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第9話


夕焼けのカラスがギャーギャー喧しく鳴いている。


「今日君達に集まってもらったのは他でもない」


この間と同じフレーズを部長はのたまう。

…前回の何とも言えない記憶がよみがえって来た。

俺はたしか、…虹色だっけ?


うわっ、恥ずかし、思い出しただけでも顔が赤くなって来るぜ。


「そろそろ我々にも二つ名が必要だと思ってな」


開口一番部長はそんな事を言った。

二つ名?


「また、そんな…下らない事言って…」


部長の提案に思わず正直に心の内を吐いてしまった。


「下らなくなんかないぞ!」


拳をグッと握って部長は言い放つ。


いや下らねぇじゃん。


そんなに気合いが入ってるところ悪いが、そもそもあだ名の付け合いなんて出会って一週間くらいで決めるもんであって、今更つけるのは気恥ずかしい上に無意味じゃないか。


ん?

…二つ名ってのはあだ名で解釈していいのか?


てか、そもそも二つ名って…


「二つ名ってなんですか?」


部長の激昂に被って、美影が俺も思っていた質問をしてくれた。


「おぉ、よくぞ聞いてくれたな、美影。そう二つ名とは!」


クルリとスカートをひるがえし、きれいに美影の方に回った部長は人差し指を突き立てて偉そうに先生のように説明し始める。


聞かぬは一瞬の恥とはいうが、部長に教えをこうのは俺のプライドが許さないため、美影には感謝しよう。


「いいか、二つ名とは、その人物を表す座右の銘みたいなやつだ」


「座右の銘…それというと…アスリートにマスコミが適当につける名前のみたいな?」


「ちょっと違うが…、まぁ、そんなもんだろう」


「なるほど…。なんだか、面白そうですね!それでその名前どうやって決めるんですか、投票とか?」


「うむ、今日は私が君達に素晴らしき新なる名前を与えようと思ってな」


「え!?新なる名前…」


「我ながら素晴らしい名前ばかり思いついたのだ。なぁに、心配するな、二つ名とはその本人を表す称号のようなものだからな。重荷になる事はありゃせんよ」


「…部長さんが、命名…」


ん?今までけっこう楽しそうに話を聞いていた美影は部長が命名すると聞いた瞬間なんだか考えこむように下をうつむいた。


一体どうしたのだろうか。

なにかあだ名に嫌な思い出でもあるとかかな。


「まずは私のから聞いてもらおうか…」


「部長の二つ名?なにかしら、気になるわね…」


和水が瞳を輝かせて言った。お前、前回の楓の冷めた言葉を思い出せばそんなにわくわくできるはずないと思うのだが…。


「あぁ、心して聞けよ私の二つ名は…」


部長がニヤリと笑いながら発表を開始しようとしている。

心を決める必要は無いとは思うが、男子たるもの称号に憧れを抱くのは押さえきれない感情の一つなのだ。よって一応男子である俺も悔しいがわくわくせずにはいられ…


「"暗黒の刹那【エンゼル・フォール】"だ」


「だ、だせぇ」


「な!なんだと!雨音!このかっこいい二つ名が羨ましいからって、けなすのはやめたまえ!」


よくよく考えたら二つ名なんてものは他人がつけるものであって、当の本人がつける事になったら、このようにダサいとしか言えない名前になってしまうのだ。


「確認しますけど"暗黒の刹那"と書いて"エンゼル・フォール"と読むんですよね?」


「おぉ、そうだ。かっこいいいいではないか!」


「だせぇ!」


「な!なんだと失礼な!そんなに言うんだったらお前には二つ名を与えんぞ!」


「こっちから願い下げです。大体なんで天使なんですか…」


「私ほど天使みたいな人材はいないじゃないか。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。まさに私!」


「えー、なに?立てば疫病、座れば悪魔、歩く姿タヒチのゾンビ?」


黙ってれば、芍薬とかかもしれませんけどね。

おっと、思ってても部長を褒めるようなセリフは一切吐きませんよ。


「きっさまぁー!」


お怒りになる天使様。

うん、やっぱり顔立ちだけは天使様だな。もっとも墜天使だけど。


「久々にトサカに来たぞ!来い雨音!私を怒らせた事後悔させてやる」


やべ、少し調子に乗り過ぎた。


「ぶ、部長!」


「ん?」


芳生が和水みたいに瞳を輝かせている。


おいおい、まさかお前もかよ…


「僕にも二つ名を!」


芳生、お前…、少しは学ぼうよ。前回の教訓は部長に乗っちゃダメ、だぜ?

ま、芳生のお陰で部長の興味がそっちに移ってくれたので俺は助かったけど。


「む、芳生か、…少しまて、えーと」


考えて来たんじゃなくて、いま考えてるのかよ。


「おし、決めた、芳生、お前の二つ名は…、天真爛漫【トラブルメーカー】…どうかな?」


なるほどトラブルメーカーか…、的をえてるといえばその通りだが、…芳生の二つ名の以前にアンタの二つ名だよ…。


「ローカル番組のタイトルみたいだな」


楓がぼそりと呟いた。

全く持って俺もそう思うが、芳生にとっては違うらしい。


「か、かっこいいよ!部長!四字熟語にカタカナ語!最高にかっこいい組み合わせだ!」


「あっはっは!そうだろう、やはり私にはネーミングセンスというのが有り余っとるのかもしれんな」


「部長!私にも」


和水よ…、お前もか。


そうだな、俺が和水につけるとしたら、天然すけこまし女【ブルジョワ】なんてどうだろうか?


「ん、和水か、…んーと、ちょっと待てよ…」


「は、はやく!部長!わくわくが止まらないわ!」


「おし、決めた!お前の二つ名は…」


天然すけこまし、天然すけこまし、天然すけこまし…


「ヤマトナデシコ七変化【フラッパー】!」


…小泉今○子?

いや、少女漫画の方か…。


「私がヤマトナデシコ?」


違う、絶対違う。お前が大和撫子だったら女子柔道部員の皆さんの方がそれらしい。

それに大和撫子は日本人女性の鑑の事をいうのだから、外国旅行によく行くの貴様の事じゃ断じてない。


…俺なんて生まれて16年、一回も日本出た事ないんだぞ。くそ!切れろ和水のパスポート!


「いい!実にいい!なんてハイセンスなのかしら!」


蓮っ葉の間違いだろ…一人ナデシコジャパンが。


「ハッハッハ!やはり和水はわかってるな。さて、次は楓のやつをつけるか…」


「…」


楓は何も言わず、本を読んでいる。

そういえばさっきから楓全然喋ってないな。

本が面白いからだろうか。


「よし、決めた!」


「おい楓、ご指名だぞ」


夢中になっている楓に、せめて話だけでも聞くようにと呼び掛けるが、それでも彼は本から目線を外そうとしなかった。


「楓、お前の二つ名は…」


「ん?雨音なんか言ったか?」


「俺じゃなくて向こうだよ」


ワンテンポ遅れて反応し始めた楓に、今度こそ部長の命名式に付き合うように、俺自身半ばあきれつつ言う。


「向こう?」


「ああ無情【レ・ミゼラブル】だ!」


「…は?」


「か、かっこいい〜」


芳生と和水が、おっと、天真爛漫【トラブルメーカー】とヤマトナデシコ七変化【フラッパー】が羨ましそうに声をあげた。


お前ら、騙されるなよ、作品の丸パクリだぞ。


「ああ無情?俺読んだ事ないですよ。たしか、あれでしたっけ、神父がかっこいいやつ?」


「知るか!だが、お前は今日から、ああ無情【レ・ミゼラブル】なのだ」


「…」

楓は無言で目を細めながら、部長を指差して俺の方を向いて言った。


「…おい、雨音…、部長にいい医者紹介してやれ」


「脳外科になるのか、それとも精神科?」


「意外に泌尿科とか…」


「えぇい、黙れ黙れ!人をとんちんかんみたいな言い方はやめないか!」


荒ぶる部長を見る限り、二つ名をつけるという行為にまだ飽きがきていないようだ。


「さて、次は美影のやつのを…」


「ま、待って下さい!」



飄々と意味不明な命名を次々としていった部長だが美影の声で始めてその動きを止めた。


なんだか、さっきより青ざめている気がする…、どうしたのだろうか…。


部長を止めたという事はさすがの美影も訳の分からないあだ名をつけられるのを恐れているのだろう。


「なんだ?」


「私の二つ名の前に雨音さんのやつを決めた方が…」


でも、人を生け贄にするのはやめてほしい。


「そうだな…、同じ部の仲間だしな…、さっきはああ言ったが特別に許してやるか。するてぇと…」


「美影…」


抗議の意味を込めて名前を呼びながら見つめる。

彼女は俺の視線に込められた意味を読み取ってくれたみたいだ。


「う〜、ごめんなさい、雨音さん。でも、私、見ちゃたんですもん…」


こそこそ話をするように耳元で会話しあう。


あ、耳朶に息が…。


「昨日の夕方…、部長さんが紙に暗黒の刹那と、…私の二つ名を書いていたのを…」


「美影の二つ名?それって…」


あ、やばい、それより美影の顔が隣りにあってしかも息がかかる距離でドアップ…、お、俺のニキビとか見られてないよな。


「はい、白い紙に『私→暗黒の刹那(エンゼル・フォール)美影→…』その時は意味が分からなかったんですけど、今になっ…」


「決めた!雨音お前の二つ名は…」


部長の声に美影の声がかき消された。


おっと、俺の二つ名か…、

ああ言ったはいいが、なかなか楽しみではある。

部長のネーミングセンスは微妙だが、どんなものをくれるのか気になるのは男のサガなのだ。

俺としてはかっこいい系がいい。部長のように刹那とか滅多に使わない単語が入ってたりすると嬉しかったりする。


どんなに斜に構えてても、俺は何時でもピュアハート。脳年齢は14歳の中学二年生ですから。


「雨音、お前の二つ名は…」


「はい」


わくわく。


「熱帯雨林【レインフォレスト】」

熱帯雨林【レインフォレスト】…。中学二年生くらいで地球温暖化をテーマにした英文に出て来るような言葉じゃないすか!


さては部長…


「…名前をつけるの面倒になったんですか?」


「なっ、バカな事をいうな!雨音だから雨、熱帯雨林とかそんな単調な事は考えて…」


「考えたんだ…。残念ですよ。部長は何事に関しても真剣な人だと思っていたのに…」


そんなどうでもいい俺の訴えが部長に届いたらしい。


「むー、分かったよ、考えなおすか…。えーと」


ふぅ、良かった良かった。一回も行った事がないところの名前付けられてもね。


「決めたぞ」


三秒くらい考えるそぶりをしただけで部長はすぐに顔をあげた。


「早いですね。なんですか?今度こそちゃんとしたの下さいよ」


わくわく(二回目)。


「げろしゃぶ【フーミン】!」


「却下ッ!」


「なにぃ!私が一緒懸命に考えた名前を…」


「また丸パクリじゃないですか!」


考えたとか言ってるがオリジナリティーってもんがないし、俺の名前を決めるのが面倒くさいという気持ちがだけがヒシヒシと伝わってくるネーミングだ。

…それってけっこう本人にしてみれば悲しい事なんだぞ。


「…分かった…、もう一つの候補をやろう…」


やけに聞き分けがいいな。


「こういうのはどうだ?」


「なんですか?」


あまり期待はしてないけど…


「内定取れ太【リクルート】!」


「きゃーっかぁ!またパクってる!」


しかも選択が全部ギャグ漫画ってどうよ。


「っち、無駄に漫画ばっかり読みやがって…、勉強しろ、勉強」


自分の非を認めると共に攻撃するのやめて下さい。


「否定できませんけど…。もういいです。熱帯雨林【レインフォレスト】で」


嫌々だけど納得してやるか。


「いいや、そこまで言われたら意地でも気に入る名前をくれてやる。星の白金【スター・プラチナ】!」


「パクリは論外です!」


「白の賢人【ホワイト・ゴレイヌ】!」


「…マイナーキャラならバレないとか思ってるんじゃないでしょうね?」


「黒の賢人【ブラックゴレイヌ】!」


「前述の通り!」


「っう…。なかなか感の鋭い…」


「もういいですって」


「だからぁ、私が納得出来ないのだよ。これはどうだ?死線の蒼【デッドブルー】。うおっ、カッコいい!これはいいじゃないか!」


「ライトノベルならバレないとでも…?」


「第六天魔王【ノブナガ】!東照大権現【イエヤス】!猿【ヒデヨシ】!」


「天下人?最早、俺じゃないし…」


しかも秀吉酷すぎるだろ…

「ぬぅあああ!だったら、なにがいいんだよ!アレもダメ、コレもダメ.だったらどうすりゃいいんだぁ」


「かっこいいの下さいよ!」


「…」


「部長?」


「…おしっ、熱帯雨林【レインフォレスト】で」


「唯一オリジナルでしたからね」


というか、俺にはカッコいいのを与えられないと判断したという事ですか。

…なんか、それ、…凄いショックです。


「さて、美影…、待たせたな」


「あの…やっぱり二つ名つけるんですか…?」


「当たり前だ!」


部長は俺の二つ名との決着がついたと判断するやいなや、即刻美影の方を向いて言った。


喜々としている部長の一方、美影はこの短時間で随分とげっそりした気がする。


どうしたんだろう。


「む?しかし、何を嫌がっているのだ?いいか、お前の二つ名はとても素晴らしいのだぞ、聞いて驚くなよ。その名も…」


部長が美影に新なる名前を付けようとした瞬間だった。


「ちょっと待ったぁっ!」


和水が大きく声をあげた。


乱入。


その二文字が俺の頭を巡った。また、引っ掻き回しに来たわけか。


「和水の二つ名は私が決めたいわ!」


「っ!和水さん…」


和水の提案に、美影はかなり嬉しそうに目をキラキラさせながら諦めたように下げていた顔をあげた。


一縷の希望みたいな感じだ。よっぽど部長のネーミングが嫌だったなのだろうか。


「な、なにを言っている!?ダメだぞ和水!美影は私が付けたんだから…」


「ふふ、部長。老賢人の幕は降り…よ。古い風は早々に吹き飛びなさい!私が新命名大臣になる!」


「っく、和水!だったら雨音に名前を付けてみろ!命名大臣を名乗るのだったらそれくらいできんといけないぞ」


「あ、雨音…、そうね…、雨音ね…」


「俺の意思はないんですか?」


まるで人に名前をつけるのが試験みたいな言い方やめて下さい。


確かに俺には特筆すべき特徴がないのは自負していますが、それでもあだ名も付けられないくらい無個性だと思うとこんな日陰者でも涙がでちゃうんですから。


そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、和水は何かを思い付いたらしい。


「決めたわよ!雨音、あんたの名前は…」


「なにさ?」


「一ヵ月後の惨劇【シーモンキー】!」


「は?」


シーモンキー?あのちっちゃいエビのこと?


「なんで、俺がシーモンキーなんだよ?一か月後の惨劇ってなに」


「いい?私は経験ないけど雨音を見てるとヒシヒシと感じてくるの」

感じるって…何を。オーラとか?


「興味津々で買ってもらった魔法のペットを育てるの飽きて全滅させた小学生の香りをねッ!」


「!!」


「どう?」


「そ、そんな経験、…俺はねぇよ…」


「本当に?夏休みの宿題である朝顔の観察の朝顔に水あげ過ぎて枯らしたとかは?」


なんで、


「ペットの掃除を忘れて異臭を放つようにした事は?」


なんで俺の小学生時代の事を知ってるんだよ!お前は!


「石の下の団子虫を…ん?」


「…」


「無言になるなんて怪しいわね」


「部長…」


「な、なんだ雨音?」


「命名対決は和水の勝ちです…」


コレ以上部長と和水に俺の心が折られる前に、俺のほうからギブアップさせてもらおう。


「よしっ!私の勝ちという事は、美影の命名権は私がゲットということね」


「悔しいがそういうになるな」


和水と部長の決着はなんだか知らんがついたらしい。

真っ白な灰になった俺と違って美影はなんだか嬉しそうだ。美影が昨日見たという部長のネーミングがどんなんだったのか気になってきたが、部長にそれを聞くと彼女に怒られそうなので、とりあえず今は自重しよう。


「はーい、それでは、美影の二つ名を発表したいと思います!」


「は、はい!」


美影、あくまでつけるのは和水、あまり期待しないが賢明だと思うぜ。


「あなたの名前は…」


「はい!」


美影は威勢よく返事をするが普段の和水を思い起こせばそんな期待は出来ないはずだ。


そんな俺の不安とは裏腹に和水は美影の二つ名を発表した。


「乳【おっぱい】に決まりました!ヒュー、パチパチ」


「…は?」


「ぶっ!」


その場にいる男子が全員吹き出した。


「な、なんですか!それは!?」


「聞いた通りの意味だけどなにか問題でもある?」


美影の問い掛けに和水は眉一つ動かさずに答えた。

ここにきていつも見せない冷静さを見せなくていい!

問題は山積みだよ!


「なんで私がそんな二つ名なんですか!?」


「見たまんまじゃない。羨ましい…、あれからウォーキング始めたけど効果でないし…」


和水は目を細めて美影の胸を指さしながら、溜め息をついた。切実ですね。


和水の言うあれからというのは、文化祭前のあの時の事だな、多分。


「さっっっすが、和水だな!」


そんな気まずい雰囲気をはじき飛ばすが如く、賞賛の声が上がった。この場で女性二人の間に割って入れるのは、同じ女性である柿沢秤部長以外に他ならない。


なお、こういう場において男子は木偶の坊になりはてる。

ならない男子は思慮分別がないバカな野郎だと俺は思う。

ヘタレと言われようとこんな話題に口出しできるわけないでしょ。


「ぶ、部長さん?」


「よーし、私も発表させてもらおう!私が考えた美影の二つ名は…」


「部長さん!や、やめてくだ…」


非情なり部長。

あそこまで嫌がっていた美影を露ほど気にせず彼女の口を明快に動くのであった。

和水に触発されたのではないこれは元々彼女の予定にプログラミングされていた事象なのだ。


「慇懃な巨乳【ホルスタイン】だからな!」


「部長さん…」


これは、また、…酷い名前だな…。なんだか熱帯雨林がマシに思えてきた。


「着目点が和水と私は同じだったというわけだ」


「なんで言うんですか…」


美影のほっぺたがみるみる赤くなっていった。


えーと、ドンマイ。

励ましを心の中でしか言えないけれど、心の底からそう思うよ。


「さて、和水の"乳【おっぱい】"が美影の二つ名になるわけだが、改めてみんなで名乗り合おうではないか!」


「いいわね!部長!それじゃぁ、私から行くわよ!」


お前らだけでやれよ。


「ひとよんでヤマトナデシコ七変化、フラッパー!和水!」


ポーズもつけてるし、羞恥心がないのか、お前には。


「じゃあ、僕も!」


大人しくなっていた芳生が久方振りに口を開いた。

お前…、よくそんなに元気よく出来るな…。

まったく、そういうところは尊敬するぜ。


「天真爛漫、トラブルメーカー!土宮芳生とは僕の事よ!」



「娯楽ラブ部長、柿沢秤!又名を暗黒の刹那、エンゼルゥゥゥ」


ためがながい。


「フォォォォル!」


テンポよく和水→芳生→部長と続いた自己紹介も、残る三人で途絶えるのだった。


「こ、こら!続けないか!楓!」


部長がぼそぼそと楓を指名した。声を細めても俺たち以外誰も聞いちゃいないから安心して下さい。


楓はやれやれといった感じで本を閉じ、部長の言う通りに行動するのであった。


こういうとき割りと律義だよな、お前。


「ああ無情、レ・ミゼラブル。五十崎楓。…次、雨音な」


勝手に次に俺を指名して楓は本の世界に戻っていった。


はぁ


「熱帯雨林…、じゃなかった。えっと、…一か月後の惨劇、だっけ?それでたしか…、シーモンキー。表雨音です。…美影?」


最後に残った美影を指名する。


その際にチラリと視界に捉えたが、彼女は何とも言えぬ表情で、あえて言葉を選ぶならば、

魂の抜け殻といった様子だった。


どうやら、赤面がピークに達するとああなるらしい。


「あ…、はい」


美影は覇気無く返事した。

どうやらまだギリギリ大丈夫らしい。


「乳、こと…、お、おっぱい…、裏美影です。…どうも」


言い切った瞬間、再び彼女の顔面は赤くなっていった。

気のせいか湯気が耳から出ている。



大丈夫!


美影…、安心していいよ、和水も部長も、明日になったら忘れているはずだから…。




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