長は言いながら地図帳の巻頭の日本地図で照らし合わせながら、呟くように言った。
「羽路市…」
俺は自身にダーツの才能を感じざるをえなかった。
だって、俺はダーツの矢に触れること事態随分久し振りな、素人に毛が生えたレベルなのだ。本家で言うならいきなりど真ん中、得点表はよく知らんがそんなとこだろ。
「コレは、どうだろうか…」
部長は納得いかないように顎に親指を当てた。
「部長ともあろうお人が海でもない陸にジャストミットしているそれを無視して、ケチをつけるというのですか?」
「ぐ、な、何を言う。一度決まった事だ、文句は言うまい。私が悩んでいるのは何処に泊まろうかという事だ。ここら辺に旅館や民宿はないからな。それに天文台とか星を見れる場所もないじゃないか、あぁ〜、残念だ、実に残念だなぁ〜、なまじ場所を知っているばかりにコレばっかりはどうしようもない事がわかってるからな、しょうがないが、やり直しをするしかないようだ」
白々しいぜ、納得してないんだったらそういえばいいじゃねぇか。
と、俺が思った時だった。
楓がすっ、と手を上げて言った。
「うちの近くは丘陵になっててるし、星を見るんだったら好シーイングな公園もありますよ」
「それはいいな!部長、どうです?」
グッジョブ、楓。
「あ、ああ、いいんじゃないか、…あ、でも宿泊どうする?ほら、楓の家って家族が多いいから厄介になるわけにはイカンだろ」
楓は7人家族だ。
確かに厄介になるのは不躾だな。
それに兄弟全員が性別女性となるとこちらもなかなか気まずいものがある。
楓の姉妹達はみんな美人だけど、俺は美影一筋だから!揺るがされないから!多分、おそらく、きっと!
…そもそも俺は一番上の桜さんしか面識ないけどな。
「旅館なんて気の利くもんがないしな。致し方あるまい、場所変えだな。残っている山本先生にお願いするしかないようだな。出来れば宿泊施設がある観光地がグッドだ」
と、部長が言い切るやいなや、ガタンと音をたてて男が立ち上がる。
「おっしゃぁ、やっと俺の出番のようだなっ!」
久し振りに先生はご指名を受けて口を開いた。
ほんとに、あの先生、いたんだ…。今の今まで半分眠ってたみたいだけど…。
きっとあの先生は大勢での会話が苦手な人なんだな。一対一での会話の引きだしは豊富だけど、相手が二人以上になると何を話していいのか分からなくな…、って、山本(先生)は大勢の前で話をする教員という職業じゃん。それはないか。
あ、じゃあ、生徒の自主性を重んじて…
「狙いはピョコンとなってる佐渡島だ。俺の実家があるし、知ってるか?金でんだぜ?ビバ☆金持ち!」
それもないか。
「ほ、本当か!?」
そんな名産に何故か異常に反応する楓。
「あ、私の家に空き部屋客間いっぱいあるわよ。よかったら、私の家に泊まりにくれば?」
そんな山本(先生)の発言を水泡に帰すように和水が声をあげた。
「ま、マジか!?」
何故か誰よりも大きな反応を見せる楓。なんでだよ。
さっきよりも激しい反応だな、おい。
「和水の家か…、それはいい、が、ほら、ご両親に許可とらずにそういうの決めるの良くないしさ」
決して視線を合わせないように部長は汗を垂らしながら言う。
「家なら大丈夫よ。いつでもお友達歓迎って母さん言ってたし」
「う、でも、ほら、」
舌足らずのように詰まりながら言葉を紡いでいた部長だが、そこで言葉を切り、意を決したように呟いた。
「…ち、近場すぎや、しないかな」
やっと認めたよ。
「それなら部長、多数決しましょうよ」
「…多数決?」
出来るだけ口元のニヤけを隠して提案する。
部長は少し悩むように斜め上を見ると、すぐに口角を上げて、笑いながら俺の提案をのんだ。
俺だってバカじゃない。前回の教訓を活かし勝ち目がある時しか勝負はしないぜ。みんなの反応を見る限りこれは…
「ふ、ふふ、いいぞ!雨音、議題は合宿先は『和水ん家』でいいか、だな!」
「えぇ、じゃあ、聞いてみましょうよ。じゃ、まずこれでいい人は手を上げてくれ。せーの…」
ざっ
みーんな、手を上げてくれた。
どうやら、俺は未来が読めないボンクラじゃなかったようだ。
「ぐっ」
「決まりですね」
和水んち、宿泊計画
賛成6(先生を含む) 反対1。可決。
「な、何故だ。芳生…」
「僕?僕は…、みんなでバカ出来るなら何処でもいいし〜、楽しめればそれでオッケー!」
「私も同じですね、みんなで楽しく天体観測!考えただけでわくわくします!」
「me to。友達を連れてったとなれば母さんも喜んでくれるに違いないわ」
芳生に続いて美影と和水が声を上げた。
部長はその発言に戸惑いながら、次に楓に助けを求めるように視線を送る。
「俺は、…俺も、俺も同じで、す。ね、はい」楓はなんだか後ろめたそうに部長に言った。
あー、さてはあいつ、金持ちの和水の家を見学したいのか。
「せ、先生…」
最後に藁に縋りつくように、部長は先生に助けを求めた。
だけど、先生は…、
「あ〜、どっちでもいいんでね?俺としては安上がりの方がオススメだがな」
と、意思を無下に扱うのだった。
その発言に部長は、空気を求める金魚のようにパクパクと中途半端に口を動かした。
「な、なによ。…き、貴様らなんてっ、豆腐の角に頭ぶつけて髪の毛グチョグチョになっちゃえー」
部長は平和な捨てセリフを吐いて部室からかけていった。
「あ。あの人、職務放棄したぞ」
残された俺たちはポカーンと扉も閉めずに出て行った背中を見送るだけだった。
なにあの山本(先生)みたいな帰宅方法。山本(先生)以外でそんな方法使う人がいるとは思わなかったよ。
でも、ま、ともかくこれでしばらくは合宿の話はしなくてすみそうだな。
そりゃ、俺だってみんなと旅行くらいしたいけど、…合宿となると着ていく服とか決めるのがダルいからな、ましてや美影も一緒となるといやがおうにも気合いを入れざるをえない。
…美影と一泊か…。
それは修学旅行の時も同じだったけど、あの時は男子と女子は間違いがないように完璧に別行動をとらされてたからな、別になんのロマンス(?)も無かったし、行き帰りのバスくらいしかゆっくりと会話する場所が無かったから、ぶっちゃけ俺の心は満たされることは無かった。斉藤とかとはっちゃけんのはそれなりに楽しかったけどね。
「はぁ、やれやれ。俺も帰るぞ」
「あ、私もみたいテレビあるんで帰りますね」
楓と美影が部長の後に続くようにドアに向って歩きだしたので、俺は思わず時計を見た。
時計の針は18時手前をさしている。
今、学校を出たら丁度快速の電車に乗れて時間が短縮できるな。
「あ、俺も帰るよ」
「ふーん、みんな帰るなら僕も帰ろっと」
続いて俺と芳生も立ち上がる。
「あ、みんなもう帰るのー?」
和水が机にだらんとしながら唇を尖らせて言った。
「だってもうこんな時間だぜ?」
俺は立ち止まって、時計を指差し和水に答える。
和水はチラリと俺の指の先を追ったが、すぐに俺の顔を見直し、腕を枕にグルリと体ごとこちらに顔を向けた。
「えー、もうちょっとくらいいいじゃない」
なんだ?あいつ今日はやけに構ってちゃんだな、なんかあんのか?
いつもの和水なら、元気いっぱいに『それじゃね』とかいって、スキップともとれる変な駆け足でロッカーに向うのに。
「和水どうしたの?」
俺の前にいた芳生が、首を傾げながら和水に尋ねた。
「別にぃ、ただ今日は母さんが出かけてるから暇なのよ」
「はっはっは、心配するな!水道橋!暇潰しの相手ならこの山本が引き受けようじゃな…」
「帰るわ」
すくっ、と急に態度を変えて立ち上がる和水。
その様子をもの寂しげに山本(先生)は眺めていたが、やがて、静かに立ち上がり、俺と芳生の横をすり抜けるように廊下に出ていった。
「さようなら」
「さよなら〜」
俺たちが彼に向って別れの挨拶をかけると先生はこちらを振り替える事なく右手を上げてそれをふる。
やべぇ、少し哀愁漂う男の背中がかっこいいって思っちまった。
「行こうよ、雨音。和水も結局帰るんでしょ?」
「うーん、そうね。どうせ一人なら早く帰って盛林とでももス○ブラでもやるわ」
「盛林?」
「私ん家の家政婦みたいなもんよ。もちキャラがプリンなの」
「ふーん、ま、早く電気消してよ。いつまで経っても帰られやしない」
「あ、ごめんなさい。よっこいしょ」
オバサンくさい掛け声をあげながら和水は立ち上がって、電気のスイッチをパチンと落とした。
途端部室は当たり前だけど暗くなり、廊下の蛍光灯と外の街灯だけが中を照らす照明になった。
「さ、行こうぜ」
こんなとこに長居は無用だ。
地図とかダーツは部長が片付けてくれるだろう。
俺たちは全員がロッカーに帰宅仕度を整えるため歩き始めた。
部長と楓と美影はもう行ってしまっただろうか。
いつもは待っててくれるのだけど。