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4(3)

物語中の一日を一話とすると前に記した通りですが、自分の中では物語の一話一話日付が決まっています。

第4話は10月30日の話で、第5話は10月31日の話になる予定です。

他の話も何月何日の事かと予想してみると面白い、かも。




一息ついた後、時計を見る。


時刻はお昼をさしていた。


今日一日は文化祭準備で授業がなく、ほとんど生徒の自主性によって構成されている。

朝のホームルームで出欠席をとった後は自由行動と言っても違いないくらいだ。

俺の場合は昨日の貰った一時間と放課後の時間でするべき仕事を終わらせてしまったので今は完全にフリーの状態だった。


うちのクラスの行う『お化け屋敷』では後はもう中で人を脅かす役の人しか仕事が残っていないのだ。

だから、俺のように内装を担当した人達は暇ですることがないので他の人を手伝ったり、他クラスやクラブの準備に向かってたりした。俺は後者になる。


「む、もうこんな時間か、私は一度クラスの方にいくぞ」


今日のデータを紙にまとめていた部長が声をあげた。


「俺もそろそろクラスのほうにいかないとな」


「私はこの格好をクラスの人達にも見せてくるわね」


ついで楓と和水も声をあげた。


3人が部室から去ってしまったらここに残るのは俺だけになってしまう。

それは、出来れば避けたい。

教室のバックの中に携帯を忘れてしまったため、一人にされたら暇になってしまうからだ。

美影と芳生はどうやらクラスの方が忙しいらしく、部室に戻ってこれそうにないし、娯楽クラブのメンバーで今日一日まるまる暇なのは俺だけらしい。

「おい、なんだよ、それじゃ俺が一人になるじゃんか」


「仕方無いんじゃないかしら」


和水はさもどうでも良さそうに答えた。


よくよく考えたら和水もやる事ないっぽいが、彼女は彼女なりに考えがあるのだろう。

たとえ下らない案でも、その人個人の思い付きを引き止めるのは、いかがなものかと。


「マジかよ。うぇ〜、今から教室行くのも微妙だしな。暇過ぎて死にそうだぜ」

俺は机の上にだれた。

クラスに友達がいないわけじゃなく、ただ今から戻って別の作業をするのが、だるいだけだ。

なら、いっそ校舎内でもぶらぶら散歩でもしようか、…う〜ん、疲れるだけだな。やめとこ。昨日かなり頑張ったから今日だらけても神様は何も言わないでしょう。


「暇ならいい暇潰しがあるわよ」


和水は俺の返事を聞く前に、にやつきながら席を立ち、棚の上にたたんで置いてあった自らの制服を広げるように机にスカートと並べて置いた。

それがどうかしたのだろうか、別段変わった所など見当らない普通のこの学校の制服に見受けられる、これが暇潰しの道具になるなど想像しがたい。


「お前の制服がどうかしたのかよ?アイロンがキチッとかかってるようでなによりだが」


「なるほど、和水、お前もなかなかえげつないな」

そんな俺達の様子を見ていた部長は喉を楽しそうに鳴らすと和水の考えが分かったらしく、急に突拍子のない質問を俺にして来た。


「ところで雨音、スコットランドの民族衣装では男でも『キルト』と呼ばれるタータンチェックのスカートを履くそうなんだ。我々の文化では違和感があるが、私は新鮮味があっていいと思うし、何より女性はズボンを履くのに男性はスカート履かないというのはおかしいと思う。人間は一番似合う格好をするのが自然であって条理にかなうと思うのだが、お前はどうだ?」


「?なんの話っすか、好きにしたらいいじゃないですか」


「…あまり考えのない発言は袋小路に進んで足を突っ込みにいくようなもんだぞ」


楓が意味深長な一言を呟いた。パンフレットを閉じていつかみたく哀れみの視線を俺に送っている。



「急になんだよ、楓。お前まで俺を混乱させないでくれ」


「もうっ、鈍いわね!私の制服を着ればいいのよ!呼び込みメイドから美少女生徒雨音ちゃんに生まれ変わるのよ!」


ドーン!

効果音が背景と共にでてきそうな勢いで和水が大声をあげた。


え、それってまた女装しろって事?


「な、なに、を、ほざいて…ッ」


「暇でしょ!だったら暇潰しの為にぃ」


「なんで、俺がそんな事しなきゃなんねぇんだよ」


当然反論させてもらう。

なんかああいうのって背徳感があって苦手なんだよ。


「私も暇だからよ!」


「なんて自分勝手な意見…」


堂々とした和水の発言に一瞬気後れしそうになったが、そんな事で俺はあいつの言いなりになんてなったりしない。

確固たる自我をもって毅然とした態度で臨めば俺も意志を貫き通せるはずだ!


そう思っていた事が、俺にもありました。


次からの、部長の発言によってすべてが逆転する。


「和水、お前は正しいぞ、人の大敵は退屈だ。退屈だと人は死ぬ、生きるということは生き延びるということだ、生き延びている人々は誰も彼も汚れてしまっている。そのなかでも稀に輝いている人がいるものだ。それが退屈でない楽しみをもっている素晴らしき新人類なのだよ」


とんだロジックだ。


哲学的理論を唱えてるように見えて内容がなってない虫食いだらけの意見じゃないか。ヒトラーの予言でも呼んでこい。

「なんすか、そのとっち狂った思想は?」


「まぁ、簡単に言えば、私も和水も輝きたいのだよ」


始めから要約のほうを教えて欲しいところだ。まぁ、だとしても俺の答えは変わらないのだが。


「俺は輝けてないじゃ…」


「美影も輝きたいんだろうな…」


「!」


「美影も喜ぶと思うな」


なぜ今、その名を言う!?


「ふ、ふ、ふざけ…」


「美影も見たいんだろうな、雨音の制服バージョン」


「ぬあぁあ」


「美影も(以下略)」


「ま、参りました…」


渋々納得する…、しょうがないじゃないか…、まだ、時期尚早だもの。




「制服も似合うな」


部長はまた俺にパパッと化粧を施すと微かに笑いながら立ち上がった。


「さ、私はさっき言ったようにクラスに一旦帰る」


「俺を女装させる暇があったらその間に戻れば良かったじゃないですか」


「私のクラスの出し物は喫茶店でな、私は給仕係だから客がいない今日はさほど忙しくないのだよ、だが、順番やらなにやらがまだ決まってないのでな、今からそれを決めにいくのだ、時間が推してるのでこれにて」


しゅば、影を置いて行きそうな勢いの速度で部長は旅立って行った。

いまいち俺の質問の答えになってない気がする。



「部長の言う通り、もう女子高生みたいね」


和水が俺を見て感想を零した。


「…俺が女装したらお前になるんじゃなかったのか?」


「うん、だから美少女なわけよ」


「何、言ってんだか…、にしてもこの制服、胸のあたりがよくフィットするぜ、こんなとこまでそっくりだとはな」


「雨音まで何言ってるのよ!」


「いや、別にぃ」


細やかな仕返しだ。

ざまぁみやがれ。


「さてと、私もそろそろ教室にいくわね」


「その格好(メイド服)でか?」


「これをみんなに見せにいくのよ」


「はぁ、俺には理解出来ない」


「理解しなくていいわよ、それじゃね、可愛いわよ」


最後に花咲くような良い笑顔で和水もドアから出ていった。


「はぁ」


口から思わず溜め息が漏れた。俺は何をやっているんだろうか…、涙が出てきそうだ。

「雨音、気にするな。それじゃ俺も行くぞ」


楓も立ち上がって、俺の方を見ながらパンフレットを机に放った。


ぱん


空気が弾けて存外大きなな音がでる。

そんな楓、お前まで行ってしまったら俺が一人になっちゃうじゃないか…。


「俺は一人になると寂しくて死んでしまうんだぞ」


「それはデマだってテレビが言ってた」


「孤独は人がいるところにあるって偉い人が言ってた」


「孤独は人を強くするんだぞ、それに、お前だっていつまでもその姿でいたいわけじゃないだろ、暇だったら着替えればいいじゃないか」


「それが出来たらやってるよ、部長が俺の制服もってきやがったんだよ」


「ジャージがあるだろ」


「この格好でロッカーまで歩けないぜ」


俺の体操服はロッカーに入れてあるためどうしようもなかった。


「確かにな。まぁ、なんていうか。…ドンマイ」


「同情するなら服をくれ」


「恨むなら部長を恨め、あの人は少しやり過ぎなんだよな」


「そういうところ嫌いじゃないけど、付き合ってると疲れる」


俺達二人は同時に息をはいた。


「同意。さてと、俺も焼きソバに行かなくては」


「楓ぇ!一人はさみしいよー」


「寂しいのは俺にはどうしようもないが、暇潰しならいいものをやるよ」


楓はそう言うと机の上に転がっていた新聞紙を俺の方に滑らせ、胸ポケットに引っ掛かっていたボールペンも転がした。


「クロスワードでもやってろ」


「クロスワード?ふぅん、ま、いい暇潰しにはなりそうだな」


「…お前、その格好で男言葉使うなよ、気持ちわる…、失礼、違和感があるぞ」


「お前までそんな事いうなよ!」


楓はその後、凄くあっさりとドアから出て行った。


俺に残されたのは秋の冷たい空気とボールペン、それからクロスワードの載った新聞紙だけだった。


やる事もないので、早速取り掛かってみる。


正直言うと…


開いて三秒で飽きたね。


タテのカギ


夏の大三角を構成する…

少しの労力で多大な利益…

ある日金太が歩いて…


ヨコのカギ


『自然と人生』で有名な…

アメリカが発祥であり…

あなたに髪の毛ありますか…


見てるだけで眠くなってくる問題ばかりだ。


ん、この問題わかるぞ


敦道親王との恋愛経緯を記した日記文学の一つ『〜日記』。


昨日の古典の授業で習ったな…、なんだっけ…、えっと



ま、どうでもいいや。


思い出さないと脳細胞が死ぬって、誰が教えてくれたけど、その時間内で別の事に取り組んだ方が脳は発達すると思うんけどこれは屁理屈ってやつかな。


大体、古典なんて習っても将来クソの役にもたたねぇぞ。

外国語を英語以外に習ってるようなもんじゃねぇか。

だから、俺が古典のテストて赤点とってもなんの問題もないのだ。


うん、…期末がんばろ…。


俺は視線を右斜め上の読者お悩みコーナーにずらす。


『一度落とした綿棒を入れ直すとなぜあんなにもバラバラになるのですか? 東京都 PN山田ゴンザレス斉藤さん(58)』


ハハハ、こいついい歳してなに気になってんだよ

真面目に回答されてるところがまた面白い。


『世界経済が今、大変な事になってますけど(以下略) PN恋するウサギさん(11)』


大人がバカな質問してる時に子供が世界の心配してるよ。PNはともかく日本の未来は明るいね。

『テレビはなぜ写るのですか? PNベムスターさん』


調べてから質問しろよ。


『どうして僕には彼女が出来ないんですか? PN二次元代表さん(17)』


…このコーナー考え直した方がいいと思うが…。


コンコン


俺がそんな事に思っていたら、部室の扉が二回ノックされた。


え。


出るか、この格好で?

無理無理!無理だろ!

居留守!居留守決め込むぞ!


「お〜い、ほーせー」

なんで開けるんだよ!?


扉から中に入ってきたのは金谷先輩だった。


柿沢部長と同じクラスメイトで芳生と同じ図書委員の、


金谷尚貴先輩ッ!


まさか、この格好で部員以外の人に会うとは!?

俺は彼と目が合う前に逆方向を向いて頬杖をついた。

汗が滝の様に流れて背中をビッショリ濡らす。


「あれ、芳生いないな」


見りゃわかんだろ…

早く帰って下さいよ…


「君さ」


話かけんなー


「芳生どこに行ったか知ってる?」


「し、知りません」


出来るだけ声音を変えて返事する。

ごめん、天国のばぁちゃん、『人と話する時は目をあわせなさい』って、言ってたけど今の俺には守れそうにないよ。


「そっかー、ありがとね」


「い、いえ」


確か教室に行ってんだっけ、…まぁ、いいや、今はこの状況を脱する方が重要だ。


先輩はそのまま部室から去っていった。


危なかったぁ。

口から安堵の息が漏れる。


バレたら今後の俺の人生を色々と左右するからな。

危ない危ない。


さ、また新聞でも読むかな。

てか、この新聞先週の日曜日のじゃん、だからといって特に何にもないけどね、さ、テレビ欄でもみよーっと、






最後に俺は4コマを読んで新聞を閉じた。

俺はニュースはテレビやパソコンを見るから久し振りに新聞を読むとなかなか為になる、今度から新聞を読み始めるかな、将来の礎にもなるしね。


「ふぁー」


本当に、新聞よんで目が疲れた…、なんか、眠くなってきたぞ。


机に俺は突っ伏して、寝た。





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