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第35話(1)

最近考えること。

更新するタイミングについて。

早朝、朝、昼、夕方、夜、深夜……。

どのタイミングで更新するのがベストなんでしょうか。

いつも深夜なんですけどね…


白の世界と青というよりも灰色な世界が俺たちの視界に広がっていた。この光景をキャンパスに移そうと思ったのなら使う絵の具はそこまで多くなくてすむだろう。

一枚絵としてはみすぼらしい出来になることは請け合いだが、その絵を芸術の域に引き上げる要素は俺の横にいた。


「すごいなぁ」


海がきこえる。

波は押し寄せたり引いたりを繰り返し、遠く冬の海岸線は白く霞みがかっている。雄大な自然に耳をかたむけていると自分の存在が矮小なものに思えてきた。

そんな雄大な白と灰の世界をバックに彼女を写したのなら、心を揺さぶるなにかが出来そうだ、と芸術家でもないのに思った。


「天気には恵まれませんでしたね」


隣りの美影が白い息を吐きながら言った。

確かに曇天ではあるが、雨は降らないし、気温もそこまで低くはない。


「だけど、凄く楽しいです」


彼女は、それからそう続けた。



三日前


登校中、俺は色々と思案していた。

今、両手を寒気から守ってくれているこの手袋についてである。

そうなのだ。これは美影が俺にクリスマスプレゼントとしてくれたものなのだ。

それで俺は、お返しをするとか言っておいてまだ何もしていなかったのだ。

うわっ、もうクリスマスから3ヶ月が経とうとしてるよ!

どうすんだっ!

と、一人反省会は昨日布団で十分終わらせていたので、あとは電車の中の気持ち悪い暖房の中必死に後処理について巡らせるだけである。

時間が経過したことについてはホワイトデーにかこつけるとして、

残された大きな問題は一つ、

どうするもこうするもお返しをしなくてはならない。何をあげればいいのか、という点である。

取りあえず車内は寒くないので丁寧に手袋を外し、鞄にそっといれた。

汗が染み込んだりしたら嫌だもんな、大切に使って長持ちさせるのだ。なんてったって美影からのプレゼントだもの。


さて、

開いたドアから出て行った人の代わりに空いた座席に座り、どうするか考える。やはりお返しは必要だろ、人としてそれくらいの甲斐性はなくては、…なにか俺もプレゼントしてあげるのが一番だよな、この場合なにをあげるのがいいんだろう、そうだなぁ、

イヤリングとかネックレスとか、…でもバイトもしていない俺の金銭状況じゃ千円単位で結構キツい、短期のアルバイトでもして金を貯めようかな、ああ、でもそんなんやってる暇があったら美影にお返ししないといけないし、…もう俺も心がこもった手作りの何かをあげようかな、でも安いもの渡してしわいやつと見られるのも嫌だし、うーむ。


ひとまず学校についたら美影に何か欲しいものないか、訊いてみよう。

そうだよそれが一番だ!欲しくない物もらってガッカリするよりは百倍ましだ。

そうと決まれば、今は

取りあえず…寝る。


折角座席に座れたのだから残り3駅分俺は睡眠を取ることにした。




それからなんだかんだで、朝、授業中はまともに彼女と会話出来る機会に恵まれる事なく、結局放課後になってしまった。

残念だが、仕方無い。だって俺は女子とあんまり会話しないし、普段はもっぱら男子と仲良くしているからな。それに美影との繋がりはほとんど娯楽ラ部中なのだから。いくら席が隣り同士といっても、会話出来るのは二、三言くらいでそれ以上だと、斉藤や高山など他の男子に冷やかされて恥ずかしいもの、…チキンではない、美影を気遣ってだ。


そんなこんなで結局チャンスは美影と一緒に部室に向うこの時だけになるわけだ、部活中だと間違いなく部長や楓が生暖かい目で見て来るからな。

今までずっとこの二人きりで廊下を歩く時をハイエナのように狙っていたのだ。

教室から部室に向う、この期間内ならば、誰にも聞かれる事なく会話が出来るからな。


「…」


しかし、授業そっちのけ考えた俺の計画は、舌が「何が欲しい?」という簡単な言葉が出せないため、頓挫しかけていた。

そう言うだけだというのに何をためらう事があるというのだろう。本屋さんで欲しい本を尋ねる時と同じように緊張する必要はない、何もこの質問で何かが崩壊するわけでもないし。今、尋ねずしていつ尋ねるんだ、俺。

だけど、クソっ!

脊髄くらいまで言葉が上って来てるのは分かるのにそれ以上進めない。


「雨音さん?」


「は、はい!?」


突然隣りを同じ速度で歩く美影が俺の名前を呼んだ。

今までずっと黙ったままだったから不審に思ったらしい。美影は「ぼっー、としてどうしたんですか?」と俺の顔を除き込みながら、訊いてきた。

すぐに、なんでもないよ、と返事をする。

あ、そうだ、これはチャンスではないだろうか、向こうから会話の波を作ってくれたんだ。


「と、ところふぇっ!」


新しい話題を切り出すべくしようした言葉を初っ端で噛んだ、だけどあえて気にしない方向で話を続ける。


「美影は今なにか欲しいものある?」


「え?突然どうしたんですか?」


やっぱりいきなり訊きすぎたか…、出来ればクリスマスプレゼントとは言いたくないのだが(忘れていたのを知られてしまうため)、全面的に悪いのは俺だ、素直に言おう。


「手袋のお返し、まだしてないからさ、何か欲しいものがあったらプレゼントするよ」


「クリスマスの、ですか?別に気にしないでいいですよ。もうかなり前の話ですし」


っう、時間の経過は認める。確かに凄く今更な感じだが、あの時、俺は約束したはずだ。必ずお返しをするって。

遠慮する美影には悪いが、もう半分以上俺のエゴだ、気が済まないのだから、質問に答えてもらわなくてはならない。


「いや、手袋凄い嬉しかったから、俺からも何かあげたいんだ。それにほら、もうすぐホワイトデーだし、少し早いバレンタインのお返しとしても、今、欲しいもの、なんでも言ってよ、お財布が許す限り努力するから」


最後をわざと砕けた感じに笑いをいれる。美影もつられたように微笑んだ。


「そうですか…、それじゃ好意に甘えさせてもらいますね」


そう呟きながら美影は顎に手をあて、考える素振りを見せる。

それから数秒して、首を少しだけ捻りながら続けた。


「今ちょっと浮かばないんで少し待ってて下さい」


「あ、うん、大丈夫…」


俺が最後まで言葉を紡ぐ前に美影は部室の扉に手をかけて、ソレを開けていた。

扉を開けると同時に中の様子を確かめてみる。

部室にはもうすでに俺達以外のメンバー全員が揃っていた。

ああ、くそ。二人きりで話出来ないじゃないか。


「こんにちはー」


美影が全体に挨拶をする。

ちらほらと山びこのような返事が他の人から返ってきていた。


「さあて、全員そろったな」


一番奥の部長がそう言いながら立ち上がった。

みんな視線を彼女に向ける。その10の瞳に見つめられた部長はいつものように威風堂々といきなりな発言を始めるのであった。


「この間ふと思ったんだよ」


「何をですか?」


どうせまたろくでもない事だろうが、一応彼女は部長だし、というわけで、椅子を引きながら、俺は部長に尋ねた。

部長はその質問に満足そうに頷いてからゆっくりと言った。


「バンドってなんかいいよね…」


「…」


この間は野球がうんぬんって言ってた気がするんだけど気のせいだろうか。

少なくとも前と同じように言うだけ言って尻切れトンボになるのがオチなのだろう、まあ、部長はまだ野球の件を諦めていないようだけど…。


「なぜ黙るんだ?じっくりとみんなで意見をだしあえばいいじゃないか。例えば私はギター希望だ」


キラリン、瞳をきらめかせ、部長は笑う。

その部長とは対称的に楓が溜め息混じりに言った。


「何が言いたいんです?」


「何って?……だからバンドを組もうって話だ」


…ちょっとまて、話がとんでもなく飛躍してないか?

部長の今までの発言でバンドを組むなんて飛び出したのは今の一回きりだぞ!?


「…悪いが俺はイチヌケさせてもらいます」


楓はあきれがちに、呟いた。当然部長が諦めるハズがない、楓に食ってかかっていく。


「何をいうか楓!いいじゃないかバンド!青春はロックだ!音楽を奏でる喜びを娯楽ラ部で分かち合おうじゃないか!」


「あ〜…、ひとまず音楽性が違うかな」


楓が微妙にらしい事を言ったが、部長にそんな常識的な発言が通用するはずもなく、見事な三段論法で飛び越えていく。


「音楽性の違い?ロックがいやだ?良かろう、様々な事にチャレンジだ!不満なとこがあれば改善しよう!仕方無いさ、メンバーのイザコザはバンドにつきものだもんな!それを乗り越えて、我々の音楽は精練されていくのさ!」


「…正直に言うと音楽に興味がない」


「興味が無ければ持てばいい。未知なるもの触れるよろこび、レベルが上がれば上がるほど楽しくなっていくぞ!ゲームセンターで遊びの楽器を奏でるより本物を奏でる方が絶対に楽しいはずだ!」


ゲーセンのやつも結構楽しいけどね、…下手の横好きだけど。


「バンドに太鼓ってありなの?」


「そっちの話ではない!私が言うバンドにあるのは軽音だけだ!和太鼓はどちらかと言うと重音だろ!多分!」


別のゲームと勘違いして首を捻っている和水に部長はズバリと言った。


「ポッ○ンミュージック?」


「違う!なんかあるだろホラ!ギターなんたらとかドラムなんたらとか…」


「知らないわね。ゲームセンター行かないもの」


なら、無理して会話に突っ込むなよ。

俺みたいに黙って事の動向を楓に託そうじゃないか。大丈夫、彼ならうまくやってくれるさ。


「ともかく、部長。バンドが組みたいなら軽音部に言って下さい。娯楽ラ部の活動とバンド活動は決して合わないでしょ」


「たまにわき道にそれるのもありだろ」


随分とそれまくってる気がしないでもないが…。

根本的に娯楽ラ部の活動自体が曖昧過ぎるのが問題なのだ。この間なんて野球部に喧嘩売ろうとしてたんだぜ。


「それに私は軽音部が余り好きではないのだ。チャラチャラしてるか馬鹿なやつしかいないんだもの」


…ぅおいおい!

突然何を言い始めたんだ部長。他部の悪口なんて彼女らしくないぞ!


「随分と偏見的なものの見方しますね」


「だってそうだろ。あそこの連中は音を楽しむというより自分を着飾る為に音を利用しているように思えてならないのだ。そんなのはあるべきバンド活動じゃないね。文化祭のライブとかひたすらうるさいだけで盛り上がってんの仲間内だけだという事に気が付いてないんじゃないか?どうせボーカルの女生徒とメンバーの男子生徒が付き合いだして他のメンバーが空気になって解散するような薄い繋がりしかないような連中に、音がなんたるかなんて、私は語って欲しくないだけだ」


例が具体的過ぎるのはなぜだろうか…。確かに、まぁ、ありそうだよな、そういうの。ともかく部長は野球部に続き軽音部にも喧嘩売りやがった…。

うーむ、ひとまず100万回軽音部の皆様に謝らなくては…。

すみません、マジで。

ズブの素人が馬鹿な発言してるだけです。王者の余裕で見守ってて下さい。

と、軽音部が現在活動しているであろうホールに向って念波を飛ばす。


「大体文化祭の時のアレ、コピーバンドならまだしもオリジナルとか寒くなるだけだ!教師バンドの方に人気が持ってかれて終わりだバーカ!ウグヌヌヌ…、今思いだしても腹が発ってきた、あの文化祭の時のクソクラスめ、よくも文化祭ライブに私達を…、っは!?」


まさか部長が『先輩』との文化祭デートに失敗した要因って軽音部にあったのか!?

独り言を暴走させ暴露しそうになっていた部長はすんでのところでブレーキをかけたため、最後まで詳細はわからなかった。おしいっ!


「…ともかく私は今猛烈にバンドが組みたい気分なのだ。楓、乗ってくれるな?」


部長は手始めに反論を続ける楓を仲間に加えようとしているようだが、無駄である。我らが楓がそう易々と折れたりは…


「仕方がありませんね。やりましょう」


ないだ…、っえ!?


「ふっふっふ、よくぞ言ってくれた。他のみんなは異論はないな?」


な、なんでそんな簡単に部長に賛同すんだよ楓っ!?


「私のカリスマを見せる時がきたようね!」


和水、落ち着こうよ。


「今日が音楽界の革命が始まった日だよ!」


芳生、お前の頭を革命させてくれ…。


「みんなで楽器を奏でる、楽しそうですね」


確かに楽しそうだけどかなり難しいって、だからもう少し待とうよ、美影!


「…」


「雨音は?」


無言になる俺を催促するように部長が名前を呼んできた。…どうしようもない、この空気…、楓というダムが決壊した時点で部長というポロロッカを止める手立てがなくなったのだ。


「頑張りましょう!」


そしてその鉄砲水に流される俺。ああ、付和雷同さ!

しょうがないじゃないか、この空気を壊す力が俺にはないのだから。




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