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第34話(1)


活動報告はすらすら書けるんですけど、前書きとなると上手くいかないものですね。

なんでしょう、これ。

なんかの呪い?





日曜日、約一週間ぶりの休日に室内に引きこったままでは脳みそがとろけてしまうと思った俺は、用もないのにぶらりと散歩に出かけることにした。

ウォークマンと財布、携帯だけを持って外に出る。

イヤホンを耳に差し込み、再生ボタンを押して、歩き出した。


今回の休日のテーマはぶらり途中下車の旅だ。せっかくの定期券内なのだから普段利用しない駅で降りてみようと一人で勝手に企画だてしたのだ。

いつも利用する電車に揺られる事数分、見慣れた駅名で降り、見慣れぬ改札をくぐる。電車の窓から見える景色とは違った空間がそこには広がっていた。

俺が降りた駅は学校のある駅の一個前の駅だ。定期券内だけど今まで一度も降りたことがない駅。利用しなければ、損というところだろう。


さ、早速散策を開始することにしよう。



改札から歩き出すとすぐに景色はホームから『街』に変わっていた。

都会と言っても過言じゃないほどの賑わいぶりで、一駅後が閑静な住宅街が広がる羽路学園のある駅だとは信じられないほどの栄え具合である。

イヤホンをしながら、気分良く中心街に進んでいく。

音楽プレーヤーから流れる曲は一昔前の流行歌だけど、今の気分にはうってつけの軽いポップスだった。


「あ」


視界に赤い旗でセールをアピールしている古着屋の前に見知った顔があるのを見つけた。

まさか休日にこんな場所で知り合いに会うとは思わなかったが、一応軽く声をかけてみることにしよう。


「うっす、和水なにやってんだ?」


ショーウィンドに飾られている服をぼんやり眺めていたのは和水だった。ニット帽をかぶり、薄手の白いコートに身を包んだ私服姿の和水は、俺の声に気がついたらしく視線をこっちに向けると、少しだけ驚いた顔をしてから俺を見ながら訊いてきた。


「あら、雨音じゃない?どうしたの?日曜日にこんな場所で?」


「ソレはまんまこっちのセリフになるんだけどな。まぁ、俺は散歩だ。そっちは?」


イヤホンを外し、ポケットに乱雑にしまいながら答える。

サビに入って乗ってきたところだけど仕方ない、一時停止だ。


「服を見に来たんだけど、…なんだか私の趣味外みたい。こんなの頼まれたって着ないわ」


ショーウィンドを指差しながら和水は鼻を鳴らした。

指し示されたガラスの向こう側には、黒いフリフリのいかにも『ゴスロリ』といった服が並んでいる。

驚くべくはここが古着屋ということだ、この服前に誰かが来てたんだよな…、どうして売ったんだろう…、似合わなかったのかな。


「けっこう似合いそうだけどな」


お世辞ではなく和水にそう答えた。この服がここに並ぶ理由は知らないけど、少なくとも、横にいる和水に似合わないという事は無さそうだったからだ。


「なによそれ。褒めてるの?」


「いや、別に。つか、お前、こういう服苦手だったんだ」


お前なら好んで着てそうだ。

文化祭の時とかイロハさんのメイド服楽しそうに着こなしてたじゃん。


「苦手じゃないけど、さすがにコレ来て街歩く勇気は無いわね。原宿や秋葉原ならまだしも、こんな片田舎で」


「そう?時々見かけるけどな。ま、俺に人の格好にとやかく文句つける権利なんてないけど」


「それはそうね」


和水は俺の言葉に同意したように浅く頷くと、スタスタと奧に向かって歩き始めた。


「どこに行くんだ?」


俺は一歩も動かずに、和水の背中に向かって語りかける。

もしここで彼女の後をついていって一人の時間の邪魔をするのは野暮だと思ったから俺はあえて追跡するような真似をしないことにした。

数歩先の和水の和水はクルリと振り返った。


「別に、行く宛なんてないの。私も散歩といったところかしら」


ゆっくりと、彼女は言った。


「ふーん、そっか。」


適当に相槌をうつ。

和水は俺の返事に一時無言になって空を見上げると、顎に指をあてて考える動作をしてから、訊いてきた。


「暇だし動向させてくれない?」


「俺の散歩にか?」


「うん。ダメ?」


「ダメじゃねぇけど…、俺はマジでブラブラ歩くだけだぞ。服見に来たならそっちのほうがいいと思うけど」


よくわからんが和水が俺の旅にパーティーインしたいらしい。天上天下唯我独尊な彼女がこんなに殊勝な態度でお願いしてくるとは何かあったのだろうか。


「いいのよ服はもう。私はこの辺りに来るのは初めてでどこにブティックがあるのかわからないんだもの」


つまらなそうに、和水は答えた。


「ああ、だから通りがかったついでに古着屋みてたのか」


お金はある和水が古着屋を見てる時点で違和感は感じていたが、まさか他に店を知らなかったからだとわ。


「まったく、とんだ災難よ」


はぁ、と語尾にため息をつけて和水は疲れたように言った。


「災難?」


どういう意味なのだろうか。

そもそもからして、よくも知らない場所に買い物にくること自体で、期待は持つべきではないと思うのだが。新しいテリトリー開拓の為の散策なんだからね。


「そう災難よ。いえ、人災ね。前々から約束してたのにドタキャンするんだもの。信じられない」


頬をプクーと膨らませる。

ああ、なるほど、もとは一人じゃなかったのか。

でも人災とか明らかに使い方が間違ってる気がするぜ。


「誰かと約束してたのか?」


「ええ。イロハと日曜日に服見に行く約束してたのに、直前になって『大会でした』とか言ってそっちに行くんだもの、信じられない」


「大会?」


大会って、…なんの?

まさか、全国メイド大会とかか?…だとしたら、見に行きたい!スッゴい行きたい! 今すぐ行きたい!今行きたい!


「大会は大会よ。格ゲーの大会ですって。雇い主に逆らってまでいくべきじゃないでしょ、ふつー。いくら日曜日が休日だからって、約束は守るのが筋ってやつよね!」


プリプリと頭から湯気をだしている。

…格ゲーって、…なんかすごい幻滅だよ、イロハさん。


「…ふーん、そっか。んじゃ行こうぜ…っても俺に目的なんて無いけど」


彼女の横をすり抜けて再び歩き出した。

いつもの休日より早起きしたからだろう、眠気を伴うあくびが口からでて、それにより俺の頬に涙が伝った。


随分歩いた。かなり奧の方にきたのだろう。

気がつけば当たりは駅前よりも賑わしくなっていた。


だけど俺は、何か興味がそそられるものを見つけることができないので、無言になりながらさらに街の奧に向かって歩みを進める事しかできなかった。和水もまた同じように口を開くことなく黙ったまま、俺の後に続くだけだった。


「…」


なんだか微妙に空気が重たい。

いつもみたいにバカな会話でもできればいいのだけどこう言うのは意識するとまったく機転が効かなくなってしまう。

何か話題あっただろうか。

えーと、昨日見たテレビとか最近読んだマンガとか、俺にくじ運が無いこととか、金欠ぎみだとか…、なんだか思いついた話題が下らなすぎて、どうやって会話を切り出したらいいかわからないぞ。


「ねぇ、雨音」


「お、おう!なんだ?」


突然名前を呼ばれたのでびびって言葉が濁ってしまったが、和水の方から話題を提供してくれるらしい。ありがたいぜ、微妙に。


「あそこに映画館があるじゃない」


「うん、あ。マジだ」


和水が指差した先にはゲームセンターがあったのだが、看板を良く読めば表記は『theater』になっていた。

おそらくユーフォーキャッチャーとかのゲーム機器コーナーを抜けた先にスクリーンでもあるのだろう。


「あれがどうかしたよ?」


昼間だというにキラキラと電球を点滅させて存在を必死にアピールする映画館に向けて独り言のように呟く。

まったく、昼間は光が目立たないんだから消しときゃいいじゃねぇか。エコ活動しようぜ。


「観に行かない?」


「え?」


な、


「なんだって!?」


聞き間違いかっ!?確かに和水は俺に一緒に映画を見に行かないかと誘ってきたんだよな!ま、マジで、人生初の映画館デート(?)のお相手が和水かよっ!


「だから映画でも見ない、って言ってるの。暇なんでしょ?」


「な、なんだよ藪から棒に…」


「イロハが先にチケット取ってたのよ、ほら」


たすき掛けにされていたポシェットのジッパーを引いてなかから財布を取り出した和水は、財布を開いてお札いれのところから二枚のチケットを取り出し、俺に見えるように二枚を広げて見せた。

チケットには今一番人気の若手俳優がでている話題の映画のロゴが入っており、白い文字で上に『本日限り有効』と書いてあった。


「先買いしといてドタキャンすんなよな…」


「まったくその通りよね。イロハにもっとガツンと言ってあげて、休日までお守りはしたくない、とか言ってた腐れナニーに」


怒りの炎が再燃したらしい、拳を握りしめてから、和水は腰をつけて、えらそうにしはじめた。


「ま、その通りだけど日曜日くらい休ませてやろうぜ」


普段パワフルな和水の相手をしているのだから相当の精神力が磨耗しているのだろう、だから日曜日に充電しとかないと電池切れしてしまうからね。


「…そうだけど…」


不服そうに唇を尖らせて尚も文句がいいたりないみたいだ。


「あ、それで映画どうする?観るの、観ないの?」


「そりゃ観るだろ、チケットあんだから、俺もつきあうよ」


というか、その映画前々から観てみたかったのだ。良い機会だし、これを了解しない手はないだろう。


「べ、別にアンタのタメにチケット取ったわけじゃないんだからね。余っちゃて仕方なく誘ってあげてるだけなんだから!か、勘違いしないでよね!」


「…なんだそれ?」


「ありゃダメだった?部長がコレやれば男は手放しに喜ぶって言ってたんだけど…」


「部長の発言の七割は嘘だからあまり信用しないほうがいいっての」


「…それもそうね」


ツンデレはリアルでいたらうざい子だっうの。まぁ、可愛ければ許されるんだど。




映画館の中は思ったよりも混んでいた。

カップルもなかなか多いが俺たちもその中の一組に見られているのかな、と思うとなんだか微妙な気持ちになった。


「つうか、和水、映画館なんだからポップコーンを食べようぜ」


となりで上映前の広告を観ている和水は入場前コンビニで買った『ふわ○る』を無許可で頬張っている。

たしか映画館って、館内で売っているもの以外の飲食を禁止されていたハズだ。

薄暗くなっているのを良いことに破るのはよくないだろ、と思いつつ俺もコンビニで買った『午後ティー』をのどに流し込む。


「ふぁて、へいかかんの…」


「口のモン飲み込んでからでいいよ…」


「ん」


口を抑えて、ゴックンと和水は飲み込んだ。


「…だって映画館でポップコーンが食べられるのは音がでなくて周りに迷惑がかからないからでしょ?だったら、ふ○まるは問題無いじゃない」


「いや、まあ、…そうだけどさ、…おっ、始まったぞ…」


ブー

上映開始のブザーが館内に鳴り響いた。

それを合図とばかりに和水は尻を浮かしてから体勢を整えた。

上映前のわくわく感が館内を満たしていく。

前評判を聞く限りはなかなかの作品らしいが、どうなのだろう。






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