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5(3)

キャラクターは作者の頭脳を越える事はありません。

頭が悪いキャラならいいんですが、その逆だと色々と面倒だから困ります。

うろ覚えの事をキャラクターに説明させる時なんかは携帯ですぐ調べられるから便利ですね。



思っていたよりも、一年生の出店は少なかったらしい、あっという間に見て回ってしまった。


今日は一般公開でなく生徒のみの文化祭なのでそれほど混む事なくスムーズに入店する事が出来る。

現に俺たちはまだ行列に並んだ事がなかった。

しかし、それもこれまでだ。

文化祭で必ずというほど混む出し物が一つある。


それはうちのクラスの出し物でもあるお化け屋敷だ。

列に並ぶのが億劫だったので最後に回していたツケが回ってきた。

俺と芳生のノルマで見ることの出来ないものを抜いてまだ見てないのはその3組のお化け屋敷のみになっていた。


「1、2組は?」


芳生にその事を教えると、彼は首をかしげて質問をしてきた。

1、2組の教室は今現在なんの装飾もしていない空き教室になっている。盛り上がりをみせる文化祭の中でその二つの教室はかなり異質な空間でもあったが、空き教室と言ってもお店を出していないだけで、1組2組の生徒達は普段と変わらず出入りをしているし、準備室としても利用しているようだった。


芳生の問いは、ではなんの準備をしているのか、という点についてだろう。


同じ学年の出し物くらい確認しておけよ、と密かに思ったが、俺も人の事をとやかく言えるほど詳しくないので、素直に俺の知っている情報を芳生に教えてやった。


俺たち二人は1組とは逆のほうから回っていたので最後にみるのは1組になる予定だったのだが、


「1、2組は演劇をやるらしい」


ので、出店の最後には3組を見てみる事になったのだ。


体育館で上映を行う演劇部に混じって学芸会のような事もクラスでも出来るという噂を聞いたのは、部長が今年の文化祭において娯楽ラブのやる事を発表した次の日の事だった。

クラスで出来るという事はクラブでも…、と部長が思わなかったのはせめてもの救いだ。


下手に転んでいたとしたら演劇などと七面倒臭い事を娯楽ラブでもやらされていたと思うと人生とは綱渡りのようなものなのだなぁとしみじみと思ってみたりして。


「ふーん、演劇って何やんの?」


ややあって芳生は質問に質問を重ねた。

そんな事知るか。俺は3組の人間であって演劇をやるクラスじゃないんだから。


「1、2組知り合いいないからわからん。芳生お前がパンフレット持ってんだから調べろよ」


そう言ってやると芳生は文句を言いたそうブーたれたが、すぐにダルそうにパンフレットを開き演劇内容を読み上げてくれた。


「ミュージカルだってさ」


「ロミオとジュリエットとか?」


ミュージカルっていうと急に歌い出すあのわけのわからないやつの事か。


よくは知らないが、演劇というとロミジュリくらいしか思い浮かばない。


「『パンを踏んだ娘』と『メトロポリタンミュージアム』だってさ」


「そりゃ、なんつぅ…」


両方とも小さい頃お世話になった教育番組じゃないですか。

3年に一度くらいの割合で再放送して新たなトラウマ持ちの子供を増やしていく恐ろしい放送協会の陰謀ですよ。

そんなのをチョイスするなんてある意味いい趣味してるな…、許可とったのだろうか?


子供だったら間違いなく泣くぞ。


「それよりも、雨音!問題は3組だよ!お化け屋敷とか言って全然さわやか三組じゃないじゃん!」


突飛な芳生の言動にももうなれたものだ。

俺達はいま1-3の教室つまりお化け屋敷の前で、列に並びもせずに壁に寄り掛かりながら隣りの4組でとったカレーの味を反芻していた。


「うるさいなぁ、なら入んなきゃいいだろ」


ちなみに羽炉学園は校内で飲食店を行うのには抽選が必要で楓や芳生のクラスはその抽選にもれたため外で模擬店をやっているのだった。


「でも部長にちゃんと評価しろって言われてる手前入らないわけにはいかないし、う〜、ジレンマ」



何と何との間で悩んでいるのか、俺にはわからないが列にも並ばないで突立っているのは時間が勿体ないし、恥ずかしいし、疲れるし、自分のクラスの出し物に一回も顔を出さないのはクラスメイトとしていただけないと思うので芳生の背中を後押しする意味も込めて汽車ぽっぽのようにお化け屋敷の列に並ぶ。


「怖いの良くない!」


「待っている間は静かにして下さいねぇ」


「…はい」


芳生の叫びを注意で封殺する。はい、アウトー。むうん、レッドバインド、ルールに縛られるが良い、小市民!


芳生はホラー系統のものが苦手というのは随分前に教えてもらったな。


芳生はともかく段々と俺自身が楽しみになってきた。


かく言う私はホラーが好きでね。自分達が準備したものがどんなデキになっているのか興味がでてきた。

ホラーは現実逃避には丁度いいのだ。なんてたってありえなさすぎるもの。中学ん時に『チャイルド・プレイ』見たって言ったら女子から卑猥って言われたのもいい思い出だな。


前に並んでいる芳生は青ざめて、「お化けなんてないさ、お化けなんてないさ」なんてぶつぶつ唱えるように歌っている。


「寝ぼけた人が見間違えたのさ…♪」本当の調子が思い出せないほどの暗いテンポだ。


「だけどちょっとだけどちょっと、僕だって、怖っ…、怖くちゃだめだぁ!」ノリノリだな芳生。


高校の文化祭レベルでこんな状態だから本家のお化け屋敷行ったらどうなることやら。お腹からエイリアンが産まれんじゃないのかな。


しばらくすると芳生は何故かアースウインド&ファイヤーのSeptemberをハミングし始めた。今月Octoberだぜ、しかも明日からNovemberだし。


「次の人どうぞー」


係りの人が俺達の前に並んでいた二人をお化け屋敷内部に引き入れた。


あいた分、前に一歩進む。どうやら俺たちが一番前になったみたいだ。


受付の指示で人数の集計を行う為の紙に俺と芳生の名前を書いて顔をあげると、そこにはよく見知った顔があった。


受付をしていたのは高山と渡辺だった。


目が合う、向こうも気が付いたらしい。


渡辺の方はあまり会話を交わした事のない女子だが、高山はいつも俺と行動を共にしバカをし合う気の合う男子というやつだ。


高山は列に並んでいるのが、俺だと気が付くと、客だというのに歯を見せて笑いながら慣れなれしく話かけてきた。


「おう、雨音!見てけよ!」


「そのつもりがなきゃ並んでねぇだろ。いくらだっけ?」

「一人100円ね。そっちの人と入るの?二人までならOKだけど」


高山は目線を芳生に合わせて聞いてきた。


さて、普通なら二人一緒に入るところだが、そんなのはちっとも面白くない。

何事も挑戦と絶望だろ。


悪戯心が燻りビビる芳生の姿が見たくなった。


「いや、違う」


「え!なんで?」


隣りでぼんやりとしていた芳生は俺の否定で驚きと共に声をあげた。


…俺も部長に似て来たかな。


「いいか、芳生。今回の娯楽ラブの活動目的は何かわかるだろ。現地調査だ。現地調査するのに中の事情を熟知している俺がついていっちゃだめだろ」


芳生は不満げだがぐぅの音も出さず俺の言葉を聞いている。


「それに調査を報告する際に俺は評価を最高にするぜ?自分のクラス好きだもん。自分を戒める分にもそれはやっちゃいけない行為だと思うわけだ。何も知らない第三者が評価するのがフェアってやつだろ」


「それは…、そうかもしれないけど、ガイドはいてもいいと…」


「次の人どうぞー」


「ほら、行けー、ほーせー」


渡辺が次の人が入るように促した。


俺は芳生の背中を押した後、強く手をふって彼の背中に「さよなら」を叫んだ。

頑張れ、ロストマン。


芳生はブルーマン一歩手前といった様子で最後に俺に向かって「呪ってやるぅ」と涙ながらに叫んで暗闇あふれる教室に吸い込まれていった。


「…雨音、良かったの?」


「いつもやられてる復讐ー」


高山の質問に明るく朗らかな気持ちで答えた。




芳生が中に吸い込まれるから5分ばかし過ぎた頃だ。

次の人を迎え入れるの準備が整ったらしい。


「はい、じゃ、100円ね」


「ま、言わなくてもわかると思うけど、中の係り委員の話を聞いてから進んで下さいね」


「了解〜」


中途半端に他人行儀な高山の指示に従って入場する。


ダークハロウィンなんて出店名だけど中の内容は和製ホラーだ。は?っと思うのはこの名前が採用された時にすんでいるので今更だが、改めて考えて見るとやはり色々と変だろ。


最初に従業員から説明を兼ねた怪談話をされる。

内容は女が殺された、幽霊だ、成仏させよう、という当たり障りのないよくある話だ。


怪談が終わったらカメラを渡される。-カメラと言ってもフラッシュ機能しかついていないオモチャだが-そのカメラで女幽霊を撮影すると浄霊できるって設定だ。


中は女の負の念によって集められた不浄霊がたくさんいて、そいつらもカメラのフラッシュで追い払う事が出来る。


最終目標はカメラで女幽霊を撮影し、そのカメラを何故か女幽霊に渡すと浄霊成功だそうだ。カメラが持っていかれる可能性を防ぐ為だが雰囲気がぶち壊しだと思う。

某ゲームのパクリな設定だし。


ま、それでも、それをさしひいてもなかなか面白いルールだとは俺は思う。

事実評判を聞く限りでは二年生のお化け屋敷よりはいいようだ。もっとも評価においてはあの名前はない、というおまけつきだが。




「それでは進んで下さい、サボり魔」


「サボり魔じゃねぇて」


サボりましたけど。

昨日の事を口酸っぱく言う友人に見送られて俺はハロウィンを開始した。


耳をすませば、誰かの叫び声がする。


しかし、それは女子の金切り声だし、ジェットコースターなどでふざけて出す声で、俺の知る人物のではない。


芳生の叫びが聞こえん。


これではつまらないでは無いか。


俺はビビる芳生を目におさめるために参加してんだぜ、ブルってないと楽しくもない。


「ごほぅ」


「よ。斉藤」


角を曲がったら真っ白な死に装束をきた知り合いが失敗した牛のゲップのような声をだしながら飛び出てきた。

このセットを作ったの俺だし、どこからでるのかもホームルームで説明してたから予想通りだ。


「あ、雨音、いや、あ゛むぁねぇえ〜」


「うわ、来るな!気持ち悪いッ!」


斉藤はわざわざ口調を変えてキョンシーのように手を前にだしながら、俺に抱き付いてきた。

お化け役は客に触れちゃいけないんじゃ無かったっけ!?


こんな男子と戯れたって何にも楽しくもない!


化粧が制服につくだろ、バカ殿みたいな面しやがって


死にさられぇ!


俺はカメラのボタンを人差し指で押しフラッシュを連続でたく。

高橋名人並の16連写だ。

撮れはしないが、ゼロの予想ではこれでさよならバイバイッ!


「って、なんで消えないんだよ、光で吹っ飛ぶ予定のはずたろ!?」


「あ、俺、タイラントだから。効かねーんだわ」


「ゲームが違うわッ!」




しつこい斉藤の猛攻を振り切り進路通り俺は段ボールのトンネルをくぐって脱出をはかる。

段ボールにはゴム蛇とか蜘蛛とかが飾られており恐怖心を煽るつもりだがはっきりいうと珍妙になっているだけだ。赤い手形とかの方が怖いと思うな、明日進言してみよう。


斉藤が俺の後ろを『ばぶぅ、ばぶぅ、ちゃー』って言いながら迫って来ている。

曙か、貴様はッ!


体を屈ませなくては通れないほど狭い段ボールトンネルの壁にはたくさん穴があいていてそこから腕がバーと出て来る予定だ。


何があるのか知っているからさほど怖くはないが、ともかく斉藤を振り切らなくてはならない。


ダッシュ!


『あ、雨音じゃね』

『ほんとだ』

『美影さんと同じ部活という調子乗りすぎ野郎がッ!』

『表ぇー、テメー水道橋さんとどういう関係なんだよ!』

『クソ野郎ぉ!』


「…」


段ボールの向こう側から不気味な囁き声が聞こえて途絶えた瞬間、嫉妬にかられた醜きたくさん腕が穴から同時に出て来て俺の背中をバシバシと叩き始めた。


相撲の送り出しみたいに。


「痛い痛い、ちょ、触っちゃいけないルールだろッ!?」


『チェスト!』

『チェスト!』

『チェスト!』


そしてなんなんだよ、その掛け声…!

九州に帰れ!


涙ながらにトンネルを通過する。

多分一番怖い所だった。


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