5(2)
思っていることを文書にするのって難しいですね。
いちいち描写してたらくどくなってしまうし、簡略したら何が言いたいのか伝わらない。
作家さんは凄いと思います。
高校の文化祭って思っていたほどどうってことないレベルだな、と思った。
中学校の時も小学校の時も似たようなことをやったが正直どっちもしょうもないという点では共通する。ぶっちゃけるとつまらないし、下らない。
『そこまで言うのなら自分で楽しくする努力をしろよ、それでもつまらないと思うならお前の言う通りなのかもな』
と中学の時に友達にこぼしたら説教された事がある。
彼の意見は至極真っ当だと思うし、安易な考えを抱いて反省はした。
だけどつまらなくはないが、準備段階の方が楽しかった、なんて事がざらなのは確かだ。
何故だろうか?
俺の青春はそんな自問を連綿と繰り返して来た。
だが
そんなどんな偉い心理学者も見つけられないような答えに俺は今、辿りついたのだ。
俺に説教たれた友人A、違うんだよ。自分一人じゃどうしようもない問題だったんだよ、これは。
俺が行き着いた答え、それは【心の潤い】だ。カタルシスがねぇんだよ、我が人生には。
…なんて、今時の頭のネジがぶっ飛んだ引き籠もり中学生のような語り、答えを打ち明けるまでに原稿用紙3枚は使うような蛆文をだらだらと続けていても時間の無駄だ。
俺の心はエコスタイル。
無駄を省くのが俺の趣味だ。
無駄無駄ッア!つまり俺が言いたい事はッ!
野郎と回ったってなんも楽しくねぇよ!
美影、せめて部長ないし和水がペアだったらこんな惨めな気分にはならないですんだかもしれないぜ。
昨日の部長とした見回りの事を考えるとそう思わずにはいられない。
俺の目の前にいるのはあくまで元気のいい男子だからな。
芳生がいやだとかそういう次元の話じゃなくて、華の高校生活を華なしで過ごすのは何とも味気無いもんだ。
半分男子みたいなのでも文化祭を女子と回っているというだけでなんだか甘酸っぱい思い出になりえるじゃないか、カントリーロード。
「何してんの?先に行っちゃうよ」
そんなナーバスな俺を不思議そうに見ていた芳生は俺の返事を聞く前に7組のクラスの出し物に入っていってしまった。
あくびをしながら俺も続く。朝が早かったからだろう、なんか眠くなってきた。
ふぁ〜、聖蹟桜ヶ丘行きてぇ〜。
「はーい、では入口から入場して下さーい」
受付の声と共に新しいクラスに入る。
廊下の壁にゲームセンターと紙で作った花で書いてあったから大体はわかるけど、具体的に何をするのか詳細な内容は不明だ。
入る際にお金を取られた。
50円。リーズナブルちゃあ、リーズナブルか。
チケットを受け取って、早速その緑色の厚紙に書かれているゲーム内容を見てみる。
ボーリング
風船
ストラックアウト
なにこの、悪寒する予感。
ガッカリイリュージョンの匂いがするよ。
とりあえず先駆者である芳生を目で探す。
奴は奥の方でストラックアウトとやらをやっていた。
パスンパスンと次々に面白いように的を打ち抜いていく。
あいつ体つかう個人競技うまいからな。
視線を隅々まで移す。
こういう観察が評価するさいに大切だからな。
ゲームセンターと称している出店だけあって中にはいろんな物が置いてあった。
人込みはまばら。
混んでるといえば混んでるし、混んでないといえばその通りだった。
「それでは、あちらのボーリングからお願いしまーす」
定員であろう、クラスTシャツを着ている男子生徒が俺に指示をした。
それに従って俺はバレーボールを受け取り、前に並べられている10本のペットボトルを見据える。
これを投げてあれに当てりゃいいんだろ?簡単じゃないか。
さわやか律子さん、俺に力を!
「あ、高校生以上は一番後ろの線からお願いします」
「あっ、はい」
2、3歩さがって赤いテープで作られた線の内側に入る。
そういう事は早めに言って欲しいところだぜ。通りで簡単だと思った。
てい
俺はボールを軽く転がした。
ぼん
鈍い音がしただけで、ペットボトルは一本も倒れずボールは弾かれて俺の元にテンテンとバウンドしながら戻ってきた。
うわぁい、凄いよ、本場のボーリングみたいだよ。
「…」
「もう一回投げられますよ」
あのペットボトル…、中に水が入ってんのか?
まぁ、いいさ、水くらい許容範囲さ。
だけど…、
俺は目を細めて一番奥の一本に照準を合わせる。
あれ、中身、砂じゃね?
おのれ、クロコダイルッ!
ゴムゴムのぉ…
どっせぇぇい!
気合い一発、俺はボールに念を込めて転がした。
これ以上ない、って、くらいの素晴らしい投球だ。
確かに俺にはボールの軌跡に炎の線をみたね。
バックトゥザフゥチャーみたいな〜!
ペットボトルも何本か倒れた。
だけど奥の砂の詰まったのは、戦場に生き残った兵士のように、風格漂う古豪のように生き残っていた。
詐欺…だろ…。
俺は確かに見た。
奥の列全部砂だぞ。
つ、つまんねぇ。
「はーい、6本です、それではあちらの風船に進んで下さーい」
「了解…」
次に俺が案内されたのは某子供向け番組のエンディングみたいにたくさんの風船の入った一角だった。
あふれないように段ボールで囲いが作られており、一言でいうならばメルヘン。
「風船の中にビーズが入っているものが5つあります、制限時間内に出来るだけ多くのビーズ入り風船を見つけだして下さい、それでは、始め」
担当の生徒は俺が風船の満員電車に入った事を確認すると声を荒げず冷静な口調でルールを説明した。
なんか事務的でやっつけだな。
あ〜、はいはい、やりますよ、探しゃいいんでしょ…。
ほい、ハズレ。
ほい、ほい、ほい
俺は風船を持ち上げては後ろに放っていく。
なんかリ○ム天国にこんなのあったな。
「あと30秒です」
早っ!
ヤバいな。このままじゃ、一個も見つけられないまま終了しちまうぞ。
落ち着いて考えてみよう。
そもそもビーズが入っているって事は他の風船よりも多少は重いということ、それ即ち下に沈んでいるということではないか、つまり上の方のばかり探しても確率的に下の方が見つけやすいに違いない。
そうとわかれば…、
俺は風船をほじくるように下からかき上げた。
その中にビーズ入り風船があるのを俺はすぐに見つけ、
「おし、一個め」
見つけ出した風船を囲いの外にいる店員にわたす。
なんて事はない、冷静になればこんなもの赤子の手をひねるようなものよ。
なんだが楽しくなってきたぞ。たくさん風船の中は夢心地で自分もフワフワ浮いてるような錯覚に…
「終了です」
「え、もう?」
「はい、記録は一個、では次のゲームに進んで下さい」
「…はい」
俺は静々、ドリームランドをあとにする。
出口(兼入口)にはたくさんの風船が詰まっていて、一人の店員が風船が外に飛び出さないように扉を押さえていた。
とおせんぼする風船を片っ端から割りたくなったが、このクラスの人に悪いので許してやろう。
次のアトラクション参りましょー
「これは?」
「ストラックアウトです。10個のカラーボールを使って1〜9の数字を打ち抜いてください。制限時間はありません」
1〜9の数字が書かれている張りぼてが立てて置いてあった。
「えい」
ひゅ
ボールは枠の何にも書かれていないところにバスンとあたり、テンテンとバウンドして俺のもとに戻ってきた。
うわぁい、凄いよ、本場の(以下略)。
いかんいかん。
集中集中。
狙いは真ん中の5。
ロックオン。
シュートヒム。
ショット。
てい
スカ
てい
スカ
てい
スカ
…ここまで当たらないと逆に清々しいな。
だが舐めないでいただきたい。俺はこう見えても小学校の時、野球部でその強肩を唸らせたものなのだよ。
昔取った杵柄!
食らえーー!
スカ
スカ
…的がちっちゃ過ぎるよ。
こら店員、人の頑張りを笑うな!お前らは大人しく俺のこぼれ玉でも拾ってればいいんだよ。
兎にも角にもここからが俺の本領発揮。いける、いけるよ。
てい
パスン
おぉー、5get!
って、持ち玉があと3球しかない。
遊び過ぎたか、っふ。
ヒュ
パスン
2get
ヒュ
スカ
ふ、今のは冗談さ。
…残り1球か…。
最後はかっこよく華々しく散るか!
どぇりゃあ!
豪速球!
しかし、命中せずボールは板の部分に当たって跳ね返った。
衝撃で1、2個的が落ちたがこれはノーカンらしい。
「ぎゃ」
「あ、ごめん」
跳ね返ったボールが近くの店員の人に当たった。
最後にストラックアウトの点数を書いてもらい、その紙を受付の人に渡す。
「8点、それではこちらの駄菓子から好きなのを選んで下さい」
「ども」
数ある景品の中から駄菓子をひったくるように取ると足早にその場を後にした。
「どうだった?」
飛び出た廊下では芳生が楽しげに笑いながら俺に聞いてきた。
そんなん、今の俺の面見ればわかるだろ。
「うん。楽しくはなかったが、仲間で行ったら盛り上がると思う」
俺は貰った菓子をもちゃもちゃさせながら答えた。こんなにちっこいの50円だから味わなきゃ損損。
「そう?僕は結構楽しかったけど。ほら」
先にゲームを終えて俺が出て来るのを待っていた芳生は紙袋から何かを取り出して俺に見せた。
って、それは!
「ゲームソフト?」
「うん、なんてたってパーフェクトだもん。スゴイでしょ」
「お前凄いな。で、なんか随分と懐かしいレトロゲームばっかだな」
コンボ○の謎
ミシシッピー殺○事件
スペラ○カー
どれもやったことないが評判はよく聞くものばかりだ。
ある意味プレミアついてるんじゃないかな。
賞品は出店内容に比例するんですね。
芳生は嬉しそうなので何も言えないけど。
「お前んちファミコンあんの?」
「んー、わかんない。いいよ別に転売するし」
「あ、そう」
仮にも名作だからとっといたほうがいいと思うけどな。
次のクラスに移動する。
入った先は整然と並べられた机がありその上にブックスタンドで本が分類ごとに収納されている。
ブックスタンドだけでなく技術の授業かなにかで製作されたと思われる小さな本棚なんかもあり、もちろんその用途を果たしていた。
「見ていって下さーい」
古本。
次の出し物は古本屋だった。フリマの本限定みたいなもんだから需要はあるのだろうか。
売り専門だし。
学校の出し物なんだからそんなところだろ。
出店名『BOOKFoF』。ネーミングにやる気が微塵も感じられないね。
芳生と共に暖簾をくぐる。
教室内は古書の香りが充満していて、それらしい雰囲気をかもしだしていた。
ほぉ〜、なかなか成ってんじゃん。
文化祭で古本屋をやるなんて珍しいけど、これは成功の方にギリギリ入るな。
てか、これだけ大量の本持ってくるの苦労したんだろうな。
「立ち読み自由ですよー」
「ふぁーい」
レジの女生徒が俺達に教えてくれた。
うわぁい、本場の(略)。
「あ、漫画もあるじゃん」
「…よく先生は許可だしたな」
うちの学校は携帯ゲーム機と漫画は持ってきてはいけない校則だ。真面目に守ってる人いないけど(主に部長)。
「うわぁ、懐かしい。みてみて」
「ああ、小学生の時はまったな。だが、あえて俺はあっちの小説の方を見てるぜ」
「僕はここで漫画を読んでるから出る時になったら呼んで」
「オッケー」
芳生に手を振り移動する。
こう見えても昔は俺も結構読書家だったんだぜ。
愛読書は『かい○つゾロリ』で好きなジャンルはファンタジー。座右の銘は『晴耕雨読の読の字』。まさに本がお友達の暗い小学生でした。
ただ小学から中学に上がったら急激な本離れにあい、今の俺の気分はさながら昔の旧友に再会したサラリーマンってところか。
久し振りの本に囲まれた空間に高揚する。
心のガソリンタンクがみなぎってくる。
いやぁ、本って本当に素晴らしいものですね。
本に囲まれてるとトイレ行きたくなるけど、このテンションなら全部忘れられるね。
早速棚から本を適当に引っ張りだしザッと内容に目を通してみた。
む
あれ、間違った、これ小説じゃないや。自己啓発本か?
俺は本を閉じて表紙に書かれたタイトルを見てみた。
『忘れ物をなくす本』
そのシンプルなタイトルの本は小説のスペースにぶっきらぼうに突っ込まれていた。
ちゃんとカテゴリーしとけよ、と思いながらペラペラと捲ってみる。
書店でこういうジャンルの本は何冊か見掛けたことあるけど買う人本当にいたんだ。買う人いなきゃ売らないだろうけどさ。
目的の本ではなかったので、俺は本を立てて棚に戻そうとした。
ん。
ヒラリヒラリとページの隙間から何か紙きれのような物が宙をまって床にフワリと落ちた。
「…」
あ、夏目さん、久し振りですね。
俺は床にきれいに着地した旧千円札を一瞥したあと、その千円がはさまっていた本のタイトルをもう一度見返してみた。
『忘れ物をなくす本』
「…」
ダメじゃん。
根本から失敗じゃん。
「店員さーん、ページの間に千円はさまってましたよー」
猫ばばせずにキチンと届けるあたり自分自身なかなか偉いと思う。
つか、ヘソクリのつもりなのだろうか?リスみたいな人だなこの本持ってきた人。
「ほんとうですか?ありがとうございます。なんて本です?」
店員の女生徒は驚きの声をあげた後、俺に詳細を求めた。
「『忘れ物をなくす本』です」
「え…」
や、そんな目で見ないで、本当の事なんだから。
「…忘れ物をなくす本、ですね」
カウンターに座っていた女生徒はノートをペラペラと捲り、鉛筆でなにやら印をつけ呟いた。
「やっぱり安藤さんか…」
安藤さん常習犯なんですね。
「知らせていただきありがとうございます」
ニッコリと微笑んで店員さんは俺に二回目のお礼を告げた。
おいおい、この空気じゃ、冷やかしは無理だろ。
袖すりあうも他生の縁、値段も高くないし、この本買わせてもらうか。
俺はカウンターに『忘れ物をなくす本』を置いた。
「あら、いいんですか?お買い上げありがとうございまーす」
凄い明るく笑って彼女は言った。スマイルはタダとはいえ、してやられた気分。
買った本に目を通しながら芳生を呼びに行く。
出版日が印刷されているページに鉛筆で『安藤ちなみ』と名前が書かれているのを見つけた。
ちなみさんか。惜しかったな、名前書くまでは指南書通りだったんだけどね。
「芳生、そろそろ行こうぜ」
買ったばかりの本で芳生の頭を小突いて知らせる。
「て、あれ雨音、その本買うの?」
「うん、もう買った」
「『忘れ物をなくす本?』なんでまた、そんなつまらなそうな本を…」
「いや、なんていうか、運命感じちゃて…」
「運命って、もしかしてその本持って呪文唱えたら和水が口から雷だすとか?」
「違うわ。てか、なして和水?」
「何となく、それっぽいじゃん」
「…確かになぁ」
俺たち二人はうんうんと納得しあった。
それからすぐに芳生は読んでいた漫画を棚に戻して別の新たな一冊を取り出すと、財布をポケットからだした。
どうやら、その一冊の漫画を買うらしい。
って、それは…ッ!
ジャンプで単行本数150巻を越える長寿ギャグ漫画!?
その記念すべき一巻目を芳生は持ってレジに向う。
「これ面白いよ!全巻集める事にしたよ!」
そんな芳生を憐憫と尊敬のまなざしでもって明るく見送る。
「出来たら勇者だとおもうぜ」
一人のこされた俺は芳生に聞こえないように小さく零した。