第8話
面倒くさい事は早めにしないと世の中乗り切れない気がします。
夕焼けのカラスがギャーギャー喧しく鳴いている。
「今日君達に集まってもらったのは他でもない」
いつも用もないのに集まってますけど、と心の中で突込んだが、それにしても、今日の部長はいつもに増して無駄に真剣な顔だ。
一体どうしたのだろう。
「君達は学園の平和を守る戦隊として選ばれたのだよ!」
「…」
なに?ボケたの?
部長の真剣なんていつもこんなもんだ。
それでもみんな口を閉じて部長を見ている。
空気がシーンと鳴いた気がした。
おおッ!これが空気が冷めた瞬間って奴ですか!?手塚治虫先生!
「別にただ言ってみただけだ…」
しおらしく部長が言った。そんな事があるんだ。
「どういう事…ッ?」
和水が震える声で問いた。
まぁ、あの和水もさすがに呆れているということ…
「私がヒーローって事!?」
な、わけないか。
「う、うむ。そうだ!さすが和水は話が早くていいな!そんなお前にはピンクの称号を与えよう!」
火に油を注ぐなよ…、和水…。
「ピンク!?モモレンジャーね!やった!私の立ち位置はヒロインと言っても過言じゃないところね!」
「あぁ!そうだ!そして私がレッド!異存はないな!?」
そんなのないから早く話終わらせてよ…。
てか、真面目に聞いてるの俺くらいか?
楓は机に突っ伏して寝てるし、美影は…、何とも言えぬ表情だな。和水はあんなんで、芳生…
「ちょっと待ったァー!」
も、あんなんか…。
今まで俺同様黙って事の動向を伺っていた芳生が急に声をあげた。
いや、まて、落ち着け。早合点は良くない、芳生だってもう高校生なんだ。そんな下らない遊びに付き合う年齢じゃない事くらい分かってるはずだ。つまり、こいつは部長の意味がわからないの事を止めるために声をあげたのかもしれない、だが、今の部長には何言ったって無駄だと思うから気をつけろよ!ほうせ…
「僕がレッドだ!」
あ、やっぱそっちか。
ですよね〜。
「な、なんだと芳生!?貴様、私に逆らうのか?」
「リーダーは僕がやりたいです!!部長!」
とてもはっきりしてるのはいいが、とても下らないという事に気付いてくれ。
「黙れ!リーダーは普通一番偉い奴がやるのが筋ってやつだろう!年功序列、品格、部長。すべてにおいて私じゃないか!お前は黙ってイエローだ!」
「なんでですか!僕は別に肥ってないしカレーよりハヤシライスのほうが好きですもん」
ちなみにハヤシライスはデミグラスソースをご飯にかけたもんで、ようはビーフシチューぶっかけたようなもんらしい。という事を最近知った。
カレーはスパイスをうんたらかんたら調合してうんたらかんたら、個人的感覚としてなんかこっちのが大変そう。
「えーい、分かった!なら、かなり譲歩してシルバーなんてどうだ?」
「し、シルバー!?そ、それって…」
「悪にただ一人立ち向かう孤独な戦士、憎まれ口なニヒルな奴だがなんだかんだでレッドを助けてくれる頼もしい奴だ」
「かっ、かっこいい!」
えっー、マジでー?
今時シルバーなんて流行らないよー、シルバーとか老人用みたいじゃん。
「ぶ、部長、私も!私もシルバーがいいわ!」
「ダメだ、和水はピンクで決定している、大人しくヒロインを演じてくれ」
「うわぁぁん、羨ましいぃ!」
でも5人構成の戦隊もので1人2人新加入してくるのは確かかだなぁ…。
セーラー○ーンだって天王星とか海王星とか今はなき冥王星とか入ってたし、プリ○ュアだって見てないけどなんか人数増えてたし…、あれはマンネリズムの脱却でもはかってるのか?
「ハッハッハッ!僕は羽炉シルバー!孤独な一匹狼さ!」
「お〜、なかなかかっこいいなぁ!仮面ラ○ダーみたいなダークヒーローのようだぞ!」
仮面ラ○ダーってダークヒーローなの?
いや、そんな事より、やんややんやとあまりはやし立てないで下さいよ部長。あんまり持ち上げるとウチの子すぐ調子乗るんだから…
「ん?でも部長、仮面ラ○ダーってバッタの怪人ですよね、だったら変身じゃなくて変態じゃないの?昆虫が形態変化する時は変身じゃなくて変態っていうから、僕が変身する時は『変態ッ!』って叫ばないとダメだよね?」
「それは仮面ラ○ダーの場合だから関係ないだろ。我々はレンジャーだもん」
「だけどヒーローたるものそういう事はしっかりしとかないと…」
「あ〜、もう分かったよ変態な変態…、って、まて、それはおかしいだろ?『助けてぇ、ヒーロー』『よしっ、任せろ、変態!』…これじゃぁ、どっちが悪役だかわからないじゃないか」
おかしいのはお前らの脳みそだよ…。
一回シ○ッカーに改造されたほうがまともになるんじゃねぇの。
「いや、でも普通ヒーローは正体隠して変身するんだから関係ないよ」
「む、それは確かに…、ヒーローたるもの正体は隠さないとな。スパイ○ーマン然り、スー○ーマン然り、タイガーマ○ク然り」
アメコミのヒーローにさり気日本のフィクションプロレスラーが混じってんぞオイ。
「よし分かった!芳生の意見を採用し、我々は闇に隠れて生きる!」
それじゃ妖怪人間じゃないスか…
「リスペクトすべきはカクレ○ジャーって事ですね!」
おお、懐かしい、ケイン・○スギがブラックのやつ。てか、それは彼らが忍者戦隊だからであって人目を避けてるっとのとはちょっと違うんじゃ…、…って、み、美影ェェェェェ!?
おま、お前、何言ってんのぉ!?
「おぉ、美影。フフ、行ける口かい?」
「ええ、お兄ちゃんがよく見ていたので。私はさ○う珠緒さんが出ていた超力戦隊オーレ○ジャーが特に好きです」
み、み、美影がぷんぷんビーム…。
「ようし、では美影は…何色にしようか?」
「そうですね、鶴姫もすきなんでホワイトで」
「オッケー!美影はホワイトっと、…って、随分色モノな戦隊だな、おい。赤に銀に桃に白…、なんだコレ?コレでヒーローでいいのだろうか」
「最近のヒーローは慣習に従ってちゃダメだと思うわ!」
和水がカッコいい事言うと…、
「そうですよ!部長さん!古い仕来たりなんて私たちが敵と一緒に吹っ飛ばしちゃいましょう!」
美影もなぜかノリノリで、
「僕はシルバーだから正規メンバーには入れないでよ!あくまで一対一がもっとーなヒーローなんだから。大体ヒーローのくせして徒党くんで一体の敵を袋叩きにするのは良くないよ!」
芳生はわけ分からない理屈を語りだすし、
「雑魚敵を入れたら敵の方が多いじゃないか、それに立ち向かって蹴散らしてるし」
部長の意見は正しいです。
「コレでメンバーが4人になったな…、あと1人はほしいところだ。さて、誰にするか…」
え?
「5人じゃないと示しがつかんしな」
俺は?
話の流れ的に俺じゃないの?
「うちのクラスの河本君なんてどうかしら、将来自衛隊のレンジャー部隊に勤めたいって言ってたわ!」
ハハハ、和水、忘れてるよ。
そんなイレギュラーな野郎よりここにレギュラーな男がいるだろ?
「いや、まて、私としてはやはりコメディ要素を入れたいのでイエローは外せないと思うんだ、だからちょっと太りぎしな私のクラスの小田原君を推す」
部長、俺。俺がいるって。
「イエローとか僕たちの軍団には普通すぎるよ。紫とかそういう変わった色を入れようよ。んでイロモノ戦隊羽炉レンジャーなんてどう?」
ほ、芳生。雨音、雨音が、あいてますよー。
「待って下さい。メンバーよりも大切な事があるじゃないですか」
おお、美影だけは気にかけてくれると思ってたよ!同じ部活の仲間をハブは良くないよね!
いやぁ、ほんとは気が進まないけど美影の頼みじゃ、しょうがないなぁ、俺がブルーで加入してあげま…
「学園の平和を守るというのが当初の目的であって、このままじゃ、私たちは立ち向かうべき明確な悪が存在しないわけですよ。不良とかいれば別ですけど、幸い羽炉学園にはそんな生徒いませんよ。悪をのすという大義名文がなきゃヒーローは動けませんよ。そこのところどうするんです、部長?」
ハハ、ちょっと違うかな?
だけど美影、いいところに気が付いた!そうだよ!悪役なら俺、表雨音が引き受けるさ!ヒーローよりも向いてると思います!俺自身!
「そうだな、悪か…、それじゃ、そこでいびきかいて寝ている楓を巨悪にしよう。大魔人イカザキーだ」
「それはいいわね!ちょっと冷めてるところが悪役っぽいわ」
か、楓が悪?
ちょっと!俺の方が向いてますって、ぶ、
「部長!」
もう辛抱たまらん。ついに話かけちまった。
「む、なんだ雨音?今こっちは設定作りに忙しいんだ。下らない話なら後でにしてくれないか?」
そんな卑下した言い方やめて下さい…。
「く、下らなくなんかないですよ!」
「なんだ?こっちは新メンバーの問題で忙しいんだぞ」
「その新メンバー、俺がなりますよ!」
一人仲間ハズレはよしてくれ!
立候補しますから!
「…」
「…」
…なんで無言になるんですか?
そう思った矢先部長が口を開いた。
「…何色だ?」
「え?」
「お前は何色だ?」
おれの色?
青と言いたいところだが、芳生の言っていたイロモノにしないとな…
と、なると、俺は…
「…レインボー」
「…」
「rainbow」
反応が薄いのでネイティブな発音で言い直してみました。
「虹色か…」
「はぃ…」
「いいじゃないかぁ!レインボー!カッコいいぞ!こいつは採用だ!」
「あ、ありがとうございます!」
やった!!俺もメンバーインだぜ!
「おめでと雨音!」
「レインボー…、ピンクの私がますます浮いてきたわ…」
「一人で7色なんてすごいです!」
ハッハッハ!世界が俺を祝福してるかのようだぜ!
「う〜ん」
「「!」」
楓がエ○タークのような呻き声をあげた。
これは…、つまり…
「みんな!注意しろ!大魔人が覚醒するぞ!」
部長が声をあげた。
大魔人イカザキーが深き眠りから醒め、自身を眠りという牢獄に封じた羽炉学園の先代ヒーローを恨み、世界の平和を脅かすということか!
そうはさせるか!現代のスーパーヒーローが食い止める!
「みんな!変態だッ!」
「「はい!」」
イカザキーは唸りながら頭をあげた!
俺たちは部長の一喝で思い思いの掛け声をあげる!
「桃に頬をスリスリすればホッペがかぶれる!甘い桃にはトゲがあるのよ!ナゴミンピンクッ!」
「アタックを使ったような驚きの白さ!柔らかさ!最早これは柔軟剤じゃない、白い着色料!純白な思いを心に秘めて、ホワイト美影!」
「誰がよんだか孤高のシロガネ。朧月夜にかかる叢雲、クサビカタビラがあなたを守る、シルバーホーセー」
「雨とともに虹を超えて!オーバー・ザ・レインボー、アマネ!」
「そして私!赤き情熱、心に抱き、真っ赤な炎があなたを焦がす。燃え盛る七つの海で悪をこの手でたたっ切る!リーダー、レッドハカリ!」
静寂が、
「…」
「「…」」
重い。
寝ぼけまなこでボンヤリと俺たちを見たまま、楓は何も言わずに、あげた頭をまた下げ、呟くように言った。
「…なんだ?寝起きドッキリか?」
言うな、楓…。
多分みんなやってて恥ずかしいから…。