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第1話 (1)

始めての携帯小説なんで慣れない事が多々ありますが、生暖かい目で見守ってて下さい。

今回は長いんで何回かに分けますね。

火曜日の朝、彼女が来た。


「裏美影です。よろしくお願いします」


転校生だ。

緊張しているのだろうか、気のせいか声が少し震えているように思える。

肩までのびた黒髪に、整った顔。身長はそれほど高い方でなく、小さくて可愛い。


普段のオレなら一目惚れしていたかもしれない。


しかし、彼女には無理だ。


転校生の彼女よりも、オレに視線が集まってくる。

大半が笑いを堪えていた。

当然と言えば当然だろう。


オレと彼女の名字が…



「そうだな、お前の席は、」


先生まで笑いを堪えている。そんな先生を訝しげな瞳で見ている、わりかし美人な転校生、裏さん。


「表、雨音の隣りね、ブッ」


担任中澤が俺を名指しした。

指名入りまーす、って、くそセンコウが!

いつも読めない空気をこんな時だけ読むんじゃない!


その宣言が火付けとなって教室は笑いの渦に包まれた。


爆笑の渦の中、転校生の裏さんははっと驚いた顔をした後、すぐに顔を真っ赤にし、俯きがちにオレの隣りの空いていた席に無言で座った。


ちくしょう!いつもは何も無い空間だった隣りに一組の机と椅子が余分に設置してあったから不思議に思ってはいたが昨日の内に用意してやがったな。


転校生は耳まで赤くして下を向いている。

彼女には悪いが俺も被害者だ。全くとんだヤツが転校し手来たもんだ、というか、よりにもよって

「表」なんて名字の人がいるクラスに

「裏」という名字の人を転校させるだろうか。なんでわざわざうちのクラスなんだよ。


そういう思いを込めて彼女を睨み付ける。


…柔らかそうなほっぺだな…、とても可愛らしい…


ッ!


危ない危ない!


いや、そもそも間違っているのは彼女じゃない、このクラスの連中だろ。

いきなり右も左も分からない高校に途中入学したばかりなんだぜ、そんな彼女を来て早々笑い者にするのは良くないだろ。


まぁ、簡単に言えばお前ら、オレはともかく転校生にまで迷惑かけるなよ、と。


しばらくの間教室はそんな感じだった。

表と裏。


こんな名字の二人が教室にいるのだ。


珍しいを通り越してある意味凄いとは思う。


だが、こんなところで動物園のパンダの気分を味わうはめにあうとは、人生とはかくも無惨なものなのか…


もう、いいから…


いいから誰か助けてくれ。






「ハン、それはお気の毒様としか言い様がないな、…ふむ、8だ」


放課後、西日が射す部室内でオレの話を聞いていた部長は一言そう言ってからお茶を啜った。


「でも、部長、転校生が不憫でならないッスよ」


実際彼女はあの後、何も喋らずずっと俯いたままだった。休み時間中のお約束、転校生への質問攻めもあまり多くは声をだしてなかったみたいだし。

「だったら、あなたの『表』って名字変えればいいじゃないの。そうね…、テヅルモヅル雨音なんてどうかしら?9よ!」


和水がわけわからんリングネームを発したがスルーする方向で。


「大体どんな確率でそんな名字の二人同じクラスになりますかね…10」


「物凄い確率だろうな、だからこそ笑ってしまう気持ちも分からなくはない、11」


「そうよ、実際に面白いんだから仕方無いじゃないの、あ、部長ダウト!」


「ふ、甘いな」


ダウト。

トランプのカードを裏にして、数字を一つずつ増やしていき、一番に手札を無くした人の勝ち。嘘もありだが、バレたら今まで溜まったカードを引き受けなくてはならない。嘘と宣言しハズレの場合もまたしかりだ。


「ジョーカーだ」


他のトランプゲーム同様、ジョーカーはオールマイティでもある。

ちなみにダウトだったら一回飛ばしというルールを採用中。


「はにゃぁ!溜まりに溜まったマナ(山札)が私のソウル(手札)にィ!」


「お前にこのゲームは向かないっうの、12」


「全く、さっきからお前しかダウトになってないぞ、13」


「むぅ〜、だけど私の手札が増えれば増えるほどアンリミテット・和水・ワークスが完成するという事を忘れないでね!14」


「「…ダウト」」


「しまったァァァ」


トランプは13までしかありません。



そんな感じでダウトは決着がつき、放課後の静まった廊下に『負け犬の遠吠え』が響き渡った。



「部長ちょっといいですか?」


「ん、楓か。なんだ?」


トランプをはさんでの小休止、部員が集まるまで待機との事だが、集まってもやる事はさほど変わらないだろう。


部室のドアを丁寧にノックして入ってきたわが部唯一の常識人、五十崎楓は眉を少ししかめて困っていますと顔に書いてあるみたいだった。



「いや、ちょっと困ってるんですよ」


実際に困ってた。


「何があったんだ?」


「えっと、入部希望者なんですけど、山本先生が出張でいないんで、それでどうすればいいかと…」


ちなみに山本先生とは『娯楽ラブ(娯楽クラブの略)』の顧問の先生、一介の生徒であるオレが言うのもなんだが、…間抜けだ。


「入部希望者?この時期に随分と半端だな…。いいぞ、通せ。入れるか入れないかは私が決める」


うわぁ、出たよ〜、部長の高慢ちき…。


「はぁ。君、入っていいよ」


「失礼します」


部室内に足を踏み入れた入部希望者は頭を下げて、そしてあげた。


「あ」


思わず声が漏れた。肩まで伸びた黒髪に、整った顔!!


美少女転校生、裏美影さん!

「何故、ここに!」


「え!はっ!あ、あなたは、…お、表さん!娯楽ラブの部員さんだったんですか!?」



裏さんが来た!入部希望者として!嬉しいような悲しいような…


「部長、彼女がうちのクラスに転校して来た裏美影さんです」


「ほう、件の…」


「それで入部試験、彼女もやるんですか?」


「もちろんやるぞ。どんな人物であろうとわが部は少数精鋭。使えない足は元よりいらない、そういう事だ裏…みかげ…君。今から入部試験を行うが異存はないかね?」


精鋭もなにも、任務とかやった事もないくせに。


「今からですか?…はい、大丈夫です」


うわぉ、快諾しちゃたよ。

今からでも遅くないから別の部活見学しにいった方がいいと思うけどな。


「その心意気やよし!それではテスト内容を発表しよう!」


部長はやる気満々で大きく息を吸い、大声でマシンガンのように喋りだした。


「どきどき☆エデンの戦士を見つけ出せ!ロデム、ロプロス、ポセイドン!君は真実にたどり着く事が出来るのか!あなたのせいで死体が増える!今、冒険が始まる!空と海と大地と呪われし鉢巻きぃ!」


「は?」


壊れたように見えますが、仕様です。


「なに?聞き逃したのか?全く仕方ないな。もう一度いうぞ、どきどき☆エデンの戦士を…」


「そ、それで何をすればいいんですか?」


裏さんナイスタイミング。

今止めなかったら、もっと長くなって帰ってきたところでしたよ。


「む、今言ったではないか!?それくらい一人で理解出来なくてはいけないぞ」


世界が一巡しても無理だと思うんですけど。


「ま、要約すると、我が娯楽ラ部員3名が鉢巻きを持って逃げるのでそれを集めろと」


最初からそれを言えばいいじゃないですか…。


「それでは、鉢巻き持って逃げる部員3名を発表しよう!」


今まで座っていた部長はスクッと椅子から腰を浮かすと、右手を天井に伸ばし、振り下ろすとともに叫んだ。


「ロデム!五十崎楓!」


「オレですか!?」


「ロプロス!水道橋和水!」


「うに?私も?」


「ポセイドン!土宮芳生(不在)!」


「芳生、委員会で遅くなるって言ってましたけど…」


芳生に代わって答える。

図書委員の芳生は時々こうして部活に遅れる事があった。


「あいつには常に鉢巻きを持つようにいってあるので大丈夫だ」


あいつ鉢巻きなんて常備してんのかよ…。


「ともかく期限は私がスタートと言ってから17時30分まで、鉢巻きを集めてここに持って来るように、はい楓、和水、鉢巻き。ほら、早く逃げろ」


手をシッシッと降る部長柿沢秤。

それに促され楓は渋々と、嬉嬉として和水は教室から出て行った。


「ま、お茶でも」


「ありがとうございます」


部長にお茶を薦められ、裏さんは湯飲みを手で持ちそれを口に運ぼうとして


「スタート!」


「ブッ」


吹いた。部長お得意の不意打ちだ。


「っ熱、熱!!え!ス、スタートって?」


「スタートを宣言したんだ。ほら急いだらどうだ」


「部長、ちょっと手加減したらどうですか?全く、あ、オレにもお茶下さい」


今日の部長は随分と軽快だなぁ。


はぁ、酷く喉が渇いた。知らなかった…、心の中の突っ込んでも喉が乾くんだな…。


「何言ってんだ?雨音も裏さんのアシスタント役で一緒に行きなさい」


「え!なんでですか!?」


「裏さんは芳生の顔しらないだろう。第一なんの情報もなしにあいつらはなかなか捕まえる事ができないだろうし」


「でも…」


「部長権限発動。このカードが場にある時、効果が発動する。効果3、部長の命令には絶対服従。効果4、破ったら罰」


「行かせていただきます」


「よろしい」


彼女に逆らってはいけない。何させられるか分かったもんじゃない。

オレの第六感が真っ赤な警告を全身に張り巡らす。


「そうだな。君達は二人一組(ツーマンセル)のチームを組んだんだからコードネームを与えなくてはならないな」


「いや、その理論はおかしい」


「君達のコードネームは、『プリキュア』。一心同体で頑張るんだぞ」


「…」


彼女はなんでこんな部に入ろうとしてるんだろう。

そして、オレはなんでこんな部に入ってしまったんだろう。


立ち暗みに似た眩暈が起こり一瞬よろける。

疑問が頭を駆け巡り、この場から走りだしたい気分になるがそれを押さえて出来るだけ平静を装い裏さんに話しかける。


「さ、行こうか」


「よろしくお願いします!」

か、かわいい…。


「あぁ、雨音、あくまでも情報を与えるアシスタントだからな。捕まえるたりするのを手伝ったらいけないよ」



彼女と一緒に部室から外に出ようとすると部長がオレに注意した。


「了解」



了承して廊下に出る。


廊下では校庭で練習する陸上部や野球部の掛け声が響いていて静けさとは無縁に思えるが、昼間の学校に比べたら不気味なくらい静かなのは確かだ。


はぁ、口から溜め息が漏れた。


こういう指令は早々に終わらせるに限る。


「あの、よろしくね。表…君」


「ああ、頑張ろうね。裏…、……」


ぬあぁぁああぁ!

忘れてたぁ!

これから女生徒と放課後二人きりデート(?)じゃないかぁ。

クラスのやつら名字にばっかり気を取られて気付かなかったみたいだけど、彼女、かなりの美少女だぞ!

美少女レベルで言えば和水を軽く越して(あいつも結構な美人だが、オレは馬鹿に興味はない)、部長も超える。部長は美人だが性格がな…。


そんなこんなで彼女が娯楽ラブに入ってくれれば、我が部に一輪の薔薇が咲き…


いや、いやいや、落ち着け。こういう時は円周率を数えて落ち着くんだ…。3.14151…ダメだ、これ以上わからん。

円周率は3になったりπになったりする浮遊感漂う微妙な数字。オレに勇気を与えてくれる。


ふー、やはり一番の問題は名字だ。表と裏が付き合ったら只のお笑いグループにみたいになるじゃないか。ダメだ我慢しろ我慢。


「表君。どうしたの?」


首を少し傾げ…

いかん、可愛すぎる。


「あぁ、大丈夫」


COOLになれ、COOLになるんだ表雨音。


「表くん、どうしたの、行こうよ」


ニッコリ微笑んで…


あ、ダメだ。

部長、オレには無理です。

死にます。トキメキすぎて。




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